Episode:19 Take2



(えーーー!、綾波じゃん!!)
(らっきー!、俺ファンだったんだ、よろしく!)
(やっぱ可愛いよなぁ!)
(そうそう綾波さんみたいのを「お人形さんみたい」っていうのよね?)
(綺麗だしさぁ、お前らとはどっか違うよな?)
(どういう意味よ!)
 やだなぁ…
 校門脇の木にもたれかかる。
 そんなに違うのかな…
 前髪をつまんで、目の前までもってくる。
 でもカヲルみたいにはできないもん。
 レイは憂鬱な表情をしてたたずんでいた。
「レーイ!」
 シンジが息を切らせて走ってくる。
「ごめん、待たせて」
「ううん、いいの、でも久しぶりだね?」
「なにが?」
「一緒に帰るの、それも二人っきりで」
 レイは強引にシンジの腕に腕を絡めた。
「れれれ、レイ!?」
「いいでしょ?、みんな居ないんだし」
「う、うん…」
 シンジは何が恐いのか、きょろきょろと周囲を確認した。
「誰も居ないってば!」
 ぶうっとふくれる。
「もう!、シンちゃんが嫌ならいいよ」
 するりと腕を抜こうとする。
 思わずぴくっと動いてしまうシンジ。
 レイは「にっ」と笑むと、改めて腕を組みなおした。
「ほんとはこんなこと、したいくせに…」
「え?、違うよ!?、違いません、はい…」
 怒ったような赤い瞳に固くなる。
「でもさ一人でどうしたの?、元気なかったみたいだし…」
 その言葉に曖昧な笑みを返すレイ。
「なんでもないの…、ちょっとクラブのことで悩んでただけ…」
「ああ、レイまだ決めてないんだっけ?」
「うん、それで…、ねえ、シンちゃん…、吹奏楽って面白いと思う?」
 シンジは「う〜ん」と考え込んだ。
「ごめん、わかんないや」
「どうして?、シンちゃんチェロとか習ってたんでしょ?」
「ほとんど個人レッスンだったし…、あんまり他の人と演奏とかしたこと無いから」
「ふ〜ん…」
 シンジの肩に頬を当てる。
「じゃあ、やっぱりやろっかなぁ?、そしたら一緒に演奏してくれる?」
 上目使いに見上げる。
「レイが楽譜を読めるようになったらね?」
 微笑むシンジ。
「よかった!」
 満面に笑みを湛えて、レイはシンジの腕に体を押しつけた。
「でも…」
「ん?」
 シンジの呟きに、顔を覗きこむレイ。
「ちょっと残念かな?」
「なにが?」
「ほら、だってマヤ先生にも誘われてたでしょ?」
「うん、まあ…」
「レイって体動かすの好きみたいだから…、体育系のクラブに入るんだと思ってたんだ」
 レイを見る、だが頭を預けられているので顔が見えない。
「…レイ?」
「ホントはね…」
「なに?」
「何でもない!」
 強引に話を打ち切る。
 シンジはそんなレイに不自然さを感じた。
「レイ…」
「それより!、シンちゃんもっと牛乳飲まなきゃ!」
「なんだよ、いきなり…」
「だって、身長全然伸びてないし」
「伸びてるよ」
「えー?、でも身長差かわんないよぉ?」
「レイも伸びてるからだよ…」
「そっかぁ、でももっと伸びて欲しいなぁ…」
 ん〜とシンジを上から下へ、舐めるように見定めた。
「これじゃちょっとねぇ…」
「なにが?」
「身長差、だってあたしがヒールのある物履いたら、腕も組めなくなっちゃうし」
 首をひねるシンジ。
「レイ、そんなの持ってたっけ?」
「ないよ、けど履いてみたいし…、それにね」
 なぜかもじもじと。
「なに?」
「き〜す☆」
「え?」
「キスよ、キス!、キスする時にあたしが見下ろすのってちょっと嫌だし…」
 と背伸びする。
「酷いや、僕だって背が低いの気にしてるのに…」
 何故か突然顔をそらすレイ。
「どうしたの?」
「…なんでもないですぅ」
「変なの?」
「だってぇ、シンちゃん、あたしのこと意識してくれてるんでしょ?」
 肩に頬を当てシンジを見、わざと髪で鼻をくすぐった。
「う、うん、まあ…」
 どうしてアスカと同じシャンプー使ってるのに香りが違うんだろ?
