「顔?、巨大ロボット…」
「載ってないわよ?」
「これも父の仕事ですか?」
「そうだ、久しぶりだな?」
「父さん…」
「ふっ、挙式
ええっ!?、そんな、綾波レイでさえ七日前に写真を見せたばかりです、まだ早過ぎます!」
「結納さえ済ませればいいわ、それ以上は望みません」
「でもっ!」
「今はシンジ君の好みが最優先事項です、全ては今日この日から始まるのよ?、葛城一尉」
「…そうね」
 俯いたまま震えているシンジ。
「…父さん、何故僕を呼んだの?」
「お前の思っている通りだ」
「そんな…、見た事も聞いた事も無い人と結婚しろって言うの?」
「写真は送ったはず…、葛城君、何処へ行くつもりだ?」
「えへぇ☆」
「ミサト…、あなたまさか」
「ごめん!、ちょっち餌にしては色気ないかなぁって、あたしの写真と…」
「なんてことしてくれたの!」
「減棒だ」
「そんなぁ!」
「左遷がいいかね?」
「すみません」
「…なぜ、僕なの?」
「わたしの息子だからな」
「なんだそれ…、いまさらなんだよ!、父さんは僕がいらないんじゃなかったの!?」
「重要だから留学に出しただけだ」
「…何故、僕なの?」
「親が子を思うのは当たり前だ」
「無理だよそんなの…、名前も今聞いたばっかりの子と」
「話をしろ」
「そんな…、結婚なんて…、顔も知らないのに、まだ中学生なのに、できっこないよ!」
「するなら早くしろ、でなければ帰れ!」
「え?」
「ヤバいわリツコ!」
「司令!」
「帰ってもいいの?」
「ゲンドウさん!」
「いや、すまん!」
「…ゲンドウ、さん?」
「あ、あはは、ごめんねぇ、シンジ君」
「実はわたし、ゲンドウさんに再婚を申し込んでいるの」
「ええ!?」
「でもゲンドウさんが、シンジ君が一人前になるまではダメだって言うものだから…」
「ちょっと司令!、いっくらリツコと結婚したくないからって、追い返すことは無いでしょう!?」
「いや、わたしはそんなつもりでは…」
「ゲンドウさん!、ユイさんの前でシンジ君を幸せにする予定でしょう!」
「ユイって、…母さん?」
「そうよシンジ君、覚えてない?」
「え?」
「ユイさんはこの初号機の中に消えたのよ?、取り込まれてね…」
「ええ!?」
「あなたもその時、その場に居たのよ?」
「そんな…」
「冬月…」
「なんだ?」
「レイを出せ」
「いいのか?」
「嫌がっているわけではない」
「わかった」
 ブルゥン、ブルルルルン!
 軽く吹かした音と共に、車が一台走って来る。
「あー!、あたしの車!」
 キキィ、バシャン!
 みんなの前でハンドルを切ってL.C.L.の海へと沈んでいく。
「あああああ…」
 真っ白になるミサト、シンジはアンビリカルブリッジを飛び出す直前に、車から跳び下りた少女に目を奪われていた。
 純白のウエディングドレスに、下手をするとそれ以上に白い肌。
 化粧の…、せいじゃないよな?
 それにベールの奥の青い髪と赤い瞳。
 わずかに頬は紅潮して、上気しているのが見て取れる。
 ドガァン!
 その時激震が響いた。
「奴め、ここに気付いたか」
「シンジ君」
「はいっ!?」
「決めなさい」
「え?」
「エンゲージリングはここにあるわ」
「え?、ええ!?」
 レイの差し出した小箱に正気を取り戻し狼狽する。
「シンジ君…、なんのためにここに来たの、逃げちゃダメよ、人生の墓場って言っても天国でもあるんだから」
「…それ以前に、ドイツから拉致紛いに連れて来られたんですけど」
「あははぁ、そだっけ?」
「そだっけじゃないよ、せっかく帰国したのに、こんなのってないよ!」
 すっとレイが動いた。
 うなだれたシンジの前に立ち、頬に向かって手を伸ばす。
「え?」
 顔を上げると、唇に柔らかな感触が触れた。
「ええ!?」
「誓いの口付け…」
「えええ!?」
「あとは初夜…」
「ちょっとリツコ!」
「インターフェイスも無しに妄想に突入していたのね!?」
「どうりで静かだと思ったわ」
「じゃあ後は若い者同士に任せれば!」
「そうね?」
「父さん、この子どうなってんだよ!」
 ガガァン!
 またも震動。
「きゃっ」
「危ない!」
 橋から落ちそうになったレイの腰に手を回して、シンジは思わず抱き上げるように助けてしまった。
「あ…」
「あ、あの…」
 至近距離、ヴェール一枚を通して見つめ合う瞳。
 レイの腕が首に回された瞬間、シンジは暴走を開始した。
「僕が幸せにします!」
ばかシンジぃ!
 ドカァン!と爆発。
「アスカ!?」
 ここには居ないはずの友人に焦りまくる。
「そんな!、22もある特殊セキュリティをこんな簡単に突破して来るなんて!」
「はっ!、なぁにが特殊セキュリティよ、あたしが開発したシステムをチョコッといじっただけ…、ってそんな話じゃないわよ!、あんた一体何やってんのよ!」
「なにって…」
「人の目の前でいきなり車に連れこまれたから、心配して追いかけて来てやったってぇのに!」
「え…、そうなの?」
そうよ!
 つかつかと歩み寄る。
「わぁざわざ日本くんだりまで逃亡謀って浮気しようったぁ良い根性してるじゃない!」
「違うよ、誤解だよ!」
「じゃあさっきのプロポーズはなんなのよ!」
「え?、してたっけ…」
あんたバカァ!?、いいかげん誰かれ構わずプロポーズすんのやめなさいよぉ!」
「…オヤジと同じでタチ悪い子ね?」
「ほんと、無様ね…」
 その隙に親父はこそこそと逃げ出していた。
「シンジ…、お前も逃げていいぞ、わたしも墓場に行かなくてすむからな?」
 とことん鬼畜な親父であった。



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