夜、電灯が照らし出す公衆電話に人影。
「ええ、うまくいってる…、どお?、そろそろ動いても…」
「いいやまだだ、これからもっと引き込まないと、相手はシンジだからな」
 それはどこかで聞いたような声だった。
「けどぉ…、どこかのクラブには入らなくちゃいけないのよ?、その期限も近いし、先生もうるさいわ」
「そっか、そうだな、でもあまり急ぐなよ?、シンジのことになると惣流の勘は野生動物並になるんだからな」
「ええ…」
 月がボックスの中を照らし出す。
 赤い瞳と青い髪。
「全ては、計画通りに」
 かちゃ、つー、つー、つー。
 しばしレイは、何処からか散ってくる桜の花びらに想いを馳せていた。



Genesis Q' Take19
「ラジカル庭球団」



「シンちゃんとカヲルは演劇部、ミズホは小和田先輩の追っかけ、ねえ、あたしたちはどうするぅ?」
 レイの問いかけに、アスカは「う〜ん」っと首をひねった。
 放課後、二人でクラブを見て回っていた。
「あ、シンちゃんだ」
「え?、どこ?」
 トウジ、ケンスケとテニスコートのネット裏にいた。
「ねえ、もうやめようよ〜」
「何言うてんのや!、今のうちにチェックしとかんと」
「そうだぜ?、お、あの子Aでどうかな?」
「甘いわ、B+」
 ネットに張り付き、チェックに余念がない。
「ねぇ?、なぁんかあそこに居るの、目つきヤラシぃ〜」
 まだクラブが始まって間がない、上下関係もないのだろう、みな和気あいあいと楽しんでいた。
「え、でもあれ碇君じゃない?」
「あ、ほんとだ」
「「いかーりくぅん」」
 向こうから名前を呼ばれて、シンジは思わず赤くなってしまった。
「かっわいー!」
「照れてる照れてる」
「けっ、おもろないのぉ」
「ほんと」
 ちっと吐き捨てる二人。
「きゃ!」
 倒れこむ女の子、スコートが丸見えになった。
「おお!」
 っとしゃがみこむトウジとケンスケ。
「きゃーー!」
 ボールだのなんだのと飛んできた。
「わわ!、ラケットは危ないっちゅうに」
「な、情けない…」
「…幻滅」
 アスカとレイは制裁を加えようと頷きあった。
「この変態ー!」
「うわぁ!」
「こら、逃げるなー!、けだものトリオ!」
「あんた達!」
「うわ、惣流!」
「綾波も!?」
 泡を食う二人。
「二人とも、あれはマズイよぉ」
 とてとてと追ってくるシンジ。
「なんやお前!」
「シンジも一緒に見てたじゃないか!」
「シンちゃんサイテー…」
「ち、違うよ、僕は無理矢理誘われて…」
「へぇ?、鼻の下が伸びてるみたいだけど?」
 耳を引っ張る。
「い、痛いよアスカ!」
「ちょっとこら!」
「あんた達ちゃんと謝りなさいよ!」
 テニス着の女の子たちが詰め寄ってきた。
「まったく、勘弁しないからね!」
「あ、ごめんなさい…、ほら二人とも謝らなきゃ」
「まったく、あんた達いったいなにやってたのよ!?」
「ちょっとあんた、話の途中で割り込まないでよ!」
「うっさいわねぇ…」
「なによその態度!」
「なによもういいじゃない、謝ったんだから」
「あんたねぇ、スコート覗かれたのよ!?」
 と言って、後ろに控えて居た女の子を前に出す。
「これはもう責任取ってもらうしかないじゃない?」
「なによ、責任って」
「丁稚奉公」
 シンジを指差す。
「この子って結構重宝するらしいじゃない?、しばらくマネージャーやってもらうわ」
「ええっ!?、嫌ですよ、そんなの」
「アホが!、だまっとらんかい!」
「どうぞどうぞ、こんな奴で良かったらいくらでも使ってやってください」
 ポカポカっと二人を殴る。
「あんたバカぁ?、なんでシンジがそんなことしなくちゃいけないのよ」
「そそそそ、シンちゃんそんな暇ないもんね?」
 といってシンジの腕を取るレイ。
「あら?、あなたは…」
 そこへテニスボールが飛来してきた。
「あっと、ちょっとごめんね」
 パシっとダイレクトに取るレイ。
「え?」
「ごめんなさーい!」
 どこから飛んできたボールか確認。
「あんな遠い所から!?」
 部員の子が手を振って謝っていた。
 突然電子手帳を取り出し開く、手帳から電子音声が流れ出した。
「綾波レイ、第一中学でトップクラスの運動神経を誇る逸材、50メートル6秒台は同じ中学の惣流・アスカと共に、非公式ながら第三新東京市の大会記録と並んでいる」
 次々とレイに関するデータが告げられていく。
「はい、ボール、これでおあいこ、いこ?、シンちゃん」
「あ、待って!」
 腕をつかまれ、レイはきょとんとした。
「えっと、なに?」
「あなた、綾波レイね?、そうでしょ!」
「そですけど…」
「綾波さんテニスやってみない?、テニス!」
「え?、え!?」
「テニスで明日をつかむのよ!」
 がくがくと揺すられるレイ。
「でたわ部長の病気が!」
「誰彼かまわずクラブに勧誘しようとする丹下段平病!」
「部長!、やめてください!」
「そうですよ!、もう何人引っ張ってきたと思ってるんですか!」
「はなしてぇーーー!」
「えっと、あの…」
「あ、いいからいいから」
「もういいから、逃げなさいって」
「あ、はあ、じゃあ…」
「ああもう離して!、ちょっと…」
 少し離れた所で振り返るレイ。
「ふう、何だったんだろ、あの人?」
「ああ、栗末先輩だろ?」
 メモ帳を取り出すケンスケ。
「引き抜きで有名なんだよな、あの人」
「へぇ?、よく知ってるわね?」
 覗きこむアスカ。
「ああ、良いお得意さんなんだ、いつも最新のデータを…って、あ」
「ふぅん、で?、最新のデータって、なに?」
「なんなのよ」
「み、みのがしてくれよん」
「「ダメ」」
「アホが…」
「ごめんケンスケ、僕には見てることしかできないんだ」
「薄情者ぉ!」
 引っ立てられていくケンスケだった。






