Episode:21_4 Take1



 シャワーの音が、湯気と共に風呂場を満たす。
 碇家のお風呂はただいま使用中。
 湯気の向こうに、かすかに見える細い体と短い髪。
 少しばかりシャギーがかった髪が、湯気に濡れて張り付いている。
 それをうっとうしげに払いのける指。
 その繊細で細長い指がスポンジをつかんだ。
 ボディーシャンプーを軽くつけ、まずは肩から洗いはじめる。
 ゆっくりと、慌てて肌を傷つけないように気をつけて。
 きめに沿って指先まで洗いあげると、今度はみぞおちにスポンジを当てた。
 円を描くように、半時計周りに左胸を。
 そのまま鎖骨の窪みをきちんと洗い、首筋に沿って耳の裏まで汚れを落とす。
 反対側も同じこと、ただし左腕で、時計周りに。
 胸は特に、注意深く。
 何かを思ったのか?、その白い肌が桜色に染まりはじめた。
 …お湯のせいかもしれない。
 次にお腹、中心から半時計周りに。
 ここだけは自信が無かった。
 胃腸を整えるのは、時計周りだったかな?
 一度ここでシャワーを使い、洗い流す。
 もう一度…
 次は大事な部分だから。
「これも君のためだよ?、シンジ君」
 これにて渚カヲルによる読者サービスを終わる。

GenesisQ’ act.21 4th impresion
明日、また逢えました
 ごくり…
 咽喉が鳴った。
 緊張してる…、当たり前か。
 シンジは心の中で呟いた。
 右手に持つ冊子が重い。
 目の前の襖に異様なまでの厚さを感じる。
 ジェリコの壁って…、誰に聞いたんだったかな?
 あるいは読んだだけかも知れない。
 2階の北側、三つある内の真ん中、そこはレイの部屋だった。
 アスカはお風呂、ミズホは母さんにコーチを受けてる、カヲル君は…、知らない。
 ちょっとだけ胸の痛みがぶりかえす。
 今が、チャンスなんだ。
 誰にも邪魔されたくないから。
 邪魔されると、決心が鈍ってしまうから…
 トトン…
 まだ迷いがあったのか、そのために軽く叩くようなノックになってしまった。
「はい〜?」
 それでもレイの返事は聞こえて来た。
「綾波?、入るよ…」
 やはりどこかで迷っているのかもしれない、つい綾波と言ってしまった。
「シンちゃん?、うん、入っていいよ…」
 シンジは深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐いた。
 ス…
 襖を開けると、レイは部屋の真ん中でクッションに座っていた。
 殺風景な部屋…
 レイの部屋に入るのは初めてだった。
「ん、どうしたの?」
 きょろきょろとしているシンジに首を傾げる。
「あ、うん…、部屋、散らかってないんだなって…」
「まだ本とか段ボール箱から出してないから」
「そうなの?」
 見ると、確かに部屋の隅っこに山積みにされていた。
「本棚とか買って来てからにしようかと思って…」
「ふぅん…」
 会話が途切れてしまう。
 妙な間が空いた。
「「あの…」」
 二人同時に口を開いて、二人同時に口をつぐんでしまう。
「…あの、シンちゃんから」
 レイから…、いや、それじゃダメなんだ。
 シンジは意を決したように頷いた。
「これ…」
 冊子を指し出す。
「なに?」
「台本…、タタキさんから預かってきたんだ」
「ふぅん…」
 なんだ…
 レイはちょっとだけがっかりしてしまった。
 関係修復のためのデート!、なぁんて、シンちゃんに期待する方が無理なのかなぁ、やっぱり…
 ぺらっと冊子をめくって見る。
 軽く読み進んで行くうちに、レイの瞳がゆっくりと大きく見開かれていった。
「…シンちゃん」
 声が震えている。
「なに?」
「これ読んだの?」
「うん…」
 シンジを見る。
 レイの頬に朱がさしていた、瞳が期待に満ちあふれている。
「これって、あたし達が恋人って設定でしょ?」
 慌てちゃダメ!、落ち着かなきゃ…
 深呼吸したい欲求に耐えて、平静を装う。
「うん、…タタキさんがやってみないかって、それで」
「それでシンちゃん、OKしたの!?」
 やはり我慢しきれなかった。
「うん…、レイが嫌じゃなければ、だけど」
 すっと顔をそらしてしまう。
「本当は嘘でも恋人なんて、嫌なんだろうけど…」
「そんなことない!」
 強い調子の声に、シンジはびくっとした。
「レイ?」
「そんなことない…」
 冊子を強く抱きしめている。
「嘘でもうれしい…」
 レイ…
 頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「シンちゃんと、恋人…」
 僕のこと、捨てるんじゃなかったの?
 シンジの曇っている目にも、そのレイの様子が嘘っこかどうかぐらいは見分けがついた。
 それ程までに、全身で喜びを表しているレイ。
「シンちゃん、ありがとう…、あたし立派な彼女になるね?」
「…うん」
 信じても…、いいのかなぁ?
 甘い期待が込み上げる。
「僕も立派な彼氏になるよ」
 言ってから恥ずかしさに背を向けた。
「うわ!、アスカ!?」
「シ〜ン〜ジィ〜!」
 鬼のような形相で突っ立っている。
「この裏切り者がぁ!」
 パン!
「シンちゃん!」
「誤解なのにぃ〜」
 くるくると回転しながら倒れるシンジ。
 それはシンジにとっても初体験という程に、強烈なまでの張り手であった。






