Episode:24 Take3



「こら、シンジぃ!」
「はい!」
 びくっとシンジ。
「あんたなに他人面してんのよ!」
「そ、そんな、違うよ、ただ…」
「ただ、何よ!」
 詰め寄られてびびってしまう。
「恐いんだもん」
 ヒキ!
 派手にアスカの頬が引きつった。
「あ〜あ」
「シンちゃん、それは言っちゃダメだよぉ…」
 マナとレイ、二人がステレオでダメを押した。
「バカシンジがぁ!」
 今日の張り手は、また一段と強烈だった。






「パン!」
 派手に平手の音が鳴った。
 そこで提供が流れ出す。
「この番組は…」
 どうしよう…
 マヤはちらちらと横目でゲンドウの様子を探っていた。
「むぅ…」
 難しい顔をして、腕を組んでいるゲンドウ。
「どうするかね?」
 ゲンドウはカヲルに尋ねた。
「そうですね…」
 ずずっと、正座でお茶をすするカヲル。
「そろそろかと思います、それに…」
 カヲルはCMに入ったテレビを見た。
「これ以上、シンジ君を彼女達に貸しておくのも辛いですし」
 そうか…と、ゲンドウは大まじめに答えた。
 変な人達…
 口を挟めないマヤ。
 ぱっと画面が元に戻る。
「と言うわけで、シンちゃんは明日っからあたし達と学校に通うことになりました」
「ええ!?、そんなの聞いてないよぉ!」
「じゃあねぇん」
 ずずず…
 カヲル君、恐いわ…
 湯呑みごしに見える目が、なにやら光っているように見えていた。






「ほらミズホ、早く乗んなさいよ!」
 ふえ〜んっと、首根っこをつかまれながらもミズホは抵抗してみせた。
「あんた足が痛いんでしょう?」
「大丈夫ですぅ」
 と言ってみたところで、足を引きずっていては説得力が無い。
「せっかく送ってくれるって言ってくれてんだから」
「そうそう」
 ジロリ。
 アスカはきっつい目つきをマナに向けた。
「あんたは関係ないでしょうが?」
「え〜!?」
「あ、あのぉ…」
 遠慮がちにマユミが手をあげる。
「あたし、歩いて帰りますから…」
 そう言って降りようとする。
「あんたは良いのよ」
 そして今度はシンジを睨む。
「いいわね!」
「うん…」
 ミズホに言葉をかけるシンジ。
「電車で帰るからさ…」
「でもぉ…」
 せっかくのお出かけでしたのにぃ…
 一緒に出て来たから、ミズホは一緒に帰りたかった。
 それがミズホのこだわりだったが、シンジは優しくそれを押さえた。
「今日は…、ごめんね?」
 謝り、背を向ける。
 びく。
 シンジは歩き出そうとして、驚き立ち止まった。
「シンちゃん…」
 手を前に組み、レイがしおらしく立っていた。
「レイ?」
 おかしな雰囲気を感じるシンジ。
「…これ、電車賃」
 プリペイドカードを手渡す。
「うん…、ありがと」
 顔を真直ぐに見る。
「…それだけ」
 去り際に一言。
「さよなら」
 え?
 シンジは我が耳を疑い、レイを追って振り返った。
「また後でね?」
 するとレイが待ち構えていたように頬をすりよせて来た。
「ああー!」
「あんたまたシンジはめてぇ!」
「にゃはは〜!」
 …びっくりした。
 胸に手を当てる。
 動悸が酷くなっていた。
「じゃあねぇ、シンちゃあん!」
「シンちゃあん、愛してるよぉん」
 レイとマナが争うように手を振っている。
 車が走り出すと、ミズホがるるーっと涙を流しながら、背もたれに噛り付いてこっちを見ているのが見えた。
 軽く会釈するマユミ。
「…帰ろ」
 シンジは一人、とぼとぼと駅に向かって歩き出した。






