Episode:26 Take1



「マイ!」
 切羽詰まったリキの「声」が、仲間みんなに頭痛のような激しい痛みをもたらした。
 当然その声はメイの元にも届いている。
 すっと、手の内からグラスが落ちた。
 血の気が引き、真っ青になっているメイ。
 グラスの割れる音は…、しなかった。

GenesisQ’第26話
アクトレス

 ゴウン!
 ガードレールを突き破り、白いスポーツカーがダイブした。
 崖の下は海へと続く川になっている、海が近いためか深く、流れはゆるやかに見える。
 だがそれは表面だけの穏やかさだ、水面下はジャイアントシェイク後に流されて来た瓦礫などで、かなり複雑な流れを作り出していた。
 ザァアアアアア…
 その流れに乗って、一つの航跡が走っていた。
 Vの字型に広がるさざ波。
 車は放物線を描いて落下していた、その下へと向かっている。
「……」
 彼女は無言で立っていた。
 短い金の髪が飛沫に濡れている。
 黒い袖なしのシャツはぴったりと張り付き、彼女の胸の形をくっきりと表していた。
 胸…、と言うよりも、筋肉…と表した方がしっくり来るかもしれない。
 そして下は迷彩のアーミーパンツに軍靴だった。
 彼女は水上を滑るように進みながら、腕を組みその車を見ていた。
 波は彼女の足元で生まれていた。
 ズッキューン!
 足元から「声」が聞こえて来た。
 彼女の足元、水面下に影が見える、それが彼女を運んでいるのだ。
 魚影とは違う、人だった。
 くん。
 彼女は軽く体を沈みこませると、その人影を蹴って宙に跳んだ。
 一メートル、二メートル、三メートル、だがまだ落ちない、彼女は自由落下をし続ける車に迫ると、剣を抜くような仕草をした。
 キキュン!
 光が伸びた、それがどこから生まれたものかは、あまりにも早くてわからなかった。
 バラ…っとばらける車。
「うきゅ?」
 その中で、突然の出来事に驚くマイの間の抜けた顔があった。
 だがすぐに彼女に気がつき、その顔に笑顔の華が咲いた。
「あ〜〜〜!、ヨウコだぁ!!」
 ドッボーーーン!
 その飛沫は、崖の上のリキ達のところにまで派手に上がった。






「落ち着きなさい」
 グラスはカスミが受け止めていた。
「あ…うん」
 まだかたかたと震えている。
 はぁ…と、カスミはため息をついた。
 リキ?
 それっきり「声」を送ってこないリキに問いかける。
 リキ?
 あ、すまん…
 その「声」は平静を取り戻していた。
 マイは?
 …イサナが連れていった、これから迎えに行く。
 盗み聞きしていたメイが、ほっと胸をなで下ろした。
 その上に影が落ちる。
 メイは軽く上を見上げた。
「これはこれは…」
 白髪、あまり引き締まっていない体つきの男性が立っていた。
「今日はお一人ですか?」
 ……?
 首を傾げて、すぐ側にいる甲斐を見る。
「まだデビューには早い、まあそういうことですよ」
 甲斐はメイの戸惑いを受けて、代わりに答えた。
 …ああ。
 ようやくそれがマイのことを指していると気がつくメイ。
「それは残念ですな、歌姫のお声が聞けるかと期待していたのですが…」
 オーバーなアクションを、それもわざとらしくする男だった。
「まあ、ぜひとも明日の式典にはお揃いでおいでください、姫?」
「あ、はい…」
 姫と言われて悪い気はしなかったが、そのねめつけるような視線にはマイナスポイントを付けてしまった。
「嫌な人ですね」
 率直な感想を告げるメイ。
「…この城の主だ、そしてパーティーの主催者でもある」
「え?、じゃああの人が…」
「カリオストロ伯爵よ?、自称だけど…」
 ワインを味わいながら、カスミはつい口を挟んでいた。


 ザザァ…
 波の音に体を委ねる。
 イサナだ、傍らにはマイがねっ転がっている。
 服が濡れてはいるが、寝顔は穏やかなものだった。
 無数の星空が広がっている。
 だがしかし、イサナには楽しむだけのゆとりが無かった。
「二人はきついよ、二人はぁ…」
 ぶつぶつとイサナ。
 二人の枕元には、ヨウコがあぐらをかいて座っていた。
 まるで瞑想しているかの様に、微動だにしていない。
 二人を水から引き上げたのはイサナだった。
 ジャ…
 砂を踏む音に、ヨウコは瞼を開いた。
 背後に人の気配を感じる、それはヨウコの知っているものだった。
 ゴッチ大佐だ。
「やあ、カール…」
 そこには、カール・ゴッチ大佐がタオルを手に立っていた。






