Episode:15D





「あのバカたれども…」
 ついに始まった卒業式。
 ミサトは拳を握りこみ、肩を怒らせていた。
「葛城君、ちょっと…」
「はい、校長先生…」
 思わず胃の辺りを押さえそうになるミサト。
「一体君のクラスの子達は、なにをやっとるんだね?」
 講堂、卒業生に在校生代表、父兄に先生方と、整然と並べられた椅子に座っている。
 ただその一角、ミサトのクラスだけが、わずか数人しか座っていない状況だった。
 ミサトわっかんなーいってぶりっ子したら殺されちゃうか…
 ミサトはわずかに座っている子たちの顔ぶれを見た。
 トウジとヒカリの姿があった。


「すまんヒカリっ、わしがどうかしてたんや!」
「あたしに謝ってもしょうがないでしょ!、それより碇君よ…」
 んーっと頭をかくトウジ。
「まあ、今日ぐらいは放っといたっても、ええんとちゃうかぁ?」
「またそんなこと言って…、親友なんでしょ?、何とかしてあげなさいよ」
「そういうたかて…、ケンスケかて親友やし…」
 トウジはぽんっとヒカリの頭に手を置いた。
「まあそう深刻にならんでもええて、いつものことやし、やばなったら惣流やらが何とかするやろ」
 笑顔を向けるトウジ。
「…うん、鈴原がそう言うんだったら」
 ヒカリはトウジの笑顔に弱かった。


 同じく、並んで座っているカヲルとミズホ。
 ミズホは羨ましげにトウジ達を見ている。
「顔色が冴えないね」
「ふみゅぅ…」
 うつむいてしまう。
「悪いことをしていると思ってるのかい?」
 こくんと頷く。
「そろそろシンジ君も懲りてるんじゃないかな?」
 カヲルは壇上を見ながら呟いた。
「謝ってくればいい」
 弾けるように顔を上げるミズホ。
「シンジ君は許してくれるさ、いつものように、ちょっとだけ反省してね?」
「私、行ってきます!」
 がたんっと長椅子を蹴って立ちあがる。
 座りなおすカヲル。
「行っておいで?」
「はい!、ちょっとどいてください、邪魔ですぅ!」
「え!?」
「なんで、どうして!?」
「きゃー!」
「あのバカ…」
 背を向けて、ミサトは見てないふりを決めこんだ。






「そこまでよ!」
 シンジ絶体絶命のピンチを救ったのは、クラスの女性有志一同だった。
 何人か他のクラスの子も交じっている。
「相田君!、これは一体どういうことよ!」
 胸を張るケンスケ。
「もちろん、人類最大の宿敵を葬り去らんがために集まったのさ!」
 ざっと総勢30名強。
「答えよ者共!」
「俺達男子一同はっ!」
「暗き青春に終止符を打つため!」
「今ここに立ち上がる!」
「見よ!、しっと魂は暑苦しいまでに燃えている!!!」
「ばっかみたい」
 一言で切り捨てられた。
「だだだだだ、誰だ!」
 女の子達が左右に引き下がった。
 できあがった道を歩いてくる惣流・アスカ。
「そ、惣流…」
「もてない男の僻みにつきあわされてちゃ、たまんないのよね」
 冷笑を浴びせる。
「な、なんだよ、俺達はあいつのおかげで日陰者だったんだぞ!」
「そ、そうだ!、復讐して何が悪いってんだよ!」
「悪いのはあんた達のおつむと性格でしょ?」
 びしっとケンスケを指差す。
「相田…、あんたにわかりやすく怒ってあげるわ」
「な、なんだよ…」
 思わずグビビっと唾を飲み込んだ。
「あんた、伝説の樹のスケジュール組んでたわよねぇ?」
「あ、ああ…、それがどうしたんだよ…」
 アスカはふっと笑った。
「お金、取ってたでしょ?」
 がぁんっと、ケンスケは殴られたかのような衝撃を受けた。
「そのあんたが、ぶち壊したのよね?」
 うんうんと頷く女子一同。
「さあ、責任は誰が取ってくれるのかしら?」
 にっこり。
 ケンスケは窮地に立たされた。


