NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':1A






 時に西暦「2016」年。
 ともすれば闇に包まれてしまいそうな程に暗い暗い一室。
 いつもの二人がいつものとおり、互いを見ることもなく座っていた。
 ここはゼーレのビル、その最上階にある会議室。
「ぱちん!」
 気持ちの良い音。
 難しい顔で将棋盤に向っている冬月。
「すべて、我々のシナリオ通りだ、問題ない」
 赤い眼鏡でいつものファイティングポーズをとっているのは、第三新東京市で事実上の最高権力者、碇ゲンドウ。
「第三高校の建設はどうなんだ?」
 冬月はゲンドウを見ない、見たところで、あるのはいつもと変らない顔だ。
「順調だ、2%も遅れていない」
「校長、教師、俺のシナリオには無いぞ、あの人選は」
「問題ない、プロジェクトにはむしろ有用な人材だ」
 冬月はゲンドウの手元にあるファイルに視線を向けた。
「第二、第三高校か、まだまだ増えることを祈りたいが、昨日キール議長から計画遅延の文句が来たぞ?相当いらついてたな、あれは」
「収益は順調に延びている、各治安維持団体の設立にテーマパークの建設、老人達はなにが不満なんだ」
「肝心の「地方アイドル」の選出がおくれている」
 ファイルのタイトルが目に入る
「全ての計画はリンクしている、問題ない」
「だからといってじらすこともあるまい、いまゼーレが乗り出すと面倒だぞ?いろいろとなぁ」
「最有力候補はすべてこちらが要している、彼らはなにもできんよ」
 珍しくパスケースを取り出し、家族写真を見やるゲンドウ、そこにはゲンドウ、ユイ、シンジ、レイが写っていた、先日ハイキングに出かけた時のものだ。
 ――レイにこだわりすぎだな、碇。
 ゲンドウはファイルのタイトルに、にやりと口の端を釣り上げた。




第壱話

アイドル・プロジェクト





 その並木道は昔からよく歩いた道だった。
 ひとりで、ではない、昔はいつも側にいた人と。
 そう、いまは一人…寂しさが込み上げる。
 暖かい陽の光と、頬をなでていく爽やかな風が好きだった。
 青々と生い茂る樹々の香り、髪を彼の方へなびかせる悪戯な風。
 全てを空しく感じる。
 質素なブラウスとスカートの組み合わせが、今の彼女に大人の柔らかさを与えていた。
 歳のころは18だろうか?
 赤い髪が優雅なウェーブを描き、流れる。
 すこしばかりかきあげると、驚いたように歩みを止めた。
 立ちすくんで、目をみはる、いつのまにか胸の前で手を組み合わせていた。
 樹々の影と午後の陽射しを交互に受けながら、歩いてくる。
 短めの黒い髪と、幼い頃から変らない優しい瞳。
 夢?幻?
 手が、震える。
 彼女は胸が高鳴るのを感じた、影が描き出すモザイク模様、その上をはねるように駆け出し、美化120%の笑顔を浮かべる青年へと飛び込んだ。
「シンジさん!」
「アスカ…!」
 路面に落ちる二人の影が、やがて引き合うように一つに重なる…
「なんておいしい話、あるわけないわよね〜」
 む〜っと寝ぼけまなこで、抱き締めていたシーツを放り出す。
 男物のシャツ一枚で下はショーツが見えている、棒状に丸めたシーツを抱き締めて、にたにた寝顔を浮かべていたらしい。
 窓の外から喧騒と車のクラクションの音が聞こえていた、時計は午後を差している。
 途中で夢だと気づいてはいたが、起きるのがもったいなくて引きのばしていた。
 アスカは続きが見れるかな?、ともうひと寝入り決め込んだ。
 ここはアメリカ、ニューヨーク、父のもとへ遊びに来ていた。
「レイぃ…ミズホぉ…抜け駆けしないでよねぇ…むにゃ」
 こんどは違う夢を見ているようであった。






「ちーこく、チコク、遅刻ぅ!かーなりヤバいって感じぃ!!」
 一番先頭を駆けるレイ、続いてシンジが最も遅れているミズホを気にしながら走っていた。
「レイまってよ、ミズホが」
しんじさま〜
「あーもぉ、ほんとにヤバいってば」
「アスカが…いないと…みんな…何度も…寝なおす…もんなぁ…」
 はぁはぁと息の荒いシンジ。
 アスカの大声に慣れた三人には、目覚ましの音など無駄だった。
 目をつむったまま駆けてくるミズホ、空気を求めてあえいでいる。
「ミズホ危ない!」
 レイとシンジがぶつかったあの曲がり角で、歩いてきた男にミズホは特攻した。
 どん!
