Episode:21_1 Take2
「あ、やってるやってる」
その放課後。
柔剣道場の周りに、余り学校とは関係のなさそうな集団が右往左往していた。
「やあ、シンジ君に…、アスカちゃんだったかな?」
「タタキさん」
例のドームの件であやうく首が飛びそうになったタタキだ、だがなんとか無事に事無きを得ていたようである。
「今日は小和田先輩の取材ですか?」
「まあそんなとこだ、レイちゃんにミズホちゃんを借りてるよ?」
くいっと親指で背中の道場を指す。
レイがカメラに囲まれて、道場の前でマイクを手に立っていた。
「レイ、何やってるんですか?」
「アルバイトさ」
タタキについて、シンジもレイの近くへ寄った。
「やっほー!、日本全国…とまでは残念ながらいかなくて、現在第三新東京市の約1万人程度のアイドル、レイちゃんで〜す」
かなり調子に乗ってるレイ、ちなみに制服姿、珍しく唇に色付きリップを塗っている。
「さぁて今日は話題の大和撫子、小和田先輩のレポート役に駆り出されてしまいましたぁ」
くるっとターン、膨らんだスカートがおいしい。
「さぁてこちらが…、二人の男がくんずほぐれつ、普段は汗と汗!、涙と涙!!、男同士をほとばしりあう…」
誰か止めろと言う叫び。
「柔剣道場でぇっす!」
放送禁止用語に引っ掛からないかと、冷や汗もののスタッフ一同。
「絶対わざとやってるわね…」
アスカの呟きに頷くシンジ。
「まああれも愛嬌の内だろ?、相田の努力のおかげで、わりと人気もあることだし」
「ど、努力…、あまり聞きたくないわね」
「シンジ様ぁ!」
ミズホが慌てて走ってくる。
「ミズホ、どうしたの?」
「あう〜、シンジ様、ちょっと来てください!」
「あ、ちょっとミズホ!」
「どうしたのよ?」
「事は急を要するんですぅ!」
半ば無理矢理引っ張る。
「わ、わかったよ、わかったから落ち着いて!」
ミズホの後につき、道場裏へ走っていく。
「なんなのよ、もう」
気にはなったが、アスカはレイのレポートの方が面白そうだと、残ることを選んだ。
●
「ははは…、なるほどね」
道場裏手の更衣室で、シンジは壁に向き、正座していた。
「私も、まだまだ精進がたりませんね」
ミズホに着せる着物を用意している小和田先輩。
その右手首に包帯がまかれていた。
「しかし起こったことについて嘆いてもいられません、幸い舞いについてはミズホさんにお覚えいただいておりますから…」
「え?、ミズホが」
驚きに、つい振り返りそうになる。
「見ちゃダメですぅ!」
慌てて胸元をタオルで隠していた。
焦って姿勢を戻すシンジ。
「ご、ごめん…、そっか、ミズホ頑張ったんだ、えらいね?」
でへ〜っと聞こえてくる声に、どういう表情をしているのか見なくても想像がつく。
「そ、それで僕は何をすればいいんですか?」
「着付けを手伝っていただけますか?、一人では…、どうも」
心臓がバクバクと鳴りはじめる。
「で、でもほら、僕男だし…」
「もうこっち見ても大丈夫ですぅ」
「あ、うん、うわぁ!」
シンジは驚いて両腕をクロスさせた。
「まずいよ、マズイって!」
「え?、でもぉ…」
自分のカッコを見る。
上はスポーツブラ、下は下着のみだが、タオルを巻いて隠している。
「お家のお風呂上がりと、あまり変わりませんがぁ…」
誤解を招く発言をすると言う意味では、ミズホもカヲルの同類だろう。
「くそぉ〜、シンジの奴ぅ」
一人、格子窓からカメラごしに覗きこんでいる人物が居た。
もちろんケンスケだ。
涙が溢れて、メガネが曇っている。
部屋の中では、シンジがなるべく事務的になるよう努めていた。
てきぱきと着物を着せていく。
「こうなったらこのテープを流出して、シンジの息の根を…」
「ほほぉ、それはいい考えねぇ?」
「だろ?、これであの好色一代種馬男を社会的に抹消…」
そこまで言ってから、はっとして振り返った。
血の気がザーっと音をたてて引いていく。
「そ、惣流…しゃん」
アスカが角付きで仁王立ちしていた。
お互いにっこりと。
「こんの変態がぁ!」
ドカ!
