「兄さん……」
「なんだ?」
「どうするのさ、これ」
「どうするかなぁ……」
いつかもしたような会話をくり返し、二人のシンジはメインモニタに映っている巨人に対して呆れていた。
『出てきなさい! 馬鹿シンジ! 勝負よ!』
芦ノ湖湖岸、山間部。
そこにはあの赤い巨人が立っていた。
ミステイクス / 計算違い6
「情報を!」
「機体照合確認。分析パターン青!?」
「使徒なの!?」
「いいえ、エヴァです!」
「エヴァ!? あれが!?」
ミサトは、強そうじゃないかと吐き捨てた。
(こっちは崖っぷちだってのに!)
次にミスをすれば謹慎ではすまされない。
彼女は確実に追いつめられていた。
「赤木博士」
ちょっとと、大佐はミサトに気づかれないように誘った。
「なに?」
「あれ、どう思いますか?」
「エヴァなのは間違いないわね」
「でも下りてくるとき、形状が変化しましたよ?」
「信じられないことだけど、変形機構を持っているようなのよ。それだけじゃないわ。MAGIはあれに、S2機関とおぼしきものの存在を見ているのよ」
「S2!? でもあれはまだ解析中なんじゃ……」
「ええ。あなたの疑問はわかるわ。なぜ確実なことが言えるのか……でもこれまでの使徒のエネルギー係数や、出力波動なんかを照らし合わせてみるとね」
「なるほど。……それでどこで作られたかなんですけど」
「決まってるわ」
眉間に皺を寄せて口にする。
「碇」
「ああ」
「あれほどのものを極秘裏に建造でき、さらにそれだけの資金を持つ組織……」
「他にあるまい」
顔を上げる。
「オーストラリアの『ネオ』だ」
『出て来なさいっ、碇シンジぃ!』
きゅっと袖を掴まれて、シンジはエイカの存在に思い至った。
不安げに見上げている彼女に、無理をして笑いかける。
「これも宿業って奴なのかな?」
「彼女は、やっぱりか?」
「うん。僕が喧嘩別れしたアスカだよ」
『碇シンジぃ!』
シンジの瞳に、憎々しげなものが宿り始める。
「シンジさん……」
より強く握り存在を主張するものの、止められない。
「なにがあったんだ?」
兄の問いかけに、シンジは露骨なため息をこぼした。
「長い話だよ……そのわりにつまらない話しさ」
「なんで出てこないのよ……シンジ」
彼女──アスカは、苦々しげに第三新東京市を一望した。
──ほら馬鹿シンジ! しゃんとしろっての。
──しょうがないわなぇ……ほぉら! あたしが手伝ってあげるから、ね?
──あっまーい! そうやって甘えたことばかり言って逃げようとしてるから、情けないって……。
「いつもそうだった……。僕のためを思って、手を貸してくれてた。僕も感謝して、好きになってた」
エイカにごめんねと笑いかける。
「でも僕は聞いたんだ」
──最近仲良いじゃない。
──馬鹿のこと?
──馬鹿ってねぇ……。
──わかってんでしょ?
──まあね。
──あのままじゃ役に立たないわ。でも素質は悪くない。ふふ……ちょっと甘い顔してやったらころっと騙されちゃってさ。扱いやすいったら……。
「それって……」
「もちろん、それだけなら僕もひがむだけで済んだよ……。もう信じない。そう考えるだけでいいはずだった。でも……最後の戦いの時に」
──弾よけにも使えないなんて!
──キスだってなんだってしてやったんだからっ、感謝の気持ちってもんを見せなさいよ! 盾になって!
──なんって役に立たない道具なのよ! 使えないわね!?
──あんたなんてねぇ! あたしにコキ使われてるのが身分相応ってもんなのよ!
「量産機に囲まれる中で、僕の乗った初号機は背中からアスカに刺されたんだ」
「そんな……」
「それで動けなくなったところに、量産機は群がってきた。僕は噛みついてくるいくつもの口に鼻水垂らして泣き叫んだよ、助けて、助けって……それをアスカは」
──アハハハハ!