 倒れそうになったミズホを、あわてて支える男。
「大丈夫かい、プリティーガール?」
 金髪碧眼、肩口まである長い髪、ギターケースを担いでいる。
「あ、どうもすみませんです…ラステーリさん!」
「久しぶりだね、ミズホ」
「ミズホ、大丈夫?」
「大丈夫です、シンジ様」
 ミズホはラステーリに抱かれていることに気がついて、赤くなった。
「これは失礼」
 ラステーリはミズホを解放してからシンジと向き合った。
「はじめまして、シンジ君」
 どこか嫌な笑い方…レイは警戒心を強めた。
「え…、どうして僕の名前を?」
「そりゃ知ってるさ、女の子三人、男一人を手玉に取ってるプレイボーイ、よく聞かされたからね」
 むっとするシンジ。
「聞かされたって、誰にですか?」
「惣流・アスカ、知り合いだろ?」
「アスカが…そんなことを!?」
「挨拶はまた後でゆっくりとね、それよりいそがないと、遅刻するんじゃないかな?」
 あっと、時計を見るレイ。
「ヤバいってシンちゃん!」
 思い出したようにシンジの袖を引っ張る。
 予鈴の音が聞こえてきた。
「またあとでな」
 駆け出すシンジの背中に、声をかけるラステーリ。
 シンジは嫌な予感を覚えながら、学校へ向かった。






 教室に飛びこむ、担任であるミサトがまだきてなかったので、三人気が抜けた。
 学級委員長であるヒカリがかわりに出欠を取っていたので、拝み倒して情けをかけてもらう。
 席に着こうとしたシンジに、トウジが声をかけてきた。
「シンジぃ、バンドやらへんかぁ?」
 は?という顔で、レイとミズホは誰に声を掛けたのか反復した。
 先に来ていたカヲルが、にこにことシンジの机に座った。
「バンドって?」
「今度のバンドコンテストや、音楽祭っつーて市がお祭りやるやろ?」
 トウジの頭を押えるケンスケ。
「バンドフェスティバルだよ、市が毎年開くことにしたんだってさ、G・Front前の大通りを遊歩道にしてね、それもテレビ中継つきだぜ?」
「映してもらえるわけないじゃないか」
 にべもなくシンジ。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと待ってよ、シンちゃん楽器弾けるの!?」
「ひけるよ?」
 驚くレイと、きょとんとするシンジが対照的。
「なんや綾波しらんかったんか?センセけっこう色んなもんやってるで、うまないけどな」
「ほっといてよ」
 ぶーたれるシンジ。
「ま、おれたちプロじゃないからさ、でもその分を差し引いたって勝算はあるんだ」
 ふふん、とケンスケ。
「はいはいはい、みんな静かにしてね〜」
 ミサトが教室に入りながら、手を叩いて席に座るよう指示した。
「一時間目の音楽の授業なんだけど、特別講師としてアメリカからこの方におこし願いました、どうぞぉ、はいっていいわよぉ」
 クラスの女子がきゃーっと奇声を上げた。
 シンジは「やっぱり」と予感が当たったことを知る。
「カイザー・ラステーリです、飛行機が遅れちゃってね、遅くなってすみませんでした」
「わたしをあそこまで待たせた男は始めてよ」
「美人がやきもきしてる姿は、見てて飽きませんからね」
 ミサトの皮肉をウィンク一つでかわしてみせる。
「今日は挨拶に伺っただけでね、ついでに紹介してもらおうって事になったんだけど…、おや、碇君、綾波さん、ミズホもこのクラスだったんだね」
 わざとらしくラステーリ。
「センセー、ミズホだけやけに親しいみたいやけど、どういう関係ですかー」
「アメリカで友達だったんだよ、な、ミズホ」
「お世話になった方の、お友達だったんですぅ」
