Episode:22 Take1
「これっが陽気な、かしまし娘ぇ♪」
「ってシンちゃん?」
シンジの隣で首を傾げるレイ。
「「かしましい」ってなに?」
突っ込むべきなのか惚けるべきなのか、どうも判断がつかなかったらしい。
「知らないよ…、でもとりあえず歌っとけって、タタキさんが…」
ギター片手におどおどとシンジ。
「そんな裏事情ばらしてて良いのかなぁ?」
ブラウン管の中で、レイは苦笑しながらスタッフに確認の視線を送っていた。
そう、彼女が見ているのはブラウン管だった。
ブラウン管の、レトロなテレビ。
それも今時14インチ。
「もうシンジ君ったら、もうちょっとしっかり勉強しなくちゃ…」
こたつに入り、突っ込んだのはマヤだった。
ワンルームマンションに一人暮らし。
だからだろうか、面倒くささに4月の終わりになってもこたつを出しっぱなしにしていた。
「でもシンジ君、アスカちゃん達のことはどうするつもりなんだろう?」
目を落とす。
そこにはところ狭しと写真が広げられていた。
暇つぶしに整理を始めて、今はちょうど投げ出してしまったところだった。
画面に戻る、そこはマヤの知っている喫茶店だった。
「でも良いお店…、ねえ、今度からデートコースに入れない?」
「なんだよ今度からって、デートなんてしてる暇ないんだろ?」
シンジのぶっきらぼうな答えに、レイは唇を尖らせた。
「シンちゃんがその気なら、時間なんていくらでも作るんだけどなぁ…」
「それにこの番組、デートに使える場所を紹介してるんじゃなかったっけ?」
「やっぱり実践が伴わないとね」
「ははは…」
ごまかすようにコーヒーに口をつけるシンジ。
テーブルに両肘をつき、手を組み合わせてその向こうから覗きこんでいるレイ。
シンジはカップを置いてから答えを返した。
「ごめん、いま金欠だから…」
実はシンジの出演はボランティアだったのだ。
「え〜〜〜!、バイト代貰ってなかったのぉ!?」
「うん…、だってお金が目的じゃなかったし…」
それって!
レイの瞳が喜びに輝く。
多分、マヤと同じく放送を見ている人間のうち、男性サイドは「ちっ!」っと唾を吐き捨てたことであろう。
女の子は…
「ちょっと妬けるかな?」
っと、マヤのように少しだけ憧れたかもしれない。
「素敵な男の子かぁ…」
写真は第一中学校の時のものだった、みなで温泉旅行に行った時のものだ。
「そっか、この時ってまだ信濃さんがいなかったんだっけ?」
考えてみれば、ミズホの写った写真というものはなかった。
こんど一枚…と考えて、ケンスケに頼んでおくことを思い付く。
とりあえず、水着の少女に囲まれたシンジの写真を手にとってみた。
「ぱっとしないのにね?」
優しそうなのがポイントなのかな?
マヤはすぐに「いけない」っと頭を振った。
「…だめだなぁ、すぐに頭で考えちゃう、これじゃあ恋なんて無理よねぇ?」
写真を放り出して伸びをした、そしてそのまま倒れこむ。
トサ…っとカーペットに転がったのと、トルルルル…っと電話の音が鳴ったのが同時であった。
「もう!、鳴るなら横になる前にしてくれれば良かったのに…」
ぶつくさと文句を言いながらも受話器を取る。
「はい、もしもし?」
電話の相手はシゲルであった。
第22話「夢で逢えたら」
喫茶店。
観葉植物が落ち着いた雰囲気をかもし出している、そこは先程までテレビに映っていた喫茶店だった。
「あ、いたいた」
懐かしい人に顔をほころばせる。
とは言っても、つい一・二ヶ月前までは同僚だったのだが…
「以外と早かったね?」
シゲルも同じ思いなのか、少し頬がゆるんでいた。
「どうしたんですか?、急に呼び出したりなんかして…」
不審さをあらわす言葉とは裏腹に、マヤは笑顔を作っていた。
「いや、せっかくの日曜だしね、たまには…と思ってデートに誘ってみたんじゃないか」
シゲルは冗談っぽくウィンクしてみせた。
「いいんですかぁ?、お父さんに言っちゃいますよぉ?」
マヤもクスクスと冗談で返す。
「青葉さんなら、他にも誘える子いるんでしょう?」
「ま、誘うだけならね」
一転して声のトーンを落とす。
「何かあったんですか?」
マヤも笑顔を潜めた。
「いや、何かあったって言うか…、よくわからないんだけどさ」
声を潜めて顔を近づける。
マヤもつられて近づけた。
「実はマコトの事なんだよ…」
「日向さん…、ああ、落ち込んでましたもんねぇ」
加持が帰ってきたことでミサトがかまってくれなくなったとか、かなり色々とあったらしい。
