Episode:12H





 試験会場でもある第三新東京市立第三高等学校。
 真新しい校舎、アスカは窓際の席から校庭を眺め見ていた。
「どう、いた?」
 レイ。
「ヤッパリいらっしゃいません〜」
 二人が近寄ってくる。
「もしかしたらって思ったんだけど、やっぱりだめかぁ〜」
 アスカはぼーっとしたままだ。
「アスカ?」
「ヒカリたちはいたの?」
 話は聞いていたらしい。
「隣の教室にいたよ?」
「鈴原さんとご一緒でしたぁ」
 ちょっと羨ましげ。
「だめねぇ〜、ちゃんと復習してなくちゃいけないのに…」
 参考書を開いてはいる、だが目を通す以上のことはしていない。
 ガラガラガラ…
「!…」
 開いたドア、三人一度に振り向いた。
 第一中学の制服に一瞬だけ反応する。
「…!、なんだ相田かぁ」
「何だは無いだろぉ?」
 その馴れ馴れしい態度に、室内の雰囲気が一瞬かたくなった。
「ふーん…」
「なによ?」
 室内を見回すケンスケ。
「いや、これがシンジの気分かと思ってさ…、そう言えばシンジは?」
 表情を曇らせる三人。
「シンちゃん、来ないみたいなの…」
「洞木さんと鈴原さんは、隣の教室にいらっしゃるんですけどぉ…」
「そっか、じゃああいつまだ青森にいるんだ」
 ぐわたぁん!っと椅子を蹴ってアスカは立ちあがった。
「あんたっ、なんでその事知ってんのよ!」
 胸倉をつかんで鼻面を突き合わせる。
「なんでって、俺が薦めたんだよ、青森!」
「す、薦めたですってぇ!?」
「く、苦し…」
「どうしてそんな余計なことをなさったんですかぁ!」
 シャツの背中を引っ張る。
 首がしまった。
「きゅう」
「あ、いっちゃった…」
 冷静なレイ。
「こら、ちょっと死ぬなら詳しく話してからにしなさいよ、ねぇ!」
 こうしてケンスケは、テストの合間合間に話して聞かせる事となった。
「復習できないじゃんかよぉ〜」
 ケンスケの嘆きなど誰も聞いてはくれなかった。




第拾弐話「しあわせのかたち」後編

「勇者復活!」





 びゆーーーーーーー!
 冷たい雪混じりの風が吹き付けてくる。
「ど、どうしてこんなことに、なっちゃったんだろう?」
 シンジはあらぶる北の海を相手に、一人途方に暮れていた。