 ドキドキするシンジ。
「……」
「シンちゃん?」
「ななな、なに!?」
「ごめんね?」
「なにが?」
「この頃…、優しくしてもらってなかったら…」
 うつむくついでにもう一度くすぐる。
「だから!?」
「寂しかったの…」
 今度は耳元で囁くように。
 ゴクリ…
 思わずシンジは喉を鳴らした。
 レイはその音に勝利を確信する。
「あーーー!、あんた達いったいなにやってんのよ!」
「あああ、アスカ!?」
 夕日の中から肩を怒らせてやってくる。
「ちえ、ゆっくりしすぎたかな」
 でも離れない。
「酷いよ、シンジ君…」
「カヲル君!?」
 アスカの後をついて来る。
「一緒に帰ろうと思って待っていたんだよ?」
「あ、ごめん…」
「待つのは勝手、別にシンちゃんが悪いわけじゃないじゃん」
「それよりなに腕なんか組んでんのよ!」
「あ、いや、これは…」
「良いじゃない、今日のシンちゃんはあたしのだもん、ねぇ?」
「ねぇ?って、そんなこと誰が決めたのよ!」
「あたしとシンちゃん」
「シンジ!」
「そんなこと言ってないって!」
「そうだね、シンジ君がそんなことを言うはずはない、だから…」
 シンジの隣に並ぶ。
「なに?、カヲル君…」
 カヲルは一つ笑みを浮かべると、レイとは反対側の腕を取った。
「こちらの腕は僕が貰うよ、シンジ君?」
「えっ!?」
「嫌なのかい?」
「そ、そうじゃなくて、あの…」
「ばかシンジが!、もっとはっきりしなさいよね!」
「そうよ!」
 ガス、ドカ!
 沈むカヲル。
 アスカの踵落としとレイのアッパーが同時に決まっていた。
「ああ、カヲルくぅん!」
 一瞬ポパイのような顎になって沈むカヲル。
「シンジ君、ちょっと今のは効いたみたいだよ…」
「カヲル君しっかり!、僕が家まで連れて帰ってあげるから!」
「ありがとう、優しいね、シンジ君は」
 ニヤリ。
 カヲルはシンジに隠れてレイとアスカに勝利の笑みを見せた。






「それで?、アスカちゃんとレイちゃんは決めたの?」
 と聞きながら、おひつからご飯をよそっているユイ。
 ゲンドウは残業で居ない。
「う〜ん、あたしは一応テニス部に席だけおいとくかも」
 一階の居間での夕食、だがミズホの姿も無かった。
「へぇ?、アスカ、テニス部に入るんだ」
 放課後のこともあってか、驚くシンジ。
「まあ嫌いじゃないしね、でもどっかのバカがノゾキに来るんじゃ考えものよね?」
 意地悪な目つきで見る。
「…ごめん」
「おや?、どうしてシンジ君が謝るんだい?」
「あ、いや、なんとなく…」
「あらあら、シンジもようやくそういう事に興味を持つようになってくれたのねぇ?」
「かかか、母さん!」
「いいのよ、良いの、若いんだからしょうがないわ」
 うんうんと一人頷く。
「もう!、からかわないでよ!」
「ふふふ、可愛いよ、シンジ君」
 謎の笑み。
「ぶわぁか…、それよりレイ、あんたはどうすんの?」
「え?、あ、うん、吹奏楽に入るかも…」
「えー!、なんでよ、あんたもテニスやんなさいよ」
「どうして?」
「どうしてもよ!」
 がつがつとご飯をかきこみごまかす。
 一緒のクラブに入りたいから!、なんて言えるわけないでしょうが!!
