Episode:25 Take4



 その頃、ミヤは一人で散歩していた。
「治安が良いと言っても、それも夜までのことです、15分でお戻りください」
 ゴッチはそう言って、ミヤに散歩の時間を与えてくれたのだ。
 ミヤは頬をなでていく潮風に、多少の不快感を覚えて髪を押さえた。
 少しべたついている。
「どたばたしてたから、ちゃんとシャワー浴びなかったんだっけ」
 おかげで髪がくすんでいた。
「奇麗な所…」
 水面が夕日を反射していた。
 苔むした石柱が、幻想的な空間を産み出している。
 元は渡り廊下なのかもしれない、その端の階段は水面下に没していた。
「…う〜ん」
 ミヤはその風景に自分を組み込んで想像してみた。
 やっぱり絵にならないなぁ…
 カスミが絵になる女なら、サヨコは理想的な女性だろう。
 どっちかにはなりたいミヤである。
「やっぱりもうちょっとだけでも欲しいのに…」
 思わずシャツの胸元を引っ張ってみる。
「コホン!」
 その時に聞こえたのが咳払いだった。
「誰!?」
 さっと身構えるミヤ。
「やあ」
「あっ!?」
 男の子が一人、石柱の上に腰掛けていた。
「えっ?、あ…」
 どうしてこんな所に!?
 相手がムサシだと知って、ミヤは赤くなってうつむいた。
「くうっ、やっぱこれだよなぁ…」
「え?」
 ムサシの呟きに怪訝な表情を向けるミヤ。
「あ、いやごめん、こっちのことで…、それよりさ、こんな所で何をしてるの?」
 ムサシは知っていながら一応尋ねた。
「…散歩、いい所があるからって」
 ミヤは再び景色に目を向けた。
「いい所ね…」
「そうでしょ?」
 ムサシは自慢気に、一緒になって夕日に染まる城跡を見た。
「あの…」
「ん?」
「ムサシ君って、地元の人なんですか?」
 どう見ても東洋系である、それも日本人に見えた。
 区別の付きにくい西洋人でさえ、ミヤにだけはその差異が分かってしまう。
 ムサシの生まれも、自然と判別してしまっていた。
「オーストラリアは1年ぐらいかな?、でもその内日本に戻るんだ」
 へえ…
 なんとなく、第三新東京市に、ではないかと想像してしまうミヤ。
「ミヤさんは?」
「え?」
「観光?」
「はい、あと一週間ぐらいは…」
 当然ムサシはその日程を知っている。
 …追いかけるんだから、会う時間さえ作ってもらえれば。
 ムサシは素早く、計算していた。






「へへへ〜」
 帰りの車の中で、ミヤとマイは同じようにニヤニヤしていた。
「…気持ち悪いなぁ」
「何かあったのかしら?」
 ミヤはともかく、さっきまで一緒に居たマイが、どうして急にニヤついているのかわからない。
「ケーキ!、一個だけ隠しといたんだ」
 マイが元気に答えを返した。
「いっち番お気に入りのアンブル・ノア!、冷蔵庫の奥に」
 固くなってないかしら?
 サヨコはちょっとだけ心配した。
「それで、ミヤの方は?」
「え?」
 ミヤは話しかけられて驚いた。
「あ、ごめん、なに?」
「何をニヤついているのかしら?」
 ゴッチも興味があるのか、ルームミラーでミヤを見ている。
「えっと…、その…、ちょっとね?」
「ちょっとってなにさ?」
「ツバサには教えてあげな〜い」
「なんでだよぉ!」
 もちろんからかわれるからだ。
 後でそっと聞き出そう。
 サヨコはそう諦めた。
 くすりと、サヨコの表情を読むゴッチ。
「…では急ぎましょうか?、ずいぶんと遅くなってしまいました、みなさんお腹をすかせていらっしゃるでしょうね」
 僕もだよ〜っと、ツバサが訴えを起こした。
 よかった、ごまかせて…
 ミヤはそっと、ほっとしていた。






「…長いパーティーですね」
「疲れたか?」
 メイを気遣う甲斐。
「はい、慣れなくて…」
 メイはカスミを見た。
 カスミは甲斐を挟んで、反対側に立っていた。
 三人揃ってテラスに出ている。
 どこかの大きなお屋敷だった。
 あるいはお城なのかもしれない。
 地上何階に当たるのか?、その先には街の明かりが一望できた。
「…くだらないな、権力の象徴がイコール使った金額だと思っている」
「このお城のことですか?」
 実は、サヨコ達の訪れた岬と、反対側にある岬に建っていた。
「イロエルはどう言っている?」
「まだ何も…、ただの警備システムしか見つからないそうです」
 そうか…
 だが甲斐に落胆の色はない。
 どうしてかしら?
 天使達が揃えば、常人では成しえないことを成し、知りえないことを暴き出すことが可能になる。
 なのに甲斐さんは知ってらっしゃる…
 その天使達の力を借りずとも、だ。
 甲斐さんを支えられるようになりたい…
 カスミは当面の敵として、とりあえずはメイに睨みを効かせるのだった。






