Episode:Another01
「おだいりさーまと、おひなさまぁ♪、この子の七つのお祝いにぃ〜」
「なんかちがうー!」
 と、ケチをつけたのは言わずと知れた碇シンジである。
 まあそんなこんなで三月三日の金曜日、シンジは学校に来るなり体育館で縛り上げられていた。
「悪いなぁ、シンジぃ」
「すまん、これも友情のため、しんぼうしてやぁ」
「こんな友情嫌だよぉ!」
 長椅子を器用に積み上げているケンスケとトウジ。
「いったい何しようってんだよ!」
「昨日のLHRで決めたやないか」
「まあシンジは寝てたみたいだから知らないとおもうけどな」
 長椅子で作ったピラミッドの上に、赤い布を被せる。
「よっしゃ完成や」
「うん、なかなかのデキじゃないか」
 満足がいったのか、続いてぼんぼりなどを並べていく。
「今頃女子は大変やろなぁ…」
「ああ、誰がおひなさまやるかで、相当もめてたからね」
 まずは昨日のLHRから一体何があったのかを説明しよう。


GenesisQ’ 第拾壱話補完エピソード
桃色サバス


「さて、それじゃあ延び延びになってたけど、そろそろ配役を決めたいと思います…」
 ヒカリは壇上に立ちながら、窓際、教室の角を見てため息をついた。
ぐごあああああああ…
 ものすごい高いびきを上げて寝ているミサト。
 腕と足を組んだまま、「カクン」と頭を後ろに倒し、大口を開けて眠っている。
 時折ビクリ!っと震えるのは、どうやら涎が喉につまっているかららしかった。
「はいはいはーーーい!、おだいり様はシンジがいいと思いまぁす!」
 ご機嫌に挙手するアスカ。
「ええ!?、やだよ、そんなの恥ずかしいよ…」
 だがシンジは聞こえるか聞こえないかのぎりぎりの声で意見を述べた。
「あんたこのあたしのナイスキャストに文句があるってぇの!?」
「ギャン!」
 口より早いアスカの攻撃!、スカァンっと漢和辞典がシンジの顎に直撃した。
「ああっ、シンジ様ぁ!」
「きゅう☆」
 沈黙するシンジ。
「はいはいはい、ごめんねアスカ?、悪いんだけどこれはクラスみんなでやることに意味があるのよ?」
「え〜〜〜!?」
 もっともなヒカリの言葉に、思いっきりブーたれる。
 だが周りの反応は違ったものだった。
 これでアスカ、レイ、ミズホの誰かとツーショットでGO!っといけるかもしれない!!
 ならあたしでも碇君と並べるかも!!
 一気に色めき立つクラスメート達。
 むう、まずいわねぇ…
 親友はどう見ているのか?、アスカはレイを盗み見た。
 モソモソモソモソモソ…
 不自然に5時間目の授業で使った教科書を立てたままにしていた。
 その裏でごそごそとやっている…
 あいつ、また何か食ってるわね!
 これじゃ当てにはできないわっと、アスカは春の陽気でピンク色に染まった脳味噌をフル回転させた。
 …ここはやっぱり多数決よね?、女子の大多数はシンジに絶対流れるはず…、後はあたし達なんだけど、多数決だとミズホかレイに持っていかれる可能性が高過ぎるわ。
 はたっとそこで気がついた。
 ちょっと待ってよ?、確かこのクラスには、信じらんないけどシンジと人気を二分してる変態がいたはず…、はて、誰だっけ?
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふん(第九らしい)ガラッとね、おや?、みんな何をもめているんだい?」
 ニコニコといつもの調子で、アスカの言う変態が現れた。
「カヲル!、もうLHRよ?、今頃何しに来たの」
「レイだって、もう6時間目なのにまだご飯を食べているのかい?、ずいぶんゆっくりさんなんだねぇ?」
 ヒカリが目を釣り上げた。
「綾波さん!」
「み、みのがしてぇ!!」
「渚さんも早く席に着いてください!」
