赤い海。
純粋な赤ではなく、オレンジ色をしている海だった。
一隻の空母が浮かんでいる。その甲板の先端で、風を受けている男女が居た。
「長かったな」
三十代とおぼしき男性だった。
やや額が広く、頬がこけている。
「十五年か」
「今更感傷?」
「いまだからだよ」
隣の女性に苦笑する。
風に暴れる髪を、顔をしかめながら手で押さえている。
金色の髪はとても長く、ふくらはぎにまで達していた。
「ま、気持ちはわからなくもないけどね」
女性としては身長があるように見えるのだが、男性の方がさらに高い。
男性はよれたシャツとすり切れたスラックスを、女性の方は赤いプラグスーツに、フライトジャケットを羽織っていた。
二人は赤い海へと視線を投じた。
そこにあるのは……少女であった。ただし、身の丈十五キロもある少女である。
海面から上に出ているのは、頬から上と、胸、肩の一部、それに腹部、それに足先だけであった。
「細胞から培養をはじめて約十年か……。やっと使える大きさに達したわね」
「ああ……。これでもまだ綾波の気分次第だってところがあるから、成功率は低いけどね」
「……うまくいくわよ」
「そうかな?」
「そうよ」
彼女は無造作に一歩踏み出した。
苦笑し、彼も倣う。
──中空を歩く。
まるで足の下に見えない床でもあるかのように、二人は不自然に進んでいく。
「過去に戻ったとしても、そこはもう、あたしたちの過ごした世界じゃないわ。それ、わかってる?」
「わかってるさ」
「時間は取り戻せない。新たな時間が生み出されるだけ」
「それでもこんなところに居るよりは建設的だ」
「そうね……、で、あんたはどうするの?」
「とりあえず、これで遊ぶさ」
そういって、手の内にある赤い玉をもてあそんだ。
数は十七。
「アダムのかけらか」
「培養品だけどね。クローニングのテスト品」
「弐号機に搭載できないかって、コアの解析をしてたときの副産物?」
「そう……。それぞれが異質な力を持ってる。全部はわかってないけどね」
「呆れた……オーストラリアをクレーターだらけにしてなにしてるのかって思ってたけど、そんなこと調べてたの?」
「まあね」
男は子供の頃を思い出させる笑みを浮かべた。
「一つずつ……適当な子に上げていこうと思ってる。まあ相手が人間になるか動物になるか……虫になるかはわからないけどね」
「それが対抗する力になるってわけね」
「秘密機関を作るのも楽しいかもね。ああ、たぶん、俺が着くのはアスカより遅れることになると思うから」
「なんでよ」
「途中でね……使徒を拾ってみようかと思って」
「使徒を!?」
「そうだよ? 適当な時間に存在してるアダムをね、集めて飼育してみようかと思って……。ほら、別の時間に生きてる別のアダムなら、同時に存在しても干渉しないはずだろう?」
「従ってくれると思うの?」
「そのための結晶石だよ」
ついに彼らは、綾波レイの上に立った。
二人が彼女の胸元を見下ろすと、胸の谷間からへそにかけての部分に亀裂が走った。まるで女性器のように肉が開き、赤い玉があらわになる。
「安易よね……」
「現実は往々にしてこんなものさ」
「場合によっては、あたしはあたしをここに連れてきて鍛え直すから」
「頼むよ。俺も俺を連れてくるかもしれない。その時は一緒によろしく……」
「なによ?」
「使徒も一緒に頼むかも」
「はぁ?」
「自己進化できるってんなら、ここで知恵を身につけるまで進化させてみるのも面白いかもしれないだろ?」
女性は嘆息しつつかぶりを振った。
心底疲れたといった風情だった。
「それ……半分くれない?」
「これを?」
「半分くらいあった方が、よさそうだから」
男性は苦笑しながら玉を九つ彼女に預けた。
「どれがどんな能力を持ってるか、わからなくなっちゃってるんだけど……。まあ確認してる能力はオーバー・ザ・レインボウのデータバンクに入ってるから」
