Episode:12M





「鉄道の方はどうかね?」
「旅客車でトイレがつまったそうです」
「第三車両でしょ?、あの車両だけ別会社なんですよね、ずさんなんですよ、チェックが」
「しょうがありませんよ、スケジュールを合わせるために急ピッチで進めましたからねぇ…、どうしますか?」
「次の駅で業者を乗せろ、早く直せ、碇がうるさいからな」
 各車両の整備はゼーレが下請けという形で受けていた。
 冬月は次々と送られてくる情報を眺めていた。






「じゃあ、はじめるよ、兄さん」
「ああ…」
 兄は二十歳代、弟は十代後半ぐらいだった、二人ともオールバックに決めている。
 歩きつつ銃を抜き、先頭車両へ乗りこんだ。
 昔のような釜はなく、ただコンピューターが並んでいるだけだ。
「なんだ君達は!?」
 バンバンバン!
 問答無用で撃った。
「ハッカー、出番だよ」
「へいへいへい…」
 ゼーレビル襲撃事件で、セキュリティーコントロールルームを落とした、盲目のコンピューター使いだ。
「さてとっ、じゃあ悪いんですけど、こいつを繋いでもらえますかね?」
 白いボックスをバッグの中から取り出す。
 長さは1メートルぐらい、高さは三十センチ程度だろうか?
 それをコンピューターに繋いでいる弟に、声をかけた。
「オルバよ、我々の目的は判っているな?」
「もちろんだよ、兄さん」
「ならば事はクールに運べ、いいな」
 車掌の死体を見る。
「わかったよ、兄さん」
 箱が低く唸り出す。
 白いボディーの横には「キヨミちゃん」と墨と筆を持って描かれていた。
 その下にある「AngelPack」の文字。
「それじゃはじめようか、仔猫ちゃん?」
 オプションパーツの液晶ディスプレイに表示される赤い文字。
 Are you ready? This second stage, Let’s dancing, do it!
 その文字は全ての回線を通じて送り出された。


 新東日本旅客鉄道株式会社 、鉄道管制局、そのプログラムは弾丸鉄道のスケジュールに合わせて変更済みだった。
「あれ?、変だな、変ですこれ!」
「どうした!?」
 局長が乗り出す。
「999なんですが、こちらからのアクセスを全く受け付けません!」
「なんだと!?、そんなばかな」
「事実です!」
「車掌への連絡は?」
「取れません!」
「わかったエマージェンシーだ」
「え!?」
「旋風寺総裁に連絡、いそげよ」
「はい!」
 彼の選択は、極めて懸命なものだった。






