Episode:10E





「V.MAGIがハッキングプログラムの支援に回っています!」
 ついに来たか…と、いつもなら言うはずの冬月がいないので、ゲンドウは内線でリツコを呼び出した。
「こっちでも確認していますわ」
「プログラムの解析結果は?」
「修復プログラムでは無視されるような一見無害なルーチンが、一通り全部揃うとご覧のような状況を産み出す、とまあそんな感じですわね」
 話している間もキーを叩く音はとだえない。
「ビルを出たまえ」
 ゲンドウは別の電話を使って、ポケベルにメッセージを送った。
「彼が迎えに来る」
「荒事は趣味じゃありませんのよ?」
 とため息と共に内線電話は切れた。
「セキュリティーシステム、ダウンしまっす!」
「うわぁっ!、なんだこれ!!」
 画面にやたら大きく目をむいた猫のCGが表示された。
「ば、化け猫…」
 幾人かがとろんとした目をして倒れる。
「全てのI/Oシステムをダウンしろ」
 ゲンドウが静かに宣言した。
「しかしそれは!…」
「かまわん、ドラッグCGだ、このまま利用されるよりはいい、やれ」
 はい!っと従いつつも、利用されるって誰にだろうと、オペレーター達はみな不安になった。
「ダメです!、システム落ちません!」
「何者かが内部からコントロールしている模様です」
「場所は!?」
 スタッフの中でも一番地位の高い男が冬月の代わりを果たそうとする。
「現在走査中…、出ました、ゼーレビル1階っ、セキュリティーコントロールルームです!」
 それを聞いてぞっとする。
「あそこならネルフ施設以外の統べてをコントロールできる…、はやく警備を回せっ武装させて!、催涙弾と…、ええいっ、麻酔銃でもスタンガンでも、なんでもいい!」
 静かな分だけ、冬月のほうがいいな…
 そんな目でゲンドウは彼を見ていた。






 セキュリティーコントロールルーム。
「さあってと、これでここ以外の全てのシステムが落ちるはずだ」
 やせ気味の男がサングラスを取った、その目は光を失っている。
 盲人用のキーボードをものすごい勢いで叩いている、リツコにはおよばないが。
 キーボードはセキュリティーシステムの操作板の下、メンテナンスハッチの奥の基盤へとケーブルで直結されていた。
 部屋の隅には廃人のようになった警備員が転がっている、目の焦点を失い、口から涎を垂れ流していた。
「ドラッグが効きすぎたかな?」
 以前のハッキングはこのドラッグCGを置いていくことが目的だったのだ、催眠効果で侵入をやりやすくするための。
 戦うことなく、ゼーレビルはそのセキュリティーシステムの中心部をおさえられていた。
「イッツ、ショータイム!」
 そしてビルが牙をむいた。


 まず管理情報が暴走した、防火扉が自動的に閉じられていく。
 密閉された空間に、空調機から一酸化炭素、あるいは高濃度の酸素が流し込まれた。
 次々と警備員が倒れていく。
 あるものが防火扉を開こうと開閉パネルを操作した、だが反応が無い、そこでやけになってスタンガンでショートさせようと試みた。
 爆発がおこった。
 高濃度の酸素に引火、爆発したのだ。
 四階だった、窓ガラスが吹き飛び、地面へと落ちていく。
 だが不思議なことに通行人はいなかった。
「おかしい、まだ残業してる奴だっているはずなのに、誰一人見かけねぇ…」
 監視モニターを襲撃者のうちの一人が操った。
 ビルの中には警備員らしき人物以外、残っていない。
 外には通行人すら見えなかった。
「見つけた、碇ゲンドウだ」
 最上階、第一会議室にゲンドウの姿を見つける、冬月も一緒だ。
 松沢が真っ先に部屋を出ようとした。
「いいのか?、Steersmanはこちらに来なかったようだが」
 盲目の男が尋ねた。
 松沢は声に出して答えない。
 先に野暮用を片付けるよ。
 いくら恐れられてはいようとも、ゲンドウは戦いのプロではないのだ、松沢は「弾がもったいないか?」などと余裕を見せて、階を昇った。






「でー、リッちゃん、場所はわかってるの…かぁ!」
 ミサトの荒々しい運転に、加持はシートベルトをしていてさえ舌を咬みそうになった。
「ちょっとミサト、もう少し大人しく運転できないの?」
 ずれた眼鏡をかけなおすリツコ。
 キーをたたき間違ったのか、膝元のノートにはERRORの文字が点滅していた。
「箱根峠以上のことはわからないわね、でも地下ケーブルの地図はあるから、すぐに見つけられるはずよ?」
 どこからか携帯用プリンターを取り出して、地図をプリントアウトする。
「加持、気がついてる?」
「ああ、後ろの黒いバンだろ?」
 ワンボックスカーがついてきていた。
「あ…」
 プリントした紙が落ちた、拾おうとしてリツコが体を曲げて屈めた。
 ビシッ!
 独特の音と共に、ルノーの後部ガラスにクモの巣状のヒビが入った。
「撃ってきた!」
 銃を取り出すと、加持は特殊な弾丸を装填した。
「なにそれ?」
 加持はニヤリと笑って、車をバンの横につけるよう命じる。
「お土産だ」
 バン!
 口径のわりに大きな音だった。
「あんたなにやったのよ!」
 バンが弾丸の衝撃に横転して、滑るようにガードレールにぶつかった。
 炎上する。
「まったく、騒がしいわね」
「あんたよくそう落ち着いていられるわねぇ…」
 さすがにミサトも呆れていた。
「リッちゃんらしいな」
 くすくすと笑う。
「またこの三人でつるむなんてな」
「無駄口はいいから、ミサト、急いで」
 よっしゃあっ!っとミサトの運転はさらに荒々しさを増した。






