Episode:12N





「ただーい…ま」
 明りが灯っていない。
 シンジは一人で帰ってきた。
 ピーピーピー。
「なに?」
「あ、ポケベル…、ごめんシンジ君、先帰ってて」
「え?、あ、ちょっと」
「ごめんね!」
 そんな感じで、おいてけぼりにされたのだ。
「なんだ、誰もいないの?、でも鍵もかけてないなんて…」
 居間に入る、テレビだけがつけっぱなしになっていた。
「え?」
 弾道鉄道999は、今夕第三新東京市を出発後、仙台手前にて連絡を絶ち、後は停車予定駅にも停まることなく、延々と走り続けております。
「ふーん…、なにかの事故かなぁ?」
 続いて流れる乗客リスト、その中に知っている名前を見つけて、シンジは固まった。
「アスカ…、レイ、ミズホも…」
 暗い部屋、テレビの明りがちかちかと目に痛い。
「い、行かなきゃ!」
 シンジは慌てて玄関へ向かった。
「あ、でも、どこに行けばいいんだろう?」
 途方にくれる。
「えっと…、そうだ、駅、駅だ!」
 靴を履いて飛び出す。
「うわっ!、ごめんなさいっ」
 誰かにぶつかりかけた。
「暗闇は孤独さ、でもただ一つの光がぼくの心を潤してくれる、それはとてもとても幸せなことだとは想わないかい?、シンジ君」
「か、カヲル君!」
 家の前に立っていたのはカヲルだった、いつもの学生服に運動靴、そしてスノーホワイトのロングコートを羽織っていた。
「どう、どうしてカヲル君が?」
「迎えに来たんだよ、シンジ君を」
 手を伸ばす。
「さあ、行こうか、シンジ君」
「行くって、どこへ?」
 カヲルは微笑んだ。
「悲しみの時を免れ、未来を分かち合える人は一人しか選べないんだよ、シンジ君」
「カヲル君?」
「でも今はまだその時じゃない、そして君には選ばれることを望まれている人たちがいる」
「みんなのこと?」
「そしてもちろん、僕もだよ」
 妖しげなウィンク。
「カヲル君…、あんまりわかりたくないよ、カヲル君…」
 脂汗が流れる。
「つまらないよ、シンジ君…」
 カヲルちょっとすねて見せた。






「大変なことになったな、碇」
 冬月はNERV作戦司令室に移っていた。
「報道規制の方は?」
「問題ないが…」
「999にアクセスできたのか?」
「だめだな」
「どうする、赤木博士に協力を…」
「あら?」
 何故かナオコがいた。
「ここにも有能な科学者がいるんですのよ?」
「碇!、ここは関係者以外立ち入り禁止…」
「いいじゃないですか、こんなことも有ろうかと、V.MAGIをバージョンアップしておきましたわ」
「勝手にいじくったのか!?」
「もちろん、リツコの許可は取ってありますわよ」
「そういう問題では…」
「かまわん、V.MAGIを発動したまえ」
「碇!」
「承認する」
 オペレーターの女の子に向かって命じた。
「はいっ、バーチャルMAGIシステム、プログラム、ドライーブ!」
 こくっと頷いて一気にプロテクトを解除する。
 画面にピラミッド型のワイヤーフレームが表示された、その各頂点にそれぞれ空白のウィンドウが開かれる。
「V.MAGIシステム、セーフティディバイス、リリース!」
 カードをスリットに通す、直後ウィンドウにAssembler、Compiler、Interpreterの文字がそれぞれ表記された。
 中央に「Virtual MAGI・SYSTEM ver,2.00」とグリーンの文字が映し出される。
「擬似人格プログラム、エントリーしました」
「プロセッサー使用率を70%に設定」
「攻勢プログラム、起動!」
「やれやれ、これで片がつくな」
 だが冬月が安堵の息を吐く前に、レッドアラームが鳴り響いた。
「どうした!?」
「逆クラッキングです!、逆探を開始」
「防壁を展開…、突破されました!」
「逆探に成功…、これは…、移動体です、旋風寺鉄道経由、999です!」
「なあんてこったぁ!」
 冬月は思わず叫んでしまった。
「クラッキングパターンを解析、先の襲撃事件に使用されたプログラムとの類似性が80%を超えました」
「いかん、回線を切れ、V.MAGIが乗っ取られるぞ!」
 焦る冬月、後ろでクスっとナオコが笑った。
「大丈夫ですわ、こんなこともあろうかと、新都庁、新警察庁のコンピューターとリンクしておきましたから」
「なんだと!?」
「表向きはグループSNE、ゼーレネットワークエンジニアのサーバー管理のためのアクセスと言うことになっています、問題有りませんわ」
「大ありだ!、それは違法アクセスではないのか!?」
「ちょっとCPUをお借りするだけですわ、さ、これを」
 赤いカードをオペレーターの女の子に渡す。
「スリットに通して」
「え…、あの…」
 ゲンドウを見る、ゲンドウは小さく頷いた。
「はい!」
 向き直って、勢いよく読み込ませる。
「あ!」
 画面にレベルメーターが現れた。
「オールナーブ・リンクスタート」
「ま、マヤ!?」
 マヤからサンプリングしたメッセージだった、焦る冬月。
「君達親娘は、人の娘を何だと思っているんだね!?」
 無視する。
「え、えっと、並列処理、スタートしました」
 ゲージが命一杯まであがる。
「すごい…、V.MAGIの処理能力が、設定値の400%を示しています!」
「思ったより効果があったようね、碇司令?」
「ああ、999のシステムを取り戻せ」
「了解!」
 元気な返事。
「同じコンピューターか…、碇、ダミーだと思うか?」
「ああ、だが以前のようにE反応が出ていない…」
「システムが古いのではないのか?、いや、以前のシステムこそ異常だったのでは…、力の移植はできても、機械がE反応を出せるなどということは本来ありえんはずなのだからな」
「ああ、あるいはあの時、戦闘のあった場所には…」
「いたのか!?」
「かもしれん」
「では彼を連れ去ったのは!?」
 ゲンドウは答えなかった。