「あうー!」
っと宙を飛んでくケンスケ。
「あ、今見えました、あれが第三高校でも有名な犯罪予備軍団の末路です」
レイは律義に説明して見せた。
●
「やあ、お疲れさま」
「タタキさん!」
両手を揃えて差し出すレイ。
はっはっはっはっはっと、舌を出して息が荒い、まるでおあずけを喰っている犬そのものだ。
「はいはい、バイト代ね」
いつのまに切ったのか、しっかりと給与明細書付きで封筒に入れられていた。
「ありがとー!、タタキさんって、思ったより良い人ですね!」
「素直だなぁ」
レイは聞かずに踵を返した。
「じゃねー、また割の良いバイトだったらよろしくぅ!」
割の良いバイトね…
含む所のあるタタキだった。
「シ〜ンちゃん、って、何してんの?」
「あ、助けて、助けてよぉ!」
アスカがアキレス腱固めを決めていた。
「アスカ、足太くなるよ?」
「ぬわんですってぇ!?、もう一度言ってみなさいよ!」
「いたたたたた、ぼ、僕じゃないよぉ!」
のたうつシンジ。
「このバカ、こともあろうにミズホの下着姿見て鼻の下伸ばしてたんだから!」
くすっとレイ。
「しょうがないよぉ、シンちゃんだってオトコノコなんだし…」
「よくないわよ!、シンジはあたしだけ見てればいいの!」
「見たら怒るくせにぃ…」
「なんか言った!?」
「いたたたたたたたたた、だから僕じゃないってばぁ!」
くすくすと笑いながら、レイはあることに気がついた。
「そう言えばシンちゃん、クラブは?」
「え?」
「だって今日、あるんでしょ?」
「あ、うん、でも参加は自由だからね、ほら、僕のクラスってあれだから、選考会だとかコンテストだとかで欠席者多いんだ」
「ふ〜ん…、あ、じゃあ行ってみない?」
「でも…、やっぱちょっと行き辛いし…」
「良いじゃない、行こうよ、ね?」
シンジの前に座りこむ。
「あ、うん…」
ゴクリ。
自然とレイのスカートの中が見えた。
「いだぁーーーーーー!」
アスカは無言で、罰をさらに強化した。
●
「あいててて…」
「シンちゃん、大丈夫?」
肩を貸しているレイ。
「う、うん、なんとか…」
ぷんぷんと、アスカの頭には青筋シールが物理的に張り付けられていた。
張ったのはレイだ、アスカは気がついていないが、バレたら怒りはまたシンジに向かうだろう。
シンジはそれが恐かった。
「ほんと、まいったなぁ…」
場所、移って講堂。
「どうして僕に怒るんだろう?」
「手頃だからじゃないの?」
レイの返事に、がっくりと沈みこむシンジ。
「ど、どうせ僕なんて、どじでのろまなホースチルドレンなんだ…」
「馬並なんだ…」
ぼそっとレイ。
「よくわかんないけど、トウジがそう言ってた」
2年前の、温泉での記憶を掘り起こし、比較照合する。
レイは誤報だと判断した。
「人並みだからいいんじゃないのかなぁ?」
「え?、馬の方が人より上なの?」
変な所で惚けてるシンジ。
「うん、まあ…って、あんまり女の子とする会話じゃないんだけど…、話題変えていい?」
「あ、そうなの?、ごめん、知らなくて…」
シンジは謝ると、視線を舞台へ向けた。
「おお、ロミオ、あなたはどうして…」
舞台では台本片手に、即興で劇が行われている。
「碇君は舞台に出ないのかい?」
劇で使う椅子や机を運びこんでいる子が声をかけてきた、クラスメートの一人だ。
シンジ達のクラスは、別名「アイドル専科」と名前が付いていた。
入試は通常のものと別試験を受けているので、落ちこぼれれば普通学科へ移されることになる。
だからシンジのように前に出たがらない性格の者には、かなり場違いな感じがあった。
それでクラブ活動をおろそかにしていたのだ。
「僕はいいよ、みんなみたいにうまくできるわけないから」
舞台を見る。
元々がそういった人たちの集まりなのだ、皆勝手に脇役などを進んで演じ、自分をアピールしていた。
「そっか、実は僕もなんだ」
「あ、手伝うよ」
「悪いね」
シンジはレイに待っててと言うと、彼と同じように机を持った。
「あいた!」
何かが指に刺さった。
「シンちゃん!」
「大丈夫かい?」
シンジの手を取る。
「あ、いいよ」
「良くないよ、血が出てるじゃないか」
ぷくっと、左の人差し指に赤く盛り上がっていた。
「そうよシンちゃん、はやく手当てしないと…」
机の角に、セロテープで画鋲が張り付けられていた。
「もう!、誰?、こんな事したの…」
「ばんそうこう持ってるから、じっとしてて」
シンジの指に巻きつける。
「ごめん…」
シンジはばんそうこうを見た、パンダ柄だ。
「可愛いだろ?、妹のなんだ」
「妹?」
「知ってるだろ?、君がキィって呼んでた子のこと」
「えっ!?、あ、じゃあ!」
「僕の名前は浩一、クルス浩一」
「クルス…くん?」
浩一はにっこりと微笑み返した。
「浩一でいいよ、碇君」
「僕も…あの、シンジでいいよ」
どこかで会ったことがある、シンジはそう感じた。
そして同時に思い出した。
今朝、レイが彼を見て慌てていたことを。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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