 ラステーリを売り込みに掛かるミズホ。
「お世話になってるって、じゃあアスカのお父さんの?」
「はい」
 にこにことヒカリの質問に答える。
「おや君もアスカを知ってるのかい?」
 しらじらしくラステーリ。
「はい、だってクラスメートだし」
「そうか、アスカはこのクラスなのか」
「アスカ今アメリカ行ってるんですけど、お会いになられました?」
 無邪気なミズホ。
「もちろん会ったとも、ぼく達は結婚を誓いあった仲、つまり婚約者だからね」
「「「「「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」」」」」
 嬌声が響いた。
「シンちゃん!」
 思わずシンジを見るレイ、シンジは顔を蒼白にして、ラステーリを見つめている。
「ラステーリ…、カイザー・ラステーリ、そうか!」
 突然ケンスケが椅子を蹴って立ち上がった、椅子が倒れる音に、クラス中が静まる。
「センセー、もしかしてアマチュアロックバンド「カイザー」のギタリスト、カイザー・ラステーリじゃありませんか?」
 興奮したお面持ちでケンスケ、なんやそれ、っとトウジ。
「よく知ってるねぇ、そのとおり、でも間違いが一つあるよ、この間めでたくデビューしたからね、今はプロさ」
 その情報が女子に拍車を掛けた。
「何やケンスケ、そのカイザーっちゅうバンドは有名なんか」
「もちろんだよ、知らないのか?」
 ケンスケは机のラップトップをネットに繋いで、ロックバンド・カイザーの情報を検索した。
「ほらこれだよ、アマチュアなのに自主制作CDがミリオンセラー叩き出したって、有名なんだぜ」
「ふーん」
 けっこう興味なさげに鼻をほじるトウジ。
「何だよ冷めてるな…考えても見ろよ、もうすぐバンドコンテストがある時にわざわざ来たってことは…」
「敵や言うんか!?」
 ケンスケと顔を付き合わせて、ひそひそと話しだす。
「あるいは審査員か何かか…、でもシンジに対する口ぶりからすると…」
「あんまええ雰囲気ちゃうしなー、シンジさそたら、ワシらも敵視されるな、どうする?」
「シンジがいないとギターどうするんだよ、それに綾波、信濃、渚だってのってこないぜ」
「じゃ全面戦争あるのみか〜、きっついことなりそうやなぁ」
 ラステーリにたかる女子を眺めて、ため息をつくトウジだった。






 昼休みまでくると噂は噂を呼んで、離れてみたことで改めてシンジの情けなさに気がついたアスカが、人気急上昇中のラステーリに乗り換えた…と尾鰭が付いていた。
「シンちゃん、アスカから電話ないの?」
「なにもない、なにもきいてない…」
 ぶすっと、シンジ。
 屋上で、シンジ、レイ、ミズホ、カヲル、トウジ、ケンスケとヒカリでお弁当を広げていた。
 カヲルとケンスケのみ購買のパン食。
「まあ、惣流のことは後で電話してみればわかることやないか」
「鈴原、つめたい!」
「何するんや委員長〜」
 ヒカリお手製のお弁当を取り上げられるトウジ。
「まあ確かに、いけ好かんタイプやったけどなー」
 なんとか弁当をかえしてもらうトウジ。
「トウジの味方するわけじゃないけどさ、考えてるよりは電話した方がはやいよ、どうする?」
「シンちゃん、怖いならあたしがするけど?」
「いいよ…」
 芋コロッケとご飯を一気にかきこむと、気持ちを切り替えた。
「うじうじしてたって、しょうがないもんね、それよりトウジ、朝言ってたバンドだけど…」
「おう、やる気になったか?」
「でもボーカルもいないのにどうするのさ」
「ボーカルがいたからって、どうにかなるものじゃないだろう?」
 ラステーリだ。
