Episode:21_2 Take5



 駅から出ると、マナはすぐ側の駐輪場から自転車を引っ張り出してきた。
「あーもぉ!、こう言うとこって嫌い!、日本ってもっと規則重視だと思ってたのにぃ!」
 苦笑するシンジ。
「しかたないよ…、駐輪場があるだけマシなんだから…」
「そうなの?」
「うん」
 二人夜道を並んで歩く、二人がぶつかった場所に向かって。
「あ〜あ、今日中にデータ揃えて、日曜日に繰り出そうと思ってたのになぁ!」
 ぶつぶつと不平を漏らすマナ。
「いいんじゃないの?、もう一回行けばさ…」
「え?、ほんと!?」
 何がホントなのか解らなくて、シンジは「え?」っとマナを見た。
「ありがと、また一緒に行ってくれるんだ!」
 急に電灯の明かりが遮られた、次いで唇に何かが押し付けられる感触。
 シンジが認識できたのは、その唇に触れた芯にしこりのある柔らかいものと、閉じた状態から開こうとしている瞼だけだった。
「じゃ、またね、シンちゃん!」
 ジャ!っとチェーンの音がして、マナは自転車に飛び乗り行ってしまった。
「え?」
 今頃になって、起こったことを反芻してしまった。
 唇を指で触れる。
「キス…、されちゃった」
 アスカ達が聞けば激怒しそうな事を呟く。
 レイや、アスカの感激を表すようなキスではなく、もっと優しい、ライトな感覚のキス。
 胸が躍りはじめる。
 −−シンチャン−−
 だがその呼び方に、頭が冷めた。
 日常、シンジをそう呼ぶのはレイだけだから。
「またね…、か」
 シンジは一人、暗い道を歩き出す。
「え?」
 ふとある事に気がついて、シンジは立ち止まりふり返った。
「僕…、名前しか聞いてないんだけど…」
 だがそこにはもう、応えてくれる少女は居なかった。






「シンちゃん遅い〜!」
 ぶぅっと頬をふくらませているレイ。
「あ、ご、ごめん…」
 玄関の戸を開けると、いきなりレイがしゃがみこんでいた。
「シンちゃん、もしかしてあたしのこと避けてない?」
「え?、どうしてさ…」
「だってぇ、この頃シンちゃんから顔見せようとしてくれないしぃ」
 ごろごろと喉を鳴らして、頬をすりよせてくる。
「うわ、やめてよ」
「そうそう、あんた邪魔なんだからあっち行ってなさいよ」
「にゃーん!」
 首根っこをつかまれるレイ。
「シンジはあたしと遊ぶんだから!」
「なんだよ、それ?」
「あんたが!、寂しがってるから時間を取ってあげたんじゃないのよ」
 ごにょごにょと語尾が小さくなってしまう。
「シンちゃーん、寂しいならあたしが、ね?」
 なんだかもじもじと。
「あんたバカァ?、他の男と帰るような奴に、シンジはかまってもらおうなんて思ったりしないわよ」
 ねえ?っとシンジを見る。
 シンジは笑みを浮かべていた、困ったような表情で。
 胸の痛みを隠して。
「あちゃー、見てたの?」
 ぽりぽりと頭をかく。
「「それに僕より気になるものがあるから、一緒に学校行かなくなったんでしょ」なぁんていじけられたりしちゃったら、もうこれは側にいて欲しいって言われてるのと同じことだと思わない?」
 仁王立ちで勝ち誇る。
「思いません!」
 どんっと背後からミズホが突き飛ばした。
 ゴス!
「あ、アスカ大丈夫!?」
 扉に顔面を強打しているアスカ。
「いったぁい!、このバカなにすんのよ!」
「シンジ様にはわたしがいますぅ!、だからアスカさんなんて必要ありません!」
「なによこのバカ、やるってぇの!?」
 ムーっと鼻面を突き合わせる。
「シンちゃん?」
 レイのなかで、何かが形を成していく。
 ノリが悪いのかと思ってた。
 いつものようにはしゃぐのではなく、シンジはどうしていただろうか?
「シンちゃん?」
「なに?」
 いつもと同じ笑顔。
 でも前とは違う笑顔。
 その違いがはっきりとはわからない。
「シンちゃん…」
「ごめん、お腹減ったからさ、後で聞くよ…」
「あ…」
 レイを押しのけ、家へと上がる。
 アスカとミズホは、まだケンカしていた。






「大失敗…」
 なんだか全部うまくいっている時に限って、肝心なことがうまくいってないような気がする…
 翌朝、レイはやはりアスカと登校していた。
「あんたが迂闊なだけでしょうが」
 アスカはレイが浮気しているとは毛程にも思っていなかった。
「な〜んか理由があるんでしょうけど、言えないの?、シンジにも」
「うん…」
 しょぼくれる。
「シンちゃんには、信じてて欲しかったんだけどなぁ…」
 アスカは頭の後ろで両手を組んだ。
「ま、あれ見たらあたしだって疑っちゃうわよ」
「なに?」
「あんた、あの浩一って奴に駆け寄る時が、ちょっとね?」
「へ?、なにかおかしいかな」
「おかしかないわ、ただ…」
「たぁだ?」
「シンジに駆け寄る時と同じなのよ、感じがね」
 言われてはじめて、レイはそうかなぁと意識した。