「そ……」
「基本的には使徒で見た能力だよ。これも形は変わっててもアダムだからね。後はどの能力が現れるか、それだけがまぁ運ってことで」
じゃあっと男性は落ちていった。
赤い玉はゼリーのようにぷるんと揺れて、男の体を飲み込んだ。
しばらく揺れに合わせて波紋ができあがっていたのだが、それも消える。
「……あたしも、行くか」
時にそれが、西暦2031年のことである……しかし。
──俺とアスカは、俺たちをもてあそんだ者たちをからかうために飛んだはずだった。
男性──シンジは、まずは過去の自分に接触を求めることにしていた。
二千十五年から二千十六年に起こる出来事。知らぬ間に中核にほど近い場所に関わっていた自分。それを知ったのはすべてが終わった後だった。
だがあくまで中心に近いだけの位置だった。そして中枢である部分にはあまりにも遠い場所だった。
自身がどうあがいたとしても、なんら事態は変わらなかっただろう。それでも彼を前向きにするだけで、事態は随分と違ってくる──はずだった。
「……驚いたな」
プレハブの小屋。
勉強部屋として与えられた部屋で待っていた。覚えているとおりの時間に帰ってきた幼い自分。
その自分が不審な侵入者であるはずの男に対して口にしたのがその台詞であった。
「でもまあ、僕がこうしてここに居るんだから、同じようなことをしたやつがいてもおかしくはないか」
彼は妙な物言いをする。
「でも……、僕は父さんに似ていくのか。あんまり見たくはなかったな」
確信する。
この少年は、自分と違った方法で、過去にたどり着いているのだと。
「それで、なんの用?」
まいったな……と頭を掻く。
「適当にだまして、味方に引きずり込もうと思ってたんだが」
「利用するだけするつもりだった?」
「まさか。ちょっと前向きになってもらって、父さんに嫌がらせをしてもらおうと思ってたんだよ」
「そして僕は、相変わらず踊らされたまま、事態は裏で推移していく……最低だね」
「ああ、最低だ。でもお前だったらもっと楽しく、面白くできるんじゃないか?」
にやりと笑った子供と大人は、二十ほどの年齢差を感じさせぬほどよく似ていた。
──シンジは彼を自分の世界へと連れ戻った。
そこで様々なことを学ばせた。
「使徒の能力を持っているのは上等だが、使えないのでは意味がない」
「それなりに勉強したんだけどな……」
「だが本来は使徒と同レベルで使用できるはずのものだ。人間相手に無敵なだけでは意味がない」
「だから戦えっていうのか……生身で」
疲れ切った様子の少年の真下には、第三使徒が闊歩していた。
別世界から連れ戻った第三使徒だ。彼らはその上空一千メートルの地点で会話していた。
「すべての使徒に勝て。ただし倒すなよ? 自己修復と自己進化をわざとさせるんだ。そうすれば連中はやがて人間になる」
「なんでさ?」
「同じ力を持っているお前に勝てないのなら、お前に倣おうとするはずだ」
「十七人の僕が誕生するってわけだ」
「揺らぎによっては性別の違いくらいは現れるさ。俺は戻って準備にいそしむ」
「悪巧みの?」
「そういうことだ」
時間は螺旋のような形をしている。
だから過去と未来の流れは同じ早さで動いているのだ。ここで十四歳になった少年は、向こうで自分が十四歳になったポイントへと復帰することになるだろう。
その時、彼を、裏に表にサポートし、そして盛大に嫌がらせを行う私的機関を創設すること。
それがシンジの目的だった……。
──はずだったのだ。
「なに?」
それは数年ぶりに、この赤い世界に戻ってきたシンジの発したものだった。
「すまん……もう一度言ってくれないか?」
シンジの前には、まだまだ幼い自分自身と、黒髪の長い……日本人的な容姿をした少女が、恥ずかしげに身もだえしながら立ち並んでいた。
ホームでもあるオーバー・ザ・レインボーの一室だ。