「はあ〜い、第三新東京市、約一万人程度のアイドル、レイちゃんでぇっす!、みんなげんきしてたぁ?」
 テレビにドアップで映るレイ。
 だがレイは冷や汗を流しながら言葉につまった。
「…えっと、シンちゃん次なんだっけ?」
 気まずそうに振り返る。
「もう!、今日の予定でしょ?」
「あ、そっか」
 てへっと舌を出す。
 生放送中なのに…というディレクターの声が聞こえて来そうだった。
 レイの背景には、大きなビルの玄関口が映っていた。
 ジオフロントだ。
「それではコッホン!、ん、あー…、ん〜?、なぁんか調子でないわねぇ」
 首をひねる。
「あ、そっか、シンちゃん!、なにかBGM作ってよ」
「び、BGM!?」
「うん、適当でいいからぁ、ね?、おねがぁい」
 猫なで声に、シンジは嘆息した。
「わかったよ…」
 諦めたように、横から差し出されるギターを取った。
「とびっきり可愛いやつね?」
「はいはい…」
 ジャカジャカジャカっと、適当にかき鳴らしてみる。
「おっけー、それじゃもう一回」
 レイのウィンクにシンジは再度弾きはじめた。
 くるっとターンしてマイクを取り出すレイ。
「はぁい!、あたし、恋に恋する瞳キラキラのぴっちぴち、うっふんな女の子☆、ちょっとやそっとじゃいそうにないこのあたし、実は地球を守る、愛と、勇気と希望の戦士!、あくまでシンちゃんのためだけに戦うワンマンアーミー、プリティーレイちゃん!、今日もシンちゃんを誘惑の魔の手から守ってみせるわよぉ、シンちゃんの正妻としてぇ!」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!」
「なぁにぃ?、曲止めちゃ駄目だよぉ」
「今すっごく聞き捨てならないこと言ったじゃないか!」
「酷い、シンちゃん!」
 およよっと泣き崩れる。
「あたしのこと、捨てる気なんだぁ!」
 ズキン!っと、ものすごい痛みが胸に走った。
「だ、誰もそんな事、言ってないじゃないか…」
「ほんと?」
 ちらちらと顔色を窺うレイ。
「う、うん…」
 とりあえずの愛想笑い。
「じゃあ、あたしのこと、好き?」
 しまった!っと、シンジははめられたことに気がついた。
 ほくそ笑むレイ。
「シンちゃあん、答えてよぉ」
「そ、それは…」
「それは?」
 ん〜?っと先を促すレイ。
 答えたら殺す!
 アスカはテレビを凝視したまま固まっていた。
「それは!」
 シンジが口を開こうとした所で、ちょうど提供が流れた。
「んな!?」
 そのままCMに入る。
「あらあら、おしかったわねぇ?」
 真っ白になったアスカの後ろを、ユイが洗濯物を抱えて歩いていった。



「あ、危なかった…」
 胸をなで下ろしているシンジ。
「ありがとうございます、タタキさん」
「なに、話題づくりも仕事だからな、もっとも…」
 っと、離れた場所でいじけているレイを見る。
「タレントに嫌われたらお終いだがな」
 苦笑する。
「でも…、いいんですか?」
 申しわけなさそうに尋ねる。
「今日の…、番組になってなかったと思いますけど…」
 たかだか10分の放送枠とはいえ、あの内容では…
「いいんだよ、あれが面白いって話なんだから」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ」
 ニヤニヤとタタキ。
 逆にシンジは、げっそりとしてうつむいてしまった。
「これでまた、カミソリメールが増えるんじゃ…」
 シンジのメールアドレスは、既に破棄寸前にまで追い込まれていた。
 自宅の方にも手紙は送られてきている、学校は言わずもがな。
「まいったなぁ…、こんなの嘘なのに」
「画面に映る事が真実なのさ、見る側にとってはね?」
「そうなんですか?」
「知ってるか?」
 意味ありげな視線をくれる。
「こういうのを、既成事実って言うんだ」
「あ…」
 シンジは初めて気がついたように、呆然と立ち尽くして動けなくなってしまうのだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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