Episode:22 Take2



「ではお父様…、こちらをお納めください」
 碇家茶の間。
 まるでこれこそが日本の「おやじ」だと言わんばかりに、着流しの格好で座り込んでいるゲンドウに、ミズホはささっと何かの包みを差しだした。
「うむ、すまんな、ミズホ君」
「いえいえ、シンジ様のお父様であれば、わたしのお父様も同然ですから…」
 緊張しているのか、いつもよりも言葉遣いがしっかりとしている。
「そしてお父様の誕生日を祝うこと、これはすなわち!」
 拳を振り上げた所で顔をデレっとほころばせた。
 心持ち開いた口から涎も流れている。
 それに対して、「うんうん」と何度もうなずくゲンドウ。
「ミズホ君はいい子だな…」
「そんな…、ではわたしとシンジ様の仲は!」
「うむ、公認しよう」
 やったぁ!っとはしゃぎ回るミズホ。
 いまさら公認も何もないでしょうに…っと、ユイの声が台所から聞こえてきた。
「そこで君だけに極秘情報を公開しよう」
「え?、なんですかぁ?」
「ふふふふふ…」
 っと怪しい眼鏡のきらめきに、ミズホは一瞬だけためらった。
 だが懐からちらつかせる何かには逆らえない。
「それなんですかぁ?」
「苦しゅうない、ちこう寄れ」
「え、え、え?、でも、でもぉ、あ、うわぁ、すっごいですぅ」
 ミズホの顔が赤くなった。
「他にこんなのもあるぞ?」
「うわぁ、うわぁ…」
 数枚の写真を手に赤くなるミズホ。
「「ただいまぁ!」」
 いつもなら駆け出すのに、ミズホはその場から動こうとはしなかった。
「ただいまぁって…、何してるのさ?」
 怪訝そうに二人を見るシンジ。
「あ、お、お帰りなさいですぅ…」
 ミズホは顔を赤くしたままで、ちらちらとシンジと写真を見比べていた。
「あ、ミズホ何見てるの?」
 その写真をひょいっと取り上げるレイ。
「なになに…、!?」
 覗きこんで、シンジは瞬間固まった。
「と、と、と…ととと、父さん!、いったいどっからこんな写真を!!」
 それはシンジが6歳の頃の写真だった。
 バックに干されている布団、そこには地図状に染みが広がっている。
 その正面に立つシンジ、下に何もつけずに泣いている。
「きゃはははは!、シンちゃんかーいい☆」
 そのシンジの「ち○ち○」をアスカが物差しでつついていた。
「うむ、実はアスカ君のアルバムから見つけてな…」
「こんなの残さないでよ!」
 ビリ!
「ああーー!」
 ひったくり、やぶり捨てるシンジにレイは非難の声をあげた。
「シンジ様、もったいないですぅ…」
「こんなのは残さなくていいんだよ!、父さんもやめてよね!!」
 シンジは怒って階段を上がっていった。
「お父様…」
 だがゲンドウはにやついた笑みを止めてはいない。
「問題ない、予備がある」
 懐から焼き増した写真を取りだした。
「お父様、さすがですぅ!」
 早速その内の一枚を貰うミズホ。
「欠けたメモリアルの保管、それこそがシンジをからかう10の方法の一つだからな…」
 そんな呟きが聞こえたような、聞こえなかったような…
 とりあえずレイも写真を貰えたので、幸せなことは幸せだった。






「あら、加持君」
「よお、リッちゃんじゃないか、こりゃまた一人とは珍しい…」
 ミサトが行きつけにしているバーでの鉢合わせ。
「ミサトならいないわよ?」
 そんな状況を楽しむリツコ。
 目元がゆるんでいる、すでに酔っているらしい。
「そうか…、まあ良いさ」
 と言って、加持はリツコの隣に席を取った。
 貸し切り状態のカウンター。
「あら、そんなこと言って、本当は残念がってるんじゃないの?」
「それもある…、気を抜くにはよく知ってる相手の方が良いからな」
「あたしじゃご不満かしら?」
 色っぽい流し目をくれた。
「火遊びならちょうど良いかもな…」
 目の前に出てきたグラスを軽く仰ぐ。
「火遊びね…、でも駄目よ?、もうすぐ結婚するんでしょう?」
 加持はぶー!っと吹き出した。
「げほっげほっげほっ!、な、なんだよそりゃ…」
「噂で持ち切りよ?、あの加持君が定職についただとか、ミサトが花嫁修業を始めてるとか…」
「これまた根も葉もないデマだな…」
 苦笑する、が、まだ少しむせていた。
 カクテルを口にして、間を取るリツコ。
「…最近ミサトの机の上、お見合い写真で埋まっちゃってるわよ?」
「そうか…、もてるからな、葛城は」
 苦笑する、それも仕方ないとあきらめるかの様に。
「らしくないわね?」
「自分のことは、自分で決めろ、悔いや後悔のないように…、俺にはそれしか言えないさ…」
「自虐的なのね…、そんな逃げ方ずるいと思うけど?」
「決めて貰いたいこともある…、か?」
 意味ありげな視線を送る。
 リツコはそれを感じて、口の端に笑いを浮かべた。
「あたしもね…、酔ってるわね、だいぶ…」
 自嘲する。
「…おかしいことはないさ」
 顔を伏せるリツコ。
 加持はそれを見ないようにとカウンターに並べられている酒瓶に視線を移した。
「誰しも寂しいと感じることはある…、特にリッちゃんは感情を言葉で説明するタイプだからな…」
「強引で傲慢…、そんな人、いたら紹介して欲しいわ…」
「まったくだ」
 苦笑いを浮かべていた。
 お互いを見る。
「…いま、あの人のことを考えていたでしょう?」
「…リッちゃんもか?」
 今度は大きく吹き出してしまっていた。
 二人とも、同時にある人物のことを思いだしていたからだった。