「いや、実はさ、それを上回る話が…」
「え、なんです?」
興味をそそられて、ひそひそとしゃべりあう。
「葛城さん、結婚するらしいんだよ」
「「えーーー!」」
その声は隣のテーブルの下から上がった。
「え?、って、あなたたち!!」
レイとシンジだった、二人ともぶつけたのか頭を押さえている。
「ちゃー…、聞かれちゃったか」
顔を押さえる青葉。
「い、今の話、本当なんですか!?」
「とうとう「脱!、行かず後家」って感じなんだぁ!!」
がたがたと椅子を移動させるレイ。
「で、で、相手は誰なんですか?」
興味津々と座り込み、話に混ざる。
「やっぱり加持さんなんですか!?」
シンジもだ、レイをまねて椅子に座った。
「いや、あくまで噂だよ、噂」
しょうがないっとあきらめる青葉。
「でも火のない所ではお芋は焼けないって言うしぃ」
「レイ…、それは「お餅」でヤキモチの話だと思うよ?」
「そだっけ?」
「聞いたことないなぁ…」
と脱線していくマヤ。
「「かしましい」は知らないのに、よく知ってるわね、そんなこと…」
「…あ、もしかして、見てたんですか、さっきの?」
「うん、デートは男の子のほうから誘わなきゃね?」
「そ、そんなこと…、できませんよ」
シンジは赤くなってうつむいてしまった。
「だめだぞ?、女の子ってのは「誘われる」からうれしいって思うんだ」
「そうそう」
シゲルの言葉にうなずくレイ。
「もう、みんなでからかうんだもんなぁ…」
口を尖らせて言いだしっぺのマヤを見る。
ちょうどウェイトレスを呼んで注文を終えたところだった。
「それより、ミサト先生の話ですよ…、どうしてそんな噂が立っちゃってるんですか?」
肩をすくめる青葉。
「ああ、最近急に踊りを習ったり着付け教室に通い始めたりしててさ…」
「そっか、花嫁修業よ、シンちゃん」
シンジはミズホが習いに行った教室でのことを思い出した。
「そう言えば、母さんの知り合いの先生の所にも来てたもんね…」
むぅっと、同様に腕を組んで考え込む三人。
「加持さんも、ちゃんとした職についちゃってるもんな…」
髭も剃ったし…っと、シンジは半ば無理矢理関連づけていた。
●
「で、どうするの?、これ…」
第一中学校職員室。
リツコはマグカップを手に冷ややかな視線を落としていた。
ほぼ真下ではミサトが机に突っ伏している。
それ以外の空間を埋めるように、ファイルが山と積み重ねられていた。
「わかってるわよ…、習い事をするなら、先に相手をはっきりしろって言うんでしょ?」
顔を伏せているものだから、声が何だかくぐもっている。
「三十路前だからって慌てちゃって…」
「うっさいわねぇ、それはあんたもでしょうが」
お互いのこめかみに青筋が浮いた。
「高望みばかりして…、結局リョウちゃんを選んでるようじゃ、焦ったあげくの選択みたいで見え見えじゃないの」
「加持は関係ないわよぉ〜、別に結婚したくて習い事をやってみたわけじゃないしさ…」
「あらそう?」
リツコは言葉通りには受け取らなかった。
「最後の防波堤ってわけね?」
マグカップを置いて、ファイルの一つを手に取った。
開く、スーツ姿の青年が写っていた。
「あらいい男じゃない?」
「あんたねぇ、それ24よ?、あたし達が中学生の時に小学校入ったような子を捕まえて、いったいどんな付き合いをしろって言うのよ?」
「あら?、日向君でも似たようなものじゃないの?」
「あによそれぇ…」
「仲良かったじゃないの?」
「それはリツコも同じでしょ?」
「そうね…」
苦笑するリツコ。
「以外と使えるのよ、彼…」
ちなみにマコトは、今は自宅でリツコに渡されたソフトのデバッグをしていた。
「しかしあんたも暇ねぇ…、せっかくのお休みだって言うのに」
「しょうがないじゃない…、お腹減ったんだもん」
実は加持の元菜園に残っていたネギをかじりに来ていたのだ。
その頭をファイルでパンっと叩くリツコ。
「給料日先週じゃないの」
「そんなのもう、ビール買って終わっちゃったわよ」
思わずこめかみを押さえてしまう。
「あんたねぇ…」
今度こそ、リツコは頭痛を禁じえなかった。
●
「まったくもう、人使いが荒いんだから、赤木先生は…」
デバッグぐらい自分でやればいいのに…っとぐちってみる。
「それにしても、人工進化プログラムか…、一体どんなマシンで動かす気なんだろ?」
それは遺伝子の組み替えによって起きる変化をシュミュレーションするものであった。
「一つの組み替えだけでも、生じる変化って莫大な数になるのに…、スパコン程度じゃ追い付かないよなぁ…」
