Episode:25 Take3



 大事には至らなかったのね?
 頭の中での会話は疲れる。
 特に社交辞令を交わしながらのマルチタスクは。
 カスミはテンマからの報告を聞きながら、およそ同じ年頃の娘が口をきくことすら叶わないような役職の者たちと、談笑を交わしながら微笑んで怒っていた。
 でも警察につかまったのは感心しないわ。
 そちらの情報はジュンイチにでも書き換えさせる。
 当たり前よ、そんなことで甲斐さんの手をわずらわせてどうするの。
 カスミは父ほども歳の差が有りそうな男達に愛想を振りまきながら、ちらりと甲斐を盗み見た。
 あっ!
 甲斐は壁際でワイングラスを傾けていた。
 その隣には、いい雰囲気でメイがいる。
 ちょっとメイ!、何してるのよ!!
 きょとんと、メイがカスミを見た。
 何って…
 甲斐さんから離れてよ!
 えっと…
 メイは困ったように甲斐を見た。
「どうかしたのか?」
「カスミが…」
 ああ…と、甲斐はカスミに向かってくすりと笑った。
 カスミはガァン!っと硬直し、青ざめた。
 甲斐さんに邪魔者扱いされてるぅ…
 今にも泣き出しそうなカスミであった。






「…さて、予定外のアクシデントで時間が半端になってしまいましたね?」
 ゴッチ大佐はごつい軍用ウォッチの針を見た。
 午後四時半。
「あ、ほら、ミヤちゃん太っちゃうよ?」
「だからってマイが食べないでよ!」
 取り合いをしている二人。
「人数分買って来たのですが…」
「育ち盛りですから」
 自分の分を差し出したサヨコが、あまりフォローになってない取り繕いでごまかした。
「まあケーキは明日の楽しみにとっておきましょう…、そうですね、ではディナーまでの短い時間ではありますが、観光にでも出かけて見ると言うのはどうでしょうか?」
 その物言いに、ツバサはおかしげに笑みを浮かべた。
「おじさん、兵隊さんよりもガイドの方があってるんじゃない?」
「よくそう言われます」
 ゴッチは特に気分を害した様も見せずに、そう答えた。
「もう…」
 軽くサヨコにたしなめられるツバサ。
「でもさあ、観光って、この辺りに何かあるの?」
「古城が一つ…」
「お城?、行ってみたい!」
 うきゅー!っとマイが乗り出した。
「お城ではなく、瓦礫の山だな、あれは…」
「おや、もう行かれたので?」
 テンマを見る。
 テンマは一人、窓から外を眺めていた。
「観光が趣味なんだ、テンマは」
 テンマの代わりに答えるアラシ。
「そうですか、とっておきの場所だと自負していたのですが…」
 だがゴッチは、ちっとも残念そうにはしていなかった。
「お城だって!」
「でもオーストラリアにお城って似合わないよね?」
 はしゃぐマイと、尋ねるミヤ。
「ジャイアントシェイク以前の代物ですよ、断崖の上にヨーロッパから移築したらしいのですが、海面上昇にあって、半分は海につかる形になってしまっているわけです」
 どの辺にあるのかなぁ?っと、マイが窓に張り付いた。
「岬の向こうですよ、ここからでは見えません」
「遠くありませんか?」
「大丈夫、車で15分ほどですよ、地元の子供達が遊んでいるような場所なので、ご心配になられるようなことは何もありません」
 ゴッチはことさらに「心配」の部分を強調して伝えた。
 もちろん、自分が相手をしている子供達が、VIPだと言うこともある。
 だがそれ以上に、ジャイアントシェイク以降の治安の悪さに、不安を持つ者が決して少なくは無かったのだ。
「街の外に出れば危険ですが、特に観光地でもあるこの近辺は治安がいい、問題ありませんよ…」
「…そうですか」
 サヨコはにっこりと微笑んで了承した。
 話、ちゃんと聞こえた?
 そしてもちろん、心の声で、カスミに伝えておくのも忘れてはいなかった。