「あーした、ゆーきーの列車ーに♪」
「またなっつかしー歌、歌ってるわねぇ…」
 ミズホはかなりご機嫌だった。
「う〜、やっぱり買い過ぎたかなぁ?」
 胃の辺りを押えているレイ。
「あったりまえでしょう?」
 アスカはサイフを逆さにしてふった。
「冷凍ミカンばっかり、そんなに買ってどうすんのよ?」
 とほほーっと散財を気にする。
「ぷはぁ、もうお腹一杯、しゃーわせぇ〜☆」
 VIP用の個室だった、やけに広い。
「レイさん、そのまま横になられては、お腹に悪いですよぉ?」
「えー、いいじゃなぁい」
「しょうがありませんねぇ、ではせめて…」
 ポットを取り出す。
「お久しぶり、ミズホ特製ハーブティでえっす!」
 うげぇっと二人。
「ほうらこのまったりとして、どろっとした緑色がなんとも…」
「わかってるなら作るなー!」
「そのガスはなによ、ガスはー!」
 コポ…、コポっと、泡を作っては弾けている。
「気のせいですよ、気のせい、さ、どうぞ?」
「うう、シンちゃんよくこんなの飲んでるなぁ…」
 頭が痛くなってくる。
 コンコンコン…、ドアノック。
「誰だろ?、はーい!」
「やっほー、いたいたぁ」
 ミサトが遠慮なくドアを開けてきた。
「ミサト先生!」
「どうしたんですかぁ?」
「あ、日向先生も一緒ですぅ!」
 ははははは、どうもっと入ってくる。
「列車が出る時に、聞き覚えのある声で恥ずかしー事叫んでる女の子たちが居たからさぁ、もしかしたらーって、探してたのよ」
「そっちは日向先生と二人っきりなんですかぁ?」
「あ、もしかしてそれって…」
「ひっどーい!、加持さんはどうするの加持さんは!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、そんなんじゃないんだってば…」
 苦笑してごまかす。
「それにしても広いわねぇ、ここ…」
「僕達は一般寝台車ですからね」
「なんだ個室じゃないんだ…」
 ごんっとレイの頭を殴る。
「なに不健全な発言をしてるの」
「冗談なのにぃ…」
「あれ?、そう言えばシンジ君はいないの?」
 えっと…っと、どう言ったものか困る。
「入試の後に来たんでしょ?、女の子だけで旅行なの?」
 だから自分を護衛に付けようとしたのかとかんぐる。
「実はシンちゃん、青森にいるんです…」
「青森ぃ!?、入試はどうしたの、入試は?」
「それが…」
 アスカを見る。
「いつものことよ」
 アスカはぶっきらぼうに答えた。
「それで、今から迎えに行くところなんですぅ」
 ふ〜んっとミサト。
「でもそれなら新幹線使った方が良かったんじゃない?」
 最新式のリニアトレイン「クルミ」は、時速400キロで運行されている地上最速の交通機関だった。
「だって券高いんだもん」
「お小遣い飛んじゃうし…」
「シンジ様のお父さまに貰ったんですぅ、チケット」
 うーんっと、ミサトは何やら考え込んだ、急に日向へ振り返る。
「悪いわね日向君、あたしこの子たちについていくわ」
「ええー!?」
 驚いたのはアスカたちだった。
「いいわよそんなのぉ」
「そうそう、先生が可哀想じゃないですかぁ」
「そうですぅ、邪魔者がいてはシンジ様の貞…」
 もがもがもがっと、口を塞がれる。
「今何か言わなかった?」
「いいええ、なんにもぉ?」
「そうそう、アスカの言う通り」
「ふ〜ん」
「まあ、仕方ないですね」
 日向。
「ダメよ先生!、もっと押さないと!」
「そうですぅ、それじゃシンジ様と一緒ですぅ」
 日向は笑って三人を見た。
「しょうがないよ、どうも君達のことが片付かないと、落ち着かないみたいだからね」
 といって微笑む。
「そのかわり、僕も付き合いますからね」
「ごめんねぇ?、今度埋め合わせするから…」
「それって、あたし達にもしてくれるのかなぁ?」
「給料日あとだったらね」
 ラッキーと喜ぶ三人。
「あ、ほら何か放送が始まりましたよ?」
 スピーカーから、アナウンスが流れてきていた。
「これって…」
 青ざめるレイ。
「この歌、知ってますぅ」
「月の歌ってやつじゃないの!?」
 アスカの声と同時に、強制的に窓の防音シャッターが降ろされた。






「シャッターの閉鎖完了、同時に部屋のロックもできましたっと」
 リターンキーを押すハッカー。
「あんなシャッターで大丈夫なのかな、兄さん?」
「ああ、青函トンネルをくぐる間、気圧差に負けないよう降ろすためのものだからな、へたな防弾壁よりも硬い」
「お、なんだゼーレのVIPが乗ってるぞ?」
 ハッカーが乗客リストを漁っていた。
 ヘッドセットを付けている、情報が直接脳へ投影されているのだ。
「ほう?」
 十数人いた、その中でも綾波レイという名前に注目する。
「後で挨拶に行かなければならないな」
 車内アナウンス用のレコーダーには、DATプレイヤーが繋がれていた。
「変調は「封印呪縛」だ」
 へいっとエフェクターをハッカーがいじった。
「エンジェルスヴォイス、全てが済むまで眠ってておくれ」
 それはマイとメイの歌声だった。






「ね、眠い…」
 がくっと肩膝をつくミサト。
「しっかりして!」
 レイがアスカとミズホを揺さぶっていた、だが効果は無い。
「もうちょっとで…」
 マコトがスピーカーに取り付いていた、いつも肌身離さず持っているドライバーセットでスピーカーの蓋を外す。
「これだ!」
 スピーカー本体を引きずり出して、ラインを切断した。
「葛城さん!」
「ちょ、ちょっと待って…」
 深呼吸して、自分の頬を叩く。
「何とか眠らずにすんだけど…」
「こっちはダメです…」
 アスカもミズホも、完全に寝入っていた。
 マイ、メイ、何をしようというの?
 レイは歯噛みした。
「とにかく、外と連絡を取らないとね」
 携帯を取り出す。
「やっぱりジャミングされてるか…」
 ミサトは緊急回線用のコードを入力した。
「気に入らないわね、まったく」
 ミサトは、短い休暇の終わりを感じていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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