Episode:14A





 コウンコウンコウ…
 まるで海底洞窟のような穴の中を照らし出すライト。
 潜水艇が進む、海底を走るレールを辿って…
 コンクリートで硬められている壁面。
「第三青函トンネルだけでも無事で良かったよ」
「ああ、上の津軽大橋とフェリーの増便と…、まあ何とかなったらしいからな」
 ここはあの騒ぎで海に沈んだ旧青函トンネルだった。
「おっ、999だ」
 瓦礫に埋もれるように、機関車が横たわっていた。
「あの穴かぁ…」
 天井を見る、大穴が開いていた、甲斐の潜水艦が開けた穴だ。
「写真撮っとけよ?、自然に開いた穴じゃないぜ?、あれ…」
「わかってるけど…、スクリュー、泥巻き上げてないか?」
「水濁ってきてるな…、ちょっとまて、なんだあれ!?」
 ゆっくりと何かが地を貫き、現れようとしていた。
「うそだろ?」
 現れたのはドリルだった。
 巨大なドリル、その後ろはそのまま筒になっていた。
 先端にドリルが付いた筒…、としか形容できない。
 その側面からはがれ落ちるように、人型のものが泳ぎ出した。
「人?」
「まさか!、何メートルもあるぜ?」
 潜水艇を無視する白い巨人。
 頭部には目がなく、どこか魚に似ていた。
「なにしてんだろ?」
「みろよ」
 瓦礫の中から黒い球体が現れた、直径は2メートルぐらいだろうか?
 それを回収する巨人。
「帰ってく…」
 再び筒状のそれに張り付く巨人。
 筒の先にあるドリルが再度回転を始め、泥の渦を作った。
 壁面を突き破り、掘り進んで姿を消した。
 二人は呆然として、その光景を見守るだけだった。
「何だったんだ?、あれ…」
 泥が視界を0にしていた。


「トレーズ…、トレーズ?」
 声が聞こえる。
 トレーズは目を開けると、優雅に体を起こした。
 何もかもが真っ白で、たった一つの人影を除いて、あとは何一つ見えなかった。
「…ハッカー?」
 その形が崩れた。
 再び組みあがったのは、女の形。
 黒髪の女、25、6だろうか?
「君は…」
 とくに驚きはしない。
「私はしもべ…、三つのしもべの一つ、ロデム…」
「ロデム?」
 服なのかマントなのかわからない長い袖をひるがえすと、ロデムは何もない空中に足を組んで、腰掛けた。
「残念でしたね?、奇蹟を信じて…、願いは届くと…、ですが現実は残酷でした」
「そうだな、信じるだけでは起きない、願いは空しく消え行くのみだ」
 後悔はしていない…、トレーズはそう呟いた。
「本当に?」
 手を開く、その手にはsample1と書かれた、オレンジ色の固形物が乗っていた。
「この子は…、永遠を諦めてはいないわ」
「永遠?」
 いぶかしむ。
「貴方は永遠を手にする力を、その手にしたいとは想わないの?」
 苦笑する。
「永遠とは、いつまでも続くという事、何年も、何十年も、何百年も、何千年も、何万年も、何億年も、何億年の何億倍も、貴方の命はほんの一瞬かもしれないけれど、この子の一瞬は何億年の何億倍も続いて、それでも終わりは来ないのよ?」
 何が言いたい?
 そう目で尋ねる。
「貴方は、本当に諦めてしまったの?」
 パキン…
 それはあまりにも簡単に割れた。
 封印を解かれた胎児が、急速な勢いで成長を始める。
「何をする!」
 ロデムの黒真珠のような瞳が、トレーズを射貫いた。
「聞こえない?」
 耳に手をあてて、目を閉じる。
「貴方の魂が、本当に諦めていないのなら…」
 聞こえるはずよ?
 じっと耳をすます。
「世界の果てを駆け巡る、この音が…」
 何を言っている?
 トレーズは焦っていた、その間にも、胎児から生き物とすら呼べぬ形へと、変貌を遂げようとしていたからだ。
「君は、何者なのだ?」
 女は愛おしそうに、単細胞生物のように形を失っていく「それ」を抱きしめた。
「なに!?、どこから聞こえてくるのだ、この音は!」
 低い獣のようなうなり声。
 はっとして振り返る。
「さあ誘おう!、貴方が望む世界へ!」
 少年が両腕を広げていた、彼の背中から、真っ黒な世界が吹き出すように広がる。
「空!?」
 自分の立っている場所が、大きな金色の鳥の上だと知った。
「行こう、永遠がある塔へ」
 時代錯誤な黒い学生服姿の少年、彼は手を伸ばした、トレーズではなく、その向こうにいる少女へと。
「これは…!?」
 ロデムが少女を抱いていた。
 先程までの化け物ではなく、少し細めの、14、5歳ぐらいの少女だった。
 その少女が顔を上げる、無機質な、機械人形のような瞳。
「君に、永遠を分けてあげよう」
 彼の、浩一の言葉に、少女は小さく、頷いた。



