Episode:12B





 その一、惣流・アスカの場合。
「ビールは好き?」
「嫌いじゃないけど…」
「好きなものは見つけたの?」
「チューハイのカルピスとかがいいかな?」
 カラオケボックス、薄暗くて小さな部屋だった、椅子はL字型に並んでいて、シンジとアスカは隣に並んで座っている。
「えっと、これ…」
 そっと縦長の包みを渡すシンジ。
「これ…」
 四角い箱。
「開けて見ていい?」
「うん…」
 すっとリボンをほどく、包み紙の下から現れたのは、ネックレスを納めた四角い透明のケースだった。
「なんだ、以外と普通っポイんだシンジ…」
 青いクリスタルがついている。
「あ、ごめん、こういうのって、何を買ったらいいのかわかんないから…」
「こんなのお金じゃないんだから…、気のきいたもの買わなくってもいいのよ、シンジらしいものなら一番よかったのにな…」
「なんだよ、一生懸命考えたんだから、そんな風に言うこと無いだろ?」
 口を尖らせてアスカを見る。
「アスカ?」
 顔を伏せている、髪が流れて、顔を隠していた。
「どうしたの?、アスカ?」
「うれしいの…」
 やっとの想いで、それだけ伝えた。
「アスカ…」
 シンジは、ようやくアスカの言葉が照れ隠しだとわかった。
「ありがと、シンジ…」
 アスカはもたれかかるようにシンジへと顔を近づけた。
 そしてシンジも、いつものように逃げはしなかった。


 そのニ、綾波レイの場合。
「レイ、いるぅ?」
 こんこんとドアをノックする。
「うん、入っていいよぉ?」
 ドアを開ける、滅多に入らないからか、空気の違いが鼻につく。
「ん、どうしたの?」
「あ、なんか匂いが違うからさ…」
「そっかな?」
「うん…、女の子の部屋だからかなぁ?」
 急にそっぽを向くレイ。
「あれ?、どうしたのレイ…」
「そ、そういうこと言われると恥ずかしいんだけど…」
「そうなの?」
 よくわかんないやっとシンジ。
「えっと…、それで、なに?」
「あ、うん、今度の日曜日暇かなぁって思って…」
 ん?っと首を傾げるレイ。
「あ、あのさ、前から行ってみたいって言ってたイタリア料理のお店…」
「ああ、ピッコロ?」
「うん、あそこの予約取ったんだ…、それで、どうかなって思って…」
「え?」
 よく飲み込めなかったらしい。
「あ、ごめん用事があるならいいんだ!」
「ううん、用事なんて無い!、けどどうしたの急に?」
 言いよどむシンジ。
「えっと…、バレンタインのお返し…なんだけど、変かな?」
「バレンタインって…、無理しすぎだよシンちゃん、チョコ一個で…」
「でも、嬉しかったから…」
 お互い真っ赤になってうつむきあう。
「うん…、わかった、日曜あけとくね?」
 ぱあっと表情を明るくするシンジ。
「ありがと!、えっとね、でも予約取れたのがディナーだからそれまで時間があるんだ、それでね…」
 シンジは隠し持っていた関東WALKERを、服の中から取り出した。