そこに妙な空間ができあがっていた。
「だから……できちゃったんだ、赤ちゃん」
てれてれと少年。そしてきゃっとはじらう少女──サキエル。
その元怪獣だった少女のあまりにもあんまりな様子にめまいを感じたのは、もはやどうにもできないことだった。
──そう……、俺は間違っていた。
自己進化能力を持つというのであれば、絶対者であるシンジのあり方を写し取るはず……と考えていた。
だが人間がそうであるように、使徒にも恐怖心が存在していた。
だからこそ、使徒は人間のように恐怖心から逃れるために、合一化とは違う、もう一つの逃げ道……そう、迎合の道を選び取ったのだ。
共存と、共栄。
相手が雄なら、簡単なこと。
雌になれば、それで良い。
そしてこの展開を知り、急ぎ帰還した彼の相方はこうコメントした。
「あんたバカぁ?」
ミステイクス / 計算違い1
──2015。
爆音とどろく戦場に、少年と少女が立っていた。
「ほこりっぽいなぁ」
少年が気遣わしげに少女を見やる。
駅前の噴水だ。
少年は立って空を見上げている。青空を横切る戦闘機。少女は噴水の縁に腰掛けて、胸に抱く赤ん坊に、ほ乳瓶によってミルクを与え、微笑んでいた。
「動じない子だねぇ」
「わたしとシンジさんの子なんだから」
「エイカ……」
「シンジさん……」
見つめ合う二人。
その二人の間でだぁだぁと存在を主張する子。
「あぁあぁ、ウミもね」
「だぁ♥」
ちなみにエイカ──サキエルの名前とは違い、ウミの命名については一悶着あったのだ。
「サハクイエルくらいになれば、謎のインド人サハ=クイエルでごまかせるんだが」
「なんでインド人……っていうかそれでも無茶だと思うよ? 兄さん……」
エイカが出産を迎える頃になると、シンジは大人になっている自分のことを、そう呼ぶようになっていた。
たまに戻ってくるアダルトアスカとの関係に、学ぶことが多かったからだ。
──いろんな意味で。
「まあアナグラムとかそれが妥当か……ローマ字にして逆にして、適当な部分を抜き出して」
「エイカ……あたりが適当なのかな?」
「名前なんて適当でいいさ」
「そういや兄さんはどうするの?」
「シンジのままでいいだろ。名字は……そうだな、アスカのツェッペリンかラングレーを借りるさ」
「……どう見ても日本人なのに」
「どうでもいいさ。問題はこんなに簡単に決めた名前で、あの子が納得してくれるかどうかだが……」
まあ心配ないかとにやりと笑う。
「お前が決めてお前が与えたんならな」
「大丈夫かな……」
「でもな、子供のほうはそうはいかないだろ。お前とあの子で決めてやるんだ。最初の親としての仕事だな」
「わかってるよ……兄さん」
ばたんと扉が開いて、赤い髪をした女の子が飛び込んできた。
「陣痛! 始まったって!」
「よしっ」
「いま行くよ」
早く早くと急かす少女に、二人は緊張しながら足を動かした。
「シンジ……手と足がそろって動いてるぞ」
「兄さんこそ、なんで緊張してるんだよ?」
シンジはお前のが移ってるんだと言い訳し、少年はちゃんと歩こうとしていきなり躓く、つんのめる。
そんな二人を少女は見ていて……。
「男って、ほんっとだらしないんだから!」
そんな風に、ふぅっと呆れた。
──ミサイルが頭上を抜ける。
シンジはその先へと首を巡らせた。
「直撃するな」
そこに緑の巨人が居る。
「爆発、ここまで来ますね。ATフィールドでも張ります?」
「このくらいなら、不可思議現象に任せちゃおうよ」
ミサイルのぶつかる音が聞こえた。
顔面で受け、のけぞる怪物。続いてのミサイルは拳で打ち潰した。
──爆発。
引火した燃料と破片が放物線を描いて落ちてくる。
電柱を倒し、車を潰し、ビルを撃ち抜く。
粉塵が爆風に押されて三人へと襲いかかる。
──だが。
押し寄せてきた炎と煙は、なぜだか三人を避けるようにして流れていった。
