Episode:25 Take1
バオン!
車が派手に大きく跳ねた。
暗闇の中、峠道を疾走する車が二台。
ミニクーパーだ、もちろんレプリカで中身は電気駆動車に改造されている。
「ちょほいと待ちなは」
その助手席で、赤毛にテンガロンハットの少年が、そのツバをくいっと人差し指で持ち上げた。
屋根は既に吹っ飛んでいる。
立ち上がっての決めポーズ。
「何が「待ちなは」だ、聞こえるわけないだろう」
毒づきながら運転しているのは、短く黒髪を刈り込んでいる青年だった。
「うわ!」
少年の方が、慌ててシートにしゃがみこんだ。
「急に曲がんないでよ、リキ!」
「だったらさっさと撃てよ、ライ!」
右手は山、左は崖になっていた。
そこを百キロ近い猛スピードで駆け抜けている。
恐らくはリキの「人並みでない」反射神経が無ければ成しえない運転であったろう。
「ちえ、それならせめて安定させてくれよな」
ライは無造作に銃を抜いた、コルトパイソン、もちろん本物だ。
ドン!
「うわ!」
その衝撃にひっくり返った。
「ああ…」
シートに仰向けに倒れながら、カン、カカン…と路上に空しく跳ねて遠ざかって行く銃を、未練たらしく目で追いかけた。
「下手くそが…」
リキは思わず毒づいた。
前方を走る白いスポーツカーは、地元の者が操っているのか?、走りに全く迷いも無駄もなかった。
「それに比べて、こっちは…、おっと!」
またリキは急にハンドルを切った。
「うわぁ!」
開いた天井から放り出されそうになるライ。
「気をつけてよ!」
だが聞いている余裕は無かった、道が曲がりくねっていたからだ。
リキは並外れた動体視力と反射神経だけで、前方の車に追いすがっていた。
カーブで離されては常人以上のハンドルさばきで何とか追い付く、ずっとそれをくり返していた。
「くそ!、足留めしないと、このままじゃ…」
「直線で安定させて!」
シートベルトを閉めるライ。
「何をする気だ?」
「ええと、三番…、三番、これだ!」
ライは目的の弾を見つけると、「予備」のパイソンにそれを詰めた。
「今度の弾は特別だじぇい!」
両足を前に突き出して踏ん張る。
それは体が大きく、座席に窮屈な思いをしているリキには、うらやましいポーズだった。
「ていっ!」
両腕でがっちりとホールドし、ライは引き金を引いた。
ガオン!
明らかに今までとは違う音が鳴り響いた。
あまりの反動にミニクーパーに急制動がかかる。
「ああ!」
銃口が炎を吹き、そのすさまじ過ぎる反動に、またもや銃は後方へと吹っ飛んでいった。
「あれが最後のパイソンだったのにぃ…」
ゴオン!
前を走っていたスポーツカーが炎を吹き上げた。
ライの弾が当たっていたのだ。
衝撃もものすごかったのだろう、高速ドライブの途中だっただけにたまらずスリップし、谷底へとガードレールを突き破って飛びだした。
「マイ!」
リキの叫び。
聞こえて来た最後の「声」は、「うきゅるるる〜」っとかなり緊迫感に欠けているものであった。
GenesisQ’第25話
夢からさめたら…
事の起こりは数時間前…
「ぶぅ、ぶぅ、ぶぅ!、どうしてカスミとメイだけお出かけなのぉ!?」
ドレスアップするための衣装や小道具を広げている二人に、マイは思いっきりブ〜たれた。
ここはオーストラリアはシドニー。
あのジャイアントシェイク以降の海面上昇でも生き残った街である。
彼女らはそこにあるホテルの一室に集まっていた。
「ごめんね?、でも甲斐さんのお仕事のお手伝いをしに行かなくちゃいけないから…」
カスミはいつものことだと無視しているが、メイにとっては大事だった。
「じゃあマイも連れてってよぉ!」
食い下がる、ついでにスーツケースの中身もぶちまけて邪魔をする。
「マイ!」
ごん!
「ぶったぁ!」
ふぇ〜んっと、嘘泣きを始めるマイ。
「カスミ!、何もぶつことないでしょう!?」
「メイはその子に甘すぎるのよ!、わがままばっかり通じるわけじゃないの」
今度の仕事は甲斐の警護だった。
ただしパーティーの会場で、だ。
そのような場所で見栄えし、さらにはマナーやルールを心得ている人材は、彼ら天使の中でもカスミとメイ以外にはいなかった。
「どうせあたしなんて…」
実は隅っこでずっといじけているミヤがいる。
「うきゅー!、カスミが意地悪するよぉ!!」
「誰だぁ!、マイを泣かせてるのはぁ!!」
「「きゃーーー!」」
ドアを蹴破るような勢いで飛び込んで来たリキに、痴漢変態と言葉の嵐が吹き荒れた。
●
「くっくっく…、そうかイスラフェルがね…」
リムジンの中で、含み笑いを漏らす甲斐。
「笑い事じゃありません!、どうしてああもわがままに育ってしまったのかしら…」
言いながら、カスミはちらっとメイを見た。
「ごめんなさい…、マイにはよく言って聞かせますから…」
その言葉はカスミではなく甲斐に向けられている。
「まああの子ももう14だ…、パーティと聞けば想像も膨らむさ」
甲斐は実に面白そうに車の天井を見上げている。
「女の子だな、いつまでも子供のままでもないだろう…」
なぜだか感慨深げに言葉を吐く。
「ええ…」
どうしてその考えをわたしに当てはめて下さらないのかしら?
