Episode:21_1 Take3



「あ、ほんとだ、やってますぅ!」
 講堂入り口に、アスカとミズホ。
「アスカさん、ありがとうございますぅ!」
 アスカが呼んできたらしい。
 ミズホは小和田の代役の努めを果たすと、速攻で着替えて飛んできたのだ。
「シンジ様は、どこにいらっしゃるんでしょうかぁ?」
 姿が見えない。
「シンジ君なら、裏方をやってるよ」
「カヲル!」
 いつの間にか、真横に立っていた。
「あんたは参加しないの?」
「舞台はやるより見るほうがいいからね」
 鰯水がロミオをやっていた。
「演じるのは、好きじゃないのさ」
「カヲル…」
 言葉に含まれている微妙なものを、アスカはかすかに感じ取った。
「舞台裏へ行って見るといいよ」
 その影を押し隠し、二人の背を押すカヲル。
「え?、良いんですかぁ?」
「鰯水君のファンもいる、問題無いさ」
 カヲルはウィンクして見せた。


「あ、アスカさん!」
 感激の余り、舞台から飛び降りる鰯水。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!、いいの?、劇の最中でしょうが」
 鰯水の向こう、舞台を見る。
 鰯水が抜けた穴を、ちゃっかりと他の子が埋めていた。
「誰がどの役につくのか自由なんだよ」
「…あれ?、そう言えばなんであんたがここに居るわけ?」
 ふわさっと髪をかき上げる。
「心外だなぁ、ぼかぁ…」
「ま、あんたのことなんてどうでも良いんだけど…」
「聞いておくれよぉ〜」
「嫌よ、それよりシンジ知らない?」
「シンジ様ぁ〜」
 ミズホは「シンジ様?」っと、どんちょうの裏を見たり覗いたり、忙しなくちょろちょろとしていた。
「碇君なら、そのへんで雑用でもやらされてるんじゃないかな?」
 いい気味だと言わんばかりに。
「クラブをサボってた罰だってね?」
 そんな鰯水を、アスカは当然張り倒した。






「シンちゃん、そういうの似合うね?」
「そお?」
 あんまりうれしくないや…
 水飲み場で洗い物をしながら、シンジはそう思った。
「何洗ってんの?」
「あ、いやこれは」
「ヤだパンツ洗ってる!」
「ハンカチだよハンカチ!」
 広げて見せる。
「なぁんてね、いくらなんでも、そんなわけないもんね」
 てへっと舌を出す。
 からかわれたと知って、シンジは憮然とした表情を浮かべた。
「酷いや、からかうなんて…」
「ごめぇん、怒った?」
 ぷいっと横を向くシンジ。
「あ〜んもう、シンちゃんてばぁ」
 肩に手をやって揺すりながら、レイはこぼれる笑いを止められなかった。
「何笑ってるのさ?」
「だって、そういうとこアスカにそっくりなんだもん」
 は?っと、シンジは驚いた。
「アスカと、僕が?」
「安心してる人になら、そうやって怒ったりふりするとことか」
 屈託のない笑みに、何故だかシンジは「ごめん」と謝った。
「どうして謝るの?」
 不思議そうなレイ。
「え?、だって、ちょっと馴れ馴れし過ぎたのかなと思って…」
 レイは首を傾げた。
「なに?、シンちゃん、今更…」
「ん…、だってレイにだって友達って居るでしょ?、僕、あんまり良い噂ってないからさ…」
「ってシンちゃん、その噂作ってるの、ほとんどあたし達なんじゃないの?」
「そ、そんなことないよ」
「ん〜、そっかなぁ?、シンちゃんは嫌なの?」
「え?」
 まっすぐに覗きこむレイ。
「あたし達…、あたしと噂されるのって、嫌?」
 ちょっとした悪戯っ子の気分。
「嫌じゃないけど…」
「シンちゃんの友達は、なんて言ってるの?」
 無言のシンジ。
 とめていた手を動かして、再び洗濯を始めた。
「シンちゃん?」
 おかしなものを感じるレイ。
「まだ、友達っていないから…」
 ぼそりとシンジ。
「ふ〜ん…、あ、なら浩一君は?」
 ドキン!
 あれ?
 胸が痛い…
 それを不思議に感じるシンジ。
「良い人だよ?、浩一君って」
 楽しげに話すレイ。
 どうして、浩一君の名前が出るの?
 シンジはそれを知りたいと思っている自分に驚いた。






