Episode:25 Take2



「みんながあたしをいじめるのぉ〜!」
 えぐえぐと泣きじゃくるミヤ。
「あらあら、もうしょうがないわねぇ…」
 膝を貸しているのはサヨコだ、味方を得たとばかりに顔を上げるミヤ。
 どど〜ん!
 そこには、はちきれんばかりに巨大な瓜が二つ並んでいた。
「ふえ〜ん!」
 またもや泣き始めるミヤ。
「何が一番傷つけてるかって、やっぱりサヨコのあれだと思うなぁ…」
 泣いているミヤを見る振りをして、ツバサはサヨコの胸を見ていた。
「まあ、女の子の永遠の悩みさ…」
 そう言って、アラシは通りすがりの女の子にウィンクした。
「あの二人には関係無いみたいだけどさ」
 そして二人で海を見る。
「ざっぱーん!」
「うきゅー!」
 リキが作り出した大波に、マイが喜んではしゃいでいた。
「いいもん!」
 その声に振り返る。
「こうなったら食べて食べて食べるんだ!」
 がさがさと荷物の中からお財布を探し出すミヤ。
「どうしてそうなるの?」
「だって胸もお尻も脂肪だもん!、きっとコルセットか何かで絞めときゃ、お腹よりもそっちのお肉が肥えてくれるもん!」
 せっぱつまった表情で、ミヤは無茶苦茶な論理を展開した。
「そんなの足や腕が太くなるだけだって…」
 呆れ顔の面々。
「いや、俺は顔が丸くなるだけどと思うな」
「無意味だ」
 う〜…
 ツバサ、アラシ、テンマに総否定されて、ミヤは情けなくもサヨコを見た。
「…自然が一番よ」
 この時ばかりは、サヨコの母性愛も通じなかったようである。






「みんな人事だと思ってぇ…」
 ミヤはぷりぷりと泳いでいた。
 やはりテンマの言葉に従うことにしたようだ。
「タッチ!」
 っと、手をビルにつく、下手をすれば1キロは泳いでいた。
「よし!、これだけ泳げば…」
 食べた分は消化できたよね?っと、ミヤは帰ってから何を食べるかを考えた。
 ビルの外壁に手をかける。
 まだ朽ち果てるには時間がかかるのだろう、そのビルはまだまだがっしりとしていた。
 頭を上げれば、すぐそこに屋上があった、手を伸ばし、体を持ち上げる。
「ちょっと休憩っと…」
 仲間に比べれば体力的にかなり劣っている、普通の人よりも上とはいえ、さすがに1キロの遠泳はきつかった。
 屋上で寝っ転がる。
「良い天気…」
 青空が広がり、きつい陽射しに肌を焼く。
 すぐに体から湿り気がなくなり、髪も乾きだしていった。
「コンクリートに水が染み込んでく…」
 水気を吸い取られていく、それが楽しくて、ミヤはごろごろと転がった。
「え?」
 そして再び仰向けになった時、それに気がついた。
「うそ…」
 空に黒い豆粒が飛んでいた、セスナだ。
「落ちて来る…」
 それが一直線に落ちて来る。
「うっそぉ!?」
 しかもミヤに向かってまっしぐらだ。
「きゃああああ!」
 !!
 ミヤは誰かに飛び付かれた。
 もの凄い…、と感じるような力で、海に向かって一気に連れこまれた。
 ドォン!
 爆発が起こった。
 海中にまでその衝撃が伝わって来る。
 ぼやけた視界に、先程のビルの崩れていく様が見えていた。
 ゴボゴボゴボ…
 海水がどんどん口の中に入って来る。
 ミヤはその苦しさに、なす術も無く気を失っていた。



「事故だー!」
 ビーチで叫びが上がっていた。
 じっと沖を見ているテンマ。
「大変!、ミヤちゃんが…」
 サヨコがおろおろと辺りを見回す。
「…海に落ちた、イサナ、探してくれ」
 非常事態と判断し、テンマは水門付近に居るはずのイサナに言葉を送った。