「アスカは僕を餌にして、そいつらを一匹一匹」
「…………」
「でも、計算が違ったんだろうな。量産機は弐号機なんて相手にもしてなかったんだよ。そのことに気が付いたのは父さんたちだった。発令所から初号機を守れって命令が出たとき、『あいつ』は冗談じゃないって言ったんだ。こんなクズをなんで助けなきゃいけないんだって。エースの自分がなんでクズを守らなきゃならないんだって。逆だろうって……」
「それで間に合わなくなったわけだな?」
「そうだよ」
陰惨な表情を浮かべる。
「量産機は僕を持ってサードインパクトを発生させたんだ……そしてすべてが終わったとき、そこには僕とアスカだけが存在していた。僕は……僕は殺してやろうと思った。でもそこに綾波が現れて……」
「…………」
「その隙をつかれて逃げられちゃったんだ」
「そうか……」
「でも、追ってきてくれるなんてね」
モニタを見上げる。
「……エースはアタシなのよ。本当に必要なのはあたし。なのになんで!」
このアスカは苦悩している。
「人形の分際でぇ!」
──カッ!
四つの目を輝かせ、街の中央に火柱を立ち上げさせる。
十字架型の火が上がった。
「そんな……」
呆然とするミサトたち。
「射出口が丸見えです!」
「いけない! 隔壁閉鎖!」
発進口の最終ハッチを破壊した彼女は、にやりと機体を飛び上がらせた。
高く、高く跳躍し、そして発進口の側のビルへと落下する。
──轟音。
落下の勢いとその重量を持ってビルを粉砕する。急激な力に圧壊した建物の粉塵が、ビル街の谷間を吹き抜け、広がる。
「目標、シャフト内に侵入!」
「どういうことだ!? 隔壁があの機体の信号で解放されていくぞ!?」
「なんですって!?」
「やはり弐号機なのか」
ツェッペリン=シンジは苦々しく舌打ちすると、やむを得ないかと去ろうとした。
その腕をシンジが掴む。
「だめだよ、兄さん……あれは僕のだ」
「…………」
なんと言っていさめるか? それを悩んだとき、フギャアとウミが泣き始めた。
──ホギャア、ホギャア、ホギャア!
「ウミ……ウミ」
必死にあやそうとするエイカ。
その母子の姿に、シンジが途方に暮れたような顔をする。
兄はそんな弟の肩をポンと叩いた。
「子は、親が間違うのを、悲しむもんだ」
「兄さん……」
「そうだろう?」
二人は塔の上を見た。
そこには自分たちの……父がいる。
「そうだ……そうだね」
「ああ。だから、彼女のことは俺に任せろ、いいな?」
「わかったよ」
感情はまるで了解していない。
顔には無理やり気持ちを抑え込んだということが、まさにありありと浮かんでいた。
「ここに居るのはわかってる……」
少女は長い縦穴を降下しながら、憎しみに心をゆだねていた。
「あんたがちゃんとしなかったから、あたしが」
ぶるりとかぶりを振った。
その言いようでは、彼を頼っていたように聞こえるからだ。
「飴と鞭の使い方が甘かったのよ。それがあたしの敗因」
だから。
「汚点はあたし自身の手で」
──半年前。
その時、彼女はシンジから逃げ出していた。
「ふ、ふわ、うわぁ!」
首を絞められた。あれがあのシンジだとは思えなかった。
お風呂場で鉢合わせした風を装い、裸を見せてやり、興味を持つように仕向けてやった。
あたかも好意を持っているかのごとく振る舞い、優しく接してやったこともあった。
勘違いしやすいように、無防備なところも見せてやった。
──だが?
いつしかあの男はそれに付き合ってやっているという目をするようになった。
その時はいつも通りでも、目を逸らした瞬間に酷く冷めた目をすることが多くなった。
まるで人を見下しているような目。それが生意気に映ってたまらなく嫌になった。
叩き、ぶって、腹いせをした。そんな感情任せの行為がますます彼の自分離れを促してしまい、なぜ思い通りにならないのかと憤った。
だから、もういい、死んでしまえと思ったのだ。
(そのあたしが、殺されかけた?)
