Episode:12L
「一体どういうつもりなの!?」
カスミは怒っていた、サヨコはお茶を出してから、カスミの質問に答えた。
「放っておけなかったの、いけない?」
「いけないわよ!、このことは甲斐さんに報告しますからね!」
サヨコは両肘をテーブルにのせて、顎を支えた。
「いいけど、甲斐さんなら知ってるわよ?」
ぐらっとくるカスミ。
「うそ?」
「嘘じゃないわ、でも甲斐さんにとってもイレギュラーだったってこと、いまアダムの相手をするのは得策じゃないって、そう言っていたわね」
半分も聞いてない、カスミは甲斐に隠し事をされたことが、かなりショックだったようだ。
「それにね、今度だけは怒っているのよ、甲斐さん」
「怒ってる?」
「そう、この間のコンピューターの件も、なにもかもね、あたし達に関係しているものを勝手に利用している事…」
「甲斐さんが…、あたし達のために?」
「そう、だから今はほかのことにかまっている余裕は無いはずよ?、そうでしょう」
「甲斐さんが…」
両頬を手でおさえる、火照ってくるのがわかった。
隠れて聞いていたリキは呟いた。
「甲斐さんがそんなこと考えるかぁ?」
もちろん、サヨコの創作だった。
●
「じゃ、お母さま、行って来ます」
ぷしゅーっと妖しげに蒸気を出す。
もちろん気分だけのものだ、列車自体は普通のリニアトレインと構造に違いは無い、それらしくはされていたが。
先頭車両にかかげられた、「999」のプレート。
「うう、何だかしんみりとしますねぇ」
カバンを担ぎ上げる。
「なに馬鹿なこと言ってんのよ」
アスカは先に車内の個室に入っていた、ミズホから荷物を受け取り、引きずり上げる。
「窓が開く電車なんてはじめてだわ」
「走っている間も開けてられるみたい」
荷物は全部上げたので、アスカは挨拶のために一度降りた。
「じゃあおばさま、迎えに行って来ます」
「はい、頼むわね?」
「ちゃーんと連れて帰りますから」
ドンっと胸を叩く。
「でもシンちゃんに会ったら、なんて話せばいいのかなぁ?」
うっとつまるアスカ。
「そ、そんなことわかるわけないじゃない…」
「大丈夫ですよぉ」
のほほんとミズホ。
「電話、別に怒っていらっしゃらなかったんでしょ?」
「ま、まあ、そうだけど…」
「それよりもっと心配になる種があったみたい…」
「シンジったら、お父さんに似てもてるから…」
さり気なくゲンドウを誉めるユイ。
「いい?、何があっても、引っぱたいてでもシンジを連れて帰ってきてね?」
ユイは三人をまとめて抱きしめた。
「それができるのは、あなたたちだけなんだから」
「でも、シンジが嫌がったら…」
アスカはレイとミズホをそれぞれに見た。
「頼める…かなぁ?」
「言われなくても、シンちゃんは誰にも渡さないんだから!」
「そうですぅ、例えレイさんやアスカさんでも、負けませぇん!」
「もう!、あたしだって、譲るつもりなんて無いわよ…、無いけど…」
言いよどむ、ユイはそんなアスカを見つめた。
「だめよ、そんなことじゃ、チャンスがあったら襲っちゃうぐらいのつもりで行かないと」
「おおおおお、おばさま!?」
「お母さま!」
「何をおっしゃるんですかぁ!?」
「あら、あたしはあなたたちにも言ってるつもりよ?」
余計に焦る三人。
「奥手奥手とは思ってたけど、もうすぐ高校生だって言うのに片手で足りるぐらいの回数しかキスした事無いなんて…、こんなに可愛い子がいつも側にいるのにね?」
ウィンク。
「このままじゃ高校、大学、ずっと何もしてくれないわよ?、だから、ね?、頑張ってきなさい?」
三人を解放する。
「どうか、シンジをお願いね?」
「「「はいっ!」」」
元気に駆けこんでいく、汽笛が鳴った、蒸気がより一層吹き出される。
列車がゆっくりと動き出した。
「おばさま!」
アスカが窓から顔を出した、レイとミズホも続く、ユイは同じ場所で頭を下げていた。
「今度帰ってくる時は、シンジも一緒ですから!」
「ちゃんとシンちゃんの唇は奪ってきますから!」
貞操もーっとミズホが言いかけたので、二人は慌てて口を塞いだ。
「もがもがもが、ぷはぁ!、酷いですぅ!」
「あんたが恥ずかしいこと言おうとしたからでしょ!?」
「だっておば様公認ですしぃ」
「バカなこと言ってないの!」
「ねえ、それよりさぁ…」
「なによ?」
「どうしてお母さま、シンちゃんのキスの回数知ってるのかなぁ?」
それは碇ユイの七つの秘密のうちの一つであった。
●
「Steersman!、出てこい!」
様子をうかがうように覗き見た、ぼろい小屋だ、すき間はいくらでもある。
「ちっ!」
少年が松沢に捕まっていた、心臓に杭を打ちこまれている。
「安心しろ、このとおり生きてやがる、決闘だ、出てきやがれ!」
舵取りは素手で小屋を出た。
「よく一人で捕まえたもんだな…」
「お前を信じるな、お前はこのガキを恐れて、嘘を言っている、結構簡単に信じてくれたよ」
歯噛みする。
「やっぱり、お前を最初に倒しておくべきだったかな?」
「答えろ!、なぜ裏切った」
銃を向ける。
「裏切ったんじゃない…」
不敵に笑う。
「もともと、そういう仕事をうけていたのさ」
この!っと撃った、だが舵取りは身を投げ出すようにして転がり、避ける。
「避けるな!、このガキがどうなってもいいのか」
少年の両太股に撃ちこむ。
「うわぁ!」
「くっ!」
「コレぐらいで死なねえ事はわかってる!、だが頭を撃ち抜かれたらどうかな?」
舵取りは両手を上げて立ちあがった。
「おじさん、逃げて!」
「おいおい、おじさんはないだろう?、俺はこう見えてもまだ…」
パン!
