Episode:21_2 Take1



「しっかしあのばかシンジがねぇ…」
「なんですかぁ?」
「ううん、ミズホの着替え手伝うなんて…、って思って」
「将来のことを考えますとぉ、慣れていただかなければ困りますぅ」
 きゃっと恥じらう。
「あんたばかぁ?、それならあたしなんて…、あれ?」
 蘇ってくるのは、焦るシンジとぶっ飛ばしているアスカの構図。
 シンジはいつしか、アスカの裸を恐怖の対象として決して覗くまいと心に誓っていた。
 ふふふふふっと、小馬鹿にするミズホ。
「あー!、あんたまさかそのつもりで、昨日シンジを呼び出したんじゃないでしょうねぇ!?」
 それを肯定するように、ミズホは冷や汗を垂れ流した。


GenesisQ’ act.21 2nd Stage
「ずっと 想ってる」


「じゃあ綾波レイ、アルバイトに行ってきまぁっす!」
 日曜早朝、レイは元気よく玄関先で敬礼した。
「はいはい、はやく行ったんなさいよ」
 見送るのはアスカとミズホ、それにシンジだ。
 カヲルは昨夜から外出中。
 外ではゲンドウが車を回していた、レイを送っていくつもりなのだ。
「ひっどぉい、アスカってば冷たぁい!」
「あんたねぇ、せっかくの日曜なのに、朝っぱらから叩き起こされた人間の辛さってものがわっかんないの?」
「おばさん臭いですぅ」
「うっさい!」
「ふええ〜ん、シンジ様ぁ!」
「何よシンジ、かばうわけ?」
「シンちゃんミズホに甘いよぉ」
「え?、そっかな…」
「そうよ!、あんたミズホみたいに甘えてもらうのって、本当は好きなんでしょ?」
「そ、そんなことないよ!」
「そうなのシンちゃん?、じゃああたしも甘えちゃおっかなぁん」
 くすくすと笑うレイ。
「…ほら、早くしないと父さんが待ってるんでしょ?」
「あ、いっけない!、じゃね、今度こそ行ってきまぁっす!」
 戸が閉まるのを見届けてから…
「まったく、騒々しいったらありゃしない…」
 アスカは一つ大あくびをした。
「さってと、あたしもう少し寝るから…」
「うん、わかったよ」
「私はそろそろ準備しませんと…」
「今日もお稽古なの?」
「はいですぅ」
「えらいね、ミズホは…」
「そんなことないですぅ」
 両頬を手で押さえて、きゃっきゃと誉められたことを喜ぶ。
 僕は…、どうしようかな?
 シンジはDATウォークマンを取りに部屋へと戻った。






 レイは僕のことが嫌いになったのかな?
 そんなことはないと思う。
 それは甘い希望。
 甘えちゃおっかな?
 ううん、それはきっとレイなりの冗談。
 僕が特別だからじゃない。
 だから父さんが待ってるとごまかした。
 待ってるんだからね?
 その先に何があるの?
 こんないい加減な気持ちで、応えられるわけないじゃないか…
 あたしだってしたい事いっぱいあるもん!
 でもダメ、できない、だって壊したくない物だって一杯あるんだもん!
 だから選んでいかなくちゃいけない。
 ボクハ、エラバレナカッタノ?
 それも仕方のない事だよね…
 後ろ向きな自分を感じる。
 ふと窓の外を見る、流れゆく景色。
 シンジは電車に乗っていた。
 買った切符は一番高いもの。
 僕は、間違っていたのかな?
 だけど僕はみんなが好きなんだ…
 今誰かを選ばなきゃいけないなら、誰も選ばない。
 選べるわけないじゃないか…
 だって、僕は誰のことが一番好きなのか…、自分でもわかわからないんだもの…
 一人を選べば、きっと他のみんなは傷ついてしまう…
 それでも選び取れるほど、思い切れないよ…
 自分勝手。
 我が侭。
 束縛。
 僕が一番悪いんだ…
 同じ学校。
 別々のクラス。
 一つの家。
 重ならない時間。
 知らない姿が増えていく。
 寂しい?
 きっとそうだ、僕は寂しくなるのが恐いんだよ、それだけだ…
 レイを失いたくない?、でも引き止める勇気が無い…
 じゃあアスカ達にすがるの?
 それもできないよ、だってアスカ達はレイの代わりじゃないもの…
 結局、僕はなんにも選べないんだ…
 軽い震動、電車が止まる。
 何気に視線を上げると、窓の外に湖面が広がっていた。
「芦の湖だ…」
 シンジは自然と、電車を降りていた。