「やあ、こんなところでお昼かい?」
「なにか…用ですか」
 警戒するシンジ。
「以前にもバンドを組んで、アスカを怒らせたことがあったんだって?」
「そんなことまで知ってるんですか」
 ラステーリの態度が違っている。
 威圧感という外衣をまとっていた。
「実はうちのバンドも出るんだよ、ファスティバルにね」
「下手なバンドには出るなって、言いにきたんですか?」
 けんか腰のトウジ。
「まさか、消えていくところは、何もしなくても消えていくさ、聴衆もバカじゃないからね」
 見下すラステーリ。
「猿の音もたまに聞いてみれば新鮮なもんさ」
 子供相手に容赦がない。
「用事いうて、はよ帰ってもらえますかぁ?」
「そうだね、黄色い猿は特に臭い方から」
 睨むシンジをあっさりと無視して、ミズホに優しい目をむける。
「ミズホ、うちのバンドで歌わないか?」
 しまった!とトウジとケンスケが顔を見あわせた。
「君の声なら俺達の演奏に負けない、どうだい?」
「ええとぉ〜」
 シンジを見るミズホ。
「だめです、ミズホは俺達と組むんだから!」
 ケンスケがかわりに答えた。
「君達と?」
 くっくっくっと、腹を抱えて笑いだす。
「君達じゃお話しにならないよ、アスカに昔のビデオを見せてもらったけどね、はっきり言って猿以下だ」
 真っ赤になるトウジ。
「先生っ、言い過ぎです!」
 ヒカリが立ち上がって抗議した。
「いや失敬、しかし身の程を知らないとダメだよ、恥をかくだけだからね」
 ラステーリは笑いをおさめると…
「それから「先生」はやめてもらえるかな?俺は音楽を教えには来たけれど、教員になるつもりは無いんでね、カイザー、またはラステーリと呼んでくれた方が嬉しいな」
 ウィンクをするが、一ミリグラムほどの感動も呼ばなかった。
「じゃあミズホ、考えておいてくれよ」
 手をあげてあゆみ去る。
「なんやあれ……あんなんが惣流の趣味やなんて、信じられんで」
「ほんと…」
「まあ惣流も案外ミーハーなんだろ」
 おろおろとしているミズホ。
「シンジ、こうなったら何がなんでもバンド組んでやってやるぞ!」
 ケンスケが立ち上がった。
「そうや、あないいけ好かん男に、言いたい放題させとけんわ」
 トウジ。
「けど、あっちはプロだよ、勝てるわけないじゃないか」
「勝算はあるさ」
「こっちにはアイドルっつー切り札があるさかいな」
 台詞を取られて、トウジを睨みつけるケンスケ。
「アイドル?」
「日本じゃ、カイザーみたいなバンドよりも、アイドルとそのバックバンドって方がウケるのさ」
「まあそういうことや、三人もおれば、なんとかなるやろ」
 相変わらずの皮算用だ。
「三人って…アスカいないのに、あと誰がいるのさ」
 三人と聞いて他を思い浮かべないシンジ。
「綾波に信濃、それにカヲルや」
「なんだ、僕もはいってるのかい?」
 わざとらしく前髪をかきあげる。
「そや、女の人気とるには、顔やさかいな」
「トウジ…それは無いとおもうよ」
 シンジ、しくしくーって感じ、涙流してる。
「安心してよシンジくん、君は僕のアイドルさ!」
 がばー!っと行きかけたところへ、レイのワンパンが炸裂、カヲルは床に沈んだ。
「出番が…」
 カヲルの呟きは届かない。
「それからもう一つ…これだよ」
 どこからともなくエフェクターを取りだすケンスケ。
「これは!」
「そう、GX−99」
 ふふふふふ、っと眼鏡が光る。
「これともうすぐ組みあがるスペシャルアンプ「サテライト」があれば、これ以上はないインパクトのある音が生まれるよ」
 ケンスケの異様な雰囲気に、生唾を飲み込むシンジとトウジ。