「何だ、シンジじゃないか」
「ケンスケ…」
 時間はあの夜に戻る。
「どうしたの?、そのカッコ…」
 ホワイトのダウンジャケットに、これまたホワイトのパンツ、ブーツから帽子に至るまで白だった。
 背中にどでかいリュックを背負っている。
「夜なのにサングラスまでかけて…」
 かけているスポーツタイプのサングラスは、周囲の光度に合わせて光の透過率を変化させるだけでなく、ノクトヴィジョンやスターライトスコープの代わりにもなると言う、軍御用達の一品だった。
「相田ケンスケ、寒冷地仕様、どうだ?、かっこいいだろ?」
 シンジは黙ってため息をつく。
「なんだよ、ノリ悪いなぁ、しらけるじゃないか…」
 シンジは顔を背けるように、ジュースの自動販売機へプリペイドカードを差し込んだ。
「ホワイトデーのお返し、渡したんだろ?、うまくいかなかったのかよ」
 動揺が手に現れた、缶を取り落とす。
「あ〜、シンジ…」
 肩にぽんっと手を置く。
「まあ、そういうこともあるさぁ」
 ちょっと嬉しそう。
「愛…、それは一輪の薔薇…」
 どこからともなく流れるハスキートーン。
「儚く散るのが運命だからこそ、気高く、そして尊いのね…」
「誰?、あ…」
 数メートル先、電灯の上に人影。
「第三新東京市、第一高校ニ年C組洞木コダマ、人呼んで…」
 帽子のツバをはね上げる。
「紅の流れ星!」
 バン!っと、ライトで照らし出された。
 ぶろろろろっと、間抜けに車が通過していく。
「洞木さんのお姉さん…」
 コダマは「とぉっ!」っと飛び降りると、シンジに向かって「にかっ」っと白い歯を見せて笑った。
「若い子はいいわね、若い子は」
 腰に手をあてて、ひとりうなずいている。
「二人揃って…、どうしたの?、いったい」
「実はさ…」
 ポケットから何かのチケットを取り出す。
「なに?、それ…」
 弾丸鉄道、弾道鉄道と呼ばれている列車の乗車券だ。
「なんだよ知らないのか?」
「う、うん…」
 イベント情報雑誌などには目を通していない。
「しょうがないやつだなぁ…、自分が住んでる街の祝典だろぉ?」
 リュックに差し込んでいた雑誌を押しつける。
 ぱらぱらとめくるシンジ。
「ふ〜ん…、で、ケンスケ乗るの?」
「途中からな」
「え?」
「ここから青森まで、コダマさんには青森から北海道まで乗ってもらうんだ」
 うなずくコダマ。
「ケンスケ君にはここに到着した時の写真と、車窓からの絵を撮ってもらおうと思ってるの」
 ケンスケもうなずき返す。
「で、コダマさんには青森から最終北海道に到着するまでの写真ってわけさ」
 え?、とシンジ。
「じゃあ、ケンスケはどうするのさ?」
「俺か?、俺は先回りして到着シーンを撮るんだよ」
 リュックを降ろして開いて見せる、中に器材が積めこまれていた。
「…すごいね」
「だろ?、でも量が多いからさ、コダマさん今日から行くんで、ついでに持っていってもらおうと思ったんだよ」
 持っていってもらうって…
 見た目以上に重そうだ。
「宅急便使ったほうがいいんじゃないの?」
「じょーだんじゃないよ!」
 慌てて首を振る。
「大事な器材なんだぜ?、雑に扱われたらあっという間にいかれちゃうよ」
 ぱんっと軽くリュックを叩く。
「少年、暗いわね?」
 覗きこむ。
「こいつまたケンカしたんですよ、なあ、シンジ?」
「ケンカじゃないんだけど…」
 うつむく。
「重傷ね…」
 コダマは顎に手をあてた。
「ふ…む」
 コダマの頭上で古典的に電灯が閃いた。
「シンジ君、一緒にこない?」
「え?」
 ケンスケがナイスアイディーア!っと指をならした。
「そりゃいいや、どうせ自由登校中で休みも同然だもんな?」
「青森なんて行く気ないよ!」
「あら…、青森なんて…って、あなた行った事あるの?」
 な、ないけど…とシンジ。
「良いわよぉ?、北の春は、まだ冬の景色を残していて、旅情に浸るには良いところだわ」
「ぼ、ぼく浸りたいとは…」
「あら?、辛い事有ったんでしょう?」
「え、はい、まぁ…」
「苦しいことにもぶつかったのよね?」
「う、うん…」
「じゃあ、旅に出るのが自然よね?」
「……」
 シンジはダッシュで逃げようとした。
「シンジくぅ〜ん」
 とっつかまる。
「わー!、嫌です、やっと勉強から解放されたんです、ゆっくりしたいんですぅ!」
「じゃ、ケンスケ君、悪いけどこれお借りしていくわね?」
「どうぞどうぞ」
 売っ払う。
「さあっ、来るのよ!」
「うわああああああん!、コダマさぁん!」
 ちっちっちっと、指を振る。
「紅の流れ星と呼んで…」
「嫌です!、照れながら言わないでくださいよ」
 冷たいじゃないかぁ!っと、ケンスケのリュックを押しつけた。
 行くのだー!っとケツを蹴っ飛ばされ、シンジは半ば無理矢理同行させられたのだった。


