Episode:13B





 シャコシャコシャコシャコシャコ…
 鏡を見ながら歯を磨く。
「う〜ん、しょうがないのかなぁ…」
 勝手に青森まで行っちゃって、怒ってたみたいだし…
 考えてみれば、最近一緒にいようとしなかったのって、僕の方だもんなぁ…
「ふっちゃえば?」
 ミヤの声がこだまする。
「シンちゃん…」
「レイ!?」
 ハンカチで涙をぬぐっているレイ。
「シンちゃん、こうなったらあたし達にできることはただ一つよ、そうでしょう?」
 ううっとハンカチで口元を隠す、嗚咽混じりの声。
「こらレイーっ、さっさと来なさい、手伝えっての!、でないともっとミズホのお茶飲ませるわよ!」
「ううっ、わたしのお茶ってぇ〜」
 うっぷと込み上げるレイ。
 シンジはレイを見て小さく頷いた。
「殺人的だったでしょ?」
 コクコクと頷くレイ。
「お願い、シンちゃん、手伝って…」
「しょうがないなぁ、わかったよ」
 口をゆすぐ。
「じゃあ手伝いに行こうか?、笑って送り出すのが、僕達にできることだよね?」
「って、あんたも騙されてんなー!」
 アスカの蹴りが飛んできた。






「さあてついたぞゲンドウ!、こーこーが、モデルハウスその一じゃ!」
「ふん、普通の家だな…」
 今住んでいるマンションからは、ひと駅程遠くなった所にある住宅街だ。
「あーらはかせぇ、いらっしゃい〜ん」
 呼び鈴の音に慌てて出てきたのは、20歳前後の女の子だった。
「おおっ、ぱる子君またせたな」
「…岸和田、彼女は誰だ?」
 うさん臭げにゲンドウ。
「ん?、モデルルームの案内役にきまっとるじゃろ」
「なぜミニスカにエプロン姿なんだ?」
「あら〜ん?」
 ゲンドウに擦り寄る。
「だってスーツって堅苦しいしぃ〜、この方がおじ様の好みでしょ?、あ、ひょっとして奥様のお気に障っちゃうかなぁ?」
 ちらちらとスカートの下が見えている。
「あー、わかったぁ、おじ様ったら裸にエプロンの方が趣味だったりしてぇ〜、やだー、もうそれってばお店の方に行ってぇん、ばかばかぁ☆」
 ゲンドウのこめかみに青筋が浮いた。
「あー…ぱる子君、お客様なんじゃから、ちゃんと案内をするように」
「やだもぉ博士ったらカタいんだからぁ〜、あ、今のはエッチな意味じゃないのよぉ?、って博士よりこっちの人の方がカタかったりしてぇー!」
 さり気なくユイが離れた。
「ええいやかましいわ!、ぱる子君さっさとせんか!!」
「はぁい、もう博士ったらせっかちなんだからぁん、じゃあ始めまあっす、まずこれが門柱ね?、モンチュー!(ウォンチュー)って昔あったんだけど知らないか?、あははははは!」
 蹴りっとその尻を蹴るゲンドウ。
 門柱に頭突きをかますぱる子。
「いったーい!、蹴ったね?、いま蹴ったね?、蹴ったの誰?、さっさと答えてよー!」
 無視して岸和田を睨む。
「つぎ行くぞ」
「うむ」
 ぱる子の顔面に岸和田のハリセンがめり込んだ。


「ほんっとうにお前以外、誰もいなかったんだろうな?」
「安川君その先じゃ!」
「ごまかすなー!」
 まあまあとユイがなだめている間に到着した。
「ここがその二じゃ」
「見た目は…、普通だがな」
 完全に疑っているゲンドウ。
「また同じような奴が出てきたら、人事部へ連絡するからそのつもりでいろ」
 くいっと眼鏡を正す。
「はーはっはっは、その心配はいらんよ、みろ!」
 ガッっと扉を引いたが開かなかった。
「やーっすかわ君、どうなっておるんじゃ!」
「鍵が掛かっているだけだろう?」
「お、面白い冗談じゃ、のぉゲンドウ?」
 ドガっと科学的に蹴りを放つ。
「ぬおおおおお!、たかがモデルハウスの分際で、玄関口から逆らうとはいい度胸じゃあっ!」
 蹴破った。
「いくぞゲンドウ!」
「……」
「あなた、警報装置が鳴っていますけど…」
「帰るか…」
「おおいこら、ゲンドウ、待たんか、どこへ行くつもりじゃ…」


