Episode:12F





「あたしとねぇ…」
「ねえ?、どうですか葛城さん」
 授業中だ、この時間マコトとミサトは受け持ちの授業が無いので、職員室に「ふ・た・り・き・り・☆」だった。
「あたしと行ったってしょうがないわよ…、どうせまた飲んでるだけなんだからさ」
「大丈夫ですよぉ、だってこれ寝台車の個室券でしょ?、飲んでたってほかに迷惑なんてかかりませんって」
 そっかなぁ…と首をひねる。
「それにもう私立の受験終わっちゃってるし、自由登校なんでしょ?、ちょうどこの日って受験挟んでの前後日で、三年生が休みの日と重なってるじゃないですか」
「まあ、そうだけどねぇ」
 気が乗らないらしい。
「子供達が頑張ってる間にってのがちょっちねぇ」
「良いじゃないですか、子供達だって羽伸ばしてる子もいるんですから」
 うーんっと悩む。
「気分転換しましょうよ、毎晩毎晩飲みに行ってるよりはいいですよ、きっと」
 うっさいわねぇっと、ミサトは小突いた。
「じゃ、まあいっかなぁ、確かに気分変えたいしねぇ」
 やった!と、小さく拳でガッツポーズを決めた。
「じゃあ僕が葛城さんのところまで車で行きますから」
 今にもスキップしそうな勢いで、マコトは職員室を出ていった。
「まったく、そんなに嬉しがられるとね」
 悪い気はしないな…と、ミサトは小さく微笑んだ。






「なによなによなによ!、ばっかシンジの奴、そりゃあちょっとは言い過ぎたと思うけどさ」
 学校、屋上、とりあえずは来てみたものの、授業を受ける気にはならず、アスカは屋上で愚痴っていた。
 付き合っているレイとミズホ。
「でも…、なにも家出する事は無いじゃない…」
 しゅんとする。
 別に誰かに話しているわけでは無かった、強いて言えば、山に向かって叫んでいる。
「なによ、コレじゃまるであたしが見限られたみたいじゃない…」
 唇を噛む。
「なんでよ、あたしが何したって言うのよ?、どうしてあんなこと言われなきゃなんないのよ…」
 本当は心配で堪らなかった。
「シンジがあたし達のこと避けてたからいけないんじゃない…、それを何よ、逆切れしちゃってさ」
 だからへそを曲げているふりをしていた。
「アスカ、いい加減にして…」
 レイは、そんなアスカに苛付いていた。
「アスカだって悪いんじゃない、シンちゃんの気持ちをちっともわかろうとしなかったくせに」
 アスカは睨み返した。
「そりゃあんたはいいわよ、なにも秘密になんてされなくってさ、わけだって全部知ってたくせに…」
「そりゃ…、そうだけど」
 そこを突かれると痛い。
「おじ様のお知り合いの方に勉強見てもらってたですって?、なによそんなの、別に隠すようなことじゃないじゃない」
 ミズホもうなずく。
「だけど…あたしたちじゃシンちゃんの邪魔するだけだし…」
「ほらみなさいよ、やっぱり邪魔だって思ってたんじゃない!」
「シンちゃんはそんな事思ってないよ!」
 思わず怒鳴ってしまった。
「あたし達が邪魔したって、シンちゃん怒りもしないでつきあってくれてたじゃない、でもその分、やらなきゃならなかったノルマって、全然できなくなってっちゃってたし…」
 そうね、と思う。
「シンジ様…、困ったなぁってお笑いにはなっても、邪魔だからって邪険になさるようなことはしませんでしたぁ…」
 それが当たり前だったもんね…、と呟く。
「でも、今回だけは許せないのよ!、勉強しなきゃいけないんなら、そう言えば良かったじゃない!、そうしたらあたしだって、邪魔なんてしなかったわよ!」
 それよりなにより、許せないことがあった。
「それがなに?、「僕は出来が悪い子なんですぅ」だって、あたしとは出来が違うからぁ、なんて卑屈なこと言っちゃってさ、あたしがいつ見下したりしたって言うのよ!」
「してたじゃない…」
 レイがぼそりと返した。
「レイさぁん…」
「してたじゃない、加持さん加持さんって、シンちゃん追い詰めて、シンちゃんの話を聞こうともしないで、シンちゃんだって傷ついたんだからね!、アスカに責める資格なんて無い!」
 珍しく顔を紅潮させていた、頭に血が上りすぎている。
「あたしだって辛かったんだもん!、そりゃレイは良いわよ、家に帰ればいつだってシンジに会えるんだから、いつだってシンジの声を聞けるんだから!」
 でもあたしは…
 言葉を飲み込む。
「だからシンちゃんは、あたし達と離れ離れにならないようにって、頑張ってたんじゃない…」
 うんうんっとミズホもうなずく。
「ほらっ、これ!」
 紙袋を取り出すレイ。
 アスカとミズホに押しつける。
「なによ、これ…」
「なんですかぁ?」
「シンちゃんから預かったの…、いなくなる前に、渡しておいてくれって…」
 二人とも固まった。
 袋を見たまま、開けられないでいる。
「シンちゃん…、あの時にはもう帰るつもりなんてなかったのかもしんない…、あたしが悪かったの、あたしが、あの時無理にでもついていっておけば…」
 歯噛みする。
「レイ…」
「お願いだから…、シンちゃんを責めないで」
「レイさぁん」
「シンちゃんは頑張ってるよ、頑張ってるの、頑張りすぎるぐらい、疲れちゃうぐらい頑張ってたんだから…」
 顔をふせる、涙を堪えていた。
「でもあたしは、シンジに期待したいんだもん」
 アスカも同じようにしていた。
「優しいだけじゃなくて、もっとあたしが憧れるような人になってもらいたいんだもん、シンジに…、シンジに期待しちゃいけないの?、ねぇ…」
 誰からも、その答えは帰ってこない。
「ねぇ、答えてよ、ねぇってばぁ…」
 一人、ミズホだけが顔を上げていた。
「シンジ様は…、それでも普段の通りに振る舞っておられたんですねぇ…」
 疲れはもちろん、睡眠不足にも悩まされていたはずだ。
 だがシンジは、皆といる時はいつもと変りない姿を見せようとしていた。
 得に登校の時は…、一緒に帰れない分も。
「プレゼントは嬉しいですけど、私はこれを探す時間を、一緒に過ごしてもらいたかったですぅ」
 それはアスカもレイも、同じように感じた。
「あたしだって…、シンジに期待はしてるわよ、でも重荷になるようなことじゃないじゃない…、あたしは、もっとあたしのことを気遣ってくれるような、もっともっとあたしのことをちゃんと見てくれるようになって欲しいって、それだけなんだからさ…」
 レイもうなずいた。
「うん…、もっとずっと、優しくなって欲しい…、こんなに心配してる事、分かるようになって貰いたい…」
 だから帰ってきてよ、シンちゃん…
 レイは抜けるような青空を見上げて、頬に涙を伝わらせた。






