Episode:17A




 朝、天窓からさしこむ陽。
 スズメのチュンチュンという鳴き声に、シンジは小さく呷いてまぶたを開いた。
「やあ、起きたのかい?」
「カヲル君…」
 カヲルは座椅子に座って、保温ポットをカップに傾けていた。
 昨夜飲んでいたコーヒーの残りだ。
「おはよう、カヲル君」
「おはよう、シンジ君」
 ちょっとだけカヲルの頬が上気している。
「カヲル君、まだ慣れないんだね?」
 はにかむような笑いで、カヲルは答えた。
「良いものだね…、朝起きて、挨拶をする人がいる、家族がいると言うことは幸せに繋がる、僕はいま実感しているよ…」
「寂しかったの?」
「かもしれない、ずっと一人だったからね」
 立ち上がる。
「顔を洗ってくるよ」
「あ、じゃあ僕も」
「シンジぃ!」
 そこへちょうど、アスカが上がってきた。


 カヲルと二人で歯を磨いているシンジ。
 背中では、アスカが凄い形相で睨んでいた。
「なんで起きてるのよ!」
「しょうがないだろぉ?、朝なんだから…」
「カヲルが起こしたんでしょ!」
「誤解だよ!」
「なんで庇うのよ!」
「だって…」
「いいよ、シンジ君」
「カヲル君…」
 うがいをすませるカヲル。
「シンジ君の寝顔はあどけないね?」
 すれちがう瞬間、アスカに囁いて洗面所を出た。
「何よあいつぅ!」
「アスカ…」
「!!」
 手短なタオルをつかんで投げつけた。
「バカ!」
「ば、バカはないだろう?」
「あんたなんてバカで十分よ!」
「何怒ってんだよ?」
「自分で考えなさいよ!」
 ぷいっと横を向く。
「なんだよ、どうせ先に起きてたからとか言うんだろ?」
「それだけじゃないわよ!」
「じゃあなんなのさ?」
「そんなにあいつに起こしてもらうのが嬉しいのかって言ってるのよ!」
「へ?」
 シンジはようやく気がついた。
「ぷっくく…」
「何笑ってんのよ!」
「ご、ごめん、でも誤解だよ、別にカヲル君に起こしてもらったんじゃなくて、自然に起きたんだよ」
「うそ!、だってあんた今までそんな事なかったじゃない!」
 そんなアスカの様子がおかしくてしょうがない。
「天窓、ブラインドも何もついてないでしょ?」
「それがどうしたのよ」
「朝日がそのまま入ってくるんだ、だから眩しくってさ」
 きょとんとするアスカ。
「それだけ?」
「そ、それだけ、だからアスカが怒る事無いよ」
 微笑む。
 赤くなるアスカ。
「だったらブラインド買ってくるなりなんなりして、ちゃんとあたしが行くまで寝てなさいよ!」
 つい怒鳴ってしまう。
「そ、そんな無茶苦茶な…」
「どうしてそう気がきかないのよ、バカ!」
 いーっと歯を見せてから部屋へ駆け戻っていった。
「なんだよ、アスカの奴…」
 よくわからなくて首をひねる。
「おはようございます、シンジ様ぁ!」
 ちょっと大きめのピンクのパジャマ。
 いつもと違ってまだ髪をくくっていない、シンジもやっと髪を下ろしているミズホに慣れてきていた。
「おっはよー、シンちゃん今日も無事だったぁ?」
「無事って何がだよ?、わっ、ミズホどうしたのさ!?」
 ぐしゅぐしゅとぐずり出す。
「もう、朝からなに?」
「ふぇ〜ん、だってぇ、シンジ様があのケダモノと床をご一緒してるかと思うと…」
「あ、妖しい言い方しないでってば!」
 思わず鳥肌を立てるレイ。
「とにかく泣きやまなきゃ、ね?」
 ミズホにタオルを渡す。
「ふええん、でもでもぉ!」
「だめ!、ミズホが泣きやまないと、シンちゃん歯磨きできないでしょ?」
 後がつかえている。
「シンちゃんが終わらないと、あたし達も顔が洗えないじゃない?」
 その時、ミズホを支えていたレイの動きが止まった。
「…ミズホちょっとお腹でてない?」
 大人しくなるミズホ。
「や、やぁですぅ、気のせいですぅ!」
「たぶん昨夜食べてた、たこ焼きのせいじゃないの?」
「あ、そういえば確か焼きいもも食べてたよね?」
「あううっ!、酷いですぅ、部屋覗くなんてぇ!」
 焦るミズホ。
「あれだけ匂いさせてりゃわかるよ…、それに冷凍食品の袋、散らかしたまんまで片付けてなかったでしょ?」
 片付けたのはシンジだった。
「はうう…」
 ついに観念するミズホ。
 ゴミはちゃんと片付けましょう!、そんな言葉が脳裏をよぎった。



