Episode:12J





「いったい何々だあの男は!」
 総支配人は、黒いベンツの中で怒気を吐き散らしていた。
「なぜあの男があれほどの行動権を与えられているんだ」
「いわく、彼の行動を妨げてはならない、彼の行動を理解しようとしてはいけない」
「なんだそれは」
 運転手に噛みつく。
「「組織」の中ではそう言われてるんだよ、おじさん」
 助手席に隠れていたツバサが顔を出した。
「な、お前…」
「ごめんね、怨みは無いんだけどさ」
 力を使う。
「甲斐さんを嫌わないで欲しいんだよね」
「余計なことはいい、早くしろ」
「わかったよぉ、テンマ…」
 テンマはつまらなさそうに車の運転を続けた。
「しばらく甲斐さんの味方しててね、あ、それと僕達のことは忘れてね?」
 総支配人は、人形のようにかっくんと頷いた。
 彼はこのあと、自社ビルの地下駐車場で眠っている所を発見されることになる。






「どこから撃ってくるんだ?」
 松沢は大きめの樹に身をよせた。
「サンチェッス!」
 サンチェスと呼ばれた男の額に、レーザーサイトの赤い光が突き刺さっていた。
 無音で繰り出された銃弾が、サンチェスの額を貫いた。
「今の光…、敵じゃないのか」
 光の発信源、その方向を探った。
「どうりで今まで敵の姿が見えなかったわけだ…」
 松沢は大声をはり上げた。
「Steersman!、貴様裏切ったな!?」
 声を囮に、気配をさそう、だがつかめない。
 もういないのか、それとも様子をうかがっているのか。
 だが舵取りは、松沢を無視して川の中を進んでいた。
 彼等が面白半分に殺した女子供の死体が流れていく。
「血が止まらないな…」
 肩を押える、ナイフ使いの男に切りつけられたのだ。
「せめて、背中を守ってくれる奴がいてくれたら…」
 とある女を思い出して、首を振る。
「だめだな、あいつには辛い戦いだ」
 十分に川をさかのぼったところで、彼は岸へ這いあがり、そして力尽きた。


「あっつ!」
 意識を取り戻した舵取りは、まず痛みに言葉を失った。
 肩を見る、乱雑に巻かれている包帯、その下に木の葉をすり潰したものが擦りこまれていた。
「起きた?」
 おおざっぱに作られた小屋、入ってきたのは浅黒い肌をした少年だった。
「助けてくれたのかい?」
「どうかな?、僕も病気持ちだからね、運が悪かったらうつるかも」
 そう言って右腕を見せた。
 紫色の斑点。
「このとおりさ、だんだん広がってる、病気が進行してるんだよ」
 だが加持は慌てなかった、あらかじめ知っていたからだ。
「そうか…、ハン研究室を知ってるね?」
 がしゃん!っと何かを落とす音が聞こえた、首をめぐらすと、少年は銃を構えていた。
「良い人だと思ったのに…」
「悪い人ではないさ」
 舵取りはおどけて見せた。
 少年は深呼吸して、銃を降ろす。
「君を迎えに来た」
「戻りたくない」
 首を振る。
「違う、別の街で暮らすんだよ」
「街?」
「そうだ、日本に作られている第三新東京市、きっと安心して暮らせるさ」
 舵取りは微笑んだ。
「信じられないな…」
「そうかい?」
「大人は特に信用できない」
「そうか」
 舵取りは困ったなと呟いた。
「僕のことは放っておいて、きっとそれが、誰にとっても一番なんだから」
 舵取りはどう説得しようかと頭を悩ませた…






