Episode:17B




 キッと十数名の女の子に睨まれるレイ。
「あ、ご、ごめんなさい、大丈夫…、なわけないか」
「う〜〜〜ん…」
 きゅうっと気を失っている。
 レイはてへっと舌を出した。
 カバンの中には教科書兼ノートでもある端末機が入っている。
 その破壊力が今まさに証明されたわけだ。
「ちょっとあなた!、どういうつもりよ!」
 ファンらしい子に詰め寄られる。
「どうって、別につもりなんてなくて、ただの事故…」
「嘘よ嘘!」
「きっと鰯水君と話すためのきっかけを…」
「きっかけにしてはやり過ぎだね?」
「カヲル!」
 登校途中のみんなが何事かと足を止める中に、カヲルとシンジとミズホは混ざっていた。
「ちょっとなに遠巻きに見てるのよ!、ヒカリまで!」
 トウジ達も一緒にいる。
「あはははは、おはよ、アスカ…」
 ちょっと引きつってる。
「どうしたのよ、元気ないわねぇ?」
「ちょっと呆気に取られちゃって…」
「なによ、いつものことじゃない?」
 巻き込まれた鰯水の立場は?
「それより彼はいいのかい?」
 鰯水を指差す。
「あ、忘れてた…」
「こりゃ痛そう…」
「ごめ〜ん、大丈夫ぅ?」
 鰯水の顔を覗きこむレイとアスカ。
「だから投げるなって言ったのに」
「言ってないって」
 鰯水の頬をぴしゃぴしゃと叩く。
「おーい!」
「うう、あれ?、僕は…」
 レイを見て、ため息をつく。
「…素敵だ」
 隣にアスカの顔。
「可憐だ…」
 まさしく、漏らすような吐息。
「あっ、き、君達は!?、これは夢か?」
 がばっと跳ね起きる。
「なんだ元気そうじゃない、立てる?」
 手を差し出すアスカ。
 赤毛の髪をかきあげ、澄ました顔で彼女は言った。
 その日本人離れしたスタイル、すっと通った鼻梁、そして青い瞳、どこの誰が間違えようか!
そう!、彼女こそが誰もがうらやむ赤毛のアンダー…
この変態がぁ!
 アスカの靴底がケンスケの顔面にめり込んだ。
「変なナレーション入れながらカメラ回さないでよ!」
「メガネ、メガネ、メガネ…」
 落ちたのか、あわあわと這いつくばって探してる。
「ほうら相田君、メガネだよぉ」
 しゃがみこんで、目の前に吊るすレイ。
「あ、悪い綾波…」
 メガネをかけて、そのまま固まる。
 ゴクン…
「ちょっとレイ!!」
「あ!」
 スカートを押さえて、ばっと立ち上がる。
「こんの変態がぁ!」
 レイのパンツを凝視していたことに気がついた!
「あは、あはは、はは…」
「笑ってごまかすなぁ!」
「アスカ金属バットはマズいって!」
 アスカに組み付くヒカリ。
「うわわわわ、不可抗力だよ、不可抗力!」
「あんたのは便乗犯罪って言うのよ!」
 腕を組んで頷くトウジ。
「ああ、この裏切り者ぉ!」
「なんや、わしが何したっちゅうねん?」
「一緒に写真…」
「わしの親友に何するんや!」
 一瞬しらけた空気が流れた。
「バカ」
 冷たい目を向けるヒカリ。
 くすくすと周りから失笑が漏れた。
「君!、君は綾波レイだろ!?」
 はっと我に返って、思い出したように尋ねる。
「そうだけど…、あなた誰?」
「ぼ、僕を知らないのかい!?」
 突然レイの顔から優しさが消えた、凍るような冷たい視線を向ける。
「知らないわ」
 芯から震えてしまいそうな寒気を感じる。
「そ、そんな顔しないでくれよ、僕は鰯水って言うんだ」
 めげない。
「そ、興味ないから」
 あっさりと無視するレイ。
「やだー!、鰯水くぅん!」
「そんな子相手にしないでぇ!」
 ブーイングが上がるが気にしない。
「き、気に障ったのならごめん!、怒らないでくれよ!」
 慌てて立ち上がる。
「さあほら、笑顔でにっこりと、天使の笑みを」
「嫌よ」
 無下に断る。
「どうして?」
「…天使、嫌いだもの」
 あっけに取られる鰯水。
「そうそう、世の中あんたの味方ばかりじゃないのよ、わかった?」
「や、やあ君はちょっとばかり前に恋心を持ちあった惣流さんじゃないか」
「…またそんなホラを吹こうとする」
 アスカも冷たい視線を向けた。
「…鰯水、あんたこんな所で何やってんのよ」
 両手を広げて抱きしめようとしてきたので、アスカは露骨に顔をしかめた。
「奇遇だねぇ、僕もこの学校に入ったのさ」
ヤな感じぃ…
「ああ、これはもう天の思し召し、やはり僕達は結ばれる運命に…」
「ないわよ」
「アスカ、友達だったの?」
「怒るわよ?、レイ」
 嫌悪感を隠そうともしない。
「ああ!、どうしてそうつれないんだ!、あれはそう、僕がお遊びで出た県大会、君は女子100メートルで走っていたんだ、早かった、とても早かった!」
 まるで夢見るように一人で語る。
「なに鼻の下のばしてんのよ」
 記憶に鮮明なのは揺れる胸だったり…
「そうだ!、あの時君は「好きな奴なら他にいるから」ってそっけなかったんだっけ?」
「そうだっけ?」
 しらばっくれる。
