Episode:21_4 Take6



「行ってしまったね」
「うん…」
 浩一はマナの肩に手を置いた。
「でも諦めないからね?」
「僕じゃダメなのかな?」
 マナは体を浩一へ預け、その頬に髪をすりよせた。
「浩一は弟みたいなものでしょ?、そういう気はないの」
 ちえっと浩一。
「それに浩一だって、レイちゃんに気があるんじゃない」
 肩をすくめて、マナから離れる。
「じゃあもうちょっとだけ、悪あがきしてみようかな?」
 クスッと笑って、マナは先に歩き出した。
 シンジの駆けていったコンサートホールへ向かって。






 コンサートホール、シンジは客席へ入ろうとして係員に止められていた。
「どうしても行かなきゃいけないんです!」
 でもいかめしい顔つきをしたガードマンは、かなりの分からず屋だった。
 いったん離れるシンジ。
「どうしよう…、レイが待ってるのに…」
 脳裏にがんがんと響く声は、強まりこそすれ弱くはなりそうに無い。
 シンジは右手で頭を抑えた。
「考えなきゃ、考えなきゃ、行かなきゃならないんだ…」
 舞台裏への行き方を考える。
「スタッフのみんながいれば、入れてもらえるかもしれない」
 当たりをつけて走り出す。
「シンジ君」
「カヲル君!」
 大当たりだった、従業員用の通路、その先に待ちわびていたようにカヲルが立っていた。
「遅かったね、シンジ君…」
「カヲル君…」
 くっと唇を噛む。
「僕は…、僕がバカだったのかもしれないけど、でも…」
「今はいいよ、それより…」
 カヲルは左手の壁を見た、その向こうには立ちつくしたままのレイが居るはずなのだ。
「シンジ君はレイのために来たんだね?」
 シンジはゆっくりと、だがはっきりと頷いた。
 満足げに微笑むカヲル。
「羨ましいよ、レイが…」
 シンジは服の胸元をつかんだ。
「…僕は、僕はレイに好きになっては貰えないかもしれないけど、でも」
 いなくなるのは嫌だから。
 言葉にしなくとも、カヲルにははっきりと伝わっていた。
 それがレイだけに当てはまらないと言う事も。
「優しいね、シンジ君は…」
 今度はゆっくりと首を振る。
「この間もそう言われたんだ、優しいって言って貰えたんだ…、でも違うんだ、僕は寂しいのが嫌だから…」
「それは僕も同じだよ」
 はっとしてカヲルの目を見る。
「僕達も…、かな?、シンジ君がいてくれないと寂しいのさ」
 背後に隠していたギターケースを差し出す。
「それは?」
 見覚えのあるギターケース。
「シンジ君?、いまレイを救える、レイを温めてあげる事のできる存在は君以外にはありえないんだよ」
 ギターケースが開いた。
「それは…サドウスキーのレプリカ!?」
 にやっとカヲル。
「さあ行っておいで?、レイの求める人、そしても僕の大事なシンジ君…」
 シンジはギターを両手で受け取った。
「ありがとう、カヲル君…」
 シンジは込められるだけの心を込めて、カヲルに伝えた。
「シンジ君の決めた事だからね…、だから応援するよ、僕は」
 すこしだけ嫉妬と淋しさが瞳に混ざり合っていた。
「…そうだ、カヲル君も一緒に」
 言いかけてやめる。
「ごめん、これは僕がやらなくちゃいけない事だから…」
 カヲルはわかっているよと、背を押した。
「うん、じゃあ行ってくるよ!」
 駆け出すシンジ。
 そしてその先にある舞台では、レイが膝を追って伏してしまおうとしていた。



「レイさん!」
 思わず大声を出すマユミ。
「しっ、黙って!」
 タタキが抑えた。
「でも、レイさんが!」
 タタキは何かを探すように周囲を見回した。
 そのサングラスごしの目が、安堵にゆるんだ。
「来たな?」
「え?」
 その視線を追うマユミ。
「シンジ君?」
「ごめんタタキさん、山岸さん」
 今までのようなオドオドとした態度はどこかへ吹き飛んでしまっていた。
 さっそうとした雰囲気と、凛々しいまでの表情に見とれるマユミ。
 …ほんとうにシンジ君なの?
 あまりにも印象が違い過ぎた。
 舞台の上を見るシンジ。
 レイを認めて、頬が少しゆるんだ。
 だが逆に瞳は真剣さを増し、緊張感を漂わせていく。
「僕が行きます」
「しかし…」
「僕が行きます、そのために来たんですから」
 タタキに有無を言わせなかった。
 ニヤリとタタキ。
「しかしな、アンプを繋がないと、ホール全体に音が響かないぞ?」
 コード付きのプラグを渡すタタキ。
 シンジは一瞬きょとんとしてから、急に吹き出してそれを受け取った。
「ありがとうございます!」
「早く行け」
「はい!」
 シンジは弦を弾いた。
 行くよ?、レイ…
 それはレイの知っている、とても、とても懐かしい曲だった。