 翌日、朝。
「…というわけで、これが二人のデート現場」
「「ちがいます!、からかわないでよ、もうっ!!」」
 シンジとミヤは、見事なハーモニーを奏でて否定した。
「もう!、朝から買い物だなんておかしいと思ったら、そんなもの現像に出してるんだもんなぁ…」
「ごめんなさいね?、夕べのご飯で、冷蔵庫空っぽになっちゃってたから」
 コダマの代わりに謝るサヨコ、だがその手にはやはり写真が握られていた。
「あたしがいなくなった隙に、ちゃっかりと二人の世界を作り上げちゃってたの」
 ふうっと、吐息をつく。
「若い子っていいわね、若い子って…」
「あら、まだ老けこむような歳でも無いでしょ?」
 ふっと力なく笑い、いつも被っている帽子を手に取った。
「さあ、どうかしらね」
 謎である。
「もういい!、行こうっ、シンジ君!」
「あ、うん」
 ミヤについて出て行くシンジ。
「ミヤ、判ってるな?」
「遅くならなきゃいいんでしょ?、まったく、リキってばすぐ子供扱いするんだから」
 どうやらリキも嫌われてしまったようだ。
「あ、やっぱお祭り始まってる」
 遠くから花火の音が聞こえてくる。
 遠く九州で、弾道鉄道が出発する時刻なのだ。
「テレビ中継見たかったんだけどな」
「駅前のテレビでやってるんじゃないの?」
 シンジは青森の駅に着いた時、出口正面のビルに取り付けられていた大型ビジョンを覚えていた。
「そっか、そうだね、じゃあ急ごうよ」
「うん」
 元気に駆けだす。
「あっと…」
 ついいつもの癖で、ミヤを置き去りにしかけた。
「ごめん、早かった?」
「ちょっとね…、足早いんだ」
「毎朝よく走ってるから」
 遅刻しかけて、とは言わない方が格好いいんだろうなと思う。
「ついぼくの友達と一緒のつもりで走っちゃった…」
 ずいぶん足が遅いんだなと比較した。
「友達って、女の子?」
「うん、まあ…」
 ミヤは、ふ〜んっと考え込んだ。
「ねえ」
「なに?」
「男の子って、胸が大っきいほうがいいのかなぁ?」
 ぶっと吹き出すシンジ。
「と、突然なに言い出すんだよ!」
「だってぇ〜、あたし男の子でこんなこと聞ける友達っていないしぃ、なんとなくシンジ君なら笑わないで聞いてくれるかなぁって…」
 どう答えたものだか、シンジも困った。
「そりゃ…、えっと、ケンスケって友達が言ってたんだけど、写真に撮る分には、服なんかで皺がはっきりと出るから、撮ってて面白いとか言ってたけど…」
「そっかぁ、そうよねぇ…」
 といって自分の胸を見る。
「あたしも、もうちょっと欲しいかなぁ?、ねえ、どう思う?」
 シンジは真っ赤になって顔を伏せた。
「そんなの僕にわかるわけないよ!」
「つまんないのー」
 言葉とは反対の表情を作っている。
「ねえ、シンジ君の恋人って、どんな人なの?」
 びくっと震えるシンジ。
「あ、まだ気にしてるんだ?」
「いいんだ、別に恋人ってわけでも無かったんだし…」
 思い返すと辛いらしい。
「でもシンジ君、もてそうなのにね?、他にも言い寄ってきてる子っていないの?」
 とっさに答えられない。
「やっぱりもてるんだー!」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「えー?、謙遜はダメだよぉ、そういうのはね、嘘を言ってるかどうかなんて、女の子にはわかるんだから」
 えっへんと胸を張る。
「じゃあ、そっちこそどうなのさ?」
「んー、今はいないのよねぇ、素敵な出逢いを求めてるってとこ」
 しばし浸る。
「でも現実がね〜」
「ああ、胸?」
「言うかなぁ、それ…」
「だってさっき自分で言ったんじゃないか」
 今度は笑い返す。
「サヨコほどとは言わないけど、やっぱりもうちょっとは欲しいかな…」
 自分で服の背中側を引っ張る、強調される胸。
「うわぁっ、やめてよ、恥ずかしい…」
「シンジ君が恥ずかしがる事無いのに」
 クスっと笑う。
「サヨコは大きくなるって保証してくれてるんだけどなぁ」
「牛乳飲むと大きくなるとかって言うよね?」
「あんまり効果無いみたい」
 もう試してるらしい。
「シンジ君に好きだって言ってくる子って、やっぱり胸大きいのかなぁ?」
「た、たぶん…」
 語尾が小さくなる。
「照れちゃって、かっわいーんだから」
「うう、どうしてそう、みんなでからかうんだよぉ…」
 頭を抱える。
「やっぱり可愛いのがシンジ君だからじゃないの?、かっこいいシンジ君なんて考えられないし」
 はっとする、アスカの理想を思い出す。
「でもそれじゃダメなんだ、カッコ良くならないと…」
 真剣な声。
「どうして?」
 逆にミヤの声は冗談口調だった。
「どうしてって…」
「人に言われたから?」
「う…、うん、まあ…」
 ミヤは頭の後ろで手を組んだ、空を見上げる。
「あたし、前に言われたことがあるんだ、作り物よりも、あたしらしいあたしの方が良いって」
 シンジを見る。
「シンジ君らしいシンジ君じゃダメなのかなぁ?」
「僕らしい僕?」
 シンジは考えこんだ。
「人真似してるよりは、よっぽど良いんじゃないの?、それに…」
「それに?」
「ふっちゃえば?、そんな人」
 えっと驚いた、今までシンジの中には無かった考え方だったからだ。
「作り物じゃないシンジ君を見てくれてる人だっているんでしょ?、今のシンジ君を求めてくれてる人だっているんじゃないの?、もてるんだから、誰かの理想に合わせて自分を変えることなんて無いじゃない、逆に探せば?、自分から」
 今の自分を好きだっていってくれる人…
「でもいいよねぇ、シンジ君は」
「え?」
「だってぇ、そうやって選べる相手がたっくさんいるんでしょ?」
「そんな…、そっちこそ、自分から告白してみればいいのに」
 ミヤは頭を振って否定した。
「あたしはだめぇ、やっぱり可愛くないと損みたい」
「そんな、だってそんなに可愛いのに」
 ぼっと赤面するミヤ。
「そ、そんなことないわよ…」
「そっかなぁ?」
 しばらくミヤは、シンジを見ることができなかった。







[BACK][TOP][NEXT]



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。



本元Genesis Qへ>Genesis Q