 第拾七話「ライバル!」



「早くっ、早くっ、早くっ、はやくぅ!」
「レイ、ちょっとミズホが…」
 シンジが呼び止める。
「シンジ様ぁ〜〜〜」
「ほっときなさい!、入学式から遅刻したいの!?」
 レイが先頭を切り、アスカが続いていた。
「冷たいねぇ、アスカちゃんは」
「あんただけには、言われたくないわよ!」
 今日からはカヲルが加わっている、カヲルは息も切らさずにシンジの隣を走っていた。
「ふぅふぅふぅ…、でもでもぉ、中学よりは近くなってよかったですぅ」
 新しいブレザーに、何故かぐるぐるメガネをかけている。
「遅刻したら一緒じゃない」
「それよりさぁ…、ずっと聞きたかったんだけど、何?、そのメガネ」
「変でしょうかぁ?」
「変、絶対変!」
 ビシッと指差すレイ。
「ふええ〜〜〜ん、でもぉ、もうあんなの嫌ですしぃ」
「あんなのって?」
「卒業式の時のぉ、いっぱいお手紙貰ったのとかぁ」
「ああ…」
 皆で納得する。
「確かにまあ、あれはねぇ…」
「断るのも、大変だったしね?」
「ですですぅ!、すみません、ごめんなさいってお断りする時の雰囲気って、ちょっと…」
 ちらっとシンジを見る。
「…ふられた方の気持ちって、どこへ行ってしまうんでしょうかぁ?」
 シンジに問いかける。
「やっぱり消えて、無くなってしまうんでしょうかぁ?、そんなの嫌ですぅ」
 ぽんっとミズホの頭に手を置いたのは、シンジではなくてカヲルだった。
「どこにも行きはしないよ?」
「でもぉ…」
「気持ちは胸の内にある、誰もそれを消す事はできないさ、どんなに辛く悲しい事になっても、それを抱いていこうとすることこそ、前を見て生きるって事なんじゃないのかい?」
 微笑む。
「神様はそんな人のことをちゃんと見ているよ、幸せになって欲しいとね?」
 そうだろう、シンジ君?、っと横目で見る。
「そうでしょうかぁ…、そうですね!、わたしはわたしの想いを大切にしたいですぅ」
「そうだね、ミズホの想いはミズホの想いさ、誰にも変えられないし、育てられるのも自分だけだよ、だから大切に、消してしまわないようにね?」
「はいですぅ!」
 復活する。
「…カヲル、すっかりお兄さんって感じね」
 複雑な表情のレイ。
「わたしやっぱりこのメガネ使いますぅ!、わたしはシンジ様だけが思ってくだされば十分ですからぁ!」
 ぬけぬけと言い切る。
「あはははは…」
 困り顔のシンジ。
「でもそれじゃあ、前が見えないんじゃないの?」
「これ、ぐるぐるは飾りで、マジックミラーになってるんですぅ、だからほら、裏からは…」
「あ、ほんと、伊達になってる」
「へぇ、でもこんなのどこで買ってきたのさ?」
「赤木先生に作ってもらいましたぁ」
 なぜか、すざざっと引く一同。
「ば、爆発とかしないでしょうねぇ?」
 アスカの懸念はもっともだった。