もういい、死んでしまえと思っているのは向こうも同じだった。
そのことに気が付いたとき、彼女は蹴躓いて、浜辺に転んだ。
(認めない、認めない、認めない!)
砂を握り込み、拳を作る。
(認めない! 生きるべき価値ある者はあたし! あいつじゃない!)
そして彼女は波間に打ち上げられていた『人形』に再会した。
「エヴァンゲリオン弐号機……」
「逃がさない……あんたを殺して、あたしが!」
彼女は穴の底で光るものに気が付いた。
「なに!?」
その光は彼女を飲み込み……消滅した。
「なにが起こったの?」
ぐらりとよろめいた格好になって、謎の機体が落下を始める。
「ネットを!」
ミサトの指示に、マコトの指がコンソールを駆ける。
シャフト内に幾重にもネットが展開されて、その機体を受け止めた。何枚かは勢いに負けて破れたが、三枚ほどが重なるようにして落下を阻止した。
「どうなったの」
「エネルギー反応ゼロ。完全に止まってます」
「なんだったの?」
とにかくと声を発したのはコウゾウだった。
「パイロットを確保。拘束しろ」
─Bパート─
「哀れだな」
──あんた誰よ!
「誰でも良い。あの機体は?」
──あたしのよ!
「なるほど、生物は死滅しても施設は残されていたわけか」
サードインパクトは起こった。
しかし彼女は最後までエヴァに乗っていたのだ。そして弐号機は傷一つ無く健在であった。
表面、外装甲が煤けてはいたものの、大きな損傷は見られなかった。そして彼女は、背中に無傷のエントリープラグがあるのを見て取っていた。
「それに乗って各国支部を渡り歩いて、量産型機のパーツを拾い集め、改造したのか」
──そうよ!
その隻眼には狂気の色が宿されていた。
そして映り込んでいるのは、幾度倒しても立ち上がってくる量産型機の姿であった。
「あの回復力、自己修復能力があれば……か。それにしてもよく時を遡れたものだな」
「それはあたしが天才だからよ」
肉声になる。
「もっとも理論だけで自信はなかったけどね。それにこの時空連続帯……歴史には、あたしが遡った先はここだってことが書き込まれてしまったから、もうこれ以上は戻れないし」
「その点は俺が作ったタイムゲートとは違うな」
「……あんた」
ふっと男は笑って見せた。
「俺も、シンジだ」
起きあがった少女がそこにあった顔を殴りつけようとした。
パンッとその手を受け止めるツェッペリン=シンジ。彼の護衛たちが一斉に銃を構える。
「まあ待て」
シンジは皆を制した。
「あんた……」
彼はにやりと笑って見せた。
「全員退出しろ」
「しかし」
「出ろと言っている」
男たちは気色ばんだものの、結局は従うことにした。
この男はゼーレの意向を受けて、総司令よりも優先的に彼女の尋問を行っているのだ。
逆らうわけにはいかない。
「さて」
彼は二人きりになったところで、再び彼女に向かい合った。
「随分とすさんだアスカもいたもんだな」
ざんばら髪と潰れた顔に、怨霊というものを重ねてしまう。
「あんたがシンジだっていうの?」
「君とは別の時間帯で育ったシンジだよ」
「随分とマシに見えるわ。それにそのマスクはなに?」
「俺は父さんに似ているからな」
「そういうこと……ここは?」
「本部内の医務室だよ。見覚えは?」
「……あるわ」
だからか、少女はようやく落ち着いた。
無機質な四角い部屋に、医療器具や計測器が据え置かれている。
彼女は自分が裸であることに気が付いた。シーツをかき上げて胸を隠す。
「なにかしたの?」
「健康診断をさせてもらった。なにしろ君は急に意識を失ったように見えたからな」
「ウソね」
前髪をかき上げ、醜くふさがっている右目の傷を見せる。
「あんたでしょ、あれ」
「さあな」
「人の心にまで入り込んで」
「君の本心が見たかったからな」
「そんなの!」
はっと吐き捨てる。
