Episode:12C





「ふむ…、これで最後だな」
 かこんっとリターンキーを叩く、冬月はシンジ用に問題集を作成していた。
「…何を見とるんだ、碇」
「この間のレポートだ、なかなか面白いことがわかった」
 ファイルを渡す。
「パターン青!?、まさか…」
「いや、あの子たちではない、ましてやあの男でもな」
「そうですわね…」
 珍しく三人目がいた。
 ゲンドウのすぐ隣に椅子を置き、座っている。
「あの人でしたら、もう少し遊び心を加えますわ」
 赤毛の女だった、短い癖のある髪。
「どう見る?、赤木君…」
「赤木だなんて…」
 しなだれかかる。
「嫌ですわ、ナオコと呼んでくださいませんの?」
「あああああ、赤木君、そういう事はやめてくれないか?」
 あわてて離れるゲンドウ。
「もう、いけずな人ですわね…」
 色っぽくシナを作る。
「一度くらい私の誘いに乗ってくださっても、罰は当たらないと思いますけど?」
「赤木君、その辺にしておきたまえ」
「あら冬月先生、あいかわらずお堅いですわね?」
 投げキッス。
「…ユイ君に言いつけるぞ」
 ギクッと固まるナオコ。
「少しは自重したまえ」
 すまん冬月っと、ゲンドウはこっそり感謝した。
 ちっと吐き捨てるナオコ。
「それで、赤木博士の見解はどうなのかね?」
 ファイルにはリツコの破壊したコンピューターについて、幾つかの考察が並べられていた。
「以前回収されたダミーシステムのヘッドセット、あれに取り付けられていたものと同じパーツが幾つか見つかりました」
 がたがたと離れたところに座りなおすゲンドウ。
「間違いないな、あれもダミーシステムだったと言うわけだ」
 立ち上がり、補足を始めるナオコ。
「私のところから持ち出した有機コンピューターへの人格移植のノウハウ…、元はリツコが残していったものですけど、あれを利用したようですわね」
 ふむ…、冬月は考えこんだ。
「E反応が出た理由は?」
「さあ?、なにぶんにも損傷の度合が激しくって…」
 ファイルには回収した時の写真も添えられていた。
「おもちゃにしては出来すぎているな、だが使うにしてはストレート過ぎる」
「向こうにも色々とあるんでしょうね…」
 今度はゲンドウの真横、テーブルの上に腰掛けた。
「ところで、今晩あいてますの?」
 ゲンドウはすっと立ち上がった。
「冬月、後を頼むぞ」
 そそくさと逃げ出そうとする。
「碇…」
 珍しくすんなりとは行かせない。
「香水の匂いは消したほうがいいぞ」
 ゲンドウはすぐさま地下駐車場へ向かった、排気ガスでも浴びるのだろう。
「うんっ、ほんと、つれない人ですわねぇ…」
 冬月に向き直る。
「では冬月先生?、後を頼まれた以上、お食事ぐらいは付き合ってくださるんでしょう?」
 冬月はため息をついた。
「たまには、娘と会えばどうかね?」
「もちろん会いますわよ?、ちゃんと先生の娘さんも誘ってありますわ」
「なにっ!?」
「リツコからちゃんと…ね、まさかお嬢様が同じ職場で働いてらっしゃるとは思いませんでしたけど」
 くすくすと笑ってみせる。
 ナオコはすべてをお見通しだった。






「シンジぃ、ホンマにこないなとこ入るんかぁ?」
「い、いや僕は普通こういうのを喜ぶんじゃないのかなぁって言っただけで…」
 二人で悩んでいる、ファンシーショップだ、女の子たちがたむろっていた。
「ちょお…、こりゃ根性いるでぇ…」
「他の店にしようか?」
「そやな…、なんやヒカリには似合わんで、こういうの…」
「うん…」
 …というわけで引き返す。
 そんなこんなをずっと続けていた。
「…なかなか決まらんもんやなぁ」
「っていうか、まだなんにも見てないけどね」
 力尽きたように、自販機の脇に陣取っている二人。
「これ飲んだらどうするぅ?」
「ぼく委員長の趣味なんて知らないしさぁ…、そうだトウジ、委員長なにか欲しいとか言ってたもの、ないの?」
「ないなぁ…」
 あっさりと答える。
「あの性格やさかい、自分から欲しいなんて言わんのや」
「そっかー…」
 うーんっと首をひねる。
「シンジはどないしてたんや?」
「どうって?」
「惣流やら、なんやプレゼントした事あるんやろ?」
「だって、みんな欲しいものは欲しいって口にするから」
「そやなー…」
 そろそろトウジも、人選を誤ったことに気がつきはじめていた。
「そうだ、料理!」
「なんや?」
 急に元気になるシンジ。
「料理だよ、委員長好きだしさ」
「そやからそれがどないした言うねん?」
「料理道具のセット…は高いかな?、エプロンとかさぁ、何かあるだろ?」
「シンジぃ、そりゃ名案やで!」
 トウジも目に光を取り戻した。
「やっぱお前に頼んで正解やったわ!」
 かなり調子が良い。
「いま何時?」
「5時やな」
「じゃあG・Frontの閉店には間に合うね」
「よっしゃ!、行くでシンジ!」
 かなり妥当な道を歩きはじめる二人だった。