「ううううう、どうしてみんなああ我が侭なんだか…」
 足元が雪に沈んでいる。
 小さな漁船が魚を水揚げしていた。
 シンジは学生服のままだった、着ているダウンジャケットはケンスケからの餞別だ。
「そうか、判ってきたぞ、きっと僕の周りにはまともな女の子なんて居ないんだ、きっとそうなんだ…」
 コダマは宿を探しに行っている、シンジはここで待っていろと置き去りにされたのだ。
 波しぶきの音がうるさい。
 ふと顔を上げる。
「ふたりをー、ゆぅやみが〜〜〜♪」
 いつからいたのか、隣で歌っている女性。
「歌はいいわね」
 長い黒髪が潮風になびく。
「心を潤してくれる、人の奏でることのできる最高の心の形だと思わない?」
 かっぽう着姿の女の人だった、髪をゴムでまとめ、ジーンズの後ろポケットにはゴム手袋が姿を見せている。
「えっと…」
 誰かに似ている、そんな気がした。
「見かけない子ね?」
 そう言って振り返る、窮屈そうな胸がかっぽう着からはみ出していた。
「どうかしたの?」
 髪を軽くおさえて微笑む。
「頭に雪が積もってるわよ?」
 シンジは慌てて、手ではらった。
 彼女は微笑んでシンジの隣に立った。
「漁船、好きなの?」
「あ、いえ、そういうわけでも無いんですけど…」
 長い髪が流れる、片手でそれをかき上げながら、彼女は海を眺めた。
「とりあえず、体を温めたほうがいいわよ?」
 微笑んで、シンジの手を取る。
「ほら、こんなに冷えちゃって」
 その手の柔らかさに、シンジは赤面した。
「あ、ごめんね?」
 クスリと笑って手を離す。
「もし良かったら、こっちに来ない?」
「え?」
 少し先を指差す。
「ほら、あそこ」
 船から上がってきたばかりの人たちが、何やら集まっていた。
「取ってきたばっかりの魚を鍋で煮こんでるの、体が温まるわ」
 でも…と遠慮しかけたが、お腹がグゥっと鳴ってしまった。
「あ、じゃあ…ちょっとだけ…」
 彼女は満足げに微笑むと、シンジの手を引いて輪の中へ入っていった。
「おばさん、この子も食べてみたいって」
 ぶつ切りの魚が味噌で煮こまれていた。
 シンジはよそってもらうと、礼を言って口に運んだ。
「おいしいや」
「そうだろ、今取って来たばかりなんだからな」
 髪を短く刈り込んでいる青年が、顔一杯に笑顔を張り付かせてシンジにおかわりをよそってやった。
「遠慮するなよ?、まだまだあるからな」
 ゴム長の靴に作業着、魚河岸で働いているのだろうか?
「もう、リキったら…」
「なんだよサヨコ、男の子だろ?、コレぐらい食えなくてどうするんだよ」
「夫婦喧嘩もいい加減になさいよ?、この子困ってるじゃない」
 おばさんの台詞に、皆から笑いが漏れた。
「もう、おばさんったら…、どうしたの?」
 シンジの視線に気がついた。
「あ、いや、あの…、お二人って、恋人同士なんですか?」
「あらこの子ったら、サヨコさんに惚れちゃったのかい?」
「ち、違いますよ!」
「冗談だよ、冗談!」
 シンジは笑いものにされて、うつむいてしまった。
「もう、…ごめんなさいね、でも恋人ってわけでも無いのよ?」
「そうそう、俺達は姉弟みたいなもんだからな」
 リキもシンジを見る。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「えっと…、ちょっと、色々とあって…」
「色々じゃわからないだろ?、話してみろよ」
 シンジは口をつぐんでしまった。
「もう一度会うかどうかわかんない奴に恥ずかしがることもないだろう?、話した方がすっきりするかもしれないぜ?」
 リキはそう言って、シンジの背中をバンッと叩いた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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