「ん?、誰もいないのか?」
 そして夜。
 それ程遅くない時間に帰宅したはずだが、碇家には明りが灯されていなかった。
「ユイ?」
 リビング、カーペットの上にユイが座りこんでいた。
 顔だけを向け、シーっと人差し指を口にあてている。
「レイ…、眠っているのか?」
 まぶたの辺りが腫れていた。
「心配なんでしょうね…、泣きつかれて眠ってしまいましたわ」
 髪を優しくなでてやる、ゲンドウも同じように手をあてた。
 隣の二人のことも考える。
「シンジの奴、心配ばかりかけおって」
「ねえ、あなた?」
 不安げに見る。
「シンジは…、大丈夫なんでしょうか?」
 ゲンドウはしょうがないとばかりにため息をついた。
「シンジには彼がトレーサーとしてついてくれている、心配は無いよ」
 違います、と首を振る。
「子供達に任せよう、決めさせようと、あたし達は自主性にまかせ過ぎたんじゃないでしょうか?」
 レイへと視線を落とす。
「この子たちはまだ子供なんですよ?、辛い事や苦しい事、そんな想いを発散させる方法なんて、わからないんですから…」
 すやすやと、穏やかな寝息をたてているレイ。
「シンジは帰ってきてくれますでしょうか?」
 独り言のように呟く。
「もし、辛いことがあったらなら逃げ出せばいいなんてこと、思うようになってしまったなら、あの子は…」
「信じてやれ、生きている限り、幸せになるチャンスはどこにでもある、そう言ったのはユイ、お前だろう?」
 ユイの頬に手をやる、ゲンドウは軽く口付けた。
「あの子たちが自らの手で幸せをつかむ事、それこそが私たちの願いでもあったろう?、それはもう少しで叶う、ユイ、もう少しの辛抱だよ」
 ゲンドウはもう一度口付けた。
「帰ってきたら、叱ってやろう、二人でな」
「…はい」
 ユイは無理に笑って見せた。
 レイを抱き上げるゲンドウ。
 優しく抱きかかえ、布団まで運んでやろうとする。
「ん…、シンちゃん?」
 寝ぼけまなこを開く。
「お父さま…」
 抱きかかえられていることに気がついていない。
「シンジはまだだ、もうしばらく寝ていなさい」
 レイは「むにゃ…」と、言われた通りに目を閉じた。
 レイの部屋へとリビングを出ていく。
「シンジ…」
 月明かりが眩しい、窓の外には、少しばかりかけた月がかかっていた。
「帰ってきたら、お帰りなさいと言ってあげるわ…」
 それまではアスカ達にも優しくしてあげなきゃね。
 ユイは月に向かって誓った。






 そして入試の朝がやってきた。
「シンジ様、帰ってこられませんでしたねぇ…」
 ひとかけらの希望を胸に、アスカとミズホはシンジの部屋を覗いていた。
「どうするのよ、あのバカ…」
 自分もどうしようかと悩んでいる。
「二人とも、ちょっと…」
 レイが呼びかける。
「なに?」
「なんですかぁ?」
「お父さまが呼んでるの」
 二人、なんだろうと顔をあわせた。
 リビングへ行く、ゲンドウは手招きして三人を座らせた、ユイがキッチンで聞き耳をたてている。
「今朝、連絡が入った」
 三人同時にびくっと震える。
 今の状況で、他の話などあり得ない。
「連絡って、誰からですか?」
 レイが何とか聞き返す。
「…渚君からだ」
 ええーーー!
 思わず耳を塞ぐゲンドウ。
「どうしてカヲルなんかと!」
「まさか傷心のシンちゃんにつけ込んで…」
「ふみーーーん!、誰か忘れてると思ってたんですぅ!」
 それぞれ慌てふためく。
「まあ、そういうわけだ…、心配は無い、入試に全力を注いで来なさい」
 ゲンドウは言うことだけ言うと、膝をたてた。
「車で送ろう、乗っていきなさい」
「待って!」
 レイが引き止める。
 ゲンドウは冷ややかな目を向けた。
「あたし、シンちゃんを迎えに行きます!」
 あたしも、私もですぅと続く。
「シンジのために将来を棒にふるつもりか?」
 とっさには答えられない。
 だがレイは、うつむいて強く唇を噛むと、ゆっくりと言葉を選んで紡ぎ出した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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