Episode:11D
「あなたぁ〜、お手伝いするってばぁー!」
扉をカリカリと掻く。
「いいよ!、自分で着替えるから!」
一生懸命自室の扉を押さえているシンジ。
「だめよぉ、擦り傷とかクスリ塗らなきゃいけないでしょ?、ちゃんとしなきゃ治りが遅くなるんだからぁ」
言ってる事はもっともらしいが…
「トイレまでついてこうようとするんだもんなぁ、信用できないよ…」
ふうっとため息をつく。
気を抜いてしまった。
ガラッ!
「あなたっ!」
「うわぁ!」
慌ててベッドの上へ避難する。
「ななななな、なんですか!?」
「夫婦はお互い仲良く、助けあっていくものでしょ?、さあっ!」
にじり寄る。
「うふふふふ、ちゃんとクスリ塗ってあげるからね?、塗り薬、手で直にこう…」
といってワキワキする。
ぬらぬらとクスリで光っていた。
「それから、あ、そうだ汗かいてない?、ちゃんと着替えましょうね、パンツまで」
目がイってる。
うふふふふ…
「誰か、誰か帰ってきてよ、早く…」
シンジの命運は尽きかけていた。
●
「加持さんはいない、ミサト先生は何も知らない、まったくもう最低ね…」
ヒカリと別れ、二人は家路についていた。
「でもでも、おじ様達なら何か知ってらっしゃるかも」
「あ、そうか…」
時計を見る、五時、まだゲンドウたちが帰ってくるには早い。
「家帰ってご飯食べて、それから聞きに行けばちょうど良いかな?」
だがゲンドウたちは思ったよりも早く帰ってきていた。
「ほほぉ、新婚ごっこか」
「はい!、でもシンちゃんたら照れてばっかりで」
きゃうーんっと、両頬に手を当てて恥じらう。
「いかんぞシンジ、一度はじめたのなら役になりきらねば」
どうやらレイの味方らしい、シンジは助けを求めて母を見た。
「あらあらまあまあ、若い頃を思い出しますわねぇ」
アルバムを漁っている。
「はい、あーん」
夕食はゲンドウたちが買ってきたお土産の、広島風お好み焼きだった。
「れ、レイ…、もうやめようよぉ」
親の目を気にする。
「うるうるうるうるうる…」
口に出して瞳をうるませる。
「シンジ、食べてあげなさい」
「え?、だって…」
「命令だ」
口の片端が笑いに歪んでいる。
パクっと一口。
「おいしい?、ねえおいしい?」
「う、うん…」
「よかったぁ!、じゃもう一口…」
レイが作ったわけじゃないのに、なんで嬉しいんだろう?
シンジにはよくわからなかった。
●
「加持のバカヤロー!」
ミサトの叫びが店内にこだました。
もうすっかり出来上がっているようだ。
「ええ、それでですねぇ、もう手がつけられないんですよ」
片方の耳に受話器を押しあて、反対側は手で塞いでいる、マコトは助けを求めていた。
「自業自得よ、自分で何とかなさい」
「で、ですが…」
「そのぐらい序の口よ?、その程度で音を上げるなら、誘わないことね」
冷たく電話を切るリツコ。
「こ、これで序の口…」
とうとう他人のテーブルのお酒にまで、手を出しはじめている。
「ええいちくしょう!、俺も男だ、女一人ぐらい扱えなくてどうするんだよ!」
手に余るのは明らかだった。
「あの…、シンちゃん?、お背中お流ししましょうか?」
心休まる暇もなく、レイの暴走は続いていた。
「良いって、良いってば!」
ここだけは何としても死守しなければ!
絶対防衛線を引くシンジ、風呂場に立てこもっていた
「いまさら恥ずかしがらなくってもぉ…」
「恥ずかしいに決まってるだろうっ!?、シャワー浴びるだけなんだから何てことないよ、大丈夫だって!」
人がシャワー浴びはじめてから来る事ないだろうに!
絶対狙ってたんだな、このタイミングをっと、シンジは両親の帰宅で油断してしまったことを後悔していた。
「だめだってばぁ!、シップの匂いとか、クスリとかちゃんと落ちないじゃない、それじゃ新しいクスリが塗れないよぉ」
塗られてたまるかっと思う。
だがさっきのことを考えると…
「こういう時に限って、アスカたち来ないし…」
その頃居間では…
「あなた?、何処におかけになられるんですか?」
「ああ、アスカ君達にな」
電話をかける。
「あ、おじ様帰ってらしたんですか?、待ってたんです!、聞きたいことがあって…」
うわー!っとバスルームから悲鳴が聞こえて来た。
「し、シンジ!?、今の悲鳴シンジですか?」
「ああ、今レイと風呂に入るところらしい…」
がしゃん!っと切れた。
耳をおさえて、ゆっくり受話器をおく。
「おじゃましまーっす!」
どたどたとアスカは駆けこんだ。
「早いな…」
ミズホも「おじゃましまーす」と上がってくる、こっちは事情がよくわかっていないらしい。
「あなた?」
「チャンスは平等に…、そう言ったのはユイだろう?」
「あたし、そんなこと言いましたっけ?」
「言わなかったか?」
空白の数秒間。
バカシンジー!
わあああああああああ!
シンジ様のスケベ〜!
や〜んシンちゃんのエッチぃ☆
というセリフが流れて消えた。
「まあ、いいですけど…」
「うむ」
何事もなかったかのように新聞を広げる。
シンジの悲鳴は続いていた。
続く
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