Episode:21_1 Take1



 無事に隠された天窓。
 本当なら…
「朝よー!、シンジ起きなさぁい!!」
 っとアスカが起こすはずだった。
 …でも。
「シンジ様ぁ」
 ゆさゆさと揺すったのはミズホだった。
「……」
「シンジ様ぁ!」
 アスカほど強引でないミズホに、その役目は重かった。


GenesisQ’ act.21 FirstStage
「逢いたい、な」


「ミズホ、早く早くぅ!」
「あう〜ん、待ってくださぁーい!」
 軽い足取りで駆けてくる。
 皆ばらばらにお昼を食べるようになっていた。
 それぞれにお弁当箱を持つようになって、ミズホの荷物は極端に軽くなっている。
 ついでに走りやすいよう、シンジと同じ、背負うこともできる黒鞄を使いだしていた。
「もちろん、シンジ様と同じってことが重要なんですけどぉ」
「…誰に言ってんの?」
 きゃっと恥じらうミズホに、シンジは怪訝な目を向けた。
「それよりさぁ、ミズホごめんね…」
「はう?」
「寝坊してるの、僕なのにさ…」
「いつものことですぅ!、お気になさらないでください〜」
 花が咲いたような可憐な微笑み、だがそれがシンジを逆に締め付ける。
「でも…」
「わたしはぁ!」
 シンジと腕を組む。
「こうして、シンジ様と登校できる方が嬉しいんですぅ」
「そう?」
 いつもなら照れて振り払うところだが、シンジは逆に歩調をゆるめた。
 ここからなら、歩いても間に合うもんね?
「シンジ様?」
 そんなシンジに不満顔。
「私に合わせちゃダメですぅ」
「え?、なんでさ?」
「わたしがぁ、シンジ様に一生懸命着いていくから意味があるんですぅ!」
 ぷうっと頬をふくらませる。
「え?、あ、そういうもんなの?」
「はいですぅ!」
「じゃあ、行くよ?」
 ミズホの顔が下から上へと、一気に赤くなった。
 最後にドカンと頭で爆発。
「どどど、どうしたのさ、ミズホ!?」
「そんなお優しい目で、「行くよ?」なんて確認しちゃ嫌ですぅ」
 両頬を手で挟んで、いやんいやんと身をよじる。
 は?っとよくわかってないシンジ。
 ミズホはミズホで、どこか壊れていた。






「あ、カヲル君」
「やあ、おはよう、シンジ君」
 教室、片手を上げるカヲル。
「今日は先に出ちゃったんだね?」
「寂しかったのかい?」
 両肘を机の上に置き、手を組みあわせる。
 その上に頬を乗せて、カヲルは薄く笑みを浮かべた。
 眉目秀麗、その域には達していなくとも、神のみが成しうる黄金律を用いた造形によって、カヲルの微笑みはほぼパーペキな完成形を見せていた。
 達していないのにはわけがある、まだ少年の域を出ていないからだ、だがそれでも十分、一部の者を除いては、彼の笑みに抗える少年少女など居なかった。
「またそんなことを言うんだから…」
 不幸なのは、最も想いを受け入れてもらいたい相手が、その少数派に属していることだろう。
「ああ、悲しいよ、僕は…」
 おおげさに手を広げる。
「ちょ、ちょっと、カヲル君?」
 またか?
 そんな感じで、クラス中の注目が集まる。
「だってシンジ君、昨夜はあれ程僕の名を呼んでくれたのに」
「ななな、何言ってるんだよ!?」
「覚えてるよ?、昨日の深夜の小さな地震、リズミカルな震動がゆさゆさと床を伝わって来て…」
「嘘だ、嘘付かないでよ!」
 汚らわしい〜…
 不潔ぅ〜
 そんな視線が集中する。
 シンジは慌ててカヲルの口を塞ごうとした。
「はぁはぁと言う息にふと目を覚ますと布団が小刻みに…」
「やめて、やめてよ!」
 衆目を気にする。
「プリンばかり食べているから、お腹が痛くなるんだよ?、さするぐらいじゃ治らないさ」
 なんだそんなオチかぁ〜と、元の雑談に戻るクラスメート達。
「か、カヲル君、頼むから誤解を招くような発言はやめてよ…」
 どっと疲れるシンジ。
「誤解?、誤解ってなんだい?」
 シンジの顎に手をやり、つっと撫でる。
「僕達には、誤解も何も無いさ、そうじゃないのかい?」
「こ、こういうのが誤解を招くって…」
「ふふ…、心も体も一つになったのに…」
 ザワ!
「人目を気にしてしまうんだね、君は…」
 ザワザワザワ!
「ひ、一つって…」
 ゴク…
 喉を鳴らしたのは聴衆だ。
「この間、僕達の部屋で」
 僕達の!?
「二人っきりの時に」
 二人っきり!?
「君は第9に合わせて登りつめて…」
「ああ、あれかぁ」
 あれ!
 認めた!?
 凍り付く男子。
 きゃ〜!
 嬌声を上げる女の子。
「だってあれはカヲル君がムリヤリ…」
「でも、気持ち良かったろう?」
「…ちょっとね」
「お前らぁ!」
 飛び掛かったのは鰯水だ。
「うわっ!、どっから湧いて出たの!?」
「貴様ぁ!、外道で鬼畜だとは思っていたが、まさかそこまで堕ちていたとは!」
「ちょ、ちょっと何言ってんだよ!」
「そう、僕とシンジ君は淡き切ない想いを胸に、もどかしさとほんの少しの高揚を抱いて…」
「くわー!、貴様のような一見貧弱でなよなよしてて、弱虫そうで「可愛い」なんて人の気を引くだけ引いて、しかも逃さず毒牙に染めるような(自主規制)は第三高校のモラル代表、鰯水等が成敗してくれるわ!」
「ちょっと待ってよ、言ってることがわかんないよ、鰯水君!」
「問答無用!、天誅〜!」
 ダンスをしたんだ…、と一応の補足、だがその時にはもう誰も聞いてはいなかった。