段々と興味が湧いてくる。
「葛城さん…」
モニターの枠に目をやった。
そこにはミサトの写真がテープで止められていた。
「待っていてください、僕が証明してみせますから」
妙なことを口走り、気合いを入れるマコトであった。
●
「結婚かぁ、いいなぁ…」
うっとりとレイ、その横顔を川面が夕日を反射して照らしだしていた。
「ねえシンちゃん、結婚式って洋式と和式とどっちが良い?」
「ってトイレじゃないんだから…」
苦笑いでシンジは答えた。
「それにまだミサト先生が結婚するって決まったわけじゃないんだし…」
「あれ?、でももうすぐ6月7月って…、別におかしくないと思うけどなぁ…」
年齢も適齢期越えてるし…の部分は口には出さなかった。
二人は並んで川辺を歩いていた。
家に帰るには遠回りだったのだが、レイの追っかけから逃げるためには仕方がなかったのだ。
実はさっき隠れていたのも、その関係だった。
「で、レイはどっちが良いの?」
「それはもちろんウェディングドレス!、それで素敵な旦那様に抱き上げてもらうの!」
教会から出てくる所を想像するシンジ。
ふとレイを見ると…、なぜだか涎を垂らしてだらしなく頬をゆるめていた。
「レイ?」
不審げに声を掛けてみる。
「あ、だめ、このままじゃ貸衣装が汚れちゃうよぉ…って、え?、何か言った、シンちゃん?」
「ううん、別に…」
どうやら抱き上げてもらっている場所が違うらしいと適当に察した。
「ぶんきんたかしまだだっけ?、ああいうのって厳かにって感じでしょ?」
二人で杯を交わす所を想像してみる。
「あたし、やっぱりパーってみんなに祝福してもらいたいなぁ…」
それでブーケを投げてあげるの…
レイは独り言のようにつぶやいた。
「ふーん…、憧れなんだ」
「うん」
微笑みを向ける。
シンジはその中に込められた微妙なものを感じ取れなかった。
「そっか…、素敵な旦那様か…」
僕じゃ無理だな…っと、抱き上げた瞬間に、重さに耐えきれずこける所を想像していた。
「当たり前か…」
寂しそうに水面を見つめた。
僕じゃ釣り合うわけ、ないもんな…
レイのバイトに付き合っている間だけが、二人が一緒にいられる時間になっていた。
中学の頃が懐かしいや…
足を止めてしまう。
いつからか、そんな風に考えるようになっていた。
相手の気持ちに気付かず、鈍感だった頃のこと。
「シンちゃん!」
少し先で待っているレイ。
まぶしいや…
それが夕日のせいかどうかは、シンジには区別がつけられなかった。
いや、つけたくはなかったのかもしれない…
好きとか嫌いとか…、そんなことは考えたくない。
考えずに流されていた頃に戻りたいとさえ思っていた。
「あの頃は…、楽しかったなぁ」
そのつぶやきを耳にするレイ。
「なあにシンちゃん、急に年寄り臭い…」
赤い瞳で覗きこんでくる。
そこに写るシンジは…、自分でも冴えないように思えた。
「じゃあ今は?」
「え?」
レイはシンジの前に回りこみ、シンジを立ち止まらせると顔を近づけた。
「今は楽しくないの?」
冗談っぽく尋ねてくる。
どのような答えが返ってくるのか、まるでわかっているとでも言うかの様に、その瞳はまるで疑ってはいなかった。
「楽しくないの?、シンちゃん」
もう一度だけ、尋ねてみる。
シンジは掌を握りこみそうなるのを堪えていた。
「楽しいし、幸せだと思うよ?」
シンジは作り笑いを浮かべた。
「なら良いじゃない!」
その笑顔にだまされるレイ。
「あたしも幸せだもん」
サッと唇を近づけた、頬に触れるか触れないかのキス。
そしてシンジが頬を手で押さえるよりも早く、その腕を絡め取っていた。
「こうできるだけでも、十分過ぎるくらいに幸せだなぁ、あたしは…」
でもその言葉から、シンジはほんの少しは不満もあるけどね?っと聞き取ってしまっていた。
シンジは離れて欲しいと思っていた。
その不満は…、相手が僕だって事なんだ…
腕なんか組まないで欲しいと願っていた、離れる時が辛くなるから…
楽しいし、幸せなんだと思う。
けれどもそれ以上に辛いことがあるのも事実だ。
苦しくて、切なくてたまらない…
うれし楽しそうなレイに対して、シンジの表情はけっして明るいものではありえなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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