「ミヤちゃんかぁ…」
「何ぼうっとしてんの?」
 丸刈りの少年に突っ込まれたのは、あのミヤを助けた少年だった。
 南側の岬には森林が広がっていた。
 その木の上に昇り、二人は交代で双眼鏡を覗いている。
「まったくもぉ、人工呼吸ぐらいでのぼせないでよ」
「なんだよ、代わって欲しかったわけ?、ケイタ」
 二人が見ているのはお城だった。
 ここからだと見下ろすような感じになっている。
 城の下、数メートル分は海水に浸っていた。
 干潮時には姿をあらわすのだが、今はあいにくと夕方だ。
「そういうわけじゃなくてさ…、人工呼吸ぐらい、マナ相手に散々やってたでしょ?」
「まあね、でもそう言うんじゃなくてさ、もっとこう…」
 手をワキワキとさせて、だらしなく顔をゆるめる。
「あの恥じらう感じがたまんないんだよなぁ…」
 そりゃマナはさっぱりしてたからね…
 それ以前に意識されていないのだと、二人とも気がついていない。
「あ、ほら、来たよ?」
「はいはい、お仕事ね…」
 ムサシはケイタから双眼鏡を借り受けた。
 双眼鏡を覗くと、城の庭園だった場所に続く門の所に、ボックスカーをムサシは見つけた。
 そこから何人かの男女が降りて来る。
「あ!」
 その内の一人に見覚えがあった。
「ミヤちゃんだ!」
「え?」
 ケイタはその声に驚いた。
「俺達がガードするのって、ミヤちゃんだったのか!」
「知らなかったの?」
 ケイタは呆れた声をだした。
「さてはまた資料を見なかったんだね?」
 うっと詰まり、双眼鏡を覗いたままでごまかすムサシ。
「と、とにかくさ?、俺はちゃんと仕事をしたってわけで、これでおとがめは来ないよな?」
「まあ僕が報告しなかったらね?」
 ケイタ〜んっと、甘えるムサシ。
「ま、いいけどね…」
 ケイタはため息をついた。
「あ、大佐だ…、ああもうこっち見たらばれるってば」
「大佐は僕たちのような訓練は受けていないんだよ」
「じゃあどうして大佐って、いつもあんな役なんだろうな?」
 その答えを二人は知らない。
「決めた!」
 ムサシが急に立ち上がった。
「なにをさ?」
「行って来る!」
 そして急に木から飛び降りる。
「行くって…、大佐に怒られるよ!?」
「適当にごまかすって!、バックアップ、よろしくな?」
 もう!
 僕だって遊びたいのに…と、ケイタは後でペナルティーを請求することに決めるのだった。






「よっとっは!」
 お城と言っても、その屋根のほとんどは焼け落ちていた。
 ジャイアントシェイクの傷痕と言えば生々しいが、真実はもっと酷いものであった。
「火事場泥棒の仕業ですよ」
 水面に顔を出している石の上をジャンプしている。
 ゴッチはそのツバサを見ながら、サヨコに向かって説明していた。
「泥棒、ですか?」
「はい、この城もいずれは海中に没します」
 あっと、ゴッチは慌てて訂正した。
「いえ、すぐにではありませんよ?、ただホテルでも説明した通り、この城は元絶壁だった場所にありましてね…」
「崖が崩れる…と?」
「侵食は進んでいます」
 サヨコは城を一望した。
 柱と通路、それに階段を成す石材を残して、後の大半は崩れていた。
 それが今満潮で水に浸っている庭園に、石の掛け橋として頭を覗かせているのだ。
「マイも来いよ!」
「う、きゅっ、きゅー!」
 ばっしゃーんっと水柱が上がった。
「うきゅー!」
「あっはっは、慌てなくても足つくってば」
「うきゅー…」
 しょぼくれるマイ。
「ばっかだなぁ」
 ツバサはそれを見てけらけらと笑った。
「サヨコ〜、着替え持って来てやってよぉ」
 はいはい…
 サヨコは一度車に戻った。
「まったくぅ」
 着替えなんて持って来ていたか?
 そんな疑問もすぐに消えた。
「ごめんなさぁい」
 マイが、スカートを搾ったからだ。
 濡れているからか、夕日に体のラインが透けて見える。
「んっ…」
 失礼に当たると思い、ゴッチは咳払いと共にそっぽを向いた。
「おじさん、シャイだねぇ」
 案の定、彼はツバサにからかわれるのだった。






「なんだ、帰って来るにしては早いじゃないか、マイは?」
 マイのベッドでひっくり返っていたのはリキだった。
「リキ?、いたずらしちゃダメよ?」
 顔を真っ赤にして反論しようとするリキ。
 サヨコは無視して、マイのトランクケースから、適当な服を見繕った。
「着替えなんてどうするんだ?」
「はしゃぎ過ぎたのよ…、アラシとテンマは?」
「テンマは…さあな、アラシはラウンジだよ」
「しかたないわねぇ、カスミに怒られちゃうわよ?」
 その言葉は、アラシではなくリキに向けられたものだった。







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