右肩を撃たれ、膝をつく。
「うわあああああ!」
少年の右腕の斑点が蠢いた。
「なんだ!?」
生き物のように蠢くと、松沢の顔に食らいついた。
そしてゴムのようにのび、松沢を突き飛ばす。
「き、貴様、ガキがぁ!」
何かのスイッチを押した。
駆け寄ろうとする少年、彼の下半身が舵取りの目の前で爆発した。
「大人しく売られてりゃ良かったんだ、そうすればせいぜい長生きできたろうに!」
「松沢ーーー!」
飛びかかろうとする舵取り、だがその足を少年がつかんでいた。
「くっ!」
松沢はもういなかった、樹海の中へと姿を消している。
「君!、大丈夫か?」
腰から下が無くなっている。
「これで…、良かったんだ」
「何が良いもんか!、君はこれから幸せになるんだ、夢を探して、それを実現させるために生きるんだよ」
少年は首を縦に振った。
「夢か…、いいね、でももう疲れたんだ、夢なんていらない、空想や妄想は空しさを増すだけだから…」
「違う!、俺には…、俺には君が何を言ってるのかわからない…」
「ちがうよ、おじさんはわかりたくないから、わかろうとしていないんだ」
「どちらでも良い!、死ぬな!、死んじゃいけない」
「どうして?、生きていても辛いなら、死ぬことなんてどうってことないさ」
少年の目に幻が映った。
実験…失敗しちゃったの…、実験…
そう言って近づいてくる女の子は、両腕をゴムのようにプラプラと揺らしていた。
眼球は黒く変色し、落ち窪み、血の涙を流している。
女の子は少年の側で膝をついた、少年の手を取る。
あげる、この手…
実験?、いつの実験だったろう?
舵取りと少女の向こうを見る。
少女の腕が白骨化していた。
女の子を見る、骸骨。
それは天使を作るために犠牲になったものの怨霊だったのだろうか?
「僕もそっちに行くからね?」
少年は舵取りに向かって微笑んだ。
「あの人を…、許してあげて」
舵取りはぎゅっと唇を噛んだ。
「僕がいなければ、あなたたちが殺しあう事は無かった、これで良いんだ、これで…」
「何が良いものか!」
少年は最後の力を振り絞って、言葉をつむいだ。
「殺してくれて、嬉しかった…、ありがとう…」
それが少年の遺言になった。
それは夢、遠き日の夢…
●
「気がついた?」
ここは?っと、寝ぼけた頭をはっきりさせる。
「ごめんねぇ、でも起きてると何するかわかんないからさ」
そう言ってツバサは笑って見せた。
ガコンガコンガコン…、電車が通っていく音。
「ここは青森駅の地下にある配電施設だよ」
薄暗い明り、大きな換気扇が回っている、漏れ入ってくる光。
「いつから…、眠らされてたんだい?」
尋ねる加持。
「正確にはほとんど起きてたよ、ぼくの命令通りに動いてたから、記憶には無いとおもうんだけどね」
一番新しい記憶を思い起こす。
「確か…、手榴弾を投げつけられて」
「ああ、感謝してよ?、テンマが助けてあげたんだから」
「テンマ?」
「そう、17thAngelのうちの一人だよ」
自然と緊張感が駆け抜けた。
「プロなんだろう?、殺気が無いことぐらい判って欲しいな」
甲斐が暗がりから出てくる。
「人が悪いですね、いるならいると言っておいて欲しいもんだ…」
「そりゃわるかったね、なにしろ人を脅かすのが趣味なもんで」
加持は緊張を解くと、たばこを要求した。
「子供がいるんだ、我慢してくれないかな?」
「構いませんがね…、これまた直接、どういう御用件で?」
「用事は無い…、と言ったら怒るかな?」
「嘘吐きは子供に嫌われますよ?」
甲斐は腹を抱えて笑い出した。
「くっふふふ…くっ、なるほど子供達には嫌われたくないもんだ」
ツバサの頭をくしゃっと撫でる。
「すまなかった…」
「どのことを言ってるんですか?」
「手荒な真似をしたことをだよ」
「謝るには、まだ早いんじゃないですかね?」
銃を抜く甲斐。
「大丈夫、こういうものは趣味じゃないんでね、君のだろう?、返すよ」
それは確かに加持の銃だった。
「君には、仕事を依頼したい」
「本気…、ですか?」
意外な顔つきで見る。
「ああ、知っている中では、君が一番有能だった」
「敵だとは思わないんですか?」
「違うな、君はあの子たちの味方だ、そうだろう?」
加持が過去何をしてきたか、知っているのだろう。
「だからこそ、君は断れない、絶対にね」
加持にはその義眼の赤みが増したように思えた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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