 それから遅れる事一時間半程度。
「はぁはぁはぁ…」
 シンジは教室で息を切らせていた。
「な、なんとか今日も間に合った…」
「みたいだね」
「カヲル君…」
 机に突っ伏しているシンジに、にこやかに抱きついてくる。
「ほら、汗がこんなに…」
「うわ、やめてよ!」
 シンジはがたがたと机ごと後ずさった。
「…?、どうしたんだい、シンジ君」
「ど、どうって…、普通嫌がると思うんだけど…」
「そうなのかい?」
 嫌がりはしても、逃げなかったような気がする。
 シンジはすっと視線をそらした。
 カヲルの、なにもかもを見透かすような目が恐かったからだ。
 本鈴が鳴り、先生が入ってきた。
 肩をすくめて席へと戻るカヲルに、ほっと胸をなで下ろすシンジ。
 ぱんぱんっと手を叩く音に注意を向ける。
「はーい静かに、今日は転校生を紹介します」
「転校生って…、まだ4月じゃないすか?」
「オーストラリアからの転校生なの、入って?」
 がらっと戸が開き、栗色の髪をした女の子が入ってきた。
 男子生徒から起こるどよめきに戸惑う少女。
 助けを求めるようにさ迷わせた視線が、なぜだか頼りなげな少年の所で、急速に焦点を合わせた。
「シンジ君!」
「あ、マナさん!?、どうして…」
「よかった!、今日からクラスメートみたいだね?、心細かったんだ、よろしく!」
 周囲を全く無視してシンジに手を振るマナ。
 バンっと開く廊下側の窓。
「いかりぃー!」
「うわぁ!、鰯水君!?」
「貴様ぁ!、ヤッパリ噂は本当だったんだな!?」
「う、噂って…、それに今授業中…」
「碇シンジは転校生が来るのを超常的な野生の感で捉えると、転校前日にその子の家に忍び込んで、妖しい催眠術を掛けまくる、どうだ、言い逃れできまい!」
「そんなの嘘だよ、でっち上げだぁ!」
「え〜?、じゃあ昨日のことって夢だったのかなぁ?」
 口止めしようとマナを見る、途中カヲルの顔が目に入った。
 刺すような視線、渋い顔、ぴくぴくと引きつっている口元。
「昨日って、こいつに何かされたんですか!?」
 ぶんぶんとシンジを振ります。
「え〜〜〜?、そんなの言えないよぉ」
 頬を染めてきゃっと恥じらう。
「このド畜生がぁ!」
「シンジぃ〜、なんて羨ましい奴ぅ」
「うわっ!、ケンスケまで一体何をやってるんだよ!」
 カメラが回っている。
 ドザーッとシンジは一気に青ざめた。
「まさか…、今の録ってたの?」
「安心しろよぉ?、ちゃあんと惣流達には届けてやるからさ」
「まって、待ってよ!」
「最後の時が来たようだな、碇シンジ!」
「鰯水君、離してよぉ!」
「貴様のような外道に、これ以上かっさらわれてたまるか!」
 自称女の子の味方に本音が見え隠れしている。
「おおっ、見事な嫉妬の炎が!」
 背後から鰯水にマスクを被せるケンスケ。
「ぬおおおおお!」
 っと、そのままハイパーモードに入る鰯水。
「許せん!、このしっとマスク2号が成敗してくれるわ!」
 っとケンスケはアフレコを入れてから逃亡した。
「終わった…」
 るるーっと、鰯水に襟元をつかまれ持ち上げられたまま、シンジは涙を流した。
 冗談なのにぃ!っとお腹を抱えて笑っているマナ。
 カヲルはシンジでは無く、マナを見ていた。
 そして視線をずらし、浩一を見る。
 浩一もお腹を抱えて苦しんでいた。






「ん〜、悪い事してるわけじゃないんだけどなぁ…、シンちゃんわかってくれるかなぁ?」
 話せるだけ話してみようと決意を固めるレイ。
「それでは入ってきなさい」
 その少女は、一度深呼吸してから教室に入ってきた。
 控え目、大人しい、いや、緊張を通り越して脅えているような目。
 前を切りそろえているだけの長い黒髪。
 大きなメガネ、それが口元の左にあるホクロを際立たせていた。
「じゃ、自己紹介をしてくれるかな?」
「あ、はい…、あの、山岸、マユミです…」
 そのまま口をつぐむ。
「それだけかね?」
「あ、す、すみません…」
 しょぼくれる。
 先生はしょうがないなぁとため息をついた。
「まあ良い、では後ろのあの席へ座りたまえ」
 指差したのはレイの隣。
 本当なら男子が座るはずの列なのだが、かなり酷い争いがあったために、無人の座席と定められていた。
「よろしくね?」
 っとレイが声をかけると…
「あ、す、すみません…」
 と頭を下げられてしまった。
 謝ってばっかり、なんだかシンちゃんみたい。
 それがレイの感じた第一印象だった。



続く




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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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