「何だシンジではないか」
「あ、父さん」
 マンション前で鉢合わせした二人。
 もう7時だ、陽も落ち、辺りは暗い。
「今日は遅いんだな」
「うん、実は…」
 エレベーター待ちの間に事情を話す。
「そうか…、それでシンジ、お前はなにか買って来たのか?」
「え?」
 どうしてっとシンジ。
 ゲンドウはつくづくと言った感じで呆れ果てた。
「シンジ…、いかんぞそんなことでは…」
「で、でも…」
「大体だなぁ、貰うものだけ当然のように貰っておいて、お返しの一つもせんとは何事だ?」
「そ、そっかな…」
「ああ、気持ちを伝えたいから送る場合もある、だがそれに答える日がホワイトデーと言うものではないのか?」
「そっか、そうなんだね…」
 うーんっと考え込む。
「それにだな」
 急に小声で。
「母さんを見ろ、プレゼントを忘れた日にはどれ程不機嫌になるか…」
「へぇ〜、どのぐらい不機嫌になるんですか?」
「ゆ、ユイ!」
 背後にユイがいた。
「どうしてこんな所に!」
「レイちゃんとコンビニへ」
 あははははっと、ユイの後ろで困った顔をしているレイ。
「で、話しの続きなんですけど?」
 顔は笑っていたが、頭には角が生えていた。
「ご、誤解だよユイ、わたしはシンジに教えさとそうと思って冗談をだなぁ…」
「へぇ、冗談だったんですか?」
 ずいっと前に出る、何かに気がついたように、くんっと鼻で嗅いだ。
「…香水の匂い、あなた?」
「まさかそんなはずは…、ちがう!、断じて違うぞユイ!」
「そんなはずって何ですか?」
「あ、いやそれは…」
 次々とボロが出る。
「あーなーたぁ?」
「父さん、先行ってるね?」
「あ、あたしもお先にぃ」
「ああっ、シンジ待て!」
 その首根っこを捕らえるユイ。
「逃がしませんわよ?、あなた」
「ユイー、勘弁してくれぇ〜」
 エレベーターに逃げ込むシンジとレイだった。






「それでシンちゃん、ほんとに何も買ってこなかったの?」
 靴を脱ぎながら、ちょっとがっかりしてるレイ。
「うん…、ごめん」
「いいけどぉ、催促するもんでも無いしぃ…」
 でもすねてる。
「やっぱり、ちゃんとした方がいいのかなぁ?」
「そりゃ、何でも良いから、貰えるだけでも嬉しいし…」
 こんなこと、貰う方から言うもんじゃないんだけどなぁ…
「そうだよね…」
 ふと気になった。
「シンちゃん…、ほんとに買うつもりが無かったの?」
「…うん」
「嘘ついてない?」
 ただなんとなく聞く。
「…時間、無かったんだ」
「時間?」
「うん、トウジのが先だって思ってたから」
 それで後回しにして、時間無くなっちゃったのか…
「はじめはトウジについて回って、何かあったら買おうって思ってたたんだけど…、時間切れで、今日はもういいかなぁって…」
「隠さなくてもいいのに…」
「ごめん…、でもちゃんと探すから…」
「いいよ、無理しなくっても」
「でもさ…」
 学校で、レイたち楽しみにしてたみたいだったし…
 ちゃんと気がついていた。
「シンちゃん、明日からずっと冬月さんのところに行かなきゃならないんでしょ?、もうお店に行くような時間ないじゃない…」
「でも…、探して見るよ」
 ほんとに無理してる…
 そうは思っても口に出せなかった。
 部屋に戻ろうとするシンジの背中にぽつっと呟く。
「底抜けに優しいのはいいんだけど…、シンちゃん、わかってるのかなぁ?」
 プレゼントは欲しいけど、無理してるのを見るのは辛いんだよね。
 それが誰のためなのか分かっているだけに、レイはシンジに言葉をかけられなかった。
 この日もシンジの部屋は、夜中の三時まで明りを灯したままだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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