Episode:12R





「なに?」
 ミサトは頭痛を覚えた。
「なんなの、これ…」
 地から何かが這い出してくる、亡者の群れだ。
「いや、いやあああああ!」
 中にミサトが撃ち殺した少年達がいた。
 恨めしい目で、ミサトを見ている。
「……!」
 加持は自分で自分の首を絞めていた。
 彼の目には、彼が殺してきた男たちと、彼が救えなかった子供達が見えていた。
「あれか…」
 カヲルは何とか耐えていた。
 白いボックスを睨んでいる。
 自分の中に在る恐怖を…
 見せられているのだと気がつく。
 カヲルを殺そうとする仲間たち、裏切るゲンドウ、シンジ、レイ、そして…甲斐。
「あああああああ!」
 トレーズは愛しげに箱を撫でた。
「……」
 加持は色々な者を見ていた。
 その先に霧がかった場所があった。
 俺が最もおそれている男…
 そこには、もう一人の加持がいた。
「歌だ…」
 ツバサが漏らした。
「歌が聞こえる…」
 カヲルも気がついた。
 ラ…ララ……ラ…
 シンジ君…
 それはシンジの声だった。






 シンちゃん…
 レイは目を閉じて歌っていた。
 シンジはしっかりとレイの手を握っている。
 少しずつ、シンジとレイとの間に違和感が無くなっていく、一つになる感覚。
 助けなきゃ…
 助けなきゃ…
 助けなきゃ…
 シンジの声。
 守ってあげる…
 助けてあげる…
 救ってあげる…
 レイの声。
 起きて、起きて、起きて…
 起きて、起きて、起きて…
 起きて、起きて、起きて…
 起きて、起きて、起きて…
 起きて!
 起きて!
 二人の心がシンクロした。
 二人の声は、遠くカヲルたちの元へも届いていた。


 俺に、俺は殺せない!
 加持の銃がトレーズの肩を撃ち抜いた。
「あっぐ!」
 箱が落ちる。
「しまっ…」
 地面へと落ちた、壊れる、中から転がり出たもの…
「あれは…?」
 ミサトが目を細めた、そして認識すると瞳孔を広げ、あらんばかりに悲鳴を上げた。
「いやあああああああ!」
 それは人の形にすらなっていない胎児だった。
 オレンジ色の固体で封印されている。
 トレーズは急いでそれを拾い上げようとした。
「!」
 天井がぶち抜かれた。
 土砂と莫大な量の水が降ってくる。
「しかたないね」
 カヲルはミサトと加持を壁で包んだ。
 トレーズが土砂に埋もれていく、胎児と共に。
「あ、くそ!」
 ツバサが無念の声を上げた。
「イサナに任せよう、行くぞ」
 二人も自分を力で包んだ。






「ん…シンジ?」
 シンジの声が聞こえたような気がした。
 アスカは重いまぶたを開くと、首だけ動かした。
「んな!?」
 そこには仲良く手を繋いでいるシンジとレイがいた。
「ば、ば、ば、バカシンジー!」
「うわっ、アスカ!」
 アスカは起き上がろうとして、柔らかいものに足を取られた、同じように床に転がっていたミズホだ。
「いったいですぅ…、あっ!、シンジ様ぁー!」
 アスカを突き飛ばす。
「ミズホ!、ケガはないね?」
「はい?」
 首を傾げる。
 シンジとレイは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「シーンージー…」
 突き飛ばされたアスカが壁に頭をぶつけていた。
「あああああ、アスカ…」
 ごめん!っと続けようとして、何かの音に気がついた。
「ねえ、この音、何だろう?」
「ごまかさないでよ!」
「嘘じゃないよ!、ほら…」
 ドドドドドっと、ものすごい音が聞こえる。
 窓を開けて、外を見た。
「あれだ!…って、ええ!?」
 水が押し寄せてくる。
「きゅう…☆」
「あ、こらミズホ、気絶してる場合じゃないでしょ!?」
「で、でもどうしたらいいんだよ」
「あたしが…」
 水を壁で防ごうとする。
 クスクスクス…
 聞いたことのある声がレイの脳裏に響いた。
 安心なさい、あなたたちは死なないから。
 サヨコ!?
 次の瞬間、シンジたちは不可思議な浮遊感を味わっていた。






「シンジ、シンジってば…」
 アスカの声。
「なに?、アスカ」
「ここ、天国じゃないよね?」
「うん、…第三新東京市だ」
 999はシンジの家の近くの河に浸水していた。
「いったいどうなってるんだろう?」
 レイだけは気がついていたが。秘密にしておいた。
「とにかく、帰ってきたんだよね?、お帰り、シンちゃん」
「あ、うん、ただいま…」
「おかえりなさいですぅ!」
「お帰り…、シンジ」
 アスカがさり気なく顔を近づけた。
 ちゅ☆
 アスカを押しのけてシンジの頬を奪うミズホ。
「おほほのほー☆、そうそう好きには、させませんですぅ」
「このばかたれがー!」
 二人は川へと飛び込んで、バシャバシャと駆けだした。
「さ、あたし達も帰ろっか?」
「あ、うん」
 乗客達も目をさましていた、何が起こったのか誰一人として理解している者はいなかった、何しろ眠り込んだかと思うと、今度はどこかの川の上にいたのだから。
 シンジはレイたちの旅行カバンを持って降りた。
「帰ってきたんだ」
 シンジはちょっとだけ感慨に浸った、特に何があったと言う旅でもなかったが、不思議と久しぶりと言う感覚に酔うことができたからだ。
 一方その頃後部車両では…
「ん?、もう着いたのか?、しまった寝過ごした!?」
 起き上がるケンスケ。
「うわ、風景撮らないと…、なんだ見覚えのある景色なんだけど…」
 そこが第三新東京市だと気がついたのは、フィルムを三本完全消費してからのことだった。






「ん…」
「加持?」
 何処かの山間だった、ミサトの髪からぽたりと滴が落ちる。
「よお、葛城ぃ」
 ミサトの顔、その向こうに広がる星空。
「葛城の膝枕なんて、何年ぶりかな?」
「ばか、いくらでもしてあげるわよ…」
 ミサトは指先で涙をぬぐった。
「ホントバカなんだから、あんたは」
 苦笑する加持。
「寒いな…」
「濡れてるからね」
 びしょ濡れだった。
 よっと起き上がる。
「風邪引くな、行こう」
「ええ」
 加持の手につかまって立ちあがる。
「きゃっ!?」
 加持はそのまま引き寄せた。
「か、加持!?」
「しっ、黙ってろ、葛城」
「ミサトって、呼んでくれないのね」
 良い雰囲気の加持とミサト。
 トゥルルルルルルルルル…
「いやだ、あたし」
「おっと」
 加持はそんなミサトも可愛いと感じつつ、開放した。
「もしもし…、あ、リツコ?」
 ま、いいか…
 加持は夜空に向かって、白い息を吐いてみた。







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