「シンジを殺させてっ、今、すぐ!」
「それは無理だな」
「なんでよ!」
「君がそうであるように、あいつも君を殺したがってる」
──少女の顔から血の気が引いた。
「そ、そう……」
「そうだ。そして確実に殺すだけの力をあいつは持っている」
「ファーストね……」
「詳細は知らない。だがエヴァに乗っていない君などどのようにもいたぶり殺せるだけのものを持っているのは確かだ」
「じゃあなんでここに来ないのよ!」
「それを望まない者がいるからだ」
「誰よ!」
「俺だよ」
ツェッペリンは仮面を取った。
アスカが息をのむ。
「碇司令……」
「言ったろう? 俺はシンジだ」
「そうね……でも、なんて似てるの」
にやりと笑う。
そしてシンジは彼女の……裂傷の残る右腕を取り、引っ張り上げた。
「きゃっ!?」
そして腰にも腕を回して、抱きとどめる。
「君は死にたいんだろう? アスカ」
「な、なによ……離れてよ、たばこ臭い」
「俺を見ろ、アスカ」
「…………」
「シンジに負けた。シンジは認められ、自分は不要とされた。その屈辱から逃げ出したいんだろう? 違うか?」
「離れてよ!」
「駄目だな」
「なんでよ!」
「俺もシンジだ……そしてシンジである以上、少しはアスカを知ってる」
「…………」
「君とは違うアスカだが、君と同じアスカでもある。そのアスカを知る俺をたばかることは難しいぞ?」
「……あんたはあたしが望んでいるものがわかってるっていうの?」
「当然だ。君と似たようなアスカに振り回され、君と同じようなアスカをなだめてきたシンジなんだぜ?」
シンジらしくない……その感覚が彼女に隙を作らせてしまい、この男に蹂躙されるのを許してしまった。
「シンジさん……」
ブリーフィングルームである。
シンジは隣に座るエイカに、右手を掴まれてしまっていた。
椅子の上で、まるで押さえつけるようにされてしまっている。
右手にウミを抱きながら、エイカはそうせざるを得ない形となってしまっていた。シンジが兄が連れてきた少女に対して、最大級の殺意を向けているからだ。
エイカとウミと……シンジ。
その組み合わせを見て、あの少女は笑ったのだ。
──あざ笑うかのように。
その嘲笑は、耐え難いものであったのだろう、一瞬でシンジは復讐鬼としての己の本質を解放していた。
だが少女──このアスカは怖さを必死にごまかしていただけだった。
強がってはいるものの、シンジの背後には彼女──『あの使徒』の存在がちらついて見えるのだ。優秀さに置いては比べるべくもないほどに低能でありながら、総司令の寵愛を独り占めして人形女の、その影が。
そして今となってはこの男もまた使徒そのものなのだ。人間のままの自分では勝てない。だから、これは精一杯の虚勢であった。
「あんたが親? 笑わせてくれるわ」
「なんだよ?」
「誰の目も見れなかったアンタが? 誰にも意見できなかったアンタが? 誰も守れなかったアンタが? ただ犠牲者増やしてっただけのアンタが!?」
「うるさい!」
「笑わせてくれる……」
口元に拳を当てて、くくくと笑う。
そんな少女に、彼──大佐は呆れていた。
(よくもまぁそこまで……)
興奮しているシンジにはわからずとも、彼にはアスカの嘘がわかる。そしてエイカにも見えていた。ただ一人、興奮の局地にあるシンジだけが気づいていない。
これは演技だ。勝ち気すぎるが故にもう一度こんな男と仲間になることなど認められないと言う、彼女の嘘だ。
熱くなったシンジが『殺意』を放とうとする。それは現象となってこの室内で爆発を起こすだろう……それでは困るのでツェッペリンは口を挟んだ。
「やめないか」
「でも兄さん!」
「行動で示せ、黙らせろ……。それができないのなら親父以下になるぞ」
シンジはくっと黙り込んだ。
くいくいっと少女が大佐の袖を引く。
(親父って?)
