Episode:12O
「カヲル君、カヲル君ってば!」
カヲルは廃沿線の上を延々と歩いていた、もう街の灯が遠くなり、ぎゃくに鬱蒼と繁る茂みと、その上につもった雪が、シンジの足元を不確かにしていた。
「いったいどこまで行くのさ?」
「あそこだよ」
指をさす、トンネルがあった、もう長い間使われていないのだろう、レールも錆びている。
「ジャイアントシェイクで使われなくなった路線だよ、ここはね」
「ここが?」
「そう、このトンネルでも、多くの人が生き埋めになったらしい」
シンジはぞっとして身震いした。
「恐いのかい?」
「う、うん…」
「大丈夫だよ」
手をとって、微笑む、もちろん顔を近づけて。
「僕がついているからね」
「いちゃいちゃするのも、そこまでにしてくれないかな?」
トンネルの中から現れる少年、シンジよりは年上、高校生ぐらいだろう。
「誰?」
「僕の名はマイト、旋風寺マイト、人呼んで嵐を呼ぶ風雲児さ!」
ニカっと笑う、明りも無いのに光る白い歯。
「あの人が僕達をレイたちの所まで連れていってくれる」
「え!?」
「そう、早くしよう、もう一刻の猶予も無い、チャンスは一度きりしかないんだからね」
そう言って、やたらとバカでかい腕時計に向かって叫んだ。
「ロコモライザー!」
バシュっとライトが点く、シンジは目が眩んで手で光を遮ろうとした。
「新幹線?」
廃線のはずのトンネル、そこから出てきたのは、間違いなく大昔の新幹線そのものだった。
●
「目標は何だと思う?、やはり子供達か?」
「違うな」
ゲンドウは否定した。
「あの子たちを乗せると決めたのは今朝だ、よほど周到に計画していなければ、事前に防げたはずだ」
「どうも目的がはっきりせんな…」
「終点まで…」
「なに?」
「終点まで行けばそこで終わりだ、折り返す事もできん、逃げるつもりはあるのか?」
あの子たちになら可能ではないのか?
「そうだな、子供達ならば、このように手の込んだことをする必要もないか」
冬月は自らのロジックにはまっていた。
●
「こちらミサト」
「どう、なんとかなりそう?」
そろそろ、携帯の電池が気になってくる。
「ああ、ダメだ向こうからロックされてる…」
いろいろとキーを叩いてみた後、マコトは回線の直結に挑んでいた。
そこら中のパネルを開け、配線を引っ掻きまわしている。
「そこからコントロールできるようにする必要は無いわ、ただ外部との回線を使えるようにしてもらいたいの」
「ちょっと待ってください?、…そうか!」
マコトは前の車両との連結部にある、床下のパネルを開けた。
「これと…、これとこれだ!」
乱雑にぶった切る。
「ちょ、ちょっと危ないわねぇ、そんな事して本当に大丈夫なの?」
「通常回線のようにデータを双方向送受信するシステムなんて使ってないんですよ、高速化のためにね、だから向こうからの配線だけ潰してやれば…」
「向こうからのロックを解除できるってわけね?」
「そういうことです!」
リツコにせまる勢いでキーを叩く、画面に表示されるシステムのチェック表示。
「よくやったわ!、後はこちらでやるから」
グリーンランプの中、幾つかの項目がレッドカラーになっていた。
それを隠すかのように「Link to MAGI」のウィンドウが表示される。
「MAGI…ってなんですか?」
「知らないほうがいいわ」
ミサトはレイを見た。
「歌がやんだみたい」
いつものレイだった。
「この車両だけよ、リツコ、なんとかならないの?」
「そうね…、あなた、携帯用のイヤフォン、持ってたでしょ?」
これ?っと、ポケットから取り出す。
「それを耳にはめて、こちらから歌の効力を消す波長を流すわ」
「そんなことできるの!?」
「ええ、連絡はコンピューター経由で行うわ」
MAGIと表示されているウィンドウの隣に、またウィンドウが開かれた、リツコが映っている。
ミサトは車両地図を確認した。
「昔の作りで助かるわ、道は一直線、先頭に向かっていけば良いだけだものね」
それは敵も同じことだろうが、ミサトはまだ敵の姿を見ていない。
「さ、戻ってて、後で行くから」
レイの背を押す。
レイは頷くと、急ぎアスカたちの眠る個室へ駆けだした。
●
パァーン!