「君に釣り合う男なんて僕以外にいるわけない!、そうだろう、惣流さん」
「へぇ?、それってばあたしのいない頃の話?」
 尋ねるレイ。
「ええ、そうよ?」
「じゃあアスカってば、あのことの前にそんなこと言ってたんだぁ」
 アスカを肘でつつく。
「ちょ、ちょっと!、あのことって何よ!」
「そんなの決まってるじゃない!、ファースト…」
「ああああ、あんたは黙ってなさいよ!」
 真っ赤になって口を塞ぎに掛かる。
「ファースト…ってなんだい?、まさかキス!?」
「な、なに大声で言ってんのよ!」
 アスカの顔がゆで上がった。
「違うんだろ?、違うと言ってくれ!、うわぁ!、そんな女神のように美しい君がどうして、どこの馬の骨と!」
「そんなの人の勝手でしょうが!」
「そうそう」
 うんうんと頷くレイ。
「そんじょそこらの骨と違って、カルシウムばっちりだもんねぇ?」
「意味わかんないわよ」
「そお?」
 そのままの笑みを鰯水の方へと向ける。
 ううっと鰯水、それでもレイがやっと笑ってくれたことに、なんとか微笑み返した。
 だがしかしレイが笑顔を向けたのは、その後ろにいるシンジへだった。
 それに気がついて、視線を追う。
「彼は…」
 はっと気がつく、そう!、渚カヲルだ。
 一人横を見ていた。
「もう大丈夫そうだし、いっかな?、みんな行こうよ!」
 手を振る。
「そうだね」
 微笑んだ、その微笑みに何人かが渚カヲル、ケンスケの本、kaworuを思い出していた。
「あのー、ちょっと通して貰いたいんですけど…」
 遠慮がちに声をかけて、一緒についていこうとするシンジ。
「なによあんた、うるさいわね、あっち行ってよ!」
 だが逆にカヲルのファンらしい子に噛みつかれた。
「あ、ご、ごめんなさい…」
 カヲル狂らしい子を前に、あっさりと引き下がる。
 何かがぶちんと切れた。
邪魔だって言ってんのがわっかんないの!、さっさとそこ、どきなさいよ!?
 アスカが叫んだ。
「あんたもぼさぼさっとしてないで、ちゃっちゃとこっちへ来る!」
「あ、うん、ごめん…」
 おどおどと前に出ていくシンジ。
 その腕にはミズホが噛り付いていた。
 振り向く鰯水。
 クスクス、なにあれ?
 そんな声が聞こえてきた、渦巻メガネの事を言っているのだ。
「くす、おっにあーい」
 シンジとミズホを指して笑う。
 そんな台詞に、ミズホは組んだ手に力を込めた。
「ミズホ、大丈夫?」
 バカにされて悔しいのかな?、震えてる…
「嬉しいですぅ」
 へ?っと、シンジは聞き返した。
「だって、わたし達お似合いだって…」
 あっそっと、さすがにシンジも返事に困った。
「やれやれ、あまりいちゃいちゃしてると、またレイ達が怒り出すよ?」
 二人の背を押すカヲル。
「か、カヲル君!、そんなんじゃ!!」
「わかってるよ、僕はね、でもあの子たちはどうかな?」
 むすっとした顔で睨んでる二人。
「あああ、あうう…」
「ほらほら、シンジ君も困ってるじゃないか、尖らせてばかりいると、可愛い唇がもったいないよ?」
「うっさいわねぇ、あんたには関係無いでしょ!」
 いつものように、カヲルはただ微笑みで返す。
「…綺麗」
 その微笑みに、誰かが呟いた。
 カヲルは鰯水のように整髪剤で髪を整えたりしていない、いつものままだ。
 その自然体が、鰯水のような作られた製品とは違う、芸術作品を連想させていた。
 写真など比べ物にならないほどの存在感。
 こいつ、敵だ。
 なにかを直感する鰯水。
「さあ、行こうかシンジ君」
「あ、うん、ちょっとミズホ離れてよ」
「うう、じゃあここでお別れなんですねぇ、シンジ様ぁ…」
「ミズホってばぁ、シンちゃん困ってるじゃない」
「あんたねぇ、何泣いてんのよ」
「そうだよ、今日は午前中で終わりなんだしさ、すぐじゃないか」
「うう…、うえぇ〜ん!」
「ああ、もう泣かないでよぉ…」
「いいよシンちゃん、ほっとけば」
「そうそう、最近過保護すぎんのよ、あんたわ」
 むりやりミズホを引きはがす。
「あまりミズホをいじめないようにね?、レイ、アスカちゃん」
「「あんたなんかに言われなくてもわかってますよーっだ!」」
 笑いながら、カヲルに舌を出す。
「君…」
 鰯水はカヲルに声をかけた。
「あんたねぇ、まだ何か用があんの?」
「いい加減にして欲しいわ」
 けんか腰のアスカとレイ。
「ちょっと二人とも、なに怒ってるのさ?」
「だってぇ…」
「ねぇ?」
「ああ!、君達みたいな美しい子がどうして、どうしてなんだ!」
 ビシッとカヲルを指差した。
「どうしてこんな男と!」
 アスカ達はゆっくりとその意味を砕いて飲み込んだ。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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