「で、でもレイはともかく、ミズホやるの?」
 ヒカリが場の雰囲気を変えようと、ラステーリ寄りかも知れないミズホに質問する。
「わたし大勢の前で歌うなんてできませーん」
 すごく簡単な理由だ。
「なんであたしはともかくなのよー」
 まだなんにも言ってないのにーと、レイ。
「僕はやってもいいよ」
 一番篭絡するのが難しいと踏んでいたカヲルの言葉に、ケンスケは意外な面持ちを向けた。
 よっこいしょっと、復活する。
「たまにはシンジ君に良いとこ見せないとね」
 シンジにしなだれかかるカヲル。
 ぴくっとくるレイ。
「綾波もやるやろー、シンジも惚れなおすかもしれんで?」
 ぴくぴく
「なにいってんだよトウジ」
 赤くなるシンジ。
「信濃も?頑張ってるとこ見せればシンジも見なおすよ、きっと」
「ケンスケー…」
「シンジさまー、わたしがんばりますぅ、ラステーリさんを「ぎゃふん」と言わせてやりましょー」
 最近アスカのセリフに毒されてるミズホ。
「なんやシンジ、煮えきらんなー」
「やっぱアスカがいないと盛り上がらないのか?」
 三つの微妙な意味合いを含んだ視線が、シンジを貫いた。
「ちがうよ、やるよ、やればいいんだろ!あんなやつに負けるもんか!!」
「「がんばろなー、シンジー」」
 トウジとケンスケのハモリ方に、はめられた!という感がいなめないシンジであった。






「お父さま、あたしたちバンドやることになったんです」
「なに?バンドとな?」
 夕食の場、さっそくレイは恒例の報告会を開いた。
 ゲンドウは読んでいた新聞をたたむと、祭りに出るのだな?と確認した。
「はい」
「で、シンジは?」
 話を振られて戸惑うシンジ。
「シンちゃんは楽器担当です」
「そうか…」
 腕を組み、少しばかり考え込む。
「まあいい、レイは何をやるんだ?」
「ヴォーカルとコーラス、カヲルとミズホの三人で、交代で歌うんです」
「他のメンバーは?」
「あとは相田くんと鈴原くんです…そういえば、楽器の担当ってどうなってるんだっけ?」
「たぶん僕がギター、トウジがドラム、ケンスケがベースになるんじゃないかな?」
「バンマスは誰がやるんだ?」
「鈴原君です、鈴原君ドラムってうまいの?」
「楽譜があったら何とかなる程度だよ、僕もケンスケもね」
「でもシンちゃんがギター弾けるなんて、ちょっと意外だなぁ」
「ああ、私が教えたからな」
「ええ!?」
「昔はよく弾いてくれたのよ?それでシンジも覚えちゃってね」
 河原で、夕日に向かってとは言わないユイ。
 恐い想像になるレイ。
「しかしやめたんじゃなかったのか?」
「シンちゃん、ケンカ売られたんです」
「穏やかじゃないわね」
「アスカの婚約者って言う人が…」
「婚約者!?アスカちゃんに?」
 まさかっ、と驚くユイ、ゲンドウに目でたずねる。
「フェスティバルのゲストだ」
「カイザー・ラステーリって人です」
 何か納得したようなユイ。
 ゲンドウは、「やつの嫌がらせだ」と心で呟いた。
「アスカちゃんと婚約と来たか」
 そのゲストが誰の紹介か、そこで嫌がらせだと気がつくべきだったのだ。
「シンジ」
「なに?」
「まけるなよ」
 それは無理なんじゃないかと顔を見合わせるレイとシンジ。
「まあ…頑張るけど」
 ふに落ちないシンジ。
「鈴原君達はどこで楽器覚えたの?」
「前にも一度バンドを組んだことがあったんだ、その時一緒に練習した」
「そういえば、そんなこといってたっけ、似合わないよねぇ」
 シンジは憮然として、ソーセージをご飯と一緒に口へほうりこむ。
「だって、シンちゃんってアルバム見ても今のまんまだし、まさかメイクとかしてたの?」
