Episode:12S





「そうか、回収は不可能か…」
「はい…」
 残念そうな甲斐に、カスミは胸を傷めた。
「あの子に外を見る力を与えようとしたワシらの心遣いも、無駄になったか」
 成原博士。
「ガギエルですら不可能ならば、諦めるしかないな…」
「あの子は、死んでしまったのでしょうか?」
 甲斐は一拍置いた。
「生きている」
「え?」
「生きているよ」
 手元の写真を見る、あの胎児の写真だった、Irregularとサインが入れられている。
 すまない、君の子はどうやら父親と共に眠ったようだよ…
 胎児は天使のために見限られた男と、天使を産み出そうと実験台にされた女との間に生まれた命だった。
 子は、子なりに親を慕うか…
「だがいつの日か帰ってくるさ、必ずな」
 甲斐はその写真に火をつけ燃やした。






「えっと、テストまであと5分か…、でもへんなの」
 シンジは緊張した面持ちで立っていた。
 教室の机などが片付けられている、まるでオーディション会場のように、試験官のための机だけが残されていた。
 自宅に帰ったシンジを待っていたのは、ユイの熱い抱擁と、ゲンドウの厳しいおしかりだった、だがその後でゲンドウは…


「シンジ、そこに座りなさい」
「う、うん、まだ続くの?」
「いや、これは違う」
 何かの紙を渡す、願書のコピーだった、第三新東京市立第三高校四類芸能文学科とあった。
「このテストは明日だ、もしものことを考えて出しておいた、どうする?」
「どうするって…、僕、受けるよ!」
「いいのか?、二次募集ならレイたちと同じクラスになる事もあるだろう、だが…」
「そんなの関係ないよ」
 隠れ聞いていたアスカ、ミズホ、レイは少なからずショックを受けた。
「だってみんなにはいつでも会えるもの、でも僕が僕を変えられるきっかけって、案外少ないのかもしれない、だからきっかけを作りたいんだ」
 僕が好きな僕になれるように。
 僕らしい僕になれるように。
 ゲンドウはシンジの目を見てから、満足げに頷いた。


「あ、カヲル君!」
「やあ、シンジ君」
 知らない人ばかりで縮こまっていたシンジだったが、カヲルが来たので、ようやく安心感を得ることができた。
「カヲル君も受けるんだ」
「うん、シンジ君を追いかけてて、受けられなかったからね」
「え?、じゃあ迎えに来たんじゃなくて、ずっと見ててくれてたの?」
 カヲルはすまなさげにした。
「…ごめんよシンジ君、心配だったんだ」
 シンジはにこっと笑った。
「なんだ、じゃあ声かけてくれたらよかったのに」
 カヲルの表情が明るくなる。
「そう言ってくれるのかい?、うれしいよ、シンジ君!」
「カヲル君」
 妖しい雰囲気に、周囲は引きまくっていた。
「はいはいはい、それではこれからテストをはじめます」
 先生が入ってくる、大体の感じでシンジたちは並んで立った。
「ですがその前に、試験官を引き受けてくださった校長先生からのお話があります、どうぞ」
 がらっと扉が開く。
「あっ!?」
 シンジは思わず驚きの声を漏らしてしまった。
 その男は尻尾髪を揺らして試験官席の横へと立った。
「はじめまして、わたしが校長の加持リョウイチです」
 にやり。
 加持は無精髭を剃っていた。



続く








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