「シンちゃん!」
 シンジの教室に飛びこんでくるレイ。
「カヲルに強姦されたってほんと!?」
 いきなりずっこけるシンジ。
「ど、どっからそんな話が…」
「あら?、学校中噂になってるわよ?」
「アスカぁ〜」
「ふんっだ!」
 冷たい態度が恐い。
 だがさらに恐いのは。
「うう〜」
 と涙目のミズホだ。
「シンジ様のバカァ…」
「ご、誤解だよ!、そんなの嘘に決まってるじゃないか!」
「あんたバカぁ?、問題は噂が立つって事なのよ!」
「そ、そんなの僕のせいじゃないし…」
「ええ〜?、でもシンちゃん、たまに墓穴掘って自分で埋まるしぃ」
「ひ、酷いや…」
 るる〜っと落ち込む。
「ま、そんなわけだからシンちゃん」
 腕を取って立ち上がらせる。
「な、なに?」
「誤解を解かなきゃね?」
「どうやって?」
「もちろん…」
 頬を赤らめてモジモジと。
 サーっと血の気が引くシンジ。
「ごめん、レイ…」
 血管が浮き出るほど力を入れて爪を食い込ませているレイの指を、なんとか一本一本剥がそうとする。
「僕は…、僕は臆病で卑怯者なんだぁ!」
 振りきり逃げようとしたが、反対側の腕をミズホにつかまれた。
「うっ…」
「火の無い所に煙は立たないと申しますぅ」
「でもあれは…、カヲル君が」
「男らしくないわよぉ?、素直に自分が悪いって認めたら?」
「ごめんって言った瞬間、何かしろって言う気でしょ?」
「シンジのくせに先を読むなんて生意気よ!」
「何だよそれは…」
「シンジ様ぁ〜」
 くいくいっと袖を引く。
「だからミズホ、それは誤解でね?」
「ん〜」
 っと唇を突き出す。
「…それ一体なんのつもりよ?」
 シンジの代わりにアスカが突っ込んだ。
「そうだ、ミズホには飴を上げるね?」
 尖らされた唇に、シンジはアメ玉を押しつけてた。
「んっ、わーいおいしいですぅ…って、こんなのじゃごまかされませーん!」
「うわ、ごめん」
 ぽかぽかと叩くミズホ。
 シンジ様の指が触れたですぅ!
 実は照れているらしい。
「おや?、どうしたんだい、シンジ君」
「カヲル君!」
「でたわね、元凶が…」
 ぐっと顎を引いて睨みつける三人。
「こりないね、君は」
「なによ?」
「小皺が増えると言っているのさ」
「うっさい!、あんたがいらない事ばっかりするから、変な噂が立っちゃうんじゃないのよ!」
「そうよカヲル、ただでさえ…」
 そこで言葉が途切れた。
「どうしたのよ、レイ?」
 怪訝そうなアスカ、カヲルの後ろを、少年が一人通り過ぎた。
 赤い髪をした、色白の少年。
 彼はそのまま、シンジの少し後ろの席に座った。
「うそ…」
 茫然自失のレイ。
 しばらくしてレイは、カヲルの手を引いて駆け出していった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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