Episode:24 Take2



「ふっ、このあたしを相手によく戦ったわね…」
 彼女ははぁはぁと荒い息をついていた。
 肩口よりも長い髪は、戦いの厳しさを表すように荒れていた。
 きっと枝毛が何本も増えていることだろう。
「そこぉ!」
 振り上げた空き缶を部屋の隅に投げ付ける。
 「えびちゅ」と書かれた缶が一直線に飛んでいった。
「クェ!」
 すかん!っとそいつは缶を蹴り返した。
「甘いわ!」
 とっさにかがんで避ける、だがそれはフェイントだった。
 ゲシ!
 ペンペンの足がミサトの顔面を直撃した。
 ゆっくりと倒れるミサト。
「クエ、クエ、クエー!」
 勝ちどきの声を上げるペンペン。
 その後に来る報復のことなどまるで考えていない、だってしょせんはペンギンだから。
 加持はと言えば…
「くわばらくわばら…」
 とっとと主要幹線道路を自宅へ向かってドライブしていた。






「ううむ、まだ押しが足りないかなぁ?」
 マナは親指の爪を噛んでいた。
「マナさぁん、もうやめましょうよぉ…」
 非常に情けない声を出すマユミ。
 だがやっぱりマナには黙殺された。
「しょうがない、ここは実力行使しか無いか」
「あ…」
 えっと…
 歩いていくマナに戸惑う。
「しかたが…、ないよね?」
 マユミは懺悔するように呟いて、それからマナの後を追っていった。