ちょっとだけカスミは不満気な視線を送った。
「彼女にはケーキバイキングの店へ案内するよう、大佐に命令しておいたよ、それで機嫌が直ってくれればいいのだがな?」
誰よりも子供扱いしているのは、実は甲斐かも知れなかった。
「なぁんだリキってばまた覗いたの?」
カチャリと、置いたカップが音を立てた。
ダージリンティーを飲んでいたのはツバサだ。
「うん!、それでカスミがカンカンに怒っちゃって、リキに後片付けしろーって」
わざとじゃないのに…
あの巨体でメソメソとしている様は、あまりにも情けなかった。
くすくすと笑いながらツバサは話を聞いていた。
ホテルの最上階にあるラウンジだ、14歳と17歳、リキとは違い、二人はお似合いの友達、もしくは恋人同士のように見えていた。
「どうせあたしなんて…」
やっぱり隣のテーブルでミヤがすねている。
ちなみにマイもミヤも巨大なチョコパフェをつついていた。
「…それでリキがカスミ達の荷物を片付けてたのか」
「だってサヨコも出かけちゃてるし」
本来そう言う仕事はサヨコの担当であったのが…
「あ、これ安いわ!」
「ダメダメ、偽物じゃないか、本物なら向こうの店だよ」
「アラシってば、よくわかるわねぇ?」
などとサヨコはその道のプロであるアラシを引き連れて、買い物ツアーに出かけていた。
逆の見方をすれば、「たらし」であるアラシの行動を抑えるために、サヨコは随伴を命じられていたわけなのだが…
「ま、リキも役得なんだし、そんなにすねること無いのに」
「俺はお前らになんて興味ない!って、力説してたんだけどね?」
「…どうせ「ロリコン」とか「少女愛好家!」とか言ってからかわれたんだろ?」
「よくわかるねぇ?」
パクッとマイはパフェをほおばった。
うきゅ〜ん☆っと、幸せオーラを発散している。
「ま、僕もそこに居たらきっと同じこと言ってたと思うからね」
実はからかうタイミングを逃して、ツバサは悔しい思いをしていた。
「で、この後どうしようか?」
「うきゅ?、大佐が来るまで泳ごうよ、せっかく海が近いんだし」
お気に入りのシャチはもちろん持参済み。
水着も成長した体に合わせて新調していた、それを早く着たいのだ。
「んじゃそうしようか、イサナも泳いでるはずだし」
はず…と言うのも、朝起きた時には既に姿が見えなかったからだ。
皆一様に「またか…」と呆れていた。
「で、ミヤは?」
どうせあたしなんて…
まだあっちの世界から帰ってこない。
「お〜い、ミヤぁ〜」
手でメガホンを作り、ミヤの耳元で叫んでみるが効果なし。
「ダメだよぉ、ミヤがダメダメモードに入っちゃった時にはね?」
マイはぼそっと「貧乳」と呟いた。
●
「今年こそきっとCカップを越えるのよ〜!」
海に向かって叫ぶミヤ。
「恥ずかしいなぁ…」
とはツバサだ、懸命に他人のふりをしているのだが、同じパラソルの下ではその努力も報われてはいなかった。
ツバサは視線を海へと移した。
「いっくぞぉ!」
「うきゅー!」
ビーチボールを投げるリキと、それを泳いで取りに行くマイが居た。
あれで泳ぎが巧くなるって…
その姿はどう見ても犬の調教にしか見えなかった。
さらに遠くへと視線を向けるツバサ。
そこには延々と続く水門があった。
「あの水門…」
「ん?」
痛んだ喉にフィニッシュコーワを使い、二声目を発しようとしていたミヤが振り返った。
「何か言った?」
「うん、あの水門、何をするものかなぁってさ…」
ミヤも水門を眺めた。
かなりの沖にある、それはこの浜の両端にある岬へと続いていた。
「この海の下には街が沈んでいる…」
「あ、帰って来てたの?」
二人の後ろに、いつもとあまり変わらぬ格好をしたテンマが突っ立っていた。
「あれは水を排斥して、その街を再び蘇らせるためのものらしいな…」
つまらないことを…と、テンマは感情を抜いて呟いた。
ふ〜ん…
再び海を眺めるツバサ。
海面のそこらかしこには、確かにビルが姿を見せていた。
六階建ビルの五階部分程度からは見えている。
「結構深いね…」
そこから、適当に上昇した海面の高さを逆算してみた。
「いまさら何が出て来るわけでも無い、大人が捨て切れないものが眠っているだけだ」
そう言って、それ以上説明するだけの興味を持続できなかったのか、テンマはちらりとミヤを見た。
「泳いで来たほうがいいな」
そしてぶしつけに言い放つ。
「なに?、いきなり…」
「血流に不純物が溜まって血行を悪くしている、それがたんぱく質に余計なエネルギーを蓄積させる要因になっているんだ…」
「つまり太って来てるってこと?」
ツバサの説明に、ミヤの頭にガンっと石が落ちて来た。
「うそ!」
「事実だ、認めろ」
にべもない。
「このところの暴食が原因だな、それと運動不足…」
「へ?、あれだけ遊んでるのに?」
ミヤもここに来てから、決して少なくはない量を泳いでいた。
「…少な過ぎるな、鍛えるほどでなければ「たるむ」だけだ」
じっと目を閉じたままで、テンマはミヤのお腹に顔を向けていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
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