Episode:25 Take5
ライ達が緊迫した状況に陥っている中、その浜辺に姿を見せる者たちがいた。
全身黒ずくめ、手には鉄爪の付いた甲をつけている。
数は13、横並びに並んでいる。
その内、真ん中にいた男が一歩前に出た。
隊長格なのだろう、だが言葉は発しない。
ただその鉄爪のついた手で、「行け」と命令を下すだけだった。
●
「死にたい奴から前に出な」
ライはわざとらしく銃口を向けた。
早く行っちゃえよ。
内心はかなり焦っていたのだ、なにしろ盗んで来た物なので残弾が少ない。
このようなことで使うには、あまりにももったいなかった。
「お、覚えて…」
「おい、あれ…」
「なんだ!?」
逃げ腰のままで、彼らは浜の異変に気がついた。
「影が動いてる…」
「バカ!、誰かいやがんだよ」
そんなことは関係無い!
逃げ出したいというのが一致した意見だった。
「ふ、死の香りがしやがる」
バッ!
それは人間としてはあり得ない跳躍だった。
四つんばいの状態から、腰から宙を舞うように跳ね飛んだのだ。
その距離は50メートル、高さは10メートル近い。
「この!」
ガオン、ガオン、ガオン!
立て続けに三発撃った。
「くう、痺れるぅ!」
その反動の感触に酔うライ。
カン、カン、カン!
だがその銃弾は簡単に甲で弾かれた。
「マイ、壁!」
「うん!」
ライの背中に隠れて壁を展開する。
ガキィン!
黒ずくめの爪が甲高い音を立てた。
ギギ…ギィ…
そしてガラスを掻くような音を立てる。
「うわ!」
側面からの爪を、ライはとっさにしゃがんで避けた。
「この!」
左手でモーゼルを抜く、だが狙いを定めるよりも早く敵の攻撃が来た。
「とっ!」
手甲に鮫のせびれのようなソードが付いていた。
とっさにモーゼルの銃身で受け流す。
「なんだよ、この!」
そしてモーゼルの弾がつきるまで引き金を弾いた。
嘘でしょ!?
至近距離、5メートルもないその近さで、敵は全弾、甲の手のひらで受け止めていた。
「娘は貰っていく…」
「え!?」
慌てて振り返る。
「マイ!」
気を失っていた。
マイをかついだ黒ずくめが、車道へ向かって飛び出した。
「この!」
とっさに銃口を向けたが、またもや横から襲われた。
「なんで!」
そこに何台かの車が到着する。
その内の白いスポーツカーにマイは連れ込まれた。
「なんだよ!」
ガオン!
突き出された鉄爪を避け、ライはチャンスとこめかみに銃口を当てた。
「 Asta-la-vista, baby?」
そしてためらい無く引き金を引く。
ガキィン!
「うそ!」
コルトパイソンの至近弾だ、いくら防弾性のあるマスクを被っていても、めり込みこそすれ、弾かれることは絶対にない。
「なんで!」
だがその絶対に無いはずの現象が起こっていた。
「うわ!」
振り回された腕に殴り飛ばされる。
「いてて…」
頭を振って起き上がると、スポーツカーが走り去る所だった。
「待て…、この」
その目の前に、鉄の爪が突きつけられた。
ごくり…、と喉を鳴らす。
だが鉄の爪はライを襲いはしなかった。
ヒュンっと、金色の光が走った、帯のようにも見える。
「リキ!」
リキが力で、一度に三人を屠っていた。
「乗れ!、追いかけるぞ」
ライは否応もなく、リキの乗って来たミニクーパーに飛び込んだ。
「何でミニなの!」
「他に無かった」
リキは慌てて発進させた。
ダン!
屋根の上で振動。
ズガ!
「うわっ!」
天井から手甲が突き出されて来た、それには手の甲にサーベルが取りつけられている。
「危ないじゃないか!」
真上に向かってパイソンを抜いた。
ドンドンドン!
実は抜くたびに違うパイソンを握っているライである。
「こいつら何!」
バックミラーに、路上を転がる敵の姿が見えた。
見上げると、天井にまだ片腕が残されている。
はっとするライ。
「伏せて!」
リキとライは同時に伏せた。
ライが力一杯壁を展開する。
ガン!
車が浮き上がるような震動に襲われた、腕に爆薬が仕込まれていたのだ。
「あはははは、屋根が消えちゃった…」
ほうけた様に、開いた屋根から夜空を見てみるライだった。
続く
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