Episode:12J
「いったい何々だあの男は!」
総支配人は、黒いベンツの中で怒気を吐き散らしていた。
「なぜあの男があれほどの行動権を与えられているんだ」
「いわく、彼の行動を妨げてはならない、彼の行動を理解しようとしてはいけない」
「なんだそれは」
運転手に噛みつく。
「「組織」の中ではそう言われてるんだよ、おじさん」
助手席に隠れていたツバサが顔を出した。
「な、お前…」
「ごめんね、怨みは無いんだけどさ」
力を使う。
「甲斐さんを嫌わないで欲しいんだよね」
「余計なことはいい、早くしろ」
「わかったよぉ、テンマ…」
テンマはつまらなさそうに車の運転を続けた。
「しばらく甲斐さんの味方しててね、あ、それと僕達のことは忘れてね?」
総支配人は、人形のようにかっくんと頷いた。
彼はこのあと、自社ビルの地下駐車場で眠っている所を発見されることになる。
●
「どこから撃ってくるんだ?」
松沢は大きめの樹に身をよせた。
「サンチェッス!」
サンチェスと呼ばれた男の額に、レーザーサイトの赤い光が突き刺さっていた。
無音で繰り出された銃弾が、サンチェスの額を貫いた。
「今の光…、敵じゃないのか」
光の発信源、その方向を探った。
「どうりで今まで敵の姿が見えなかったわけだ…」
松沢は大声をはり上げた。
「Steersman!、貴様裏切ったな!?」
声を囮に、気配をさそう、だがつかめない。
もういないのか、それとも様子をうかがっているのか。
だが舵取りは、松沢を無視して川の中を進んでいた。
彼等が面白半分に殺した女子供の死体が流れていく。
「血が止まらないな…」
肩を押える、ナイフ使いの男に切りつけられたのだ。
「せめて、背中を守ってくれる奴がいてくれたら…」
とある女を思い出して、首を振る。
「だめだな、あいつには辛い戦いだ」
十分に川をさかのぼったところで、彼は岸へ這いあがり、そして力尽きた。
「あっつ!」
意識を取り戻した舵取りは、まず痛みに言葉を失った。
肩を見る、乱雑に巻かれている包帯、その下に木の葉をすり潰したものが擦りこまれていた。
「起きた?」
おおざっぱに作られた小屋、入ってきたのは浅黒い肌をした少年だった。
「助けてくれたのかい?」
「どうかな?、僕も病気持ちだからね、運が悪かったらうつるかも」
そう言って右腕を見せた。
紫色の斑点。
「このとおりさ、だんだん広がってる、病気が進行してるんだよ」
だが加持は慌てなかった、あらかじめ知っていたからだ。
「そうか…、ハン研究室を知ってるね?」
がしゃん!っと何かを落とす音が聞こえた、首をめぐらすと、少年は銃を構えていた。
「良い人だと思ったのに…」
「悪い人ではないさ」
舵取りはおどけて見せた。
少年は深呼吸して、銃を降ろす。
「君を迎えに来た」
「戻りたくない」
首を振る。
「違う、別の街で暮らすんだよ」
「街?」
「そうだ、日本に作られている第三新東京市、きっと安心して暮らせるさ」
舵取りは微笑んだ。
「信じられないな…」
「そうかい?」
「大人は特に信用できない」
「そうか」
舵取りは困ったなと呟いた。
「僕のことは放っておいて、きっとそれが、誰にとっても一番なんだから」
舵取りはどう説得しようかと頭を悩ませた…
●
翌日、朝。
「…というわけで、これが二人のデート現場」
「「ちがいます!、からかわないでよ、もうっ!!」」
シンジとミヤは、見事なハーモニーを奏でて否定した。
「もう!、朝から買い物だなんておかしいと思ったら、そんなもの現像に出してるんだもんなぁ…」
「ごめんなさいね?、夕べのご飯で、冷蔵庫空っぽになっちゃってたから」
コダマの代わりに謝るサヨコ、だがその手にはやはり写真が握られていた。
「あたしがいなくなった隙に、ちゃっかりと二人の世界を作り上げちゃってたの」
ふうっと、吐息をつく。
「若い子っていいわね、若い子って…」
「あら、まだ老けこむような歳でも無いでしょ?」
ふっと力なく笑い、いつも被っている帽子を手に取った。
「さあ、どうかしらね」
謎である。
「もういい!、行こうっ、シンジ君!」
「あ、うん」
ミヤについて出て行くシンジ。
「ミヤ、判ってるな?」
「遅くならなきゃいいんでしょ?、まったく、リキってばすぐ子供扱いするんだから」
どうやらリキも嫌われてしまったようだ。
「あ、やっぱお祭り始まってる」
遠くから花火の音が聞こえてくる。
遠く九州で、弾道鉄道が出発する時刻なのだ。
「テレビ中継見たかったんだけどな」
「駅前のテレビでやってるんじゃないの?」
シンジは青森の駅に着いた時、出口正面のビルに取り付けられていた大型ビジョンを覚えていた。
「そっか、そうだね、じゃあ急ごうよ」
「うん」