「まったく、相田のせいで時間取られちゃったじゃない」
「しんじらんない!、どうしてスリーサイズまでチェックしてあるの!?」
 ケンスケの手帳を奪ってきたらしい。
 二人で校舎内の廊下を歩いている。
「むぅ、どっからこんな情報を仕入れてくるのかしら?」
「今度はっきりさせなきゃ」
「あ、ここみたい…」
 教室の前で立ち止まる、上には美術室のプレート。
「ねえ、誰か居る?」
「いるけど…、遊んでるみたいだよ?」
 開けっ放しの扉から覗いて見る。
 クロッキー一つ開いている人間はいない。
「あ、もしかして入部希望の人?」
「え?、あの…」
「いま色んなとこ見て回ってて…」
「そうなの?、あ、じゃあこれからちょうどお茶にするとこなの、寄ってかない?」
「でも…」
「ねぇ?」
「いいからいいから、さ、入って入って…」
 強引さに負け、教室に入る。
 とたんに大きな歓声が上がった。



「あ、レイ!」
 校門の所でレイを見つけたシンジ。
「シンちゃん…」
 レイはどこか元気がない。
「帰るの?、…どうしたの?」
「ううん…、別に…」
 物憂げな様子。
「ちょ、ちょっと待っててね、鞄取ってくるから!」
 校舎へと駆け戻るシンジ。
「あ、シンちゃん…」
「すぐだから!」
 レイはその背中にため息をついた。



「あ〜あ、綾波さんもダメかぁ」
「レイ、こういうのには乗ってこないから」
 美術部の部長らしい女の子と、ホントにお茶をすすっているアスカ。
「う〜ん、二人とも可愛いし、入部してくれたらモデルになってもらおうと思ったのに…」
 え〜?っと、渋い顔をするアスカ。
「それはやだなぁ、なんだか人寄せにされそうだし」
「そお?」
「うん」
 湯呑みを両手でつかんで、口元に持っていく。
「熱…、一応レイにはあたしから謝っときますから」
「ごめんねぇ?、ほんと怒らせちゃったみたいで」
「騒がしいの嫌いだから、あの子」
 アスカは嘘をついてごまかした。
「あー!、こんなとこにいた…、丸智奈!、あんたまたあたしの邪魔しようっての!?」
「なに?、惣流さん栗末にも目をつけられてたの?」
「レイならもう帰ったけど?」
 冷たい視線。
「ちっ、逃げられたか…、いいわ、とりあえず惣流さん、あなた確か中学の大会に出てたわね?」
「うっ、知られてたか…」
「あたしのチェックは完璧よ!、どう?、その才能、埋もれさせるには惜しいわ」
「あんたバカぁ?、あたしがスコートなんてはいたら、相田みたいな変態の餌食になっちゃうじゃない、そんなのずええええったいに、嫌よ!」
「そんなこと言わないでぇん☆」
 と、しなだれかかる。
「何よ気持ち悪いわねぇ」
「それともなに?、あのケダモノトリオが先生に捕まってもいいっての?」
「な!?」
 打って変わって高飛車な態度。
「女の子のスカートの中覗いたのよ?、これはもう立派な犯罪よねぇ?」
「んな無茶な…」
 ふふんと嫌な笑みを見せる。
「どう!?、碇君、悲しむだろうなぁ、退学かぁ、よくて不祥事扱いの自宅謹慎…」
「あんたバカぁ?、んなことなるわけないじゃん」
 呆れた表情でお茶をすする。
「むむ!」
「それに思春期の少年のごく自然な異性への憧れじゃない、いちいち気にするってんなら、テニスなんてしなきゃ良いのよ」
「むむむ!」
「ま、もしも万が一にもレイが入るって言いだしたら、一緒に入って上げてもいいけどねぇ」
 そんな事はあり得ないと舌を出す。
 だが栗末はめげなかった。
「ほんと?、ホントね!?」
「え?、うん、まあ…」
 みんなばらばらだし、あたし達だけでも一緒のクラブに入りたいもんね…
 アスカは少し気楽に考えていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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