「というわけでその三じゃな」
 今度は家の中まですんなり入れた。
「ログハウス風か…」
「良い感じですけど、場所が遠いですわね」
「遠いと言っても駅三つで街につく」
「他にウリはあるのか?」
 ニヤリと岸和田。
「それは彼女が説明してくれる」
 ウイーンっと、どこからかモニターが降りてきた。
「えーそれでは私が御案内いたします」
 画面が反対を向いていた。
「こっちじゃというに」
 ぐるっと修正する。
「えー、私達ゼーレホームは、常に皆様方の心の平安を拠り所とし、より皆様方が安らぎ、くつろげる空間を提供しようと…」
「まともだな…」
 何かを期待していたらしい。
「なーにをいっとるか、大山田君!」
「はい、御質問をどうぞ」
 ユイが目を輝かせた。
「まあ、どこかのセンターと繋がっているんですか?」
「ああーっ、違う違うっ、これぞわしの開発した、最新型ガイドAI『大山田花子』君じゃ!」
「…で、家を売る時には取り外せるのか?」
「まあまあ、お父さん、お話を聞いてみましょうよ?」
 モニターに向かう。
「質問があるんですけど、間取りなんかはどうなっているんですか?」
「はあいコレをご覧ください」
 縮図が映る。
「このようにアメリカから直輸入したログハウスを組み立てております、木材には純国産の生木を使用、欠点上冷房などを使われますと、とてもしけります」
 ぱっと画面が切り替わった。
「そんな時は渚にアターック!、彼の心にときめきハートが上下に激しく揺れる夏、幸い第三新東京市の糖尿病と言われる湖が近いので…」
 水着のねーちゃんがタコ踊りを始めた。
「移動のためには高速料金が高くて電車を使えば時速にして大体柔らかく、無事にオーバーラップできれば御の字と言うこの環境、まーさーに2階ではリビングでしょう、見たからに四畳半ですえた匂いが取れないままです」
「おい?」
「あーーーー!、誰じゃ人の人工無能に余計なことを吹き込んだのはぁ!」
「人工無能がAIかぁあっ!」
「次、まわりましょうか?」
 ユイは先に家を出た。


「四件目ともなるとネタがつきたか?」
 第三新東京市の外れに戻った。
「この辺りは区画整理ができとらんから、土地家屋ともに安い」
 二階建、天井裏にも部屋がある、白い大きな家だった。
「庭もあってこのお値段じゃ!、どうだ安かろう」
「でも部屋が多くて…、一部屋ごとの大きさがあれですわねぇ?」
 真面目に見てまわる。
「ふむ、確かに洋風建築は好みではないな」
「キッチンを見てもいいかしら?」
「かまわんよ、茶ッパとやかんぐらいはある、なんなら試してみると良い」
「では私は2階を見せてもらおう」
 これまたでかい機械が一面を占めていた。
「おい?」
 しかも適当に部屋と部屋の壁をぶち抜いて、置き場所がもうけられている。
「見たか!、これぞまさしく最新科学が作り上げた快楽の家、娯楽の我が家!、その名もサイバーマイホーム一号じゃ!」
「このたい焼き機のどこがそうだというのだ?」
 機械の山の中央に、巨大なたい焼き機があった。
「どーこがたい焼き機じゃ、見ろ!、人型になっとるじゃろが!」
 うさん臭げに目を細めるゲンドウ。
「で?」
「ええいっ、さっさとはいらんか!」
「入れるかぁ!、こんな薄いものに挟まれて、どうしろと言うのだ!」
「安心したまえ!、この人型は可変機構つきで、アバラ浮き出しのガリガリ君から、でっぷりぷよったおっさんに至るまで、どーんな体型にもピッタリフィットする、近未来フリーサイズなのだ!」
「ならお前が入れ」
 蹴り☆っと蹴る
「ぬおおおおおっ、オートで始動するぅ!」


