Episode:14F





「いい?、脱いだら殺すからね!?」
 アスカの目は真剣だった、部屋から出て行くのを見送って、シンジは鏡に映る自分を見てみた。
「うっわー…」
 黒皮のコスチュームだった、ミニスカにストッキングまではかされている。
 前バリが痛くて、シンジは股間を押えてもじもじしていた。
「はずかしいよぉ…」
 とかいいつつ、ちょっとだけポーズを取って見る。
 ギィ…っとドアの軋む音。
「え!?」
 見ると、アスカが覗き見ていた。
 ニヤリ。
 パタンと閉じられる戸。
「僕は…、最低だ」
 自己嫌悪に浸るシンジ。
「キィちゃん準備できたって!?」
「え、えっと、できたけど…」
 入ってくるなり、ケンスケは見とれた。
「すっげー、かっこいいよ」
「そ、そうかな、ボクは恥ずかしいんだけど…」
 前を押えている、それを見てケンスケは顔を赤らめた。
「大丈夫だよ、そんなに短くないし、見えてないから」
「え?」
 よくわからないシンジ。
「でも…、これって月の歌に合わないとおもうんだけど…」
 抵抗してみる。
「何言ってんだよ、今日のコンセプトはメタルアイドルさ!」
「メタ…、なにそれ?」
「メタル系のアイドル!、そのまんまだよ」
「えー!だてボク、メタルなんて歌えないよ」
「問題ない、我に秘策アリさ!、アニメタルぐらいは知ってるだろ?」
「う、うん…って、ええ!?、こんな所でカラオケやっちゃマズいんじゃないの!?」
 ケンスケは安心させようと微笑んだ。
「月の歌だっけ?、あれの後今日のメンバー全員で歌うことになってる、その先頭に立ってもらいたいんだ」
 シンジは卒倒しそうになった。
「そ、そんなの無理に決まってるじゃないか!」
「走り出した列車は停められないんだよ」
 ふっと謎の笑みを浮かべる。
「ちょちょちょ、ちょっと!?」
「ま、そういうわけだから、それよりもちょっと心配事が…」
「シンジ!」
 心臓が飛び出るかと思った。
「シンジ?、シンジなら来てないぜ?」
「あ、あーえっと、そう、来てないんだ」
 あははははっとごまかす。
「それよりっ、レイ見なかった?」
「いやぁ?、綾波がどうしたんだよ」
 ちょっとちょっとと、三人顔を寄せあう。
「あんたなら聞いてるでしょ?」
「もしかして、あれか?」
「なに?」
「えっと…」
「なんでも…、その、胸のカタを取ってる奴がいるのよ…」
 真っ赤になるアスカ。
「型って…、石膏とかで?」
「あんたバカぁ?、墨汁ぶっかけて…魚拓みたいに取ってる奴がいるのよ」
「それも二人組らしいんだ、もしキィさんが狙われたら」
 えええええっと、シンジは両腕で胸を抱き込んだ。
「まずい、それはマズイよ!」
 こんな公衆の面前で暴露されたら!
 想像して青くなる。
「たぶん、その心配は無いわ」
「どうしてだよ?」
 いぶかしげにケンスケ。
「その…、ね?、どうも片割れがレイらしいのよ」
「「ええええええええっ!?」」
「どうしてそんな事になってるの!?」
「わかんないのよ、とにかくわかっている事は、早々にレイを取り押さえないとマズイってことね」
 ケンスケと頷きあう。
「そういうわけだから、あたし達は犯人の捕獲に乗り出すわ」
「えっ?、じゃあボクは?」
「悪いんだけど、一人で頑張っててよ」
 その言葉に、不安げになるシンジ。
「えっと…」
 出て行こうとした所で、ケンスケは思いきったように振り返った。
「!?」
 ふいをつかれた、シンジの目に映るケンスケのアップ、その向こうで目を剥いているアスカ。
 唇に固い感触。
「お、おまじないだよ、うまくいくようにって」
 シンジの耳には届いていなかった。
「あ、あんたなんてことすんのよ!」
 ケンスケを突き飛ばす。
「早くゆすいで!、はやく!」
「う、うん」
 その辺にあったコップを渡される、シンジは不用意に口にした。
「うぐ!、これ…」
 ミズホのハーブティ。
「ああっ、シンジぃ!」
 卒倒した。
 運よくケンスケも気絶していて、アスカの言葉は聞こえていなかった。