「ほっといてよ」
「その時の写真とかないの?」
「たしかアスカちゃんが持ってたはずだけど…」
「アスカが?どうしてシンちゃんが持ってないの?」
「シンジをいじめるんだって、撮っていたからな」
 なんとなく納得してしまうレイ。
「ごちそうさま」
「あれ?、シンちゃんもう良いの?」
「うん、なんだか食欲わかなくって」
 じゃ、おそまつさまっとユイ。
 電話の子機を持っていくシンジ
 ゲンドウは再び新聞を開き、シンジが部屋に戻るのを見て呟いた。
「青春だな、シンジ」
 それを見逃さないゲンドウだった。
 その日、シンジは電話するかどうかで固まったまま、朝を迎えた。






「いやー、カヲル巻き込んで正解やったなー」
「一人暮らし、それも夜中でも騒げるときたもんだ」
「でもいいのかしら…スタジオがわりに使っちゃって…」
 翌日、シンジたちは大まかなことを昼までに決め、放課後を待ってさっそく行動に移った。
 シンジ、ケンスケ、トウジ、ヒカリの四人はG・Frontにある楽器専門店「EVE」に来ていた。
 ヒカリをキーボード担当として雇うことになったので、キーボードをレンタルですませようというのだ。
「かまへんかまへん、青葉センセよりはマシやで」
「ラステーリを盾に、使ってない教室での練習認めさせちゃったもんな〜」
「泊まり込みの許可も取ったらしいで、酷い話や」
「スタジオ代が惜しかったんだ、きっと」
「せやけど強敵出現やでー、青葉センセのギターに日向センセ打ち込みのMIDIデータ、それに伊吹センセのボーカルや、きっつー」
「でもラステーリ先生だって出るんだし、言っちゃったら敵ばっかりじゃない?」
「考えてたら切りないなぁ」
「っていうか、実力ないのに考えてたってしょうがないってことかな」
「それはないんじゃ…」
「俺達よりも酷いバンドだって出るんだ、そう思えば気楽だよ」
 ケンスケはレイたちを使ってウケることしか考えてない。
 レイたちは今、カヲルの部屋で歌詞を頭に叩き込んでいる。
「だからって、また「あれ」はいやだからね」
 前にバンドを組んだ時のことを思い出すシンジ。
「そういや綾波が、しつこく聞きにくるんだよなぁ」
「なんや、ケンスケのとこにもいったんか」
「二人のところにもいったの?、あたしどう答えていいか悩んじゃった」
「あれやー、あんときはケンスケに洗脳されてたさかいなー」
「なんだよ、責任おしつけるなよな〜、だいたいシンジだってのりまくってたんだからさぁ」
「いやだあああああああ、思い出させないでよぉ〜、あの時はどうかしてたんだよぉ〜〜〜」
 うんうんと腕を組んでうなずくヒカリ、トウジ、ケンスケ。
「ま、センセの名誉のために話さんかったけどな、惣流が帰ってきたら絶対ばらされるで」
「ま、時間の問題だね」
「うううううう…」
 頭を悩ませつつ店内に入ると、シンジはよく知った背中を見つけた。
「父さん?」
 店主と話しこんでいるのは確かにゲンドウだった、その隣には冬月もいる。
「シンジか、どうした?」
「いや、楽器借りにきたんだけど…父さんは?」
「秘密だ」
 胡散臭さを隠しえない。
「それよりシンジ、楽器のレンタルなら来るだけ無駄だぞ」
 え?と中学生四人は、レンタル用の楽器が陳列されてるはずの棚に目を向ける。
「一体どれだけ即席バンドが出ると思ってるんだ?今頃きても無駄だ」
「え〜〜〜!」
 一番がっかりしたのはヒカリのようだ。
(せっかく鈴原に個人レッスンしてもらおうと思ってたのに〜)とは心の声。
「まあまあ碇、何を借りにきたんだね?」
 冬月が見かねて前に出る。