第拾四話 KEY THE METAL IDOL



「まったくもぉ、泊まってくのはいいけど、いったいどこで寝るつもりなんだか…」
 ぶつくさと自室の戸を開けるシンジ。
「はっ、殺気!」
 一歩踏み込んだ所で、天井とベッドの下と机の下に気配を感じた。
「あ、あ〜、そうだ歯磨き!、歯を磨いてこなくっちゃね!」
 平静を装いつつ、シンジは枕を抱きかかえると、そっと戸を閉じた。
「うう…、何処で寝よう…」
 リビングでは凍死してしまいそうなので、とりあえず親の部屋へ。
 コンコンコンっとノックする。
「なんだ…」
 出てきたのは不機嫌そうなゲンドウだった。
「用なら早くしろ、でなければ寝ろ」
 ユイはとっくに寝ているらしい。
「うう…、レイが…、アスカやミズホも恐いんだ」
 だからどうしたと言わんばかりの目。
「でね?、一緒に寝ちゃダメ?」
 枕を抱きかかえて、限りなく可愛子ぶる。
「シンジ…、気持ちが悪いからやめなさい」
 ちょっち傷つくシンジ。
「シンジ、三すくみというのを知っているか?」
「?」
「ヘビ、カエル、なめくじ…、ヘビはカエルに強く、カエルはなめくじに強く、なめくじはヘビに強い、だがどれか一つが欠ければ、己の身に危険が迫ってしまう、互いが互いを束縛し、がんじがらめの状態になることを言うのだ、シンジ、安心して寝ろ」
 ぶんぶんぶんっと首を振るシンジ。
「普通はそうかも知んないけど、あの三人の場合はエスカレートして酷くなるだけじゃないか!」
 だが必死の訴えも通じず、ゲンドウは無言で踵を返した。
「シンジ、餞別だ」
 と言って、毛布を渡す。
「では、達者で暮らせよ?」
 戸は閉じられた。
「うう…、酷いや…」
 途方にくれて、何処に隠れるか考える。
「こらぁっ!、シンジ早く来なさいよ!」
「うわぁ、アスカ、ごめん、許してよぉ!」
 じれたアスカが探しに来た。
「あんたねぇ、このあたしが添い寝してあげるって言ってんのよ?、一体何が不満なわけ?」
「それはきっとアスカさんの寝相が悪いからですぅ〜」
 アスカの背中から、ひょこっと顔を出すミズホ。
「そんな事を言うのはこの口か?、この口かぁ?」
「いひゃい、いひゃい、いひゃい…」
「ほらほらもう夜も遅いんだから、暴れないでさぁ…」
 レイがシンジの腕を取った。
「二人にはシンちゃんのベッドを上げるから、シンちゃんは貰っていくね?」
「「そんなのダメぇ!…あ、」」
 四人の後ろにゲンドウが立っていた。
 こめかみがぴくぴくと引きつっている。
「はやく、寝なさい…」
「「「「はーい…」」」」
 四人は揃って、シンジの部屋へと退散した。
「あー、恐かったぁ」
「もうっ、アスカとミズホが悪いんだからね?」
「そんなこと言ったってシンジがぁ…」
「なんだよ、僕が悪いっての?」
「あったり前じゃない、なによ一緒に寝るぐらいで」
「そ、そ、そ、そんなの、恥ずかしいからに決まってるじゃないか!」
「え〜っ、愛しあってる二人なら、当然の行為だと思いますぅ」
「そうそう、腕枕なんかしちゃってね?」
「で、必ずあたしより後に寝て、朝起きたら「おはよう」って、にっこり微笑んでくれるの」
「キス付きなら最高よねぇ?」
 うんうんうんっと、頷きあう三人。
「それが自然なあり方だと想わない?、シンジ」
 違う、それ絶対に違うと首を振る。
「そ、それよりさ、早く寝ちゃわないと、明日辛いんじゃないの?」
 ほえ?っと、きょとんとする三人。
「何が?」
「なんで?」
「あ、デートの約束忘れてたですぅ」
「「どういうことよ!」」
「ミズホ、でっち上げないでよぉ!」
 やんやんやんっと、自分の世界に入っているミズホ。
「明日は合格発表でしょう?、忘れたの?」
「だって、どうせ受かってるのわかってるしさぁ」
「どこからその自信が来るんだよ…」
「あんたバカぁ?、このあたしがあの程度の問題、解けないわけないじゃない」
「あたしは…、ちょっと自信ないかなぁ?」
「私もですぅ、だって、あの時はシンジ様が…」
 うっく、ぐしゅっと、泣きはじめる。
「ちょちょちょ、ちょっとミズホ泣かないでよ」
「だって、もし落ちてたら私…」
「ミズホ!、そんな風に言ったらシンジのせいになっちゃうじゃない!」
 アスカもホントは不安なのだ。
「ごめん、ぼくが心配かけたから…」
 ミズホは上目使いにシンジを見た。
「じゃあ、もし落ちていたら、責任を取ってくださいますか?」
「せ、責任って…」
「ミズホだめだよ、シンちゃんにそんな…」
「いいよ、レイ」
「でもぉ…」
 不満気なレイ。
 シンジは優しくミズホの手を取った。
「僕にできることなら何でもするよ、それがつぐないになるならね…」
「ちょっとシンちゃん!」
「それ自爆行為よ!」
「じゃあ結婚してください!」
 ほらやっぱり!っと、抱きつこうとするミズホを組み伏せた。
「はーなーしーてーくーだーさーいー!」
「けけけけけ、結婚って…」
「進学できないなら、家庭に入るしかありませんですぅ!」
「そんな無茶苦茶な話があるわけ無いでしょ!」
「だってシンジ様は約束してくださいましたぁ!」
 じっとシンジを見る三つの視線。
 期待に満ちている瞳と…
 呆れている目と…
 返答しだいでは殺意がこもりそうな眼。
「ぼ、ぼくは…」
 シンジは立ち上がると背を向けた。
「僕はさいてーだー!」
 ダッシュで駆け去る。
「あ…」
 唖然とする三人。
「うっ、逃げられましたぁ」
 ちっとミズホは舌打ちした。







[BACK][TOP][NEXT]



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。



本元Genesis Qへ>Genesis Q