「おまたせぇ」
 アスカが走ってくる。
 校門でシンジは手持ちぶさたに、足でのの字を書いていた。
「じゃ、帰ろうか?」
 それをぐしゃっとかき消す。
「ええ、行きましょ!」
 アスカは当然のように腕を絡めた。
「な〜んか暗いわねぇ、何かあったの?」
「なんでもないよ」
 いつもよりほんの少し、暗めの笑顔。
「あんたバカァ?、レイ達にならともかく、このあたしにごまかしが効くとでも思ってんの?」
 脇をつねる。
「あいた!、もう、わかったよ…」
 ため息をつく。
「なんだか、みんなバラバラだなと思ってさ…」
 レイとミズホは、撮影後の打ち上げに小和田先輩と共に行ってしまった。
 レイの涎じゅるじゅるモードとミズホの良い子ぶりは、かなり見物だったが。
「カヲル君もまたどっか行っちゃったし…、変だね?、同じ家に住むようになってから、なんだか前よりも顔を合わせてる回数が減ってる…」
 そっかなぁとアスカは顎先に人差し指を当てて考えた。
「あたしは前よりシンジと遊んでると思うんだけど…」
「そお?」
「まあね、それに、真っ先に裏切ったのあんたじゃない」
「え?」
「ク・ラ・ス、勝手に四類になんて行っちゃってさ」
「あ、ごめん…」
「でもま、みんなきっと家に帰れば会えるって、そう安心してるからじゃないの?」
「安心?」
「そうよ、家に帰ったらシンジがいるの、それだけであたしは」
 しあわせよ?
 シンジの耳に息を吹きかけた。
「か、からかわないでよ!」
 言ってしまってから、ちょっと冷める。
「…どうしたのよ?」
「なんだか今日はずっと、からかわれてばかりいるような気がする」
「そういう宿命なのよ」
 全然慰めになってない。
「そうそう、あんたは黙って、あたしと一緒に居ればいいのよ」
 ぐっと腕に力を込める。
 シンジは腕に軽く押し返されるような弾力のあるものを感じた。
「小さい頃から一緒だったんだもん…、これからも一緒にいてあげるわよ」
 照れたような、はにかんだ微笑に、シンジは吸いこまれそうになっていた。