「キーボードです、洞木さんが弾いてくれることになったんで借りに来たんですけど…、どうしよう?」
 最後はトウジへの質問。
「こりゃ他の店まわっても一緒やろなー」
 ふと、何を思ったかシンジは父親に聞いてみた。
「父さん、誰か持ってる人知らない?」
「家に帰れ」
 即座に返事が帰ってきた。
「家?」
「そうだ」
「どうして?」
「行けば分かる」
 にやり。
 自分の父親ながら気味悪くおもうシンジ。
「いいじゃないかシンジ、どうにかなったら儲けものだよ」
「せや、時間かかって伊吹センセらに遅れとったら、それこそどうしようもないわ」
 ぴくっとくる冬月。
「待ちたまえ、その伊吹というのは、まさか伊吹マヤのことかね」
「知ったはるんですか?ごっつ歌うまいんで、青葉センセと日向センセがスカウトしたんですわ」
 うそだ、それが組んだ理由ではあるまい!
「泊まり込みの練習に教室を使っていいって許可も、とってましたよ?」
 あ、の、ふ、た、り、ーーーーー!
「碇っ、急用を思い出したんで失礼するぞ」
 身を翻そうとした冬月の腕を、がしっとつかむゲンドウ。
「どうした冬月、今日の打ち合わせが終わらんことには、準備を進められんのだぞ?」
 口元が笑っている。
「話せ碇、私は電話をかけねばならんのだ」
「ふふふふふ、電話なら携帯があるだろう、ここでかけろ」
「それもそう…いや、こんな大事な用件、部外者に聞かれるわけには」
「そういうな、お前が急用を「思い出す」ことなど珍しいからな、私も興味がある」
「興味でプライバシーを侵害するなー!」
「ん、私用なのか?、てっきり仕事の関係だと思ったが」
「あ、いや、仕事の関係なんだ、仕事の、だから聞かれては困る、お前も困るだろ」
「困らん、だからここでかけろ」
 ゲンドウは逃げようとする冬月の腕に腕を絡めた。
「いーかぁーーりぃいいいーーーーー」
 赤い眼鏡の向こうで笑うゲンドウ、睨みつける冬月。
「あ、ユイ君」
「なに?」
 一瞬ゲンドウの力がゆるんだ、冬月はその隙を逃さず腕を引き抜き走り出す。
「でわ碇、またあおう!」
 しゅたたたたっと走り去る冬月。
「……あ〜〜〜、父さん、いいの?」
「問題ない、お前も急げ」
「はあ…じゃ、いこうか」
 しばし無言で進む四人。
「…碇君のお父さんって、面白い人ね」
 シンジは「そうだね」としか答えようが無かった。


 その頃冬月は加持に電話を掛けていた、公衆電話から赤いテレカで。
「加持君か」
「これはこれは冬月先生…まさかまた、マヤちゃんのことですか?」
 加持は冬月の声に混ざる雑音から、公衆電話だと判断した。
「たのむ、ケダモノ…あ、いや、かりにも自分の生徒をそう呼びたくは無いのだが、あの二人とそこに泊まり込むというのだ、お願いだ、娘を」
 はいはい、わかりました…と、おざなりな返事をする。
「くれぐれも、くれぐれもだな…、あ、何だお前達は、ゼーレのセキュリティーじゃないか!さては碇の差し金だな!!こらはなさんか、はーなーーせーーーーーーー!」
 エコーがかかって小さくなっていく。
 がちゃ…
「冬月は重要会議のため失礼いたします、ご迷惑おかけしました」
 がちゃん、つーつーつー。
 セキュリティーの人間だった。
「これもお楽しみのうちですか、極東マネージャー」
 加持はため息をついて受話器を戻すと、収穫したスイカにしゃぶりついた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。



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