「頼むよぉ、俺まだ仕事が残ってるんだからさぁ…」
 マヤとシゲルに呼び出されて、マコトは仏頂面を作っていた。
「まあまあ、良いじゃないですか」
「そうだぜ?、それに仕事って言ったって、赤木博士のアルバイトの手伝いなんだろ?」
 居酒屋、マコトは答え返せずに、肉じゃがをつついてごまかした。
「まさか本当に乗り換えたわけでもないだろうに…」
 ぴくっとくるマコト。
「うるさいなぁ、どうでもいいだろ?、ほっといてくれよ…」
「そうはいきませんよ、なんだか危ない目つきしてますよ?」
 マコトの目を覗きこむ。
「そ、そうかな?」
「そうですよ」
 くりくりっとした瞳に思わず照れて、マコトはぐいっとビールをあおった。
「おお、いい飲みっぷり!」
 すかさずシゲルがビールを注ぎ足す。
「マヤちゃんはどうする?」
「あたしそんなに飲めないから…」
「そっか、そりゃ残念だな?」
「ほんとにそう思ってます?」
 からかうような視線を向ける。
「思ってるって」
「嘘つけぇ、いっつもそうやってどこかに消えるくせに…」
 苦笑いを浮かべるシゲル。
「しかも女の子も一人減ってるんだよな」
「やだぁ、不潔ぅ」
 二人でジト目を作ってからかう。
「駄目ですよぉ、お父さんに言っちゃうんだから」
「あ、そりゃ困る、単位が…」
 マコトとシゲルの二人は、まだ院に居残っていた。
「そうそう、少しは自重しろよな?」
「おまえは堅すぎるんだよ…」
「少しはシンジ君を見習えよ」
「じゃあやっぱり今のままでいいんじゃないか」
 見解の違いにくすりと笑むマヤ。
「やっぱりお二人とも見てらしたんですね?」
「テレビだろ?、そりゃあ見るさ」
「かわいい教え子だしな」
 くすりと笑った所で、ちょうど入ってきた二人組みに気がついた。
「赤木先生だ」
「なに!?、まっずいよ…」
 体を小さくするマコト。
「隠れられるわけないだろう?」
 案の定見つかった。
「あら日向君、デバッグはもう終わったの?」
 はははと乾いた笑いでごまかす。
 だがその目元がトロンとしていることに気がついた。
「赤木先生、酔ってるんですか?」
「何か色々とあるらしくてね」
 もう一人の人物に気がつく。
「加持さん!?」
「俺も良いかな?」
「どうぞ、加持先生!」
 はしゃいで場所を空けるマヤ。
「こりゃどうも…、なんだ機嫌悪そうだなぁ?」
「そうですか?」
 そんなことはないですよっとマコト。
「ま、まあとりあえず…」
「おっと、こりゃ悪いね…」
 マヤからビールを受け取る。
「日向君はミサトを取られそうで嫌なのよね」
「赤木先生!」
 さすがに泡を食って止めるマコト。
「おっと、こりゃまた唐突な話だな…」
 加持は苦笑してマコトを見た。
「それで?、葛城にはもうアタックしたのか?」
「何を…、言っているんですか」
 不機嫌さを増してビールをあおる。
「あら?、チャンスじゃない、しちゃいなさいよ」
「赤木先生…、俺そんなつもりは…」
「あら?、ミサトだって気がついてるわよ?」
「「「え!?」」」
 加持以外の全員が唱和した。
「ミサトが気がつかないわけないじゃない…、ねえ、加持君?」
「なんのことやら…」
 加持もまたグラスを取ってごまかした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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