「様子はどう?」
「だめね、向こうもてんてこ舞いらしいわ」
 携帯からはリツコの声と、キーを叩く音が聞こえていた。
「それにしても…、恐ろしい相手ね、V.MAGIとMAGI、両方の攻撃に耐えているわ、その上他へもちょっかいをかけているみたい」
「なに?、そのV.MAGIって」
「なんでも?、気にする事無いわ」
 どうせ妖しいものだろうと踏む。
「せめてこちらの身動きが取れるようにできない?」
「無理ね、せめてそちらからの回線を開けてくれれば…」
 日向がミサトから携帯を奪った。
「僕がやります!」
「日向君!?」
「だめよ、日向君、こんな危険なことやらせるわけにはいかないわ」
 マコトは一瞬だけ悔しそうにうつむいた、だがすぐに明るい笑顔でミサトを見る。
「水臭いですよ、葛城さん」
「日向君?」
「僕だってこの子たちの先生なんだ、僕にも守るべき理由は在りますよ」
 どんっと胸を叩いて見せる。
「男日向、やるときゃやります!」
 ミサトはマコトの手から携帯を取った。
「そういう事になったわ」
「彼、やれるの?」
「たぶん、あたしよりはマシでしょう?」
「そうね、わかったわ」
「まずどこから手をつければいいの?」
「そうね、後部車両…、見た目は客車になっているけど、れっきとしたサブコントロールルームになっているの」
「そこを押さえればいいのね?」
「多分、先頭車両よりは楽でしょうから…」
 ミサトはレイを見た、レイは眠ってしまっているアスカとミズホを抱き、頭を抱えてやっている。
「いいわね、安心してここで待っていて」
「だめね…」
 その口調は、いつものレイのものでは無かった。
「だめって…」
「あたしも行くわ」
「ダメだ!、危険過ぎるよ、何があるかわからないんだよ?」
「それにその子たちはどうするのよ?」
 壁の取っ手を引く、壁の一部が倒れ、ベッドになった。
「ここにいても、同じことだわ」
 そこへ寝かせる。
「それに外に出て、あの歌をどうするの?」
「どうって…」
 耳栓ぐらいじゃ、無理よね。
 いきなり困る。
「だからって、君が来てなんになるんだよ?」
 綾波はまるっきり日向を無視している。
「いいわ」
「ミサトさん!?」
「いきましょう」
 ミサトも日向を無視して、扉を開いた。
 防音のためにわからなかったが、まるで子守り歌のような音調で月の歌が流されていた。
「おかしいな、今度はなんとも無い…」
 もちろん綾波が防壁を張っているのだが、それはあまりにも薄くて視認できない。
「やっぱりね、こっちはノーマークみたい」
 後ろの車両を覗く。
「人の動く気配が無いから、相手は小人数か前方の車両にいるんだと思ってたけど…」
 ふとレイを見る。
「あの二人も、歌から守ってあげる事はできなかったの?」
 ぼそっと呟く。
「力を張るのが遅かったから…」
 表情を変えずに答える。
「まあいいわ、全てが片付けば、それでオッケーだもんね」
 ミサトはレイに合わせて駆け出した。
「あ、まってくださいよぉ!」
 追う日向。
「ネズミが動き出したようだぞ?」
 ハッカーが報告した、車内に設置されている監視カメラからの映像だ。
「兄さん…」
「焦る事はない、大したことはできないさ…、だがあの子には挨拶をしておいたほうがいいな」
 モニターに映っているのはレイだ。
「オルバよ、対E装備を持っていけ」
「いいんだね?」
「ああ、だが事はクールに運べ?、ブラザー」
「もちろんだよ、兄さん」
 オルバはパラボラアンテナのようなものが取り付けられた、銃型の機械を腰だめに持った。
 ベルトを肩にかけてホールドする。
「効くかな?」
「効くさ、なにしろ、実証済みだからな…、だが用心しろよ?」
「どうして?」
「俺達の相手は甲斐のAngelsだ、あの子ではない」
「そうだね、練習のつもりで行ってくるよ」
 そう言って、オルバは機関車両から出ていった。
「悪い人だな」
 ハッカーが下卑た笑いを漏らした。
 彼は怒ることもなく、逆に笑みを浮かべて、弟の映るモニターを眺めた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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