「いいじゃない、アスカはテニス部にすれば…、あたしシンちゃんと合奏してみたいの、ね?」
「あ、うん」
「なにそれ?」
「約束したんだ、レイと」
 ピーッとやかんが吹く音。
「あ、僕が取ってくるよ」
 アスカはシンジが台所に消えるのを待った。
「なによあんた、まだ怒ってんの?」
「別に…」
 レイは黙々とご飯を口に運ぶ。
「なによ、文句があるならはっきりと言いなさいよね」
「あたしはどうしようかと考えているだけよ…」
「あんたねぇ、人間必要とされてるうちが華なんだから、掛け持ちでもなんでも良いから入ってあげなさいよ」
「…掛け持ちなんてできない、だってみんな真剣なのに…」
 はぁ?、っと首を傾げる。
「まあそりゃあ?、中学と違って大会とか多いしさ…、なに?、掛け持ちなんて不真面目だって思ってるわけ?」
「違うわ…、ただ一生懸命頑張っている人たちに悪いと想うだけ、気にする事ないわ…」
「気になるわよ!、なによ見学の時から様子おかしいし、なにがそんなに気に入らないわけ?」
「別に…、なんでもないって言ってるでしょ?、ごちそうさま」
「どこ行くのよ!」
「コンビニ…、買い忘れた物があるから」
 そう言って出ていく。
「なによもう!、あいつ…」
 ぱたんと襖を閉じて、一人息を吐くレイ。
 それからすぐ側の人の気配に気がついた。
「シンちゃん…」
 そこにはシンジが立っていた、入りづらくて突っ立っていたのだ。
「ごめん…」
「……」
 レイは無言で玄関へ。
「あ、レイ」
 靴を履き、紐を絞め出て行く。
「レイ…」
 後を追えず、シンジは立ちつくした。
「ふう…」
 諦め、戻る。
「本当は興味があるくせに、なんでああ頑固なのかしら!」
 怒りを食欲に転嫁しきれないのか、アスカの食べ方は荒い。
「しょうがないよ…、レイにだってやりたいことがあるんだと思うし、それを勝手に変えさせるなんて、その方が悪いんじゃないかな?」
「へぇ〜、あんたそんなにレイと合奏したいの?」
「ちちち、違うよ!、そんなのじゃなくて…」
「わかってるわよ、バカ」
 つくづくと言った目で見る。
「な、なんだよ?」
「あいつが本気で吹奏楽に入りたがってると思ってんの?」
「違うの?」
 一緒に演奏してくれる?
 シンジはその言葉を嬉しく思っていた。
「だって…」
「だってもなにもないの!、あいつったら「あれ楽しそう!」「やってみたい」ってはしゃぐくせに、「じゃあ入部しようか?」って言ったら「やめとく」の一言で済ますのよ、理由も言わずにね」
 お茶!っとシンジに要求し、ずずずっとすする。
「あいつ絶対何か隠してる!、はっきり言えばいいのに、それが腹立つのよ!」
「そうか…、アスカちゃんはレイが他人行儀で水臭いから怒っているんだね?」
「ち、違うわよ!」
「そうかい?、それはアスカちゃんの優しさだよ、隠す事はない…」
「そうなの?、アスカ」
「うっさい!」
 アスカは思いっきり照れていた。
「だいたい、そんな事にも気がつかないあんた達が鈍いってだけじゃないのよ!」
「そ、そっかな?」
「そうよ!、吹奏楽ぅ?、確かにシンジべったりのレイならうなずけるけどね、今はそれを言い訳にしてる、みんなに嘘ついてごまかそうとしてる!、そんなの許せないわよ、そうでしょ!?」
「で、でも言いたくないのなら…」
「それがいけないっていうのよ!、あんな顔隠されたまんまで一緒に暮らせって言うの?、あたしはそんなの嫌よ!、どうしてそんなこともわかんないのよ、バカ!」
「アスカ…」
「ふんっだ!」
 居間を出、階段をどたどたと上がっていく。
「あんな顔…、か」
 心当たりがある。
 帰り道、シンジの「運動部に入ると思った」との言葉に隠した顔。
 レイ、何を言いたかったんだろ?
 シンジは食事を忘れて考え込んだ。
「何を笑っているんですか?」
「シンジも大人になったと思って…」
「ああ…、はい、そうかもしれませんね」
 ユイは温かく見守り、カヲルはしっとの混じった瞳で、恨みがましくシンジを見つめた。







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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