Episode:20 Take1



「ねぇシンジぃ…」
「ダメだよアスカ…、みんな起きてきちゃうよ…」
「もう寝ちゃってるわよ…、だからぁ、ねぇ?」
 深夜、台所から聞こえる甘い声。
「だ〜め…、まだ早いよ…」
「だめ…、もう我慢できないの…、お願いぃん」
 いつもと違った猫なで声。
「しょうがないなぁ、アスカは…」
 くすっと笑いが含まれる。
「だって…、シンジが毎晩毎晩…」
 暗がり、壁に張り付き様子を窺っている人物、ミズホだ。
「あ、そんなこと言うの?、だったらお預け…」
「やだ、いじわる…」
 はうあうあっと、色々な妄想が渦を巻く。
「いま行かねば、いま行かなかったら、もうとめられなくなってしまいますぅ」
 だが足が震える、恐い。
「でも…、こんなこと、みんなにバレたら…」
「シンジが嫌なら…、あたしは…」
 踏み出せば目に入る、その光景が…、その現実に耐えられないと感じる。
「はは、大袈裟だったかな?、きっとみんな許してくれるよ…」
「そうだといいわね…、本当は、ちょっぴり悪い気がしてたの…」
 アスカ…、とシンジの気づかう声に息を呑む。
「でも、でも言えない…、だって独り占めしたいから…」
「アスカは、欲張りなんだね…」
 深呼吸する、これ以上待てば、本当に後悔することになる。
 ミズホは頬をつたう涙に気がついていなかった。
「ほら、アスカ…」
「うわ…、おっきい」
 どくん!、心臓が跳ねた。
「もう固くなってる…」
「はやくちょうだぁい☆」
 その言葉に何を想像したかは別として、ミズホはためらいを振り切り叫んだ。
「シンジ様!」
「わっ!?」
「ミズホ!?」
 涙に歪む視界、その向こうでテーブルに手をついている少年と少女。
「うう、シンジ様のばかぁ…」
 うまく言葉にできない。
「ちょ、ちょっとミズホ!」
「あんた何泣いてんのよ!」
 駆け寄る二人、エプロン姿。
「シンジ様、シンジ様、シンジ様ぁ〜」
 言葉になってない。
「なんだよミズホ?、もしかして夜泣き?」
「あんたバカぁ?、んなわけ無いでしょ」
 シンジの代わりにミズホを抱きよせる。
「ほら、涙拭いて…、一体どうしたの…」
「どうしたって…、だって、だってお二人が…、チーン!」
 その先を続けられない。
「あ、もしかして…」
 シンジが罰の悪そうな顔をした。
「聞いてたのね?」
 アスカの腕の中で、びくんと体を震わせた。
「ふえ、ふええ…」
 また泣こうとする。
「ちょ、ちょっとあんたねぇ?」
「ミズホ、いくらなんでも泣かなくても…」
「ふええん!、だって、だってシンジ様とアスカさんが、秘密で、そんな…」
 そんな不潔なことなさってたなんて!
 喉につまり、口にできない。
「あ、あのねぇ?」
「わかったよミズホ…、じゃあミズホにも…、ね?」
 シンジの優しい、残酷な言葉。
「あ、あんたねぇ…」
「しょうがないよ、アスカ…」
「いや、そんなの嫌ですぅ」
 小さく首を振る。
「え?、嫌なの」
 意外そうなシンジ。
「わたし…、わたしはそんなのいりません!」
 泣きながら抗議する。
「そう…」
 残念そうなシンジ。
 ちくんと胸を傷めるミズホ。
「よかった!」
 逆に嬉しそうなアスカ。
 アスカさんのバカ!
 シンジに言えない分をアスカへ向ける。
「せっかくの独り占め、取られちゃったら嬉しさ半分だもんね?」
 アスカさんがそんなに意地悪だったなんてぇ!
 アスカはミズホをシンジへ預けた。
「さってと、じゃあ気が変わる前に食べちゃおっと」
 そんな、食べるだなんて、そんな!
 シンジを取られないように、首に噛り付く。
「じゃあいっただっきまーっす!」
 身をすくめる。
「はい、シンジ?」
 くちゅっと言う音がミズホの耳元で…
「…ん、おいし、ミズホ、本当にいらないんだね?」
 そんなのは欲しくないですぅ!
「せっかくうまくできたのにな…」
 うまくだなんて、上手くだなんて…
「このプリン」
 美味くだなんて!、え?、プリン?
 きょとんとしてシンジの顔を見る。
「ほーんと、シンジってば気の利いたもん買ってくるんだから」
 テーブルの上に「プリンの素」
「はあ〜、この大っきいプリンがみんなあたしのもの…」
 なんて幸せなの!っと、うっとりとプリンを眺める。
「バレたらみんなに取られちゃうと思ったんだって」
 ミズホに耳打ち。
 はっとしてシンジを見た。
 シンジもアスカよりははるかに小さいプリンを食べている。
「どうしたの?、ミズホ」
「えっ!?、あ、あの…」
 赤くなってうつむく。
「わたし…、わたしったら…」
 一瞬でもシンジ様を疑ってしまうなんて!
 ミズホのバカバカバカバカ、おばかさん!
 自分で自分を叱る、それを見ていてシンジは…
「あ、わかった、ミズホやっぱり欲しくなっちゃったんでしょ?」
 シンジは微笑み、自分のプリンをスプーンでわけた。
「はい、ミズホ…」
「あ、シンジ!」
 アスカが注意を促したが時既に遅く、ミズホはそのプリンを…、というよりスプーンをぱくっと咥えていた。
 はうう〜、シンジ様と間接キスですぅ!
「しゃ〜わせぇ☆」とミズホ。
 逆にアスカは不機嫌の塊と化していた。