「…どうしてこうなるんだろう」
 シンジは一人で電車に乗っていた。
「…ミズホに悪いことしちゃったかな?」
 景色が流れていく、それを見ながら、シンジはウォークマンのプレイスイッチを押した。
 相川ナナセのリズムに酔う。
 でも、足、結構きてたみたいだったから…
 言い訳に近い、本当はあのいざこざに巻き込まれたまんまで帰りたくなかったからだった。
 クイ!
「いて!」
 無理矢理ヘッドフォンを引き抜かれた。
「え!?」
「あんたまたバカなこと考えてたんでしょ?」
 驚き、目の前に立つ人物を見る。
「アスカ!?、どうして…」
「よいしょっと」
 どさっと派手に音をさせて座る。
「一人で帰らせると思った?」
 意地悪っぽい視線を送る。
「…よくレイたちをごまかせたね?」
「だってシンジしか見てないんだもん」
 特に何かをしたわけでもなく、ただ乗らなかっただけだった。
「で?、今日は何を落ち込んでんのよ?」
 覗きこむ。
「別に…」
「んなわけないでしょ、いつもなら「どうしていつも僕が…」とか言って、ぶつぶつ言うくせにさ」
 苦笑するシンジ。
 アスカはシンジの手に自分の手を重ねた。
「ミズホと二人っきりで出かけて…」
 ぐっと力がこもる。
「いちゃついて…」
 青筋が浮かぶ。
「それでまだ物足りないってわけ?」
 こ、恐いよアスカ…
 シンジはアスカを見れなくて、わざとらしく窓の外を見ていた。
 頬を一筋の汗がつたっていたりなんかしている。
「もしかして、本当に邪魔だった?」
 ふっと力が抜ける。
 解放されてもまだその手は強ばっていた。
「シンジ、ミズホといると楽しい?」
 声が震えている。
「どうして、そんなことを聞くのさ…」
 シンジは周りが気になっていた。
 …なんで誰も居ないんだよ。
 時間的に空席が目立つのは明らかにおかしい。
 本当は本当にただの偶然なのだが、シンジは勝手に作為的なものを感じている。
「ただ、ミズホに悪いことしたと思うから…」
「罰なの?」
 ふっとシンジは自嘲気味の笑みを漏らした。
「…そんな大層なものじゃないよ」
 ガタタン…
 振動がアスカの手を軽く跳ねさせる。
「あたし、シンジのこと好きって言ったわよね?」
 びくっと、シンジの手に力がこもった。
「僕も…好きだって言った」
 ゆっくりとアスカに向く。
 アスカの青い目が、じっとシンジを見つめていた。
「アスカ?」
 おもわずごくっと咽喉が鳴ってしまう。
 目がうるんでる?
 唇がやや突き出されているような感じになっている。
「調子いいわね…」
 だがその口調は、シンジを責めるようなものだった。
「ごめん…」
 また顔を背けてしまう。
「僕は、ふさわしくないから…」
 バカ…
 アスカの呟きが聞こえたような気がした。
「気にすること無いのに…」
 周りが僕に教えるんだ…
 みんなが「なぜ?」と聞いて来る。
 なぜお前なんだと。
「僕だって…、その…、アスカみたいに、胸が大きくて足が長くてスタイルが良くて…、それから、あの…、奇麗で…」
 だんだん照れて来たらしい、顔が赤くなっていく。
「そんな女の子って、好きだよ…、でも…」
 バカ。
 今度ははっきりと聞こえた。
「アスカが言ったんじゃないか、もっとカッコ良くなれって…」
「無理しなくていいわよ」
 今度は優しく手に力を入れる。
「…でも、今日のことで懲りたわ」
「え?」
 シンジの視界が赤い髪に塞がれた。
 唇に感触、驚き。
「!?」
 離れる。
 唇と唇の間から、ガムの銀紙が落ちた。
「…ミズホもレイも、シンジの気を引こうとしてるしね?」
 ウィンク一つ。
「あたしも、幼馴染ってあぐらかいてるわけにもいかなくなっちゃったわ」
 シンジは動揺していた。
 紙ごしでもわかる感触に。
 キー、ガコン…
 駅に着いた。
 どやどやと人が乗りこんで来る。
 座り直すアスカ。
 シンジはアスカが、素早くその紙を拾ってしまうのを見た。
「…果報者よね、あんたって」
 それは印象に残る言葉だった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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