「ふぅ、ダメだ、水を吐いてくれない…」
「大丈夫?」
 心配してくれてるのはイサナ?
 でももう一人は誰?
 聞き覚えのない声がする。
「もう一度…」
 口に押し付けられるような感触がした。
 うっ!
 嘔吐感が込み上げる。
「ゲボッ!」
 ミヤは思わず吐いていた。
「やった!」
「よかった、ミヤ!」
 ゲホッゲホッゲホ…
 ミヤはひとしきり水を吐き出してから、ぼやけたままの視界にその二人を確認した。
「イサナ?」
「わかる?、事故に巻き込まれたの…」
 ああ、そうか…
 ぼうっとした顔をもう一人に向ける。
 知らない男の子だ。
 浅黒い肌、東洋系?
 ミヤは必死に自分の状況を理解しようとした。
「墜落事故に巻き込まれたの、それをこの人が助けてくれたのよ?」
 人工呼吸のおまけ付きでね?
 後半部分は頭の中に直接届けられてきた。
「え!?」
 その言葉に我を取り戻すミヤ。
 体を起こそうとして、ふらついた。
「あ!」
 それを少年が腕で支えた。
「無理しないほうがいいよ、すぐに船が来るから、それまで寝ていた方がいい…」
 遠くからモーター音が聞こえてきている。
 事故を目撃した保安局のボートだろう。
 ミヤはその少年を見上げた、頬を染めて。
「あの…、ありがとう」
 そして呟いた。
「うん?」
「助けてくれて…」
 もじもじとミヤ。
 その視線は、ミヤを支えている腕に向けられている。
「あ、えっと…」
 そんなミヤに、少年も急に女の子を意識し始めた。
「あの…」
 ミヤから問いかける、だが一度意識してしまったからなのか?、少年にミヤを見ることはできなかった。
「お名前…、教えてもらえますか?」
 少年は何度か口をぱくぱくさせてから、「ムサシ」と名乗った。






「いやもう、あっつい、あっつい!」
 ぱたぱたと手で顔を仰ぐイサナ。
「なんだ、ならもう少し遅れても良かったね?」
 もう!っと、ツバサはミヤに殴られた。
 どこから調達して来たのかわからないが、三人はテンマの操るボートで浜に戻る所だった。
「それで?、ムサシってのはどこに行ったの?」
 ぽか!
 殴られるツバサ。
「呼び捨てにしないの!」
 本気で怒っているミヤ。
「いったいなぁ…」
「ムサシ君なら、事故のことを話すって残ったけど?」
 ミヤの代わりにイサナが答えた。
「そっかぁ、おしいなぁ」
「なにがよ?」
 ジト目のミヤ。
「いやいやいや…」
 からかうネタが手に入れられなくて。
 ツバサは知られると恐いことを考えていた。
「でも運が悪かったね?、普通巻き込まれるもんじゃないよ、あんなの」
 言葉とは裏腹に、ツバサの表情はうらやましそう。
「僕が代わってあげたかったなぁ…」
「あたしなら受け止めるのにぃ」
「イサナならやっちゃいそうだね?」
「もっちろん!」
 そしてケラケラと笑い合う。
「ムサシ…、君かぁ…」
 ミヤは注意がそれたのを良いことに、一人ほうけて沖を見ていた。
 あの事故の現場、煙が吹きあがっている辺りの海を…






「結果オーライか…、まあこう言っちゃ何だが、ただ事ですんで良かったかもな?」
 午後3時。
 リキはケーキを頬張りながら、サヨコに向かって話しかけた。
「でも事情聴取とか…、ホテルと名前も聞かれちゃったし…」
「でもただの事故ですんでいるだろ?、大ごとじゃあない…」
 これがライだったら…
 その心配が顔に出ていた。
 ミヤは今、ホテルのロビーで警察から事故の様子を聞かれているはずだった。
「もうそろそろ解放されたかな?」
 リキ達はその上の、自分達の部屋にこもっている。
「ゴッチ大佐もいかがですか?」
 リキはそのケーキを買って来てくれた、いかつい男に声を掛けた。
「いえ、わたしは甘い物は…」
 ゴッチと呼ばれた男は、ベランダに通じる窓から振り返ると、実に申し訳なさそうに頭を下げた。
「苦手?」
「糖尿病でして」
 その予想外の答えに、つい苦笑を漏らしてしまうリキ。
「おかしいですか?」
「軍人らしくないとは思いますよ…」
 ゴッチもまた苦笑する。
「ですな」
 ゴッチは代わりに、ブラックのコーヒーを要求した。







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