 その三、信濃ミズホの場合。
「はう〜〜〜ん!、まさかシンジ様がそんな方だったとは思いもしませんでしたぁ!」
「み、ミズホ!」
 走り去ろうとするミズホの手をつかむ。
「いったいどうしたって言うんだよ!」
「ふみーん!」
 泣き崩れるミズホ。
「し、シンジ様の…、シンジ様のお洋服にネコの毛がぁ!」
「はあ?」
「シンジ様ったら、シンジ様ったら、私が猫嫌いなのを知ってて、猫を抱いて肉球ぷにぷにとかなさってたんですねぇっ!、うわああああああん!」
 呆れるシンジ。
「ばっかだなぁ」
 こつんと優しく叩いた。
「ぼくがそんなことするわけないじゃないかぁ」
 きらきらと爽やかに白い歯が光っている。
「くすん、ほんとですかぁ?、シンジ様ぁ」
「もちろんさ!、これはそう!、戦ってるうちについたんだよ」
「え?」
「白に黒ぶちの猫だったな、ほら、ここにひっかかれた跡があるだろ?」
 手の甲を見せる。
「なかなか手強い相手だったよ」
 うるうるとミズホの瞳がうるむ。
「ふぇええん、ダメですシンジ様ぁ、そんな危険で危ないことをなさっては!、ミズホは、ミズホは心配で心配で…、胸が張り裂けてしまいそうですぅ!」
 うわああんっと、シンジの胸にすがりついて泣きじゃくる。
「…ごめんねミズホ、心配させて、でもね、僕にも戦わなければならない理由があったんだ」
「…ふみ?」
「ほら、これ」
 ピンク色の、可愛らしい袋だった。
 中に色々なリボンが入っている。
「シンジ様…」
 感激にうち震えている。
「恥ずかしかったぁ、女の子ばっかりの店だったしさぁ」
 照れてる。
「でも、その後で猫に取られちゃってね?」
 えっと驚くミズホ。
「それで取り返さなきゃって…、買いなおしてもよかったんだけど、一生懸命選んだものばっかりだったから…」
「シンジ様…」
 感動の余り手に力が入ってしまった、思わず袋を潰してしまう。
「あ、ほら、そんな風にしちゃうとリボンにシワがついちゃうよ?」
 微笑むシンジ。
「シンジさまぁ〜〜〜!」
 抱きつく。
「シンジ様、シンジ様、シンジ様ぁ!」
 ぐしぐしと泣きはじめる。
「ほら、ミズホ顔を上げて?」
 シンジはそっと唇でミズホの涙をぬぐった。
「シンジ様…」
 顔を赤らめるミズホ。
「ミズホ…、もしよかったら、僕のリボン、つけてみてくれないかな?」
「はい!」
 元気一杯に微笑む。
「あ、そうだシンジ様、もしよろしかったら、シンジ様がつけてくださいませんか?」
「ぼくが?」
「ダメ…、でしょうかぁ?」
 ちょっとしゅんとなる。
 そんなミズホが愛らしくてたまらなかった。
「もちろん、良いに決まってるじゃないか」
「シンジ様…」
「ほら、リボンを貸して…」
 シンジはミズホを抱きしめたままで、ミズホの黄色いリボンをほどいた。
「シンジ様?」
「じっとしてて…」
 シンジはそのまま前からミズホの髪を結びはじめた。
 シンジ様の胸、あったかいですぅ…
 鼓動まで聞こえる。
 シンジ様…
 ミズホは全てをシンジに預けた…


「「「うへ、うへへ、うへへへへへ…」」」
「ねぇ、洞木さん…」
 授業、小テスト中だ、ミサトは様子を見るふりをして歩き、ヒカリに声をかけた。
「あの三人、どうしたの?」
 気味悪げに見る、誰のことか、言う必要はないだろう。
 ヒカリは「ははははは…」と、困るしかなかった。






「あの〜、アスカぁ?」
 放課後、シンジはやたらニヤついていて気味の悪い三人に声をかけた。
 アスカを選んだのは、一番こっち側の世界にいるような気がしたからだ。
「聞いてる?」
「え?、あ、な、なによ!」
「うわっ、ごめん!」
 つい癖で謝る。
「なに恐がってんのよ…」
「あいや、なんとなく…」
 言い出しづらくなる。
「シンジぃ、いこかぁ!」
 トウジが呼んでる。
「なんだ、一緒に帰れないの?」
「う、うん、今日は一緒に帰れるって約束したのに、悪いんだけど…」
 いつもなら鉄拳が飛んでくるところだ。
「ううん、いいわよ、鈴原のお供じゃしょうがないもんね」
 にっこりと微笑む。
「ど、どうかしたの?」
 シンジは思いっきり後ずさった。
「なんだかいつものアスカらしくないや…」
「なんですってぇ!」
 拳を振り上げる。
「うわぁ!」
「くっ!…」
 後一歩のところで踏みとどまる。
「きょ、今日は特別よ、とくべつ!、ほら鈴原が待ってるじゃない、さっさと行ってあげなさいよ」
「う、うん…」
 まだふに落ちないものがあるのか、シンジは何度も振り返りながら教室を出ていった。
「よかったの?、アスカ…」
「ヒカリだって今日は我慢したんでしょ?、それにお楽しみは後にとっておかないとね?」
 アスカはウィンクして見せた。
「シンジもちょっとは鈴原に毒されてくんないかなぁ?、せめてイベントぐらい敏感になって欲しいんだけど…」
 ねぇ?っとヒカリを見る。
「もう、しらないわよ!」
 照れる。
「それよりあの二人何とかしてってば…」
 レイとミズホを見る。
「「でへへへへ…」」
 まだあっちの世界に居た。
「あははははは、どうしてくれようか?」
「任せる…」
 ヒカリははぁっとため息をついた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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