「リキのバカァ!」
 マイはそう言い放って駆け出した。
「マイ!」
 サヨコが呼び止める。
 マイは部屋を飛び出す前に、ドアの所でもう一度だけ振り返った。
「リキのバカ!」
 そしてご丁寧にくり返し、今度こそ姿を消した。
「あ…、リキ?」
 ミヤ、ツバサ、サヨコ、アラシ。
 みな飛び出していったマイよりも、真っ白に燃えつきているリキに心配の目を向けていた。



「リキのバカァ…」
 ぺたぺたと裸足で歩く。
 靴は…、どこかでこけた時に脱げていた。
 膝小僧のすりむいた後が痛々しい。
 マイは泣きながら夜の海に向かって歩いていた。
 隣、防波堤の向こうはもう浜辺だ。
「リキのバカァ…」
 マイはくり返しくり返し呟いていた。
 そんなマイに気がついた連中が居た。
 バイクと車に分乗した、ゴッチの言う治安を乱す少年達である。
「なあ?」
 その内の一人が、気軽に声を掛けた。
「なあってば?」
「うきゅ?」
 正面に周りこまれて、ようやく気がつく、マイは立ち止まって顔を上げた。
 耳、唇にもピアス、顔色は悪く、明らかにドラッグに手を出しているような輩だった。
「うきゅう…」
 恐がるマイ。
「なに泣いてんの?、帰る所がわからなくなったとか?」
「そりゃいいや、俺達と遊ぼうぜ?」
 黙っていれば子供っぽい所も潜んでしまう。
 マイは十分に美少女だった。
 どうしよう…
 気持ち悪いと思う。
 やっつけちゃおうか?
 でも後で力を使ったと怒られるかもしれない。
 マイはどうしようか悩んだ。
 それをおどおどとしているように受け取ったのか?、少年達の一人がにやりと笑んだ。
「さ、行こうぜ」
 そして強引にマイの手を取る。
 やっ!
 手をつかまれて、反射的にマイは壁を展開していた。
 バシ!
 黄色い火花が散った。
 弾き飛ばされる少年。
「な?、なんだ!?」
 少年達は倒れこんだ子に手を貸しながら、不思議そうにマイを見た。
 だがそれもすぐに狂気に変わった。
 スタンガン?
 どうせその類のものだろうと当たりをつける。
「てめぇ!」
 そして少年達はマイに襲いかかろうとした。
 やだ!
 その怒りに歪んだ顔に、マイはすくみ上がってしまった。
 壁を展開することすら忘れてしまう。
 メイ!
 思わずマイは助けを呼んだ。
「ちょほいとまちなは」
 助けは、期待した声とは違っていた。
 防波堤に、一人の少年が腰掛けていた。
「君に涙は似合わないぜ?」
 そのテンガロンハットを持ちあげる。
「ライ?」
「ほら」
 ライはマイにハンカチを投げた。
「一人歩きは危ないよ?」
「いいもん!、帰りたくない…」
 よほど気に障る事をリキがしたのか?、マイはかたくなに拒絶した。
「あたしのケーキ食べちゃうリキなんて嫌い!」
 それはマイにとって、あまりにも重大な事件であった。
 ハンカチで涙を拭き、鼻をかみ、丁寧に丸めてから「ん!」っとライに突っ返した。
「しょうがないなぁ…」
 ライは苦笑しながら、そのハンカチを受け取り、丁寧に後ろポケットにしまう。
「俺達を無視するな!」
 ズガァン!
 銃声が鳴り響いた。
 ライに駆け寄るマイ。
 その他の面子は、皆驚きに動きを止めていた。
「な、なんだよ、それ…」
「コルトパイソン、良い銃だろ?」
 もちろんそれは、先程とある店からがめて来たばかりのものだった。
「ひ、卑怯だぞ!」
「敵を倒す時は最大の戦闘力でってね?、俺に銃を抜かせたお前らがいけないのさ」
 ふふんとハットのツバをくっと下げる。
「生きるか死ぬか、二つに一つだ、選びな」
 そしてその下から不適な笑みを見せてやる。
 ツバの影で、瞳が鋭く光っていた。
 もちろんカラーコンタクトだ、この時のために用意した。
「地獄に落ちて、懺悔しな」
 ライはゆっくりと撃鉄を起こした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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