Episode:15A





 第三新東京市立第一中学校。
 この学校には三年生だけに知られている伝説があった。
「ねぇねぇ、アスカ知ってるぅ?」
 レイのベッドの上に転がっているアスカ。
「なによヒカリぃ」
 電話の相手はヒカリだった。
「うちの学校の裏に大きなけやきの樹があるでしょ?」
 明日の卒業式の後、どうするかを話していたのに、どこからか話がずれ出していた。
「ああ、あれね、夏場とか気持ち良かったのよねぇ、あそこ」
「そうそう、お弁当食べたりしたもんね」
「ちょっと残念かな、もうあそこで本読んだりできないのって…」
 今レイとミズホはお風呂だ、アスカは順番待ちをしていた。
「で、あの樹がどうしたのよ?」
「うん、あの樹の下で告白してOKが貰えるとね?、絶対幸せになれるって伝説があるんだって」
 ぶははははっとアスカは遠慮なく吹き出した。
「ばっかみたい!、だってうちの中学が…、ううん、第三新東京市ができてから十年ちょっとしか経ってないのよ?、そんなの信憑性薄すぎって感じじゃない?」
「もう!、アスカってば夢がないんだから…」
「ごめんごめん…」
 ひーっとまだ笑ってる。
「でもそんな話、初めて聞いたけどなぁ…」
「うん、あんまり広がるとまずいからって、代々二年生の代表の人に伝えられてるんだって」
「へー、で、その代表って誰?」
「相田君だって」
 ぶーっと吹き出すアスカ。
「ふひゃひゃひゃひゃ!、妖しさ大爆発って感じね!」
「でもみんな必死になってるみたい」
「へ?、みんなって?」
「三年生のみんな…、時間が重なるとまずいからって、相田君が調整してるの」
「それって…、もしかしてお金取ってない?」
「手数料は取ってるみたいね」
「あっきれた、明日とっちめてやらなきゃ…」
「あんまり酷い事しちゃダメよ?、アスカに憧れてる子って、まだまだたっくさん居るんだから」
「なによその「子」って…、ううん、それよりも「まだまだ」ってどういう意味よ!」
「あはははは…、ま、まあ、アスカも大変よね、綺麗だしスタイル良いし、全校生徒の憧れって感じで…」
「って、ごまかされるわけないでしょ!」
「じゃ、明日学校で!」
「こらっ、もぉ!」
 切れた。
「ヒカリの奴ぅ、覚えてなさいよ!」
 こうして卒業式前夜は、比較的穏やかに過ぎていった…



第拾五話 突撃!パッパラ隊



「なに…、これ…」
 教室に入るなり、呆然とたたずんでしまうシンジ。
 普段まともに着たことがないだけに、制服の襟元がきつかった。
「ラブレターでしょ?」
「うう…」
 アスカの冷たい視線にさらされるシンジ。
 机の上と机の中、両方ともラブレターで溢れていた。
 ちなみに下駄箱に入っていたものは、シンジが両腕で抱えている。
「へぇ、やっぱりシンちゃんもてるんだねぇ」
 にこにことレイ。
「あんたバカぁ?、そんなの嬉しがってどうすんのよ」
「え?、だってそれだけ株が高いってことじゃない、いいのいいの☆、これぐらいは許容してあげないとね、彼女としては♪」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「誰が彼女なんですかぁ〜!」
 遠くからミズホ。
「ミズホも大変だねぇ…」
 よたよたとラブレターを抱えて運んでいる。
「ふええぇん、これどうしましょうかぁ?」
 ミズホ…、アスカとレイもだが、シンジに倍する量のラブレターを貰っていた。
「あ、そうだもしかして…、シンジ、ノート出しなさいよ」
「う、うん…、でもどうするのさ」
「こうするのよ…」
 シンジの端末機を授業に使う回線に繋げ、アスカはメールツールを起動した。
「ほらやっぱり…」
 ものすごい勢いで新着メール数のカウントが上がっていく。
「うっ、返事どうしよう?」
「あんたまさか…」
「ま、シンちゃんだからねぇ、ホント真面目なんだから…」
「じゃあ二人はどうするのさ?」
「捨てるに決まってんじゃない」
「それは酷いとおもうよ…」
「じゃあわざわざ断って回れっての?、あたしにそんな残酷なことをしろってわけ?」
「そんな事は言ってないじゃないか」
「そうね、じゃああんたが行って来てよ」
「えー!?、どうして僕がぁ!」
「あんた一応あたしの彼氏でしょ?、それなら当然じゃない」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「なに?、まさか違うって言おうとしてるの?、してるの、ねぇ?」
 ううっとたじろぐ。
「あ、あ、そうだ、レイは?、レイはどうするのさ?」
 逃げた。
「あたしは返すけど?」
 あっさりとレイ。
「え?」
「後でコピー機借りよっと、メールは同報でいいし」
 やはり酷かった。
「文面どうしよっかな、「ごめんなさい、あたしには好きって言ってくれる人がいるのでお付き合いできません」なんちって」
 きゃっと恥じらう。
「あ、それいいわねぇ」
「じゃあ私は「愛しあった方がいらっしゃいますので」て書かなきゃいけませんねぇ」
「「「またそんなでたらめを…」」」
 三人同時にため息をついた。
「で、ホントにミズホはどうするのさ?」
「シンジ様はどうすればいいと思われますかぁ?」
「どうって…」
「書いたほうがいいでしょうかぁ?、でも一度だけでもお会いしたいなんて言うのもあって、ミズホ困ってしまってるんですぅ」
 ぶりっこ。
「シンジ様は、ミズホにどうして欲しいですかぁ?」
 じーっと上目使いに見る。
「う、しまった、その手もあったか」
 ちっと舌打ちするアスカ。
「誰も彼も、シンジ、シンジかぁ…」
 はぁ〜あっと、ケンスケがため息をついた。
「お、なんや暗いやないか、どないしたんや?」
「暗くもなるよ、何が悲しくて他人の幸せのために徹夜しなきゃいけないんだか…」
 メモ帳を閉じる、その中には伝説の樹で待ち合わせをする男女のスケジュールが、5分単位で書きこまれていた。
 メモ帳なのは作戦終了後に焼却処分するためだった。
「いいよなぁ、シンジの奴…」
「そうかぁ?、結構大変そうやけどなぁ」
「そりゃトウジには委員長がいるしさ、余裕があるだろうけど…」
「ななな、なんや、委員長は関係あらへんやろ!」
「よくいうようぉ…」
「あ、鈴原〜」
「へ〜い、なんや委員長」
「……鼻の下伸びてるよ」
 ケンスケは机に突っ伏した。