「もう、ミヤったらどこに行っちゃったのかしら?」
「うきゅー、おそいなぁ、シンジお兄ちゃん…」
 舞台裏、二人はきょろきょろとしていた。
 さすがのマイも緊張している。
「テンマも姿を消したままだし、ほんとに大丈夫なのかなぁ?」
「そんなに気になるのかい?」
 唐突にかかる声。
「カヲル!」
 照明を避けるような位置に立っていた。
「どうして!?」
「テンマが呼びに来た」
「テンマがぁ?」
 うきゅーっとカヲルにじゃれつくマイ。
「信じるか信じないかは、君の自由だけどね」
 髪のセットが乱れないよう、気をつけて撫でてやる。
「お客さんが恐いかい?」
 うなずくマイ。
「みんなお友達になりたいんだよ、マイのね?」
「マイと?」
「そう、それにメイとも…」
 メイを見る、メイははっとした。
 甲斐さん、そんなことを考えて?
 慌ててその考えを打ち消す、いまはそれ所ではないからだ。
「テンマは?」
「例の子を監視してる、それと…」
「それと?」
「あれだ」
 眉間の間に人差し指をあて、皺をよせる。
「きゃー!」
 悲鳴が上がった。
「なに!?」
 ヤン坊マー坊のお面、ちょうどたらいを傾けている所だった。
「ミヤ!」
 ぎっくとして片割れが固まった。
「レイだー!」
 もう一人も硬直した。
「やばい!」
「逃げよう!」
 だが逃げ道をテンマがふさいでいた。
「どこへ行く?」
 あううっと脂汗を流す二人。
「いたぞー!」
「こっちだぁ!」
 そこへSSSがなだれ込んだ。
「次マイさんメイさん、お願いしまーっす!」
 どうしよう!?っと一瞬躊躇した。
「いい、行くんだ、こっちは僕がなんとかするよ」
 微笑んで二人の背を押す。
「さ、行っておいで?、三万人のお友達が待ってる」
 うん!っと、マイは元気よく駆けだした。
 メイは「本当に年下なのかしら?」っと、ちょっとだけ劣等感を覚えたが。
 二人で急ぎ、舞台への階段を駆けあがる、そこにふらっとシンジ…、いや、キィが現れた。
「あ、お兄ちゃん!」
 間違っている。
「行こう!、お兄ちゃん!」
 メイには区別がつかなかった、なによりも、事情をなんにも聞いていなかった。
 こうして三人は舞台へ上がった。






 わー!っと、一際大きな歓声が聞こえてきた。
「はじまっているの!?」
 アスカが叫んだ。
「行こう!、キィちゃんの出番だ!」
 だがシンジはまだ気がつかない。
「あんたがいらない事するからよ!」
「わ、悪かったよ、俺、つい…」
 しょぼくれながらも、アスカを手伝う。
「う、以外と重い…」
 ちょっと待っててっと出ていって…
「これよ!」
 っと、どこからか、洗濯物の入ったカートを持ってくる。
「乗っけて!、超特急で飛ばすからね!」
 ケンスケが放り込むと、アスカは全速力でカートを押し、走り出した。






「どうもぉ!、香港から来たマイでぇっす!」
「メイです…」
「それとお友達のシ…、じゃなかった、キィちゃん!」
 ニコニコとマイ。
 会場からは歓声が上がった、みなどこかにキィの再来を期待している部分があったからだ。
「ほら、キィちゃんも何か言ってあげたら?」
 肘で突っつく。
「言うの?」
 まるでロボットのようにマイに尋ねる。
「う、うん…」
 ゆっくりと会場を見る。
「レーちゃん、いないの…」
 意味不明な発言だった。
 ちょっとだけ引きつるマイ。
「うじゅー、もしかしてお兄ちゃんじゃなくて…」
 ようやく気づいた。
「そ、そうだ、それより歌おう?、ね?」
 なんとかごまかそうとする。
「そうだ、歌ってよキィ!」
「歌ってくれよ、キィちゃん!」
 そんな言葉が飛び交い、唱和された。
「キーイ、キーイ、キーイ、キーイ!」
「うきゅー、すっごい人気だねぇ」
 バレたら逃げよっと。
 さすがにヤバいと感じたらしい。
「じゃあいくけど…、ちゃんと歌ってね?」
「歌う…の?」
「そうよ?」
 何かおかしいと感づくメイ。
「もしかしてあなた、ロスト…」
「あああああっ、メイ、イントロ入るよ!?」
 歓声に合わせて曲がスタートした。
 キィを挟んで、右にマイ、左にメイが立つ。
「歌うの?」
 キィはもう一度くり返し…
 そして大きく息を吸い込んだ。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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