「おやおや今日はまたご機嫌斜めなんだね、そうか鈴原君が惰眠をむさぼっているからか?、君を見てくれてないからなんだね、洞木さん」
 バン!
「な、なに!?」
 凄まじい音に飛び起きるミサトとトウジ。
「なんや!、今のゴキブリがつぶれたような音は!?」
 事実黒板にはヒカリの手によって出席簿で潰されたカヲルがべちゃっと張り付いていた。
「うわ、えげつないことしよんなぁ…」
「す〜ず〜は〜ら〜!」
「は、はいっ、すんません!!」
「先生も!、ちゃんと起きててください!」
「はいっ!」
 …どうやら委員長モードに入ったヒカリには誰も逆らえないらしい。
「では配役は公正に投票で決めます!、良いですね?」
 それではアスカの懸念が現実のものとなってしまう。
 ぶ〜っとブーたれる女子一同、誰しもが男子の得票が特定の人間に集まるのを嫌っていた。
「でもでも大丈夫ですぅ、シンジ様はちゃんとわたしに入れてくださいますよね?」
 ミズホにとってはそれだけが大事らしい、だがシンジはまだ復活していなかった。
「ちょーっとミズホ!、いつまでシンジで遊んでんのよ!」
 気を失ったままのシンジを抱き起こし、カクンカクンと首を揺すって振ってるミズホ。
「そうよ!、ほらほらシンちゃんはあたしに任せて…」
 バン!
 本日二度目の出席簿の音。
「…早く席に戻ってください」
「「は〜い…」」
 ヒカリの口元を引きつらせた笑みに、レイとミズホはすごすごと自分の席に戻って座った。
「じゃ、先生?、そう言うことで良いですか?」
「ちょーっと待って?、それじゃあ結果がある程度わかりきってるから賭け…じゃなかった、面白くないわ」
 面白い面白くないの問題かしら?
 いえ、それ以前に賭けって一体…
 何気なくコソコソとしているケンスケが目に入る。
「じゃ、こうしましょう!、男子は誰がおだいり様になるか、女子は誰がおひな様になるかで票を入れるの、どう?」
 わっと女子から歓声が上がった。
「先生!」
 お祭り騒ぎにしないでください!っとヒカリは続けようとしたが、黒板に張り付けられたままのカヲルがじーっと視線を向けているのに気がついた。
「…なに?、渚君」
「僕とシンジ君が並んで円満解決って選択肢は無しなのかい?」
「「「あるかぁ!」」」
 ガッシャーン!っと、窓を突き破って放り捨てられるカヲル。
「あーーーーーーー…」
 くるくると回転し、ドップラー効果で悲鳴を残しながら消えていった。
「ああっ!、しまったこれじゃシンジに票が入らないじゃない!」
「うっ!」
「しまったですぅ!」
 そうなのだ、シンジも気を失ったままである。
「こら!、バカシンジさっさと起きなさいよぉ!」
「ダメですぅ、完全に気を失っておられますぅ」
「ちちぃっ、こうなったら最後の手段よ!?」
「え?、なに?」
 アスカはレイの手を取って高々と挙げた。
「シンジに票を入れてくれた人、今なら限定10名様にレイと握手する権利を上げるわよ!」
 ウオオオオオオオ!
 今日この日、レイがどうして一日中手を洗っていたのか?、シンジがその真実を知ることは無かったと言う…


 翌日…
「シ〜ンジィ」
「あ、なに…ケンスケ?」
「実はさぁ、ちょっと話があるんだ、いいかな?」
 その眼鏡が妖しくキランと光っていた。
 ゾク!、身の危険を察知するシンジ。
「あ、でもほら、もうすぐ朝のHR始まっちゃうからさ?、早くトイレに行っとかないと」
 だがその言い訳では弱かった。
「トイレ?、オーケーオーケー行こうぜ?、トウジ、お前も来いよ」
「へぇへぇ…」
 しょうがないとばかりに立ち上がる。
 教室を出る時トウジはシンジの肩に腕を回して呟いた。
「すまんのぉ、それでもわしはお前の親友やからな?」
「へ?」
 シンジは意味が分からないままに、トイレに連れこまれていったのだった。