「ふええーん!、どうしてレイさんは見送って、わたしの時はだぁれも居ないんですかぁ!」
 玄関先で、ミズホはいきなり泣いていた。
「うっさいわねぇ、それともなに?、あたしじゃ不満だってわけ?」
「それはもう際限なく!」
 ポカ!
「ふええーん、またぶつぅ!」
 頭を押さえて、えぐえぐとしゃくりあげる。
「あんたがよけいなこと言うからよ!、それにしてもこれはおかしいわね」
「ふえ?」
「考えてもみなさいよ、今日のシンジ、どっかおかしかったわ」
「ふええ?」
 今度はアスカが、勝ち誇ったような視線を向けた。
「あんた気がつかなかったわけ?、やあっぱ口だけじゃダメよねぇ」
「ムカ」
「シンジなんて、あたしが何にもいわなくっても、ちゃんとどこが変わったって気がついてくれるし、同じぐらいちゃんと見てるから、あたしもシンジのどこがどうおかしいのかってことぐらい、ちゃんと気がついちゃうのよね?」
 なんだかムカムカしているミズホ。
「これってば心と心が通じてるって感じ?、ああ〜ん、シンジィ」
「うっさいですぅ!」
 おもむろに片付けたばかりのスリッパを握って振った。
 パン!っと、アスカの顔面で景気の良い音。
「やったわね、こんちくしょう!」
 どたばたとケンカを始める。
「あらあら、それでシンジのことはどうなっちゃったのかしら?」
 ぱたぱたと、洗濯物を抱えて通り過ぎるユイ。
「はっ!、そうだわ、こんな事してる場合じゃない」
「ならこの足どけてください〜!」
 アスカの足の下でミズホは悲鳴を上げた。
「と、とにかく、シンジの様子がおかしかったのよ、いつもよりうろたえ方が大人しかったし、妙にあっさりとレイを送り出してたし…」
「飽きられたのでは?」
「あのばかシンジが、そんなもったいないことするぅ?」
「もったいなくなんてありません!、シンジ様にはわたしが居れば十分ですぅ!」
「それはまあ置いといて…」
「それをまた持って返ってきて…、わたしがいれば…」
「しつっこい!」
「びええーん!」
「とにかく!、さりげなくレイを送り出し、その後で気づかれないよう姿を消した!、これはもう後を追ったと考えるのが妥当ね」
「どこからそういう発想が浮かぶんでしょうかぁ?」
「ごちゃごちゃとうっさいのよ!、あんたはさっさとお稽古にでも何処へでも行ってきなさいよ!」
「アスカさんはどうなされるんですかぁ?」
「決まってるじゃない?、後を追うのよ」
「後って…、どこへ行かれたのかご存知なのですかぁ?」
「もっちろん!、レイがはしゃいでたもんね、今日のロケ地は…」
 びしっと適当な方向を指差す。
「芦の湖よ!」
 芦の湖は逆方向ですぅと思いながらも、これでもしただ本屋にでも行っているだけだったらどうするつもりなのだろうかと、ミズホは考えずにはいられなかった。






 シンジは浜辺を歩いていた。
「そう言えば、受験前の息抜きだって、ミサト先生に連れられてきた事があったっけ…」
 あの頃は、こんな想いに悩まされる事もなくて、ただ毎日が楽しくて…
 ちょっとだけ辛い事もあったなと思い返す。
 ザザァ…
 波が帰っていく。
「僕は…、レイのことが好きだったのかもしれない…」
 初めて会った時から、レイは元気な姿を見せていた。
 あの曲がり角でぶつかった時。
 その後、学校で再開した時。
 さらに追い打ちをかけるように、家で引き合わされた時。
「まさか、その後こんな関係になるなんて…、あれ?」
 どんな関係なんだろう?
 急に足元が見えなくなったような気がした。
 温泉で、初めてキスした時…
 シンジはアスカとレイに、好きだと伝えた。
 アスカは大好きと言ってくれた。
 レイは?
 レイは…
 言葉は無かった。
 態度で…、キスで示してくれた。
 その後…
 好きと、想いを込めて言ってもらった事があるだろうか?
 いや、ない…よね?
 うん、ない…
 繋いでいたものが、たった一回のキスだと知る。
 後は冗談っぽいものばかり…
 いや、僕は気がついていたのかもしれない…
 周りに溶けこもうと必死だったレイ。
 その裏返しの優しさ。
 明るさ。
 だから、感激の余りのキス。
 けど、今のレイには僕以外に、大事なものがたくさんあるんだ…
 急にミズホの顔が浮かんでくる。
 いつもストレートに感情を表すミズホ…
 シンちゃん、ミズホに甘いよ…
 そうかもしれない…
 僕はわかりやすいミズホに、一番素直に応対する事ができていたのかもしれない…
 じゃあアスカは?
 アスカは…、正直、わからなくなる時がある。
 でもそれはほとんどの場合が、その場だけのこと。
 だって付き合いが長いから…、だからすぐに気がつけるから。
 レイは?
 正直、戸惑う事の方が多いや…
 レイはいつも積極的で、恐いぐらいにシンジからの返事を求めてくる。
 そう言えば、新婚さんゴッコをした事もあったっけ…
 あの時は、本当にまいったよなぁ…
 自然と笑みがこぼれてくる。
 楽しかったなぁ、ホント。
 いつもレイから誘ってくれるから。
 そうだった…
 僕からレイを誘う事って、めったになかったよね?
 この間、アスカの代わりに誘った時、レイは大喜びしてくれた…
 アスカの代わりだったのに…
 ズキンと胸が痛む。
 動悸が激しくなり、息苦しくなる。
 湖を見る。
 遠くの山、その上にある青い空。
 ヤダヨ…
 心が悲鳴を上げる。
 イヤダヨ、コンナノ…
 でもそうなってしまったのは自分のせい。
「悪いのは、僕だ」
 だからシンジは泣かなかったし、泣く事もできなかった。
 シンジは一人で自己完結しようとしていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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