けたたましい音を鳴らして、新幹線が駆けていく。
「ロコモライザーは対テロ用に開発された特殊車両なんだ」
マイトが後ろの座席に座っているシンジに説明した。
「テロって…、事故じゃなかったんですか!?」
「999は、何者かの手に落ちたんだよ」
カヲルが答える。
「そんな…、た、たいへんだぁ…」
「だからこいつの出番ってわけさ」
デジタルメーターは時速400キロを告げていた。
「私鉄沿線はもちろん、旧鉄道線路、レールウェイ、リニアライン、すべての線路と言う線路を走れるように出来ているんだ」
自慢気に続ける。
「でも、追いついてからどうするんですか?」
「これを見てくれ」
上部モニターに、線路図が表示された。
「ここの部分」
青森からさきの海、そこに線路が走っている。
「これって…、青函トンネルですか?」
「ああ、正確には第二青函トンネル、昔のトンネルはあの地震で海中に没してしまったからね」
シンジはその隣にある線路を指差した。
「これは?」
ニヤっと笑むマイト。
「良い所に気がついたね、第三青函トンネル、まだ工事中だけど、もう通じてはいるんだよ、それで…」
拡大する。
「ここだ、ここで一度だけ二つのラインが重なる」
まさか…、とシンジは青くなった。
「ここで乗り移ってもらう」
「そんな無茶苦茶なぁ!」
「無茶でもやるしかない、それがあの人からの依頼だからね」
あの人って誰だろう?
カヲルを見る。
「カヲル君…」
「行くんだろ?」
そう言われては、シンジは頷くしかない。
マイトは満足げに微笑んだ。
「999はその形状から気圧の変化に弱い、トンネル内では気圧差に耐えるよう、全ての窓を防護シャッターで塞ぎ、監視カメラも収容する、そこが狙い目なんだ」
やるしか無いのか?
シンジは恐ろしさに身震いした。
●
「アスカ!、ミズ…ホ…」
「やあ」
アスカのベッドの脇に腰掛けていた。
「加持さん!?、どうして」
加持はこの歌の中でも平然としている、レイは警戒心を強めた。
「甲斐に頼まれてね」
レイの顔が青ざめる。
「そんな…、じゃあこれは加持さん達が…」
レイの瞳に危険な色が灯る。
「それは誤解だな…」
「アスカから離れて!」
瞳の赤みが増した。
加持は妹を慈しむように、アスカの頭を撫でている。
「嫌われたもんだな」
「車両を見てきなさい、誰も彼も死んだように眠っているわ、今日のことを楽しみにしていた子供達だって、力尽きたようにぐったりとしてね」
ざわっと、綾波の髪が波打った。
「マイとメイにこんなことをさせて、裏切ったのね、甲斐さんと同じに裏切ったんだ!」
「なんだ、彼は来なかったのか、困るんだよね、それじゃあ…」
レイはドアから飛びすさるように離れた、前の客車からオルバが歩いてくる。
「あなた、誰?」
「君にはわからないだろうね、似て非なる者と烙印を押された者が、どんな想いをしてきたか」
「え?」
意味が飲み込めなかった。
バン!
加持の銃が火を吹いた、壁を貫きオルバを狙う。
だがオルバは、軽く後ろにステップを踏んだだけでかわした。
間髪入れずにレイが壁をぶつける、だがオルバはぐらついただけで、踏みとどまった。
「そう、その力だよ、その力に目が眩んで、あの人たちは僕達を見限ったんだ」
加持から、そしてレイからの、予測すら不可能なはずの攻撃を読んでいた。
「カテゴリーF」
加持が補足した。
オルバの頬が引きつる。
「僕はオルバ、かつてそう呼ばれた改造人間だよ」
「何を言っているの?」
「怨みだよ、僕達は、君達の前に研究されていたオールドタイプなのさ」
銃を抜き、撃つ、だがそれは自動展開されたレイの壁によって弾かれた。
「無駄な事はやめて」
「そうだね」
「聞きわけが良いんだな」
加持も通路へ出た。
「それはどうかな?」
ニヤっと不敵に笑むと、アンテナのついた銃を構えた。
「なんだ!?」
ちりちりと危険信号を感じる、レイは刃を作って撃ち出した。
「PLAY」
スイッチを押す、可聴領域にはありえない声がレイを撃った。
「う…あああああ!」
バンッ!
隣の部屋からも人影が転がり出てきた。
ツバサだった。
「やめろ!」
加持が銃口をむける。
「遅いね」
オルバの銃が加持の銃を弾き飛ばす。
「くっ!」
「あああああ、こ、この…」
両膝をつく、こみあげてくる嘔吐感が気管の正常な動きを邪魔した。
「うごああああ…」
のたうちまわる、耳を塞いで、だが脳に直接響く声。
「効くだろう?、昔あの男が使ったものさ、増幅率は何倍にも上げてある、君達の仲間の断末魔の声さ!」
泡を吹き、白目をむきかけている二人には聞こえていない。
「僕達は次のステージへ上がるんだ、君達を踏み台にしてね」
「あ、ああ…、あ…」
涙が浮かび、視界が歪む、レイはそれでも壁を使って、必死に自分を守ろうとした。
「ははははは、無駄だよ、君達のやりとりは心か頭に直接届くんだろう?、どんなことをしたって…」
バン!
かなり大きめの音だった、銃の音。
アンテナ部分がショートし、爆発する。
「くっ、誰だ!」
銃を構えている、後ろと、オルバたちのいる車両とのあいだの扉、両方の窓にクモの巣状のヒビが入っていた。
赤いジャケット、黒いタイトスカート。
「葛城…先生…」
レイはなんとか確認した。
[BACK][TOP][NEXT]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元Genesis Qへ>Genesis Q