「あなた、ほら早く!」
「うむ」
 校門をくぐる父母の波、その中に異彩を放つ二人がいた。
「あ、お父さま!、お母さま!」
「レイちゃん!」
 やっほーっと手を振る。
「あ、ほらレイ、そんな場合じゃないってば」
「そうですぅ!」
 慌てて走っていく。
「まあまあ慌てて、どうしたの?」
「シンちゃん呼び出し食らって今から決戦の樹の下でって感じなんです!、じゃあ!」
 首を傾げるユイ。
「なんのことかしら?」
「行ってみよう…」
 にやりっと口元がほころんだ。
 その手には当然のごとくビデオカメラが握られていた。


「ごめんなさい、碇君、呼び出したりして…、でもどうしても気持ちに整理をつけたかったんです」
「う、うん…」
 緊張感とも緊迫感ともとれない不思議な感覚に、シンジは居心地の悪さを感じていた。
「好きだったの」
 恥じらいながら、その子は言った。
「真宮寺さん…」
 頬を染め、シンジの方を見ようとしない。
「迷惑だってわかってます…、けど…」
 こつんとけやきの樹に額をつける。
 その背がふるえていた、泣いているのかもしれない。
「けど…、わたし碇君とは違う学校に行くから…、後悔したくなかったから…」
 シンジは二度三度と手の平を握りなおすと、意を決したように顔を上げた。
「そんなの関係ないよ!」
「碇君!?」
 その激しさに驚く。
「同窓会だって何だってあるじゃないか!、別の街に引っ越すわけじゃないんだし、街でだって会えるかもしれないよ!」
「碇君…」
 胸の前で組んだ手を、少しずつ口元へと上げていく。
「卒業だからお別れなんて、そんなの悲しいよ…」
「ほんとに?、ホントにそう言ってくれるの?」
「もちろんだよ」
 シンジは普段アスカたちにしか向けない笑みを浮かべた。
 彼女は感激にうちふるえて、口元を隠し、涙を溢れさせる。
「僕達は、いつだって会えるから」
「うん!」
 シンジの胸に飛びこもうとする。
「碇君!」
「真宮寺さん!、うわぁ!」
 どすん!っと、二人の間に落ちる岩。
「あ、危なかった…」
「な、なに?、一体なんなの?」
 周囲を見回したが誰もいなかった。
 だがシンジには誰の仕業か想像できてしまった。
「はは…、は、どっから飛んできたんだろうね、この石…」
 実は50メートルほど離れた場所に、彼女達は潜伏していた。


「はーなーしーてーくーだーさーいー!」
「ちょっとミズホ!」
「今日のあんた、とってもデンジャラスよ!」
 むきーっとミズホ。
 みんな揃って、少し離れた繁みの中に潜んでいた。
「むむ、シンジの奴」
「優しい上に悪気が無いから始末におえませんねぇ」
 楽しそうなユイ。
「何を笑っているんだ?」
「いえね?、やっぱり嬉しいじゃないですか、息子がもてるって言うのは…」
「もてなくてもいいんですぅ!」
 訴えるミズホ。
「しかしシンジの奴、あの調子でいくつもりかなぁ?」
 ケンスケ。
「なんであんたがここにいるのよ?」
「悪いかよ?、俺が段取りつけたんだから、良いじゃないか」
「うきゅー!、あなたですかぁ、諸悪の根源はぁ!」
「ああっ、ダメミズホ!」
「本気で首しまってるって!」
「く、苦しい…」
 ケンスケの手からカメラが落ちる。
「それにしてもこのカメラは何よ、このカメラは?」
「ゲホゲホ…、いや、これはサービスで…」
「しなくていいんですぅ!」
 ゴン!っと見事なバックドロップが決まった。
「今…、脳天から落ちたような…」
「死んでないでしょうねぇ?」
「息はあるみたいだね」
「カヲル!?、一体どこからわいたのよ!?」
「酷いなぁ、ずっといたじゃないか」
 ニコニコとカヲル。
 レイはそうだったかなぁっと首をひねった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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