Episode:21_3 Take3



「シンちゃん!、お昼どうするの?」
 隣を向くマナ。
 先のこともあって、その後の授業は全てカップルで机を並べるよう、席替えされていた。
 瞳を輝かせているマナに、顔は向けるが視線は合わせないシンジ。
「うん…、パンでも買って食べようかと思って」
 鞄の中にはミズホの作ってくれたお弁当が入っていた。
 でも、食べる気になれないんだ、今日は…
 ミズホが「どうして食べてくださらないんですかぁ!?」っと泣いている姿が浮かんでくる。
 思わず苦笑するシンジ。
「?、ねえ、一緒に食堂行かない?」
 その笑いを変だと思いつつも、誘ってみる。
「食堂?」
「うん!、一度行ってみたいって思ってたの」
 食堂かぁ…
 確か広くて綺麗で、おいしいものが一杯あるって…
 レイが言っていたと続けようとして、シンジはその言葉を振り払った。
「ごめん…、食堂で食べられるほど、お金持って来てないんだ」
 嘘をついて逃げようとする。
「あ、だったら奢るから、ね?、行こ?」
 強引に腕を取るマナ。
「あ、ちょっと…」
「良いから良いから、さ?」
 ウィンク、何故だかレイとだぶる。
「うん…」
 シンジはそれ以上逆らう気力を維持できなかった。






「はい、シンちゃん「あーん」して、「あーん」」
 その光景を前に、マユミはアスカとレイのこめかみから「ブチ!」っと言う音を聞いたような気がした。
「おいしい?、ねえおいしい?」
「…ねえ、もうやめよぉよ〜、みんなが見てるよぉ?」
「だ〜め、だってこれ課題なんだから☆」
「それは…、そうだけど…」
「はいはい、諦めましょうねぇ?、じゃ、次これ♪」
 ずかずかと歩いていく二人に、マユミは声をかけそこなった。
「ちょっとあんた何もんよー!」
「うわ!、アスカ!?、レイも…」
 駄目だ!、話を聞いてくれるような目をしてない!
 いきなり逃げ出そうとするシンジ、だがその腕にマナが組み付いて来た。
「ちょ、ちょっと霧島さん!?」
「え〜?、昨日まではマナって呼んでくれてたくせにぃ」
 甘えた声にぶちきれるアスカ。
「何やってんのよバカシンジィ!」
 パンっと頬を張る。
 その唐突な行動に驚いて目を丸くするマナとマユミ。
「ちょ、ちょっと何をするのよ!?」
「それはこっちのセリフよ!」
 とか言っている間に…
「シンちゃんの浮気者ォ〜」
 と、レイが白いハンカチを加えて迫っていた。
「ご、誤解だよ…」
「うっさい!、この状況のどこが誤解だってのよ!?」
「課題なんだよ!、今日一日恋人のふりをしろって課題が出て…」
「誰よっ、そんな課題出した先生は!」
 うぐっとつまるシンジ。
「どうしたのよ?、それともヤッパリ嘘ってわけ?」
 シンジの胸倉をつかむアスカ。
「ちょっと!」
「アスカやり過ぎ!」
 ほぼステレオに近い感じで、レイはシンジの右肩に、マナは左肩に両手を置いて庇おうとした。
「あんた達は黙ってなさいよ!」
「そんなわけにはいかないもん!」
「そうよ!、課題ならしょうがないじゃない!」
「加持さん…」
 ぽつりとシンジ。
「は?」
「加持さんだよ…、課題を出した先生って」
「嘘!?」
 愕然とするアスカ。
「嘘じゃないわよ!、加持先生が今日の演技課題だって、一日恋人のふりをするように言ったんだもん!」
「アスカほら?、課題じゃしょうがないじゃない」
「そんなの関係無いわよ!」
 ぶんっとシンジを振り回して背後に捨てる。
「問題はあんたよあんた!」
 マナを指差す。
「いくら課題だからって、なにべたべたべたべたしてんのよ!」
「いいじゃな〜い、これも勉強なんだから?」
「いっくら勉強だからって…、じゃああんたはシンジのことが好きじゃないってわけね?」
 そうくるか!?っと後ずさるマナ。
「好きでも無い奴と、あんなことする女なんだ、あんたって…」
「アスカ言い過ぎよぉ…」
「あんたは腹立たないってぇの!?」
 ぐっと押し黙るレイ。
 本当はレイもシンジに言いたい事があった。
 でも…、今は言えないよぉ…
 今のぎくしゃくしている状態では…
 横目でシンジを見る。
「あの…、大丈夫ですか?」
「あ、うん、ごめん…」
 マユミに手を貸してもらい、起き上がるところだった。
「えっと…、君は?」
 知らない女の子に、シンジはきょとんとした。
「あ、あたし、レイさんと同じクラスの山岸って言います…」
「あ、そうなんだ…、ごめんね?」
「え?」
「お昼…、食べに来たんでしょ?」
 シンジは辛そうに視線をそらせると、言い合っているアスカ達に目を向けた。
「僕のせいで…、無茶苦茶になっちゃって…」
「そんな…」
 マユミにもシンジが頼りない男の子だという事はわかっていた。
 それを差し引いても、言い分を聞かないアスカの直情さは酷過ぎたし、まったく引こうともしないで、逆に挑発するような行動に出るマナにも非があるようにしか見えなかったのだ。
「あなたのせいじゃ…」
「でも、悪いのは僕だ…」
 諦めたような顔。
「何も決めないで…、何もしなかった僕が悪いんだ…」
 だがその目には光が宿っていた。
 決意の光、だがマユミは良くない方向へ進もうとしていると直感してしまった。
 同じ目…
 そう、マユミが毎朝鏡で見ている、よく見慣れた瞳がそこにあったからだ。
 だからって、あたしに言う権利、ないわよね?
 口をつぐみ、アスカ達、それにシンジからも視線をそらせるマユミ。
 何だか似てる…
 レイは首を傾げてしまっていた。
「とにかく!、相手なら他に探しなさいよ!」
「やーよ!、だってこんなの初めの一歩だもん!」
 なによそれ!っとアスカ。
「演技の練習なんだから、これからきっと新婚さんとか夫婦とか、色々やるに決まってるんだから」
 きゃーっと恥じらうマナに、いらだつアスカ。
「あ、でも新婚さんって前にシンちゃんとやったなぁ…」
 ぽつりと漏らすレイに二人の視線がつき刺さった。
「あ、えっと…」
 助をシンジに求める。
 ギン!っとシンジに向けられる二対の眼光。
「あ、あの…」
「暴力は…」
 なぜだかマユミも一緒になって慌てている。
「シンジ!」
「シンちゃん!」
「む、昔のことだよ、昔の!」
 そうさ!っと開き直る。
「今はもう関係のない話だよ!」
 シーンっと静まり返った。
 肩で荒く息をしているシンジ。
 シンちゃん?
 あまりにも今までと違い過ぎるシンジの態度に、正直レイは戸惑っていた。
 どうしたの?、シンちゃん…
 失う事を恐れていないわけではない、逃げ出そうとも、逃げ回ろうともしていない。
 ただ拒絶しようとしてる。
「シンジ…、あんたなに言ってんのよ?」
 予想外の返事をされて、戸惑っているのはアスカも同じだった。
「あ、あの…、大丈夫ですか?」
「え?」
 マユミに声をかけられて、シンジははっと我に返った。
「あ、今、ぼく…」
 何を言ったのか思い出して青くなる。
「ご、ごめん…」
「そ、それは良いんだけど…、シンちゃん?」
 レイが手を伸ばし、シンジの前髪をかき上げた。
 汗ばんでいる。
「シンちゃん、もしかしてあたしのこと…」
 続きを聞きたくなかった。
 嫌いになったのはそっちじゃないか!
 そう叫んでしまいそうだったからだ。
 レイの瞳が真っ直ぐに向けられている。
 だからシンジは、またも仮面を被った。
「ごめん、言い過ぎたよ…」
 微笑む、寂しい笑み。
 シンジはいつも通りのつもりだったが、うまくいってなかった。
「なんでもないから…、ほんとうだから…」
 胸に苦しさを感じるシンジ。
 その隣では、なぜだかマユミが胸を押さえていた。
 まるでシンジの心の痛みを感じているかの様に。
 マユミちゃん?
 シンジから視線を外そうとしないマユミ。
 かといって今までの子たちの様な、シンジを意識しているような類の視線ではなかった。
 同類を哀れむような、そんな悲しい視線だった。






