Episode:23 Take2
「あらあらミズホちゃん、いくらびっくりしたからって、せめておトイレぐらいはゆっくりさせてあげましょうね?」
ユイからの注意に、ミズホは真っ赤になってうつむいた。
「でもぉ、シンジ様、今日はレイさんとご一緒には、お出かけになられなかったんですかぁ?」
ちらちらと横目で見ている。
シンジはミズホの隣に座り、パンを食べていた。
居間に座って食べるもんじゃ無いな…
などと考えている。
「…レイとアスカがケンカしちゃってさ、機嫌悪そうだったから」
ちらりとユイを見る。
「アスカは?」
「出かけましたよ?、なんでもヒカリちゃんと映画を観て来るって」
そっか…
なんとなくシンジは胸をなでおろした。
「おでかけ…、レイさんも、アスカさんも」
「カヲル君もね?」
ユイがミズホの独り言に補足した。
ユイを見て、瞳を輝かせるミズホ。
ユイは小さく頷いた。
「シンジ様!」
「なに?」
何だか諦めきってるシンジ。
「今日は二人っきりですぅ!」
シンジは紅茶を口に含んだ。
「それで、ですから…、えっと、えっと…」
急な事なので思い付かない。
あうーっとミズホは助けを求めた。
「…お出かけして来たら?」
つい助け船を出すユイ。
「シンジ?」
「なに、母さん…」
財布を取りだすユイ。
「お小遣い上げるから、ミズホちゃんと遊んで来なさい」
「へ?」
「ちゃんと遊んで来るの、放っておいた分もね?」
「そ、そんな…」
ミズホが期待に瞳を輝かせ始めている。
やばい…とシンジは感じた。
「あのさぁ、今日はゆっくりしようと思ってたんだけど…」
「だ・め・で・す、最近ミズホちゃんと遊んであげてないでしょう?」
コクコクとミズホは頷いた。
「ほら、早く食べて着替えてらっしゃい?、ミズホちゃんもよ?」
ほら早く行って。
母さんまで…
逃げ場を失うシンジであった。
●
今日は一日、ミズホちゃんのものよ?
それは出かけ際にユイが囁いた言葉だった。
「な、なんだかドキドキしてきましたぁ」
今にもきゃいきゃいとはしゃぎ出しそうなミズホ。
逆にシンジは落ち込んでいた。
ミズホちゃんを泣かせたら承知しないわよ?
それもやはりユイからのお達しであった。
「でも、ミズホと仲良くし過ぎるとアスカが怒るんだよなぁ…」
この際だから、ミズホちゃんのことを真剣に考えてみなさい。
「まったく、何を言い出すんだよ、母さんは…」
横目でしかミズホを見ることができない。
異常なくらいに緊張していた。
「あんなこと言うから…」
意識してしまう。
ミズホは自分の世界に入りかけているのか、どこかぼうっとしていた。
黄色いリボンはいつものこと、今日は薄いピンク地のシャツにフレアスカート、それにユイから借りたバッグを下げていた。
「もったいないよな、やっぱり」
ミズホを見ていて、つくづく思う。
「え?、何がですかぁ?」
「あ、いや…」
声に出していたらしいと慌てるシンジ。
「う、うん、これがさ…」
ユイに渡されたメモを見せる。
「で、でいとマニュアル…」
そこにはどこそこの公園を散歩、その後の食事からなにから、事細かに記載されていた。
食事には指定のレストランを、予約は行っておきます。
移動の際には電車、徒歩、時刻から予測時間まで書き込まれていた。
「まったく、こういうことにはマメなんだから」
笑ってミズホを見る。
「で、どうしようか?」
「はい?」
デート…
その言葉に頬を赤らめているミズホ。
「あ、いや…、この予定表通りに行く?」
シンジは迷うように尋ねた。
ミズホも少しばかり迷う、が。
「せっかくですからぁ、お母さまのご好意に甘えますぅ」
と言ってから、はじらうように笑った。
「そうだね、そうしようか…」
なにしろ今日の出費は全てユイが被ってくれるのだから、こんなに美味しい話は無い。
だけど母さん、この最後の…場合によっては最後に40分の寄り道を許しますってなんだよ?
やけに多いお小遣いと言い、シンジは不安な気持ちになっていた。
●
「で、これがなんなのか、説明してもらえますね?」
ミサトの部屋、そのリビングで向き合う冬月と加持。
「ペンギン…だな」
「ええ、ペンギン…ですね?」
クエ?っと、真ん中の座布団の上でペンペンは首を傾げた。
「コードSSC−2422、人工進化研究ですか?」
冬月の眉がぴくりと跳ねる。
碇のようにはいかんな…
役者の違いを感じてしまう。
「…研究内容については話せん」
ま、この男なら調べるのは簡単だろうが…
「ただ実験の途中に知能が著しく発達してしまってな、三才児並みの知能を有しているんだよ」
幼児並みの…
信じられない目つきで見る。
だが逆の意味で、だ。
ミサトとのやり取りから見れば、知能指数はもっと高いように思われた。
「で、どう処分なさるおつもりで?」
言いにくそうな冬月に、ペンペンの先行きを感じてしまう。
「実験は…、終わっているはずだな、連れ戻した後のことは、所員達で決めるのだろうが…」
ミサトは席を外していた。
関係の無いことに、首を突っ込むつもりは無いらしい。
「…さて、どうしますか」
冬月もその処遇を考えあぐねていた。
冬月の心中を察して、頭をめぐらせる加持。
「ま、後味が悪いのは避けたいですからね」
「その通りだな…」
二人は知恵を絞り始めた。
ペンペンは…、そんな二人を不思議そうに見比べていた。
●
緊急特番!