シンジがふぅっと頭を掻く。
「ま〜さに不可思議現象だよね……」
「多分この子の力なんでしょうけど」
母の指を持ってだぁだぁと遊ぶ赤ん坊が居る。
「本当に不思議ですねぇ……」
「おかげでイ=ロウルあたりがうるさいんだけど」
きりきりと痛むこめかみを押さえる。
「あの人も科学者と技術屋と医者と学者を同じ物だと思ってますからねぇ……」
「解剖とか言い出さないだけましなんだけど……っと、来たみたいだね」
車の音が近づいてくる。
「大丈夫かな……」
「あの人ですか? お兄さんがフォローしてくれているはずでしょう?」
「でも人間なんて感情的になるとなにするかわかんないもんだよ。僕みたいにね」
「まあ」
ころころと笑う。
「では」
「うん。せっかくアルが書いてくれた脚本もあることだしね」
「今しばらくは、我慢ですね」
戦闘機が落ちてくる。
滑り込んでくる青い車。
爆発……その炎を盾になって遮り、車両の中から彼女は叫んだ。
「シンジ君ね! 乗って!!」
「はい!」
慌てた風を装って、二人は車に逃げ込んだ。
─Bパート─
「ちょっとミサト……なんなのあの子」
「それがさぁ……」
エヴァンゲリオン格納庫。
「……なんの真似だ」
動揺しているのはゲンドウである。
それもそのはずで、シンジはいきなり土下座していた。
「ごめんなさい!」
ゲンドウの目が少女へと向けられる。
ただし、胸に抱いている赤子とワンセットである。
「説明しろ」
「この子はエイカ=サキエル……それに」
がばっと頭を上げて、シンジは叫んだ。
「それに僕たちの子、ウミです!」
やたらケージに大きく響き、それに反して音が消える。
「……なに?」
「あんですってぇ!?」
「み、ミサトっ、待ちなさい!」
「ででで、でも!」
「……こんな手紙で呼びつけるくらいだから、そうとう怒ってるってのはわかってるけどっ、でも!」
やたらわざとらしく、『来い!』っと書き殴られているだけの手紙を突き出す。
それは読みようによっては事態を知って、苛立ちまぎれに送りつけることにした呼び出し状だとも見て取れた。
「でも僕たち、真剣なんだ!」
「お父さま!」
その叫びは、なんらかの衝撃を彼に与えたようだった。
「な、なんだ……」
「わたしのようなセカンドインパクトの孤児では、お父さまのような立派な方にとっては認められないものなのかもしれませんが、お願いです! わたしたちのことをお許しください!」
「父さん!」
「お父さま!」
しーんっとなるだけのケージ。
固唾をのんで見守る整備員たち。
「ふっ……」
ゲンドウはシンジの父として、サングラスを指で押し上げた。
「よくやったな、シンジ」
──喝采。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとう!」
「って違うでしょお!」
「……やめなさい、ミサト」
「なんでよ!」
「それはあまりに野暮だからよ」
「シンジさん!」
「エイカ!」
「だぁあああああ!」
切れたミサトが暴れたために、事態はさらに五分二十秒ほど混迷した。
──発令所。
「まったくもって恥をかかせおって……」
何事もなかったかのように座っているゲンドウの背後で、副司令は咳をした。
久々にしかりつけてのどが枯れているようだ。
だがこの場にいるのは彼らだけではない。
「それで、ホームコメディは終わりましたか?」
下から声を発したのは、顔の上半分を白いマスクによって隠している男性だった。
「……サードチルドレンは搭乗を受諾したよ」
苦々しく答えるコウゾウに、実に生真面目に返答する。
「それはなにより。こちらの足止めもそろそろ限界なもので、どうしようかと思っていたところですよ」
皮肉る言葉にコウゾウの顔にゆがみが生まれる。
「それではツェッペリン大佐。後は任せてもらおう」
「はっ!」