元気に駆けだす。
「あっと…」
ついいつもの癖で、ミヤを置き去りにしかけた。
「ごめん、早かった?」
「ちょっとね…、足早いんだ」
「毎朝よく走ってるから」
遅刻しかけて、とは言わない方が格好いいんだろうなと思う。
「ついぼくの友達と一緒のつもりで走っちゃった…」
ずいぶん足が遅いんだなと比較した。
「友達って、女の子?」
「うん、まあ…」
ミヤは、ふ〜んっと考え込んだ。
「ねえ」
「なに?」
「男の子って、胸が大っきいほうがいいのかなぁ?」
ぶっと吹き出すシンジ。
「と、突然なに言い出すんだよ!」
「だってぇ〜、あたし男の子でこんなこと聞ける友達っていないしぃ、なんとなくシンジ君なら笑わないで聞いてくれるかなぁって…」
どう答えたものだか、シンジも困った。
「そりゃ…、えっと、ケンスケって友達が言ってたんだけど、写真に撮る分には、服なんかで皺がはっきりと出るから、撮ってて面白いとか言ってたけど…」
「そっかぁ、そうよねぇ…」
といって自分の胸を見る。
「あたしも、もうちょっと欲しいかなぁ?、ねえ、どう思う?」
シンジは真っ赤になって顔を伏せた。
「そんなの僕にわかるわけないよ!」
「つまんないのー」
言葉とは反対の表情を作っている。
「ねえ、シンジ君の恋人って、どんな人なの?」
びくっと震えるシンジ。
「あ、まだ気にしてるんだ?」
「いいんだ、別に恋人ってわけでも無かったんだし…」
思い返すと辛いらしい。
「でもシンジ君、もてそうなのにね?、他にも言い寄ってきてる子っていないの?」
とっさに答えられない。
「やっぱりもてるんだー!」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「えー?、謙遜はダメだよぉ、そういうのはね、嘘を言ってるかどうかなんて、女の子にはわかるんだから」
えっへんと胸を張る。
「じゃあ、そっちこそどうなのさ?」
「んー、今はいないのよねぇ、素敵な出逢いを求めてるってとこ」
しばし浸る。
「でも現実がね〜」
「ああ、胸?」
「言うかなぁ、それ…」
「だってさっき自分で言ったんじゃないか」
今度は笑い返す。
「サヨコほどとは言わないけど、やっぱりもうちょっとは欲しいかな…」
自分で服の背中側を引っ張る、強調される胸。
「うわぁっ、やめてよ、恥ずかしい…」
「シンジ君が恥ずかしがる事無いのに」
クスっと笑う。
「サヨコは大きくなるって保証してくれてるんだけどなぁ」
「牛乳飲むと大きくなるとかって言うよね?」
「あんまり効果無いみたい」
もう試してるらしい。
「シンジ君に好きだって言ってくる子って、やっぱり胸大きいのかなぁ?」
「た、たぶん…」
語尾が小さくなる。
「照れちゃって、かっわいーんだから」
「うう、どうしてそう、みんなでからかうんだよぉ…」
頭を抱える。
「やっぱり可愛いのがシンジ君だからじゃないの?、かっこいいシンジ君なんて考えられないし」
はっとする、アスカの理想を思い出す。
「でもそれじゃダメなんだ、カッコ良くならないと…」
真剣な声。
「どうして?」
逆にミヤの声は冗談口調だった。
「どうしてって…」
「人に言われたから?」
「う…、うん、まあ…」
ミヤは頭の後ろで手を組んだ、空を見上げる。
「あたし、前に言われたことがあるんだ、作り物よりも、あたしらしいあたしの方が良いって」
シンジを見る。
「シンジ君らしいシンジ君じゃダメなのかなぁ?」
「僕らしい僕?」
シンジは考えこんだ。
「人真似してるよりは、よっぽど良いんじゃないの?、それに…」
「それに?」
「ふっちゃえば?、そんな人」
えっと驚いた、今までシンジの中には無かった考え方だったからだ。
「作り物じゃないシンジ君を見てくれてる人だっているんでしょ?、今のシンジ君を求めてくれてる人だっているんじゃないの?、もてるんだから、誰かの理想に合わせて自分を変えることなんて無いじゃない、逆に探せば?、自分から」
今の自分を好きだっていってくれる人…
「でもいいよねぇ、シンジ君は」
「え?」
「だってぇ、そうやって選べる相手がたっくさんいるんでしょ?」
「そんな…、そっちこそ、自分から告白してみればいいのに」
ミヤは頭を振って否定した。
「あたしはだめぇ、やっぱり可愛くないと損みたい」
「そんな、だってそんなに可愛いのに」
ぼっと赤面するミヤ。
「そ、そんなことないわよ…」
「そっかなぁ?」
しばらくミヤは、シンジを見ることができなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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