「うう…、もう、限界、のぼせそう…」
 ぐいぐいとレイの体が押しつけられてくる。
「レイ、もういいよ、捕まってもいいからさぁ、はやく出ようよ…」
「だめ!、もうちょっとだから我慢して…、ほら、アスカが頑張ってるみたい…」
 こんなおいしい状況、そうそう手放せないもんね!っとは心の声。
 注意が外へ向けられているためか、シンジはまだ見つかってはいなかった。
 だが扉が開けられたことで光が入ってきていた。
 レイと自分との体勢が、はっきりと確認できてしまう。
 いま…凄いカッコしてる…
 いや、いかんいかんっと雑念を振り払うシンジ。
「動いちゃダメ、見つかっちゃう…」
 確かにその通りだ!、いま見つかったら何言われるかわかんないよ!
 うう、でもこのままだとレイにチカン扱いされそうだし…、そうだ、他のことを考えてみよう!
 父さんがいつもやってるみたいにお経でも読んでみるんだ!
 スカイブルーのお空を鳥さん達が飛んでいくの。
 それはポエムだ。
 錯乱するシンジ。
 だめだダメだ駄目だ!
 いま我慢しなきゃ、いま耐えなきゃ変態さんだよ!
 そんなの助けようとしてくれてるレイに悪いじゃないか!
 まだレイの策謀だと気がついていないらしい。
 でも、なんだかこのままだと取り返しのつかないことになりそうな予感が…
 一応学習能力が働いている。
「シンちゃん?」
「ななな、なに!?」
「シッ!、もっと小さな声で…」
「う、うん、ごめん」
 ちょっとだけ間が開く。
「…なに?」
「うん、このあいだ測ったらね?、ちょっとだけ大きくなってたの」
「なにが?」
「胸…」
 ぽそっと返ってきた答えに、シンジは体中の血液を頭へ登らせた。
 レイの口から、クスクスと笑いが漏れている。
「か、からかわないでよ、もう!」
「だって、ほんとのことなんだもん、…でもまだ盆地とか貧乳って言われるんだけど」
「そ、そんなことないと思うけど…」
「えっち…」
 間髪入れずに返ってきた。
「ひ、ひどいや!、レイが言い出したんじゃないか!!」
「だって、誰と比べたのかなぁって…」
「ほ、洞木さんと同じぐらいかなぁって思ってたから…」
「え!、ヒカリ!?」
「うん、さっきちょっと触っちゃって…」
 はっ!?
「ち、違うんだ、レイ!」
 ゲンドウそっくりにうろたえるシンジ。
「シンちゃん、それ一体どういうことよ!」
「お、落ち着いて!」
「くやしー!」
 そのままの体勢からベアハッグへと移行する。
「痛いイタイったい!」
「許さないんだからー!って、あわ…」
「あああああ!」
 マットが斜めに傾いた。
「た、倒れる!」
「きゃああああああ!」
 シンジ達はマットごと、跳び箱だのなんだのを押し倒すように倒れていった。


「さあ、責任は誰が取ってくれるのかしら?」
 にっこり。
 窮地に立たされるケンスケ。
 …そこへ。
「きゃあああ!」
「な、なんだ?、うわ!」
 どすぅんっと体育倉庫の中から激震が…
「一体なんなのよ…、あんたたち!」
 アスカは目を剥いて驚いた。
「いててててて…」
「もう、レイが暴れるから…って、あ…」
 空虚な間があった。
「シンジぃ〜」
 ケンスケがうつむいて怒りの声を吐き出した。
「お前、俺達がなんで追いかけ回してたか、わかってんだろうなぁ」
 声が震えていた。
 同調する男子一同。
「ま、まってケンスケ、話せばきっとわかるよ!」
「その体勢で何がわかるんだよ!」
「え?」
 ようやくレイを組み伏せているような状態だと気がついた。
「わわっ、ごめんレイ!」
「え〜、もう離れちゃうのぉ?、いいじゃんずっと抱き合ってたんだから、もっといちゃつこうよって、ぎゅ〜☆」
 抱きつくレイ。
「かああああああ、シンジぃ!、やはりお前こそ最大の怨敵!」
「ご、誤解だよ!」
「誤解も…」
あんたは黙ってて!
 アスカの怒りが爆発した。
「あああああああ、アスカ…」
 燃える赤毛がゆらゆらと揺れている。
「なに?」
 にっこりと、笑顔がまた恐かった。
 あまりに恐くて、シンジはそれ以上言葉にできない。
んもー!、切れたわよバカシンジぃ!
 ゴウッと炎のごときオーラが立ち上った。
「こ、恐い…」
「これが女の嫉妬ってやつか…」
「俺達なんて、足元にもおよばねぇ…」
「すばらしい!」
 ケンスケだけが感動していた。
「鳥肌が立つほど凄いぞ!、ぜひ惣流も仲間に!」
「うっさいのよ、あんたわ!」
 ドガシっと蹴り飛ばした。
「タメ口なんて百万年早い!、いい?、あんたは下僕よ下僕!」
「げ、下僕ぅ!?」
「あんた達もよ!、ちゃっちゃとシンジを張り付けに…、あれ?」
 すでに逃亡済みのシンジ。
「すげぇ」
「なんて早さだ…」
「いつの間に…」
 ついでにレイも姿を消していた。
「むうううううううう!、こうなったら草の根かき分けてでも探し出すのよ!」
「ええ!?、俺がぁ!!」
「いいから行けぇ!」
 アスカの惣流JRパンチがケンスケの顎を見事に捕らえた。
「あああああ、ケンスケ…」
「す、すげぇおっかねぇ…」
「よく碇のやつ、こんなの耐えられるなぁ…」
 悟る一同。
「ごめんな、ケンスケ」
「俺達にはついていけない世界だったわ」
「あとはお前に任せたぞ」
「「グッドラック!」」
 全員で見捨てた。
「ああっ、卑怯だぞお前らぁ!」
 おどおどと周囲を見回すケンスケ、女子軍団に囲まれていた。
「あああああああああ…」
「覚悟はいいでしょうねぇ?」
 誰かが聞いた。
「ひぃっ!」
 このあと、ケンスケの屍ができあがるまでに、約62秒しかかからなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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