「じゃ、後はおひな様を決めるだけよね?」
 教壇に立つヒカリにウィンクする。
「はいはいはいっと、男子はさっさと更衣室に行って着替えてちょうだい?」
 ふえ〜いっと、ミサトの命令に従う一同。
「…カヲル、あんたは何で行かないのよ?」
「ふっ、シンジ君がおだいり様なら、おひな様は僕だと相場は決まっているのさ、そんなこともわからない君には常識が必要だね?」
「ひなまつりは女の子のイベントよぉ!」
 ガッシャーン!っと、昨日に続いて窓をぶち破り、カヲルはくるくると回転して落ちていった。
「はぁはぁはぁ、これで邪魔者は消えたわね?」
 にやり。
 その笑みに後ずさる女の子達。
 しかし慣れているのか平然としている二人が居た。
「でもぉ、やっぱりおひな様はしとやかでなくっちゃね?」
「そうですぅ、狂暴な方がおだいり様とお並びになるなんて、そんなことは天地がひっくり返ってもあってはならないことだと思いますぅ」
 ねぇーーー?っと、レイとミズホは見事なユニゾンで頷き合った。
「あんた達にだきゃあ、言われたくないわよ!」
 バタバタバタ…
 誰かが廊下を走って来る音がする。
 ガラッ!
「はぁはぁはぁ、ならこれで良いのかい?、アスカちゃん」
「どっから女子の制服なんて持って来たのよ、あんたわ!」
 女装したカヲルにくらっと倒れる女子が数名。
「あーーーーーー!」
 またしてもガッシャーンっと窓をぶち破り、カヲルはスカートを押さえてくるくると消えていった。
「はいはいはい、時間が無いの、早く投票を始めてちょうだい?」
 ニヤニヤと手を叩いて割り込むミサト。
「それに、おだいり様を待たせちゃいけないわよ?」
 その言葉がアスカたちを素直にさせた。
 席につき、回されて来た白紙の用紙に名前を書き込んでいく。
 後はそれをヒカリの持っている箱に入れるだけだった。
「結果発表!」
 ドンドンパフパフー!っと、ミサトが効果音を入れる。
 投票の結果はレイの圧勝であった。
「なんで?、どうしてよ!」
「人徳の差ぁ!」
「…レイさん、女の子にももててるんですぅ、ずるいですぅ」
 そうなのだ…、大多数はレイのボーイッシュさに惹かれた女の子からのものだった。
「うう、複雑な気分…」
 自分の体を抱きしめる。
 レイはなんだか身の危険を感じずにはいられなかった。


「さあてと、それじゃあシンちゃん、行ってみましょうか?」
「カッポンカッポンってレイ、一体何するつもりだよぉ!」
 体育館の中を縛り上げられたまま、芋虫のようにヘコヘコと逃げ回るシンジ。
「もっちろん着替えじゃない、おだいり様の!」
 レイはひょいっとシンジを立たせると、紐の結び目を持って思いっきり引っ張った。
「それー、回れ〜〜〜!」
「ああ〜〜〜れぇ〜〜〜〜〜〜!」
 くるくると回るシンジ。
 そのうちドサッと倒れこむ。
「うう…、ぎもぢわるい…」
「まだまだ!、さあみんな剥いちゃえー!」
 おー!っとみんなが拳を振り上げた。
「きゃーーーー!」
 群がって来る女生徒達に悲鳴を上げるシンジ。
「誰か助けて助けてよぉ!」
 シンジはその中に、嬉しそうな顔をしたカヲルが混ざっていることに気がついていなかった。