「シンジぃ〜、アイスクリーム買ってぇん☆」
 ラブラブモードに入ったアスカ。
 レイもミズホもカヲルも居ない!
 なんて今日はラッキーなの!?
 隣のシンジを見る。
 ボケボケっとした表情はいつものまんま。
 二人で仲良く下校中。
 こんなおいしい状況は滅多にないわ!。
 自然と力も入ってくる。
 今朝のレイ、おかしかったのに…、いったい何があったんだろう?
 その想いの相手は、思考の海に沈んでいた  浩一と交わした微笑み、それがしこりとなって残っていた。
「シンジ?、ちょっとシンジってば!」
 あまりに気のない態度にムッとして、アスカは耳を引っ張った。
「いてて!、あ、ごめん、なに?」
「もういいわよっ、バカ!」
 せっかくのムードが、ぶち壊しじゃない!
「ごめんってば、機嫌直してよぉ〜」
「じゃ、キス一回」
「え?」
「ほぉらぁ、はやくぅん♪」
 目を閉じて唇を突き出す。
 シンジは…、その隙に逃げ出そうとした。
「こらぁ!、逃げんじゃないわよ!」
「うわぁ!」
 首根っこを抑えられるシンジ。
「もう!、さっきからなに惚け惚けっとしてるのよ!」
 とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、頭を持って強引に顔を向かせる。
 グキッと異音。
「痛い!、痛いよアスカ!」
「こっちを見ないあんたが悪いのよ!」
 ぷうっとふくれてる。
「ぼ、僕にだって考え事ぐらいあるんだから…」
「シンジにぃ?」
 はんっと思いっきりバカにした。
「にっあわないのぉ〜」
「なんだよ、バカにするなよなぁ」
 ふくれて足を速める。
「ごめんごめん、でもあんた、物思いにふけってるのと、ぼうっとしてるのって、あんまり変わんないんだもん」
 強引に腕を取り、組む。
「怒った?」
 上目使いに、息が少し荒くなっている。
「良いよ、もう」
 多少投げやり、すねてみた所で、どうやってもこの幼馴染が勝つに決まっているのだから。
「それに言ったでしょ?、あんたはあたしの側に居てりゃ良いのよ」
 頬に髪をすりよせる。
「なんだよ、それ」
「言わなきゃわかんない?」
 言わせると危険だと感じる。
「…ごめん」
 だから謝る。
「もう、バカなんだから…」
 雰囲気を楽しんでるだけ。
 だからアスカの「バカ」には暖かみがある。
 蘇るのはレイの言葉。
 安心してる相手には…
 こういう事なのかな?と、漠然と理解した。
「でも二人で帰るのって、なんだか変だね?」
「いっつもお邪魔虫がいるものねぇ〜」
 幸せ一杯、そんな声に、シンジは胸をチクンと痛めた。
「ごめんね?、僕はまだ、誰かを選ぶことができなくて…」
「いいわよ…、あたしにも判るもの…」
 アスカに?
 小声で聞いてしまう。
 アスカは小さく頷いた。
「恐いんでしょ?、今の関係が壊れるの…」
 複雑な心境を、ストレートに顔に浮かべてしまう。
「ほら、あたしと同じじゃない」
 腕をほどく、そのままアスカはシンジの手に手を合わせた。
「でもおばさんになる前には決めてよね?」
「…うん」
 薬指と小指だけ。
 二本づつの指を絡める。
「葛城先生とか、赤木先生みたいになっちゃうのは嫌なんだから…」
「それは酷いよ…」
 くすくすと笑ってしまう。
 バレたら殺されるかもしれないが。
「でも、ミサト先生には加持さんが居るし…」
「そう!、それよ!!」
 急に怒った顔を作る。
「あんた加持さんが校長だって、知ってたんですってね!?」
「う、うん、入試の時に会ったから…」
「もう!、どうして早く教えてくれなかったのよ!!」
「あ、ごめん…」
「ごめんじゃすまされないわよ!、おかげで入学式の挨拶、録音しそこなったじゃないのよ!」
「そんなことするつもりだったの!?」
「当然よ!、公認ファンクラブ第一号としてはあったりまえのことじゃない!」
 そんなものまであったのか…
 シンジの頬を汗がつたった。
「おかげで遅れを取っちゃったわ、でも良いの!、加持さんと個人的なお付き合いがあるのはあたしだけなんだから、はあ〜ん、加持さぁん!」
 手を離し、一人でくねくねと体を抱きしめる。
「ま、いいけどね…」
 呆れ顔のシンジ。
「ん、あんたもしかして焼いてんの?」
「ち、違うよ!」
「ん〜、ホントぉ?」
「そんなわけないだろう!?」
 むーっとアスカは一気に不機嫌さをあらわした。
「あ、でもアスカってミサト先生に似てるとこあるし、もしかすると加持さんのタイプかもね!?」
 焦ったシンジは、三つの間違いを犯してしまった。
「あんたバカァ?、あたしのどこが似てるってのよ!」
 「バカ」のニュアンスに危険信号を感知。
「ま、それはそれとして、だったらなんで加持さんの好みになるわけ?」
 胸倉をつかむ。
「最後に、まぁだあたしがあんたより加持さんのことを好きだなんて思ってんじゃないでしょうねぇ?」
「そ、そんなの…」
 わかるわけないだろ…
 もごもごと呟く。
「バカ…」
 小声で。
「じゃあどうすれば信用するわけ?」
「信用って…、別に疑ってるわけじゃ…」
「疑ってるじゃない!」
「ないってば!」
「じゃあどうしてよ!?」
「自信がないんだよ!」
 真剣な、黒い瞳に吸い込まれる。
 時に優しいその目は、多少の茶を帯びてアスカを見ていた。
「まだ自信がないんだよ…、加持さんみたいな人と比べられて、どうしろっていうんだよ…」
 アスカから目を背ける。
「アスカだってそうだろ?、僕より気になるものがあるから、一緒に学校行かなくなったんでしょ、違うの?」
「そ、そんな言い方、ずるいわよ…」
 あたしにだってやりたいことがあるもの…
 シンジも大事だけど…、両立なんてできない。
「ほらね?、でも、それも仕方ないと思ってるんだ」
 寂しげに微笑む。
「僕が僕に自信を持てないのは、僕自身がまだ何も見つけてないからでしょ?」
 だから、と空を見上げる。
「一番に想ってもらえるようになるまで頑張るんだ…、今はまだ、それが見つからないから我慢してる…」
 アスカに今できる精一杯の笑顔を作った。
「例えみんながこんな僕に愛想をつかしたとしても、後悔なんてしない…、覚えてる?、鰯水君に言った事」
 アスカは黙って頷いた。
「ズルいよね、僕って…」
 さ、行こう?
 先に歩き出す。
 その背中が小さい。
「…することないのに」
 我慢なんて。
 でも、何も考えてないみたいで、ちゃんと気にしてくれてたんだ、あたしのこと…
 この間の体重騒ぎのことを思い返す。
 いらないとこばかり見てるわけじゃないのね…、ちゃんと見るとこも見ててくれてる、考えてくれてる。
 だからアスカは後を追いかけ、抱きついた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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