Episode:20 Take4



「おかえりなさぁい?」
「た、ただいま…」
 カヲル、ミズホ、レイと連れだっての御帰還。
 何があったのだろうか?、ご機嫌な三人に対して、シンジは異様に疲れきっていた。
「みんなで楽しんできたみたいね?、まったく、人をのけ者にしてさ」
 玄関から上がらせてくれない。
 シンジはアスカに睨まれたまま立ちつくした。
 その横を頑張ってねぇ?っとみんなが上がっていく。
「まったく、放課後ひとが行ってみたらもう帰っちゃってるし…」
 半分本当。
「で、でもさ…」
「言い訳無用!、今日の約束、覚えてたんならなんで待たなかったのよ」
「そ、それは、アスカが…」
「あたしが、なに?」
 睨む。
「アスカが、忘れてたから…」
「あんたバカぁ?、二人っきりでって言ってたのに、レイの前で話せるわけないでしょうが、だからごまかしたのに…」
 これは嘘。
「あんた、あたしのこと信用してなかったんだ?」
 いつもなら違う、と答える所だろう。
「…かもしれないね」
 だがシンジはアスカの想像外の言葉をはいた。
「ごめん、通して…」
 ばかシンジが…
 シンジが通り過ぎていく。
 アスカは強く唇を噛んだ。






「はあ…」
 カヲルはお風呂だ。
 シンジは一人で屋根裏部屋に寝っ転がっていた。
「どうしてあんなこと言っちゃったんだろ?」
 すぐに答えは出てくる…
 寂しい。
 カヲルの言葉が響いて消える。
 だって…、あんな嘘のつき方、ないよな?
 シンジは起き上がった。
「プリン、用意しないと…」


 その頃アスカも同じように後悔していた。
「嘘、吐いちゃった、シンジに…」
 バツが悪くて、つい口にしてしまったのだ。
 ――シンジのバァカ、なによ、ちゃんと放課後には行ってあげたのにさ。
 ――さっさと帰っちゃう事無いじゃない、そりゃあね、あたしもちょびっとは悪かったんだけど…
 ――シンジだって悪いのよ!、なによあっさり引き下がっちゃってさ、ヒントぐらいくれたって良かったんじゃないのよ!
 ――昨夜からのことも色々あるし、シンジに反省させてやらなきゃね?
 だがその結果はシンジの逆切れによって終わった。
 ううん、本当は怒られて当たり前なのよね…
 天井を見上げる、向こうに居るはずのシンジを想う。
「ばかシンジ…」
「アスカ?」
 ギクッとする。
「ししししし、シンジ!?」
 襖の向こうからの声に驚く。
「さっきは…、その、ごめん」
 ううん、あたしも悪かったの!
「わかれば良いのよ!」
 逆の言葉がついて出る。
「うん…、それで、タペストリーなんだけど」
 ドキンと心臓が跳ね上がった。
「い、良いのよ、どうせレイに選んでもらったんでしょ!」
 ついすねてしまう。
「…どうして、そんなこと言うのさ」
 シンジの悲しそうな声。
「シンジ?」
 襖に手をかける。
「アスカとの約束だったから…、見るだけで帰ってきたのに…」
 手が震える。
「はん!、レイにあれが良い、これが良いって言われたんじゃないの?、だったらそのまま買ってくりゃ良かったのに」
 あ、だめ、違う、止められない。
「本当に、そう想うの?」
 アスカは口をつぐんだ。
 開けば、決定的な言葉を言ってしまいそうだったから。
「…アスカ、お願いがあるんだ」
 無言。
 襖が小刻みに音をたてている、アスカの震えだ。
「明日、放課後…、その…」
 パン!
 アスカは勢いよく襖を開いた。
 驚きに目を剥いているシンジ。
 すぅっとアスカは一息吸い込んだ。
「ばかシンジが…」
 首筋に優しく腕を回す。
「今度破ったら、承知しないんだから…」
 アスカはシンジと自分の両方に言い聞かせた。
「うん」
 シンジの答えは簡単だった、ただの微笑み。
「それで、さ…」
 アスカの顔が離れていく、だが手は離さない。
「なに?」
 さっきまでの険が取れ、柔和な笑みが浮かんでいた。
「プリン、作ったんだけど、食べない?」
 その笑みが瞬時に引きつった。






「うう、また増えてる…」
 翌日、朝。
 アスカはまたも体重計に乗っていた。
「おや、またなのかい?」
 やはりタイミングよく現れる。
「カヲル…、何しに来たのよ?」
「歯を磨くためだよ、ここはそのための場所だろう?」
 と洗面台を指差し、歯ブラシを取る。
「昨日もプリンを食べていたようだけど…、君には忍耐と我慢の二つが足りていないんじゃないのかい?」
「あれはしょうがなかったの!」
 だってシンジとの仲直りの証しだったんだから…
 ぐぐぐっと言い返せない悔しさを堪える。
「せっかくシンジがあたしだけのために作ってくれたのよ?、食べなきゃもったいないじゃない?」
 なんとか逆襲には成功する。
「ふ、そうかい…」
 カヲルは体重計を指差した。
「それなら、体脂肪率も見ておいたほうがいいと思うよ?」
「え?、体脂肪…」
 表示を切り替えて見る。
「え?、なにこれ、うそ、やだ!」
 逆転勝利!、勝ち誇った笑みをカヲルは浮かべた。