「さあてと、じゃあ記念撮影ね?、シンちゃん!」
 シンジは服を着替えさせられた後、またしても逃げ出さないように縛られていた。
「うう…、亀甲縛りってレイ、いつのまにこんな技を覚えたんだよぉ」
 こんなおだいり様あるもんか…
 シンジが気にしているのはアスカとミズホだった。
「うーーー…」
「覚えてらっしゃいよ?」
 三人官女の格好でうなり声を上げている。
 後が恐いんだよぉ…
 さめざめと涙を流すシンジ。
「ほらもうシンちゃん!、さっさと昇って「恋人として」並んで座るの!」
 ブチッ!
 何かが切れたような音がした。
 ああ、もうだめだ…
 何をするまでも無く気力すらつき果てようとしている。
 シンジはレイに引きずられて最上段へ昇った。
「は〜い、じゃあ撮るからみんなも所定の配置につきなさぁい!」
 ミサトの横で、ケンスケがデジタルカメラを構えている。
 二人ともニコニコとしている所を見ると、どうやら賭けは二人の大勝ちのようであった。
 はーいっと、みんなが並んでいく。
 ぐらぐらっと軽くゆらいだ。
「っと、ほんとにこれ、大丈夫なんでしょうねぇ?」
「きゃっ、こわーい、シンちゃ〜ん!」
「ああ!、そんなの反則ですぅ!」
 シンジに抱きつくレイに、頬をぷーっと膨らませる。
「良いの良いの、今日はあたしの勝ちだもん☆」
「シンジ、覚えてらっしゃいよ?」
「あはははは…」
 シンジはただ涙するのみである。
「じゃあ行くぞぉ!」
 せーのっと、ケンスケがシャッターを切った。
 え?
 シンジは頬に何かが押し当てられたのを感じた、半瞬遅れてよく知った髪の香りが流れて来る。
「ああっ、何してんのよ、あんたわ!」
 状況の把握は、シンジよりもアスカの方が早かった。
「でへへ〜、やっちゃったぁ!」
「やっちゃったじゃないでしょうが!」
「相田君、ちゃんと撮れたぁ?」
 ばっちり!っと親指を立てるケンスケ。
「そのディスクをよこすですぅ!」
 ミズホが段から一気に飛び降りた。
「ちょっとそこで待ってなさいよ!」
 素早く身を起こして段を駆け昇るアスカ。
 袴が引っ掛かりそうになるのもかまわずに最上段のレイを取り押さえようとした。
「あ、あぶ!」
 ぐらりと揺れる。
「危ないってば、アスカ!」
「うっさい!」
 すでにアスカにはレイをとっちめることしか頭になかった。
 元々不安定だった足場がアスカのために大きくきしんでいる。
「た〜おれ〜るぞぉ〜〜〜」
 ケンスケが妙に間延びした声を出した。
 弾けるように壇上に並んでいたクラスメートが慌てて逃げ降りる。
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
「バカシンジィ!」
「シンジ様ぁ!」
 ドガガガガッと、脳天から逆落としになったシンジの上に、積み上げられていた長椅子とレイとアスカが落ちていった。
「…あ〜あ」
「まあ、こうなるとはおもっとったけどな?」
 薄情な親友達である。
「シンジ様ぁ!」
 発掘にかかるミズホ。
 とりあえずシンジが一番下、その上に抱きつくようにレイ、アスカの肘はシンジの顔面にめり込んでいた。
「シンジ様ぁ、うんしょ、うんしょ…」
 積み重なった長椅子の山の上に乗り、三組逆さに突き出ている足の中からシンジのものだけを一生懸命に引っ張った。
「うんしょ、うんしょ…、ふええん、シンジ様が出て来て下さいませぇん!」
 自分が乗ってしまっているせいで、重しとなって椅子を固定してしまっているのだが、まったく気がついていないらしい。
「だっしゃあ!」
「レイぃ!」
 だがそれすらも苦ともせず、火山噴火のような勢いで長椅子が弾き飛ばされた。
「うきゃあん!」
 一緒に吹っ飛ぶミズホ。
「今日こそ決着つけるわよ!」
「望むところだわ」
「きゅう☆ですぅ」
 がしっとがっぷり四つに組む二人。
 誰も僕のことを助けてくれないんだ…
 もはや完全に忘れ去られ、長椅子の山の中で泣いているシンジ。
 僕は、不幸だ…
 シンジは自分の不運を呪わずにはいられなかった。

 終わり。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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