敬礼し、彼は指揮所の後ろへと下がった。
それに代わって、ミサトが彼のいた場所に立つ。
コウゾウはその交代を待ってからゲンドウに訊ねた。
「有能すぎるのではないか? 彼は」
「問題ない」
「そうか? あまりにも葛城君との差が目立ちすぎるぞ。作戦部の見直しにも繋がりかねん」
「今は使徒を倒すことが最優先だ……。少なくとも使徒の襲来が落ち着くまではな」
そのツェッペリン大佐は、この場には不釣り合いな少女の隣に立って話しかけていた。
「よぉ」
「お元気そうで」
「思ってたよりもズレなかったな」
「時間軸の計算はロウルが完璧にこなしていますから」
「いや……俺はもうちょっと前に飛んで、観光でもしてから来るんだろうと思ってたんだ。だから遅れるものと思ってた」
「ああ……それは気づきませんでした」
苦笑するツェッペリン大佐である。
「もうちょっと遊ぶってことを覚えた方が好いな……。まあ今まで暮らしてたのがあんな場所じゃ、仕方ないのかもしれないが」
「でしょうか?」
「この世界で暮らすのなら、この世界の喜びと楽しみってもんを、その子に教えていかなくちゃならない。違うか?」
「そうですね……わかりました」
「しかし……本当に連れてくるとはな」
「親子ですから」
にこりと微笑む彼女に、ツェッペリンは苦笑した。
「そうだな……親子は一緒が一番だ……、が、あのドラマは俺のシナリオにはなかったぞ?」
エイカはくすりと笑うだけでやり過ごした。
一方の大佐も、彼女にはかなり甘い様子で、微苦笑を浮かべて敗北を認めた。
大体の想像がついているということもあったのだが。
「でもお兄さん」
「なんだ?」
「そのマスク、どうしたんです?」
「これか?」
彼は下の部分に親指を入れると、引っ張るようにして隙間を作って見せた。
「隠してるんだよ。父さんにそっくりだからな、俺は」
「シンジ君、調子はどう?」
『大丈夫です……多分だけど』
「そう……さっきも話したけど、エヴァは有線からの電力供給を受けて稼働するの。もしケーブルを切断さんれた場合には、こちらの指示に従って、再接続を行ってちょうだい」
『わかりました』
「武器はパイルハンマーよ」
『パ……え?』
なんだそりゃ? 顔にそう出てしまっている。
「外に出ればすぐ横に出すわ」
いいわねと声をかけてから、リツコはミサトへと頷いた。
「発進!」
──くっ!
シンジは久方ぶりに感じた大きなGに顔をしかめた。
ガクンと振動が来て体を揺さぶられる。
プラグの内壁に夜の街並が映し出された。隣のビルのシャッターが開いて、銃砲のようなものが縦に固定されているのが見えた。
「これか……」
巨人の腕を伸ばして触れる。オートで武器を固定するロックが外された。
「重い……」
腰に構えて持つもののようだった。先端部にはとがった鉄棍が差し込まれている。
これを至近距離から打ち込めと言うのだろう。
(兄さんの仕事か)
あまりにも器用に扱って、試験的に打ち出してみる。
バシュン! 大気を切り裂いて飛び出す鉄棍。
エヴァ初号機はサイドレバーを引いて、その鉄棍を再装填した。
同時に後部のシリンダーが回転する。打ち出すための炸薬が入っているようだった。
「全部で六回……あと五回か」
──馬鹿……。
ツェッペリンは顔を手のひらで覆ってしまっていた。
発令所の人間はみな唖然としている。
あまりにも小器用に初号機が動いているからだ。
「なんなの……あれ」
「信じられない……。レイでさえシンクロするだけで七ヶ月もかかったって言うのに」
「いける」
かまいませんねとミサトは背後を振り仰いだ。
「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」
お墨付きをもらい、号令を発する。
「戦闘開始よ!」
モニタの中の初号機は、実に軽快に使徒に向かって駆け出して行った。