Episode:26 Take2



 それで、そっちは大丈夫なのね?
 顔つきを変えているカスミ。
 どこか緊張感をはらみ、険しいものになっていた。
 こっちはな?、俺も含めて戦い向きなのが揃ってるし…
 その意味するところに、ようやくカスミも気がついた。
 そうね、わたしとメイだけじゃ…
 甲斐さんを守り切れないかも…と、これは「声」にしなかった。
 ため息をついて甲斐を見る。
 まだ大勢残ってはいたのだが、その中でもカスミとメイ、連れを残しているのは甲斐だけになっていた。
 後はごつい連中ばかりである、それぞれに残っている者のボディーガードなのだろう。
 あるいはわたし達もガードに見られているのかも…
 カスミはついそんなことを想像してしまっていた。
 …これからが甲斐さんのお仕事なんだ。
 そこへ同伴してもらえることに、カスミは軽い興奮を覚えていた。
 だが逆にメイはマイのことが心配で、とてもとてもそれ所ではない状態にはまっていた。






「…うれしそうだね?」
 ジト目でケイタはムサシを見た。
 二人はあの事故現場に来ていた。
 とは言っても、ビルの屋上に残っているのはセスナの細かな部品だけだった。
「まじめに仕事やんないと、言いつけるよ?」
「仕事ったって、ここはもう上が片しちゃってるじゃないか」
 ムサシは両手を広げて周囲を示した。
 夜の海は恐い、真っ黒で、うねる波が高い所と低い所で、平屋の家よりも大きい高低差を生み出していた。
「大体、あれはホントにただの事故なんだろ?」
「さあね?、上はなんでも関係付けたいみたいだけど…」
 ケイタは軽くため息をついた。
 そのおかげで24時間働かされる羽目になったのだ。
「でもなぁ…、もう引き上げようぜぇ?、俺今日は早く寝たいんだよ…」
「デートだから?」
 でへ。
 ムサシはだらしなく頬をゆるめた。
「まずいんじゃないのぉ?、そりゃガードが最優先任務だけどさ、あまり近寄るのは…」
「なんだよ、ひょっとして妬きモチ焼いてんの?」
 はぁ…
 またケイタはため息をついた。
 そう言う時の物言いが、彼の知るマナと言う少女にそっくりだったからだ。
「後で貧乏くじ引かされたくないの!」
 はいはいっと…
 ムサシは適当に返事を返すと、ここへ来るのに使ったボートにさっさと戻ろうとした。
「……おい」
 そして