Genesis Q' Take20
「空がとっても青いから」




 翌日、朝。
「まったくもう、ばかシンジが」
 朝になっても、やっぱり不機嫌なアスカ。
 歯をシャコシャコと磨いている。
「ほんと、ミズホに甘いんだから」
 皺が増えたらどうしてくれんのよ!
 鏡を見て怒りを募らす、眉間に皺が寄っていた。
「ムカついてなかなか眠れなかったしさ」
 巨大プリンのせいだとは思わないらしい。
「しっかし、ああいうのに弱いのよねぇ、あいつ」
 にやっと一瞬邪悪な笑みを張り付かせる。
「良いこと思いついちゃった…、けどタイミングが大事よね?、どうしよっかなぁ?」
「やあ、おはよう、アスカちゃん」
 にこやかにカヲル。
「おはよ」
 アスカは嫌々ながら返事を返した。
 いつものことと気にしないカヲル。
「シンジ君に聞いたよ?、プリンの独り占めをしようとしたって、あいかわらず意地汚いね、君は」
 くすくすと笑いながら、カヲルもまた歯ブラシを取った。
「うっさいわねぇ、カヲルのくせに…、シンジも何よ、秘密だってあれほど念を押したのに!」
「ミズホに知られたのが運の尽きさ…、だけどシンジ君に心苦しい真似は強要しないで欲しいね…」
「なんでよ?」
「シンジ君は純粋だからね?、汚さないで欲しいと言っているんだよ」
「あんたあたしが汚れてるって言いたいわけ!?」
「違うと言うのかい?」
「おあいにくさま、あいにくシンジのことなら誰よりもあたしが一番よく知ってるのよ」
「そうかい?」
「そうよ!」
「でも、いまシンジ君が君に何を思っているのか、知っているのかい?」
 勝ち誇った笑みに、アスカの自信がぐらついた。
「な、なにって、何よ!」
 アスカの曲線を繁々と眺める。
「アスカちゃん、太ったね?」
 ポカ!
「な、ななな、なに言ってんのよ!、殴るわよ!?」
「もう殴ってるじゃないか…」
 頭をさするカヲル。
「それにこれは、シンジ君が漏らしていたことだよ」
「嘘よ!」
 力一杯否定する。
「嘘じゃないさ…」
「じゃあ、どこにそんな証拠があるってぇのよ」
「それなら乗ってみるかい?」
 意地悪な笑み。
「体重計」
 カヲルは体重計に視線を向けた。
「むっ、あんたあたしをバカにしてるわね?」
 それをひったくる。
「神の造詣技術のみがもたらす、このあたしの完璧なラインに、一部の隙きもあるもんですか!」
 アスカはおもむろに乗った。
「ほうら(ピー)Kg…、え!?」
 もう一度確認。
「うそ…」
 引きつる。
「やだ!、2Kgも増えてるじゃない!」
 ニヤリとほくそ笑むカヲル。
「ほら?、悔しいけれど、君がシンジ君のことをよく知っているように、シンジ君もまた君の変化には敏感なのさ…」
 どうしてそう、いらない所ばっかり見てるのよ!
 ついウェストを気にしてしまうアスカであった。






「ほらレイ、しゃんとする!」
「うう、眠いよ、だるいよ、しんどいよぉ〜」
 寝ぼけ眼でスニーカーを履く。
「ねえシンちゃん達まだだよぉ?、もっとゆっくりしてこうようぉ」
 アスカは勢いよく玄関を飛び出した。
「ダメよ!、朝練にはちゃんと出るの!」
「なによぉ…、昨日まで「朝練〜?、なんでそんな面倒臭いものに出なくちゃいけないのよ、そんなに体鍛えたら筋肉質でごりごりになっちゃうじゃない、そんなの嫌よ、ぺぺぺのぺーっだ!」って言ってたくせに」
 非常によく似た、物まねつき。
「いいじゃない、それに誰も文句言わなかったんだし?」
 テニス部一同は特に反対しなかった、半分はアスカの肉体美が損なわれることを、素直にもったいないと感じたからだ。
「たんにアスカが恐かったからじゃ…」
「うっさいわねぇ、あ、間に合わないじゃない、走るのよ!」
「え?、あ、ちょっと…」
「急ぐ!」
「あん、もう…」
 しぶしぶながら付き合うレイだった。


「あれ、二人は?」
「もう行ったよ?、朝練に出るとか言ってね…」
「ふぅん…」
 シンジは落ち着かないまま、朝食を取り始めた。
「気になるのかい?」
「え?、あ…」
 カヲルは頬杖をつき、シンジを見つめた。
 ドギマギするシンジ。
「あ、違うよ、ただ…」
「ただ?」
 おかしげに首を傾げるカヲル。
「いつもの場所が空いてると、ちょっとね…」
 シンジはアスカとレイの席を見た。
「それは寂しい、と言うんだよ?」
「そうかな?」
 カヲルの言葉に、これからはずっとこうなのかな?っと、シンジは小さな不安を感じてしまった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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