「あの…さ」
「はい…」
 いい雰囲気の二人。
「とりあえず、これ…」
 ユイに渡された予定表を見せる。
「これの…、場所だけ変えてさ、うろついてみようか?」
 …それって、お誘いですかぁ?
 シンジからの誘いに胸を弾ませる。
 シンジはひょいっとメモを取られた。
「…えっと次は映画、それも恋愛ものってベタじゃない?」
「そ、そっかな?、…って、え?、マナさん!?」
 ぎょっとするシンジに、はぁ〜いっとマナは気軽に声を掛けた。
「い、一体どうして、ここに…」
 はっとして周囲を見る。
「まさかアスカたちも!?」
「ううん、いるのはあたしとマユミだけ」
 どうも…、っと、遠慮がちにマナの後ろからマユミは出て来た。
「それより、緊張ほぐさないと疲れちゃうよぉ?、ここはやっぱり恋愛物より、まずは軽いアクションもので…」
「余計なお世話ですぅ!」
 パシッとメモを取り返す。
「お邪魔虫さんは引っ込んでてください!」
 ミズホはかなりのおかんむり状態に入っていた。
「なぁに本気になってるの?」
 よいしょっと。
 マナは二人の間に割り込み座った。
「ぶー!」
「ほらほら、そんな顔してるとシンちゃんに嫌われちゃうよ?」
 はうーっとミズホ。
 平常心、平常心っと、深呼吸をくり返す。
「じゃ、シンジ様、映画にでも…」
 いつもの笑顔に戻れなかった。
「ちょ、ちょっとマナさん、離れてよ!」
「あれ?、マナって呼んでよ、シンちゃん」
「い、言えないよ…」
「どうしてぇ?、あ、赤くなってるぅ、可愛い〜」
 クスリと笑われ、シンジはそっぽをむいた。
「からかわないでって、言ってるだろう!?」
「ムキになる所が、また可愛い!」
 ギュッとシンジの腕に組み付いた。
「ああー!」
 非難の声を上げるミズホ。
 クス…
 マナは肩越しにあざけった。
「むっかぁ、ですぅ!、シンジ様から離れてください!」
 どんっと、ミズホはマナを突き飛ばした。
「ああん☆」
「うわ!」
 わざとシンジに抱きつくマナ。
「ごめんね、シンちゃん?」
「あ、うん、いいよ…」
「よくありません!」
「怒らないでよ…」
 悲しそうにするシンジ。
「ど、どうしてそう言う顔をなさるんですかぁ!?」
「え?、ど、どうしてって…」
 思わずどもってしまった。
「もういいです!」
 プンッとすねる。
「あ〜あ、すねちゃった」
 てへっとマナ。
「ミズホちゃんも可愛い!」
「きゃ!」
 そう言って、今度はミズホに抱きついた。
「な、何をなさるんですかぁ!?」
 じたばたともがくが抜け出せない。
 どうしてですかぁ!?
 パニくる、力が込められているわけでも無いのに、マナは器用に逃がさなかった。
「…アスカちゃん達」
 ピクッと来る。
 シンジも耳を傾けた。
「追って来ちゃうかも」
 動きが止まる。
 シンジは自分の上に影が落ちていることに気がついた。
「みんな積極的よね?」
 いや、ミズホも十分積極的だと思うよ?
 その影が、マユミのものだと気がつく。
「もっとポジティブに行かないと、シンちゃん取られちゃうよ?」
 本人の隣で、そう言う話をしないで欲しいんだけど…
 はははと、シンジは乾いた笑いを浮かべてマユミを見上げた。
 怒ったような表情、それでいて軽蔑しているような眼差し。
 山岸さん?
 シンジは居心地の悪さを感じた。
「や、やめてください!」
 今度こそ、ミズホは強く反発して逃げ出した。
「え〜?、せっかく具体的なことを教えてあげようと思ったのにぃ」
 え?
 ちょっとだけ惹かれるミズホ。
 マナはニヤリと笑んだ。
 それを見て、ミズホは首をフルフルと振り、その考えを打ち払った。
「シンジ様との愛のメモリーは、自分達で築き上げていきます!、だから余計な真似はしないでください!」
 め、メモリーって…
 シンジは困りまくった。
「そうよ!」
「だから邪魔をしないで!」
 その思考を打ち消してしまうような声。
「誰!?」
 マナは雰囲気を鋭くして、サッと辺りを一息で探った。
 誰って…
 わかりきってるようなシンジ。
 ジャングルジムの上に人影。
「ただし、築くのはあたしとのスイートメモリーだけどね?」
「アスカずるいぃ〜!」
 ど、どうしてそんなところに。
 とう!っと飛び降りる二人を見て、シンジは思わず頭を抱えた。
「さあてシンジぃ、覚悟はいいかしら?」
「へ?」
 そのアスカの険しい目つきに、思わず間抜けな返事を返す。
「何が?」
 アスカの指がバキバキと音をたてた。
「あんたバカァ?、よっくもこのあたしに内緒で、浮気なんか企てたわねぇ?」
「シンジ様は浮気なんてしてらっしゃいません!」
 間にミズホが立ちふさがった。
「あんたはちょっと黙ってなさいよ!」
「嫌ですぅ、今正妻に一番近い者として、シンジ様を好きにさせるわけにはいきません!」
 アスカの顔が驚きに歪んだ。
「ちょ、ちょっと!」
 正妻!?
 その意味を反芻する。
「そんなこと一体誰が決めたのよ!」
「もちろんシンジ様に決まってますぅ!」
「ええ!、僕なの!?」
 アスカにギロっと睨まれて、シンジは思わず後ずさった。
「ちょ、ちょっと待ってよ、僕そんなこと言った覚えは…」
「シンちゃあん、じゃああたし達はどうなるのぉ?」
 ど、どうなるって…
 レイはハンカチを咥えて、目をうるうるさせていた。
「…信濃さんが正妻かぁ、じゃあレイちゃんが愛人でアスカちゃんは外人?」
「外人って何よ、外人って!」
 マナに食って掛かる。
「あの…いいですか?」
 その隙をついて、マユミはシンジに話しかけた。
「みんなケンカしないで…、なに?」
 ぎゃ〜ぎゃ〜と話を聞きもしない四人を見限る。
「はい…、あの、碇君、レイのことをどう思っているんですか?」
「ど、どうって…」
 シンジはちらりとレイを見た。
「今日はわたしとシンジ様とのデートなんですぅ!」
「ちょっと、誰がそんな許可だしたのよ!」
「あれぇ?、アスカちゃんに許しを乞う必要があるのぉ?」
「シンちゃんはアスカのじゃないよぉ…」
「あんたどっちの味方なのよ!」
 ああうう〜っと、アスカに首を絞められるレイ。
「…どうもこうも」
 はあっと、ため息をつく。
「だって、レイには好きな人がいるじゃないか…」
 ゆっくりと、その視線がマユミに向けられる。
 ぞく…
 マユミの背筋を、寒いものが駆け抜けた。
 それ程に何も感じさせない目だった、空虚で…
「…レイは碇君のことが好きだと思います」
 シンジは頷く。
「そうだね…」
 弱々しく。
「なら…」
 どうして?と、思う。
「…好きが違うんだよ」
 シンジはまぶしげに騒いでいる四人を見た。
「僕と、レイとでは、きっと…」
 碇君…
 マユミの目には、あの時の…、シンジがレイの元に駆けつけた時の光景がまだ焼きついていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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