Episode:24 Take2
「ふっ、このあたしを相手によく戦ったわね…」
彼女ははぁはぁと荒い息をついていた。
肩口よりも長い髪は、戦いの厳しさを表すように荒れていた。
きっと枝毛が何本も増えていることだろう。
「そこぉ!」
振り上げた空き缶を部屋の隅に投げ付ける。
「えびちゅ」と書かれた缶が一直線に飛んでいった。
「クェ!」
すかん!っとそいつは缶を蹴り返した。
「甘いわ!」
とっさにかがんで避ける、だがそれはフェイントだった。
ゲシ!
ペンペンの足がミサトの顔面を直撃した。
ゆっくりと倒れるミサト。
「クエ、クエ、クエー!」
勝ちどきの声を上げるペンペン。
その後に来る報復のことなどまるで考えていない、だってしょせんはペンギンだから。
加持はと言えば…
「くわばらくわばら…」
とっとと主要幹線道路を自宅へ向かってドライブしていた。
●
「ううむ、まだ押しが足りないかなぁ?」
マナは親指の爪を噛んでいた。
「マナさぁん、もうやめましょうよぉ…」
非常に情けない声を出すマユミ。
だがやっぱりマナには黙殺された。
「しょうがない、ここは実力行使しか無いか」
「あ…」
えっと…
歩いていくマナに戸惑う。
「しかたが…、ないよね?」
マユミは懺悔するように呟いて、それからマナの後を追っていった。
「あの…さ」
「はい…」
いい雰囲気の二人。
「とりあえず、これ…」
ユイに渡された予定表を見せる。
「これの…、場所だけ変えてさ、うろついてみようか?」
…それって、お誘いですかぁ?
シンジからの誘いに胸を弾ませる。
シンジはひょいっとメモを取られた。
「…えっと次は映画、それも恋愛ものってベタじゃない?」
「そ、そっかな?、…って、え?、マナさん!?」
ぎょっとするシンジに、はぁ〜いっとマナは気軽に声を掛けた。
「い、一体どうして、ここに…」
はっとして周囲を見る。
「まさかアスカたちも!?」
「ううん、いるのはあたしとマユミだけ」
どうも…、っと、遠慮がちにマナの後ろからマユミは出て来た。
「それより、緊張ほぐさないと疲れちゃうよぉ?、ここはやっぱり恋愛物より、まずは軽いアクションもので…」
「余計なお世話ですぅ!」
パシッとメモを取り返す。
「お邪魔虫さんは引っ込んでてください!」
ミズホはかなりのおかんむり状態に入っていた。
「なぁに本気になってるの?」
よいしょっと。
マナは二人の間に割り込み座った。
「ぶー!」
「ほらほら、そんな顔してるとシンちゃんに嫌われちゃうよ?」
はうーっとミズホ。
平常心、平常心っと、深呼吸をくり返す。
「じゃ、シンジ様、映画にでも…」
いつもの笑顔に戻れなかった。
「ちょ、ちょっとマナさん、離れてよ!」
「あれ?、マナって呼んでよ、シンちゃん」
「い、言えないよ…」
「どうしてぇ?、あ、赤くなってるぅ、可愛い〜」
クスリと笑われ、シンジはそっぽをむいた。
「からかわないでって、言ってるだろう!?」
「ムキになる所が、また可愛い!」
ギュッとシンジの腕に組み付いた。
「ああー!」
非難の声を上げるミズホ。
クス…
マナは肩越しにあざけった。
「むっかぁ、ですぅ!、シンジ様から離れてください!」
どんっと、ミズホはマナを突き飛ばした。
「ああん☆」
「うわ!」
わざとシンジに抱きつくマナ。
「ごめんね、シンちゃん?」
「あ、うん、いいよ…」
「よくありません!」
「怒らないでよ…」
悲しそうにするシンジ。
「ど、どうしてそう言う顔をなさるんですかぁ!?」
「え?、ど、どうしてって…」
思わずどもってしまった。
「もういいです!」
プンッとすねる。
「あ〜あ、すねちゃった」
てへっとマナ。
「ミズホちゃんも可愛い!」
「きゃ!」
そう言って、今度はミズホに抱きついた。
「な、何をなさるんですかぁ!?」
じたばたともがくが抜け出せない。
どうしてですかぁ!?