 ぎゃあっ!
 悲鳴が聞こえた。
「ちっ、役にたたねぇなぁ…」
 両手にサブマシンガンを持って乱射した。
「ほらほらしっかり当てろよ?」
 警備員をからかう。
 すでに2、3発もらっていたのだが…
「ま、当たったところで麻酔弾なんざ痛くも痒くもないからな」
 抗薬を打っていた、生死をかける緊張感を得られないためか、松沢の動きはキレを欠いていた。
 それでも確実にゼーレ専属の警備員を撃ち倒していく。
「う〜ん、やっぱり銃は威力のでかいほうがいいなぁ…」
 その方が血や肉が飛び散るからな…っと、危ないことを考える。
「それにしても…」
 警備員相手に次々と倒れていく仲間たちを見て、松沢は頭が痛くなっていた。
「いや、ここは警備する側の実力を評価すべきか?」
 くだらないことを考える、松沢にはどうでも良かったのだ。
「まあ、おかげでゲンドウと対峙する特権が貰えたわけだがな」
 残るのは松沢だけだった。
「この調子だと一階もどうなってるかわからんな…、あいつが何とかしてくれるか?」
 峠において来た女を思い浮かべる。
「いや、女に頼るようになれば終わりだな」
 加持を思い出す、無様に背を向けて逃げた男を。
「奴は弱くなったんだよ、守るものを見つけた時にな」
 誰かが言った、誰の言葉だっただろうか?
 そうだ、警察署を襲撃する時に、俺が叩きのめした男のセリフだ。
「なまじ守るものがあるから、我が身の安全を図ろうとする」
 目の前に第一会議室の扉があった。
「あの狂おしいほどに俺が欲しかった危険の香り、それを持っていた男はもういない、Steersman、戦士は常に孤独であれ!、弱者を守る心など、己に枷をつけるだけなのだよ」
「違うな、それは強さだよ」
 扉の向こうから声がした。
 松沢は反射的に撃っていた、12口径のリボルバー、だが弾丸の威力はショットガンをはるかに上回っている。
 よほど丈夫で、しかも分厚くできていたのだろう、扉は表面がえぐられただけですんでいた。
「しかし…、いま確かに声が…」
 辺りには自分しかいない、だがこの扉の防音効果はかなりのものだろう、今の銃声とて中に聞こえているかどうかは妖しい。
「まさに魔窟だな」
 その親玉と対峙するのだ、松沢は不可思議な高揚感に包まれていた。






「ついに開かれるのね」
 リツコは一人ごちた。
 ノートにはMAGI経由でゼーレビルの全状況が逐次報告されている。
 松沢は恐らく、部外者で始めてあの聖域へ訪れるものだろう。
「あれだな、間違いない」
 峠を登りきったところにちょっとした喫茶店があった。
 カップル目当てなのだろうか?、かなり大きな駐車場がある、そこに先程と同じ黒いバンが2台停まっていた。
「突っ込むわよ、良い?」
 返事は待たなかった。
 一気にアクセルを踏みこむ、傾斜に逆らい、ルノーは加速した。
 見張りなのだろう、バンの周囲をうろついていた男が悲鳴を上げて転がった。
 スピンターンを決める、ドン!、ついでに跳ね飛ばした。
 車を盾にするようにリツコが降りた。
 助手席を越えるように加持も逃げ出した。
「リッちゃん、ケーブルは!」
「崖の下ね」
 茶店の裏を指差した。
「ちょうど良いな」
 先程と同じ弾丸を使う。
 ドン!
 バンが炎上した。
「正気か!、やつら…」
 そんな叫びが聞こえる。
「全部で…7人か、俺が上へ追い立てる、葛城、頼むぞ」
 行こうとした加持の袖をとっさにつかんでしまう。
「なんだ?」
「あ……」
 何を言おうとしたのか忘れてしまった。
「…葛城、俺達は部外者じゃない、ましてや、これはあの子たちの戦いでも無い」
「え?」
「これはあの時から始まった、あの時から続いている俺達の戦いだ、だから逃げるわけにはいかない」
「加持…んぐ!」
 加持はミサトの唇を引き寄せた。
 強引なキス。
「ぷはっ!、か、加持君!?」
 目を白黒させる、加持はさらに抱きよせた。
「葛城…、もし無事に帰れたら、七年間言えなかったことを言うよ」
 耳元で囁く。
「え!?」
「お前がおばさんになりきる前にな」
 ウィンク一つ、それで加持は駆けだした。
「ちょ、ちょっと!」
 ドン!
 ミサトの呼びかけは二台目のバンの爆発にかき消された。
 ポケッとするミサト。
「ほら、しっかりしてくれない?」
 隣で体中が痒くなるのを我慢していたリツコが、とうとう痺れを切らした。
「色ボケもいい加減にして欲しいわね」
 ミサトはありったけの言い訳をしようとしたが、うまく言葉にできなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

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