「はじまった…」
 振り返るカヲル。
「じゃあ行こうか…、浩一君」
 カヲルに立ちふさがれていた二人。
「僕はそのために、ここで待っていたんだからね?」
 背を向け、歩き出す。
 浩一とマナは、逆らうそぶりを見せずに後に着いていった。



「なんだこれ?」
「誰か演奏してるのか?」
 レイのおかしな態度に息をのみ、おろおろとしていた観客達だったが、ギターの音が響いた途端にざわざわと騒ぎ出していた。
「なに泣いてんだよ、レイ…」
 テレビで何度も聞いた声。
「これってシンジって奴じゃないのか?」
「シンちゃん!」
 がが、キィーン…っと、マイクがハウリングを起こした。
「今日は一人で頑張るんじゃなかったの?」
「一体どこに居るんだよ!?」
 ギターの曲に気がつく。
「これって、前に話題になった「月の歌」ってやつじゃないのか?」
 一度曲が止まる。
「だって…、だってあたし、シンちゃんに…」
 遮るように、それ以上口にさせないために、ギャーンっと大きくかき鳴らされた。
「じゃあ、気分直しに歌ってみない?」
 くすっと、笑うような口調で。
「いくよ?」
 レイの知っているフレーズが流れてきた。
「君色おもぉいー、今が、眠れない夜にィ…」
 きーみを、抱きしーめーに、行こう♪
 ギターが再びかき鳴らされた。
「何が、悲しくて、泣いてるのかぁ…」
 気づかない僕を許して…
 シンちゃん?
 ようやく顔を上げるレイ。
 そしてレイは舞台袖を見た。
 そこにシンジが立っていた。
 優しげに、久々に見る、昔のままの微笑みを湛えて。
「シンちゃん!」
 立ち上がり、駆け出すレイ。
 シンジはゆっくりと進み出た。
「シンちゃん!」
 首に噛り付く。
「あ、ちょ、ちょっとレイ、ギターが弾けないよ!」
「そんなのどうだって良いもん!」
 シンちゃんだ。
 シンちゃんがここに居る。
 シンちゃんが来てくれた!
 もうシンジにはレイの心の声は聞こえていなかった。
 だけどかわりに、その体から溢れ出るような感情が伝わってくる。
「レイ…」
「シンちゃん…」
「歌おうよ、ね?」
 レイは目元の涙をぬぐうと、こくりと笑顔で頷いた。
 演出…、なのだろうか?
 首をひねるお客さん達。
「どうして?」
 舞台袖では、マナが自らの体を抱きしめていた。
「さっきまであれだけ落ち込んでたのに…」
 その動揺は、同じく浩一も味わっていた。
「綾波さんの気持ちを…、信じられなくなっていたんじゃなかったのか?」
 首を振ったのはマユミだった。
「今でも確信していないと思います」
 でも…と、マユミは羨望の眼差しを向けていた。
「わかるよな気がします…、好きになると言うことに、相手の気持ちは関係無いんだって事が」
「結果、人を傷つけてもかい?」
 カヲルの問いに、首を振る。
「気持ちを伝えるのは、その次ですから」
 微笑むマユミに、そうだね…とカヲルも柔らかく微笑み返した。
「シンジ君は凄いよ…、ちゃんと自分で歩き出す道を見つけ出すんだからね?」
 僕達なんてただうろたえて、手を差し伸べてもらえるのを待っているだけなのに…
 気持ちよさそうにギターを弾いているシンジを見る。
「その強さこそが、好意に値するんだよ、シンジ君…」
 ごめんよ、不安がらせてしまったね?
 ようやくカヲルは、罪悪感を吐き出した。
 逆に舞台の上では、レイが気持ちよさそうに歌っている。
「負けないんだから…」
 マナの呟きが聞こえて来た。
 だが無視するカヲル。
 カヲルが気にしているのは隣の少女、マユミだった。
 好きになると言うことに、相手の気持ちは関係無い…
 どうしてそんな感想を持ったのだろうか?
 敵がまた増えたかな?
 カヲルはおかしげに苦笑いを浮かべていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

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