(司令のことだよ)
後でなとシンジに見られないように後ろに回した手を振った。
「少なくとも信じてもらえないからと言って自棄を起こすような人間じゃなかった、そうだったろう?」
「はい……」
「力が付いて勘違いしてるんじゃないのか? 他人を押さえつけられるようになったからと言って、情けない自分が消えるわけじゃないんだぞ」
「お兄さん……」
「いや……エイカ、甘やかすだけではな。心にゆとりがあればこそか? 確かにそれはそうだろうが、ただ笑われたと言うだけでキレるんじゃない」
「……兄さんには」
キッと睨んだ。
「兄さんにはわかんないよ!」
「シンジさん!」
逃げ出したシンジを追いかけようと、エイカは立ち上がってペコリとお辞儀をしてから退室していった。
ふぅっと息を吐き、少女はよろめいた。
「大丈夫か?」
「うん……」
その大きな手に背を預ける。
「あれが、あのシンジ……」
「喧嘩にならなくてよかったろう?」
「まあね」
「分かり合えと言うつもりはないさ。理解し合う必要もない」
「うん。あの子は?」
「使徒だよ。使徒だったものだ」
「ファーストと同じ?」
「いや、レイはレイとして生まれ落ちたものだった。あの子は自己進化した使徒だよ」
「擬態なのね」
「そういうことだ」
「それで? あたしの立場は……」
「オーストラリアのネオがデモの一環として送り込んだ先兵……ってことになってる。派手な演出をしてその有用性を認めさせようとしたとかなんとか」
「そんなのでごまかしが効くの?」
「オーストラリアから来たのは本当だろう?」
「ええ。タイムワープの後、動けなくなってたとこを保護してもらったのよ」
「あの弐号機の改造は?」
「ロウルって奴が……」
「あいつか」
「知ってるの?」
「使徒だよ。エイカと同じだ」
「それで……妙な感性してると思ったんだけど」
「ネオはアスカ……この世界のアスカだが、そのアスカと弐号機の模倣品を作り、売り込みを計ってきた。お前はそんな位置づけになってる」
「あたしが複製!?」
「不服か?」
「当然よ! なんで……」
「この世界には、この世界のお前が居るんだ。それくらいは我慢してもらおう」
「…………」
「……そして今回、潜んでいた問題が発覚した。クローンであるからか感情の制御に少々の問題を抱えていたとな。それは主にエヴァへの──パイロットへのライバル意識として暴走し、そして意識をダウンさせた」
「それじゃあ、戦闘中にもそういうことになりかねないってことじゃないの」
「そうだな」
「そんな人間を、連中は使ってくれるの?」
おやっと大佐は首を傾げた。
「戦いたいのか?」
「当たり前よ!」
「まあ、お前は俺の指揮下に置かれることになっているから、使ってやるさ」
「あんたの?」
「ああ」
にやっと笑い、マスクと鼻の間に親指を入れて、軽く隙間を作って見せた。
「今の俺は、ゼーレの手下でもあるからな」
しかしゼーレは、そう甘くはなかった。
「碇君」
──人類補完委員会、定例会議場。
「君の報告書は見せてもらった」
「確かに此度の処置、少々疑問の残るところではあるな」
テーブル中央に捕獲された機体のCGモデルが表示される。
「聞くところによると、これはオーストラリア産だとか?」
「その通りです」
「オーストラリア……ネオか」
「主な出資者はツェッペリン財団……」
「その養護施設の出身者であるシンジ・ツェッペリン」
「繋がりがあると見るのは妥当なところだな」
ではとゲンドウが顔を上げる。
「彼の処分を?」
「いや……」
しかしとメンバーの一人が及び腰になる。
「仮にもドイツ軍の軍籍にある者を、そう簡単に外すことはできんよ」
「彼の名は国連軍にも知られている」
「しばらくは監視に努めよ」
「……承知しました」