やたらと大きなテロップが現れた。
「はい、いっつも元気なレイちゃんでぇっす、…でも今日はちょっぴりブルーなの」
いきなりカメラの前でしょぼくれるレイ。
日曜なのに制服姿だ、その方がウケが良いかららしい。
「実は愛しのシンちゃんが…、きゃっ、愛しのだって、はっずかしい!」
恥ずかしいのはこっちだ!っとテレビの前から突っ込みが入る。
「あ、ごめんお仕事お仕事…、そのシンちゃんが、なぁんと浮気してるみたいなんです」
カメラがパンした、駅前。
垣根越しに映し出す、そこには仲むつまじそうなカップルが居た。
シンジとミズホだ、これから電車に乗って、街外れの公園に向かうつもりなのだろう。
「くう、シンちゃんってば、あたしってものがありながら…」
白々しくもハンカチを噛む。
「あ、このレポートは、不定期に流れますのでチャンネル変えないでね?」
無茶苦茶言っているレイであった。
「…アスカ?、アスカってば」
ヒカリの声に、ぎぎぎっと音がしそうな感じでアスカは振り向いた。
「…今日、碇君居ないんじゃなかったの?」
聞いてはいけないことだったかもしれない。
二人は昨日、シンジ達がレポートした喫茶店に来ていた。
アスカはちょうど、やけ気味にパスタをかきこんでいる所だった。
「確かめなかったの?」
ツルルルル、スッポンっとパスタが口の中に消える。
「そう…」
アスカを慰めるべきか、シンジを不運に思うか、ヒカリは少しばかり大袈裟に悩んだ。
「ちょっと、電話かけて来る…」
そう言って席を立つアスカに、だからこそ声を掛けるべくも無い。
ふらふらと…、店の電話にカードを差しこむアスカ。
プルルルル…
相手が出ないことに少し苛立つ。
プルル、カチャ。
「あ、もしもし?」
「はい!、こちら碇ですぅって、まるで奥さんみたいですぅ!!」
キーンっと余りの大声に耳が痛くなる。
「ピーっていったら何か入れてください!」
ピー!
アスカは耳を押さえてため息をついた。
「そ、そう言えば留守電のメッセージ、ミズホが入れてたんだっけ」
これがずっと流れていたのかと思うと…
とりあえず寒くなるアスカ。
「あー、アスカだけどぉ、あの…」
ぷつん、ぴーぴーぴーっと切れた。
「……」
憮然とした表情で、アスカはもう一度かけ直した。
プルルルル…
今度は受話器を耳から離す。
「はい!、こちら…」
アスカは一通りメッセージが終わるまで待った。
「あ、アスカだけど、コレちょっと短く…」
ぷつん、ぴーぴーぴー。
「留守録機能…」
じーっと受話器を見る。
「ミズホの無知の前には、人類の英知はこうも無力なのね…」
そんなことを言っている場合ではない。
アスカは目標をユイの携帯に切り替えた。
プルルプルルプルル…ピ!
「はい、もしもし」
「あ、おば様!?」
つい出してしまった大きな声に、アスカは店のマスターに頭を下げた。
「アスカちゃん?、あ、ひょっとして今の放送見たの?」
なんだかクスクスと笑っている。
「笑い事じゃありません!、シンジとミズホがデートって、一体どう言うことなんですか!?」
ひそひそと声を潜めながら、だが口調はきつくアスカは問いただした。
「あら?、今日は二人ともお休みだからって…、たくさんお小遣い持って出ていったわよ?」
ランチもディナーも食べて来る、その上遅くなるかもしれない。
そこまで聞かされて、アスカは怒りに顔を限界まで膨らませた。
なんでよ!、どうして?
行き場のない憤りを溜めこんでいく。
レイの次はミズホ?、あいつ一体何考えてんのよ!
ずっと側に居てあげるわよ。
それはアスカがシンジに伝えた言葉だ。
「あいつ…、舐めてんじゃないでしょうねぇ?」
危険なオーラが浮かび上がった。
「おば様!、シンジはどこに向かってるんですか!?」
「…確か」
確かなどと言いつつ、自分が打ち立てたデートプランをそのまま伝える。
「ありがとうございます!」
怒りに任せて電話を叩き切った。
いま書き留めたばかりのメモを見る。
「なによこの、「もしかすると40分程遅くなります」って最後の追加は?」
ぐしゃっとメモを握り潰す。
「アスカ、行くわよ?」
すでにヒカリの迷惑を考えていないアスカであった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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