「とにかく!」
 バン!っとテーブルを叩くアスカ。
 広げられていたお菓子が、一瞬宙に浮いた。
「あの〜、一応ここ部室なんだけど…」
 無謀にも意見を試みた栗末部長は、アスカのギロリと言う擬音が聞こえて来そうな一睨みの前に、退散するほか道を見つけられなかった。
「うう、あの人朝は朝でシンジ様にぃ〜」
 シンジ様もシンジ様ですぅと、嫉妬の炎を燃やすミズホ。
「とにかくよ!、このままじゃいけないわ!」
「え〜〜〜?」
 机に突っ伏しているレイ。
 気のない返事に、アスカはプルプルと拳を震わせた。
「あ、あの、レイさん?」
 なぜだか巻き込まれているマユミが、懸命の努力を試みる。
「起きた方が…、でないとアスカが…」
「良いの良いのぉ、いつものことだからぁ」
 ブチ!っと切れる音が聞こえた。
あんたなに無気力気取ってんのよ!、あんたのせいでこうなってんのよ?、わかってんの!?
「きゅ〜☆」
 その大声に耳をジンジンと痛めて目を回すミズホ。
「ど、どうしてあたしのせいになるの?」
 本当はわかっているからこそ、苛立って聞き返してしまう。
「あたしのせいだけでシンちゃんがすねてるわけじゃないもん…」
 責任を分散させようとする。
「あんたバカァ?、そりゃあたし達も悪いわよ、けど…、けど悔しいけど、シンジが落ち込んでるのはあんたが原因なんだからね!」
 アスカの目にも涙。
「あ、あの…」
 マユミがハンカチを指し出した。
 パシ!っと、それをひったくって背を向けるアスカ。
 アスカって本当は可愛いんですね…
 言いかけてやめる、だがアスカを見る目は、つい数時間前とは完全に違っていた。
 ずっと優しい目を向けている。
「あたしが原因って…」
 動揺しているレイ。
「とにかくあんたはその責任を取る必要があんのよ!」
 びしっといつものように指差す。
 ただ目は赤い。
「責任…」
 それって…
「あたしがシンちゃんと付き合えばいいって事?」
「「んなわけない!」ですぅ」
 見事にはもるアスカとミズホ。
「なははぁ〜☆」
 レイはとりあえず笑ってごまかした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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