パニくる、力が込められているわけでも無いのに、マナは器用に逃がさなかった。
「…アスカちゃん達」
ピクッと来る。
シンジも耳を傾けた。
「追って来ちゃうかも」
動きが止まる。
シンジは自分の上に影が落ちていることに気がついた。
「みんな積極的よね?」
いや、ミズホも十分積極的だと思うよ?
その影が、マユミのものだと気がつく。
「もっとポジティブに行かないと、シンちゃん取られちゃうよ?」
本人の隣で、そう言う話をしないで欲しいんだけど…
はははと、シンジは乾いた笑いを浮かべてマユミを見上げた。
怒ったような表情、それでいて軽蔑しているような眼差し。
山岸さん?
シンジは居心地の悪さを感じた。
「や、やめてください!」
今度こそ、ミズホは強く反発して逃げ出した。
「え〜?、せっかく具体的なことを教えてあげようと思ったのにぃ」
え?
ちょっとだけ惹かれるミズホ。
マナはニヤリと笑んだ。
それを見て、ミズホは首をフルフルと振り、その考えを打ち払った。
「シンジ様との愛のメモリーは、自分達で築き上げていきます!、だから余計な真似はしないでください!」
め、メモリーって…
シンジは困りまくった。
「そうよ!」
「だから邪魔をしないで!」
その思考を打ち消してしまうような声。
「誰!?」
マナは雰囲気を鋭くして、サッと辺りを一息で探った。
誰って…
わかりきってるようなシンジ。
ジャングルジムの上に人影。
「ただし、築くのはあたしとのスイートメモリーだけどね?」
「アスカずるいぃ〜!」
ど、どうしてそんなところに。
とう!っと飛び降りる二人を見て、シンジは思わず頭を抱えた。
「さあてシンジぃ、覚悟はいいかしら?」
「へ?」
そのアスカの険しい目つきに、思わず間抜けな返事を返す。
「何が?」
アスカの指がバキバキと音をたてた。
「あんたバカァ?、よっくもこのあたしに内緒で、浮気なんか企てたわねぇ?」
「シンジ様は浮気なんてしてらっしゃいません!」
間にミズホが立ちふさがった。
「あんたはちょっと黙ってなさいよ!」
「嫌ですぅ、今正妻に一番近い者として、シンジ様を好きにさせるわけにはいきません!」
アスカの顔が驚きに歪んだ。
「ちょ、ちょっと!」
正妻!?
その意味を反芻する。
「そんなこと一体誰が決めたのよ!」
「もちろんシンジ様に決まってますぅ!」
「ええ!、僕なの!?」
アスカにギロっと睨まれて、シンジは思わず後ずさった。
「ちょ、ちょっと待ってよ、僕そんなこと言った覚えは…」
「シンちゃあん、じゃああたし達はどうなるのぉ?」
ど、どうなるって…
レイはハンカチを咥えて、目をうるうるさせていた。
「…信濃さんが正妻かぁ、じゃあレイちゃんが愛人でアスカちゃんは外人?」
「外人って何よ、外人って!」
マナに食って掛かる。
「あの…いいですか?」
その隙をついて、マユミはシンジに話しかけた。
「みんなケンカしないで…、なに?」
ぎゃ〜ぎゃ〜と話を聞きもしない四人を見限る。
「はい…、あの、碇君、レイのことをどう思っているんですか?」
「ど、どうって…」
シンジはちらりとレイを見た。
「今日はわたしとシンジ様とのデートなんですぅ!」
「ちょっと、誰がそんな許可だしたのよ!」
「あれぇ?、アスカちゃんに許しを乞う必要があるのぉ?」
「シンちゃんはアスカのじゃないよぉ…」
「あんたどっちの味方なのよ!」
ああうう〜っと、アスカに首を絞められるレイ。
「…どうもこうも」
はあっと、ため息をつく。
「だって、レイには好きな人がいるじゃないか…」
ゆっくりと、その視線がマユミに向けられる。
ぞく…
マユミの背筋を、寒いものが駆け抜けた。
それ程に何も感じさせない目だった、空虚で…
「…レイは碇君のことが好きだと思います」
シンジは頷く。
「そうだね…」
弱々しく。
「なら…」
どうして?と、思う。
「…好きが違うんだよ」
シンジはまぶしげに騒いでいる四人を見た。
「僕と、レイとでは、きっと…」
碇君…
マユミの目には、あの時の…、シンジがレイの元に駆けつけた時の光景がまだ焼きついていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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