「あら何かしら?」
 やかんを火にかけているユイ。
 うおんうおんと唸るような機械の駆動音が響いた。
「防音じゃないのかしら?、ちょっと考えたほうがいいかも…」
 一方、岸和田は窮地に立たされていた。


「ぬおおおおおっ、3Dヘッドフォンと3Dスクリーンからなる悦楽の境地、デジタルの桃源郷がぁ!」
「喜んでいるようだな」
 たい焼き機のすき間から声が漏れてくる。
「ドラッグCGを応用した心安らかな電脳空間がわしを誘うぞー!」
「で、現実の食事はどうするつもりだ?」
「ぐー」
「寝るなー!」
「ぐぐー」
 ゲンドウは両目を閉じると、肩を落としながらくいっと眼鏡の位置を正した。
「先に帰るぞ」
 歩き出した瞬間、背後で轟音が響きわたった。
 ドガシャーン!
 ウルトラマン的効果と共に、リフレッシュした岸和田が帰ってきた。
「はーはっはっは、疲れている、人は皆疲れている!」
 ビシッとゲンドウを指す。
「体中から全ての疲れを抜く、これ温泉と同じ効果があるのがサイバーマイホームじゃ!」
 GO!GO!、サイバーGO!っと高らかに宣言する。
「…そのサイバーマイホームは再起不能のようだが?」
「ぬぬっ!」
 振り返ると、残骸と化したサイバーマイホームが転がっていた。
「わーっしのサイバーマイホーム一号君が!、ええいわしの機械ともあろう物が情けない」
 ゲンドウは聞く耳もたずに、他の部屋を覗こうとした。
 後ろを向いた瞬間、その背を押す。
「おおっと手がすべった!」
 柱の角に頭をぶつけているゲンドウ。
「すまんのぉ、決してわざとじゃないぞ?」
「ふははははは、気にするな、誰しも間違いはある」
 岸和田が通り過ぎる瞬間、その足を払った。
 バコン!
 頭で壁をぶち抜く岸和田。
「すまん、わざとではないが…、思ったより薄い壁だな?」
 ガン!
 足の小指を木槌で叩いた。
「おっとすまんな、そこに釘が出とったもんで」
 うずくまっているゲンドウ。
「ははははは、なあに…、おっと」
 立ち上がった所で、ふらつくふりをしてエルボー。
「床も薄いな?」
 またしてもめり込んでいる。
「そうじゃな、おおっと!」
 何気にボディーに一発いれる。
「実は最近地縛霊に取り憑かれておってな…、結婚離婚霊魂と言って、特に夫婦に怨みがあるようなんじゃ」
「なるほど」
 とお!っと、殴り返す。
「ああいかん!、私は浮遊霊に取り憑かれていて、特に未婚に反応するのだ」
 気がつけばそこら中に大穴があき、柱がへし折れていた。
「そうかわかったぞ岸和田…、貴様私が回ったモデルルームで次々と問題を起こし、私にその罪をひっ被せて評判を落とそうと言うつもりだな?」
「うーむなんのことやらなぁ」
 扇子で花吹雪を散らす。
 てくてくとゲンドウはサイバーマイホームへ近づいた。
「てい!」
 軽く蹴っただけでガラガラと崩れていった。
「おーのれゲンドウ!、きっさまー!」
「来るがいい、極東マネージャーの力、見せてやろう」
 くいっと眼鏡の位置を正し、ゲンドウは白い手袋を取り出した。






 ドガン!、ガコン!、バコン!
 ぱらぱらと埃が落ちてくる。
 天井を見上げているユイ。
「騒がしいわねぇ」
 やかんが湯気を吐きはじめていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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