「うう、こうなりゃなりふりかまってらんないわ…」
「アスカぁ、どこ行くんだよぉ、タペストリーは?」
「うっさいわねぇ、そんなの後回しよ」
「じゃあ、どこへ行くんだよ」
「第一中学校」
「へ?」
「赤木先生の所よ」
 学校が終わると、二人は急ぎ、バスを乗り次いでいた。


「それで、あたしの所に来たと言うわけね?」
「はい!」
 最後の頼みはあなただけなんですぅ!っとアスカ。
「わたし、一応専門は科学なのよ?、まあもっとも薬剤師の免許だって持ってはいるけれど…」
「なんでも持ってるもんねぇ、リツコは」
 なぜかミサトも理科準備室にいた。
 シンジだけがとなりの理科室に退出を命じられている。
「ちょっとここで待ってないよ!」
 アスカの表情から、触れない方が良い話題なのだと察していた。
 シンジは今、フラスコを使ってコーヒーを入れている所だ。
「コーヒー入りましたけど…」
 がらっと扉を開ける。
「きゃーーー!」
 アスカが悲鳴を上げた。
「なに覗きに来てんのよ、えっちぃ!」
「しょうがないわよ、わっかいんだもん」
「まったく、男の子って言うのは、どうしてこうバカでスケベなのかしらね?」
 一様になじられて、どう対処して良い物やら困る。
「あ、あの、ぼくは、ただ…」
 シンジはビーカーに注ぎいれると、みなに手渡した。
「それ、渡しに来ただけだから…」
「だったら早く出て行きなさいよ!、ほうら!」
「お、押さないでよ、わかってるよ…」
 シンジにしつこく言い聞かせて戸を閉じる。
「…大丈夫なの?、これ飲んでも」
「問題ないわ、ちゃんと熱処理してあるビーカーだから」
「そう?」
 怖々と口をつける。
「はい、できたわよ」
 リツコは適当な小瓶に調合した薬を詰め、アスカに手渡した。
「これが!?」
 万能やせ薬!
 うっとりとするアスカ、だが急に何かに気がついたのか、くんかくんかと匂ぎ出した。
「なんだか知ってる匂いがする…、これって、正露丸の匂いなんじゃ…」
 リツコに疑惑の視線を向ける。
「それにこの「鹿の糞」みたいにころころした黒い形って…、そっくりそのままじゃない?」
「まあ漢方薬を調合して丸薬にした物だもの、似てて当然だわ」
「ふぅん…」
 アスカは最終確認をした。
「ねえ、ほんとに大丈夫なの?」
 リツコはため息を付いた。
「頼って来たのはあなたよ?、もし信用できないのなら、それは置いていきなさい」
「わかった、する、信用するわよ!」
 二三粒取り出して飲み込む。
 そしてコーヒーでそのまま飲み下した。
「う〜、やっぱ込み上げてくる物までそっくりじゃない…」
 お腹の辺りをさすってる。
「でもま、確かにこれは効きそうだわ」
「でしょ?」
「へぇ、あたしも欲しいくらいだわ」
「だめ!、これはあたしんだから!!」
 アスカはい〜っと舌を出して逃げ出した。
「赤木先生、どうもありがとうございました!」
 飛び出していく。
「あ、アスカ、もういいの?」
「終わったわよ!、それよりほら、今ならまだ間に合うわ」
「うん、わかったよ…」
 廊下をどたばたと走っていく。
「…ねえリツコ?」
「なに?」
 リツコはすでに、自分の研究レポートのまとめに入って、キーを叩いていた。
「ほんとにあれ、やせ薬だったの?」
「まさか」
 肩をすくめる。
「ただの正露丸よ、あれ」
 可哀想なアスカ、っとミサト。
「だいたい一日1Kg2Kgの増減なんて、して当たり前じゃない、あの子の考え過ぎなのよ」
 ミサトは呆れた。
「まあそんな事だろうとは思ったけど…、いいの?」
「なにが?」
「だって…、効果がなかったら、きっと怒鳴り込んでくるわよ?」
「大丈夫よ、だって…」
 クスリを渡す前に軽く診断していた。
 その診断書に書き添えた、自分の文字をちらりとみる。
「だってあの子便秘だもの」
「べ、便秘ぃ!?」
「そ、出す物出せば、すぐ元に戻るわよ」
 げ、下品…
 この時ばかりは、ミサトも呆れた。







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