「ふん、甲斐の奴め…」
 毒づく自称伯爵。
 屋敷として機能しているのは、建物全体の4割に過ぎなかった。
 残りは地中にあるのだ、ジャイアントシェイクで城は岬の先端ごとずれ落ちていた。
 その後、岬は人工的に作り直されていた。
 城をそっくりそのまま埋め立てて。
「まったく出し惜しみをしおって…」
 まあその方が楽しみも増えると言うものだが…
 良い方向へと考える伯爵。
 彼はその地下部分にある自室に引き上げていた。
 パーティはまだまだ続いている。
 その様子は壁一面にある幾つものテレビモニターに映し出されていた。
「誰だ?」
 穏やかな調子で声を掛ける。
 部屋はまさに王の私室と言った感じだった。
 その壁際にあるカーテンの影から、あの黒ずくめの一人が姿を現した。
「申し訳ありません、このジョドー、一生の不覚です…」
 マスクは取っていた、禿頭の老人だ、伯爵に向かい恭しく頭を垂れている。
「ふむ、そううまくはいかんか…」
 伯爵は振り返ると、そこに面白い物を見つけて口の端を釣り上げた。
「ジョドー…、その背中についているものは何だ?」
「え?、あ!」
 驚き背に張り付けられていたカードを取った。
「いつのまに!?」
「なんと書いてあるのだ?」
 ジョドーは口をぱくぱくさせてためらった。
「いいから読め」
「ぶたのけつ…」
 ピシッ…
 伯爵の顔に、亀裂が走った。


「くちっ!」
 可愛らしくくしゃみするマイ。
「何だマイ、風邪か?、早くこれを着ろ」
 自分のシャツを脱いで手渡すリキ。
「やだ、汗臭いもん」
 ぷいっとそっぽを向かれて、リキはガァン!っと衝撃を受けた。
「ま、マイぃ〜…」
 情けなく巨体を丸めるリキ。
「つ〜んだ」
 中々難しい年頃らしい。
 マイはゴッチから紙コップを受け取って、両手で持って「ふ〜ふ〜」と吹き出した。
 温かいココアだ。
 だが口をつけようとした所で、ひょいと取り上げられてしまった。
「うきゅう?」
「だめよ、風邪でも引いたらメイが心配するでしょ?」
 ヨウコだ。
 マイはメイの名前に、ぶぅっとなりながらも「ん!」っと手をリキに差し出した。
「マイ!」
 嬉々としてシャツを手渡すリキ。
 マイはそっぽを向いたままで受け取った。
 だがマイが小柄なのとリキとの体格の差で、シャツというよりはワンピースに近い感じになってしまった。
「やだぁ、やっぱり胸見えちゃうよぉ…」
 ぶほっ!
 鼻血を吹き出してぶっ倒れるリキ。
「…ミヤだと触っても平気なくせに」
「やっぱり変態ね」
 きゃはははは!っと、イサナはよくわからずに後ろ指だけは差してあげた。
 どくどくどく…
 リキは出血多量で死にそうだった。
「…あ〜、そろそろよろしいですか?」
 困り顔で口を挟むゴッチ。
「みなさん心配しておいででしょう、そろそろ戻りませんと…」
 くいっと顎を向ける。
 浜に面した道路に、ワンボックスカーが停められていた。
「うん!、ほらもう行くよ?、リキ」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれよ、マイ」
 リキは先程までの冗談モードから、一転して真剣な表情を作った。
「さっきの奴等がまた来るかもしれない、どうするんだ?」
 リキは、とりあえずヨウコに向かって聞いた。
「おいおい、女子供はお家に帰る時間だぜ?」
 ライは「お前も子供だろうが」と睨まれた。
「ちっちっち、世の中には二種類の人間がいる、間抜けな奴と抜け目無い奴さ」
「お前は抜けている方だろう」
 にべもなくヨウコ。
「きゃはははは!」
 しゃがんでのの字を書き始めるライを、やっぱりイサナが笑ってあげた。
「で、何が言いたかったんだ?」
「これだよ…」
 いじいじと何かを渡すライ。
「受信機?」
「カードを張りつけといたんだよ、破くと特殊な波長の信号を出す奴を」
「…またわたしのコレクションを持ち出したな?」
 どんなコレクションだ…とリキ。
 ライは口笛を吹いてごまかした。
「で、発信源は?」
「こっから北に5キロってとこかな?」
 5キロ…?
 リキは北だと思える方向を見た。
 夜の浜辺は暗い、だがその岬の部分だけが、ひときわ明るい光を放っていた。
「まさか!」
「そ、カリオストロ城、甲斐さんたちの足の下だよ」
 なんてこった!
 リキはその大きな右手で顔を覆い、おもむろに天を仰いで愚痴を吐いた。







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