「しっかしなんやなぁ、あいつら入学式から遅刻かいな?」
 あいもかわらぬジャージ姿。
「まあシンジ達のことだからな、朝からケンカでもしてるんじゃないのか?」
「もぉ!、二人ともふざけないでよ」
 校門の所でたむろってるトリオ。
 トウジは門柱にもたれ、ケンスケはその足元にしゃがみこんでいた。
「…なにしとんのや?」
「せっかくだからさ、さっそく女の子でもおさめとこうかと思って」
「さよか…」
 ねえ、あれ?
 あ、ほんと…
 登校してくる女の子達の視線が動いた。
 遠巻きに囁きあう。
「お、なんやなんや?」
「誰か来たみたい」
 いかにもジャニーズ系といった顔立ちの少年だった。
「あ、あれ鰯水くんだ」
「誰やそれ?」
「なにあいつダッサー!」
 ヒカリが答える前に、周囲からくすくすとバカにする声が飛んできた。
「陸上のエース、鰯水君を知らないなんて…」
「グラビアとかCMとか、いっぱい出てるのにねぇ?」
 冷たい視線。
「今一押しのアイドルなのよ」
「は〜ん…」
「トウジぃ、あんまり怒らせるなよ?、ファンってのは恐いんだからさぁ」
「ワシがなにしたっちゅーねん」
「まあまあ、それよりアスカ達来ないね?」
 トウジからまた校外へ視線を送る、が、ヒカリは驚いた。
 真正面に鰯水が立っていたからだ。
「えっと、君?」
「あ、ど、どうも…」
 緊張気味に笑ってみる。
 ヒカリに嫉妬の視線が集中した。
「おお!、100兆×100ギガバイトくらいのしっとパワーを感じるぞ!」
 カメラを構えるケンスケ。
「いやね?、いま「そんなことより」って聞こえたもんだからさ…」
 ケンスケのカメラを意識して、左斜め15度に構える。
「…この僕以上に大切なことってなにかと思ってね?」
 そしてふわさっと前髪をかき上げた。
 あははははっと脂汗を流すヒカリ。
「…なんやものごっついやっちゃなぁ…」
 対処に戸惑う。
「悪いね、ジャージ君、邪魔しないでくれるかな?」
「そうよ、このジャージおたく!」
 ギャラリーからの声。
「なっ!」
「そうだよ君?、女の子にとってこの僕と話すことほど幸せに満ち足りる瞬間があろうか?、いや無い!、断じてない!、そういうことだから、君は大人しくしていてくれたまえよ」
 いやみったらしく白い歯を見せる。
「そういうわけにいくかい!」
 ずずいっと前に出る。
「ほぉ?、どうしてかな?」
「ヒカリはワシの彼女や!、お前みたいなんに近づけとうないわ!」
「自分の…、か?、随分傲慢なんだなぁ」
 ふっと笑みを漏らす。
「女の子は男の所有物じゃない、自分の女だ!なんてよく言うね?、失礼だと思わないか?」
「いっぺん殴り倒したろか!?」
「暴力はいけないな、暴力は…」
「あ、ほら、来たぞ?」
 ケンスケが場違いな声を出した。
「いっちゃーく!」
 右手の人差し指を上げながら駆けこんできたのはアスカだ。
「そうはさせじと、ミサイル発射ぁ!」
 カバンを振り回して、放り投げるレイ。
「なんの我に迎撃の用意ありよ!」
 バン!っとカバンではたいた、はたかれたカバンは軌道を変えて…。
 ゴン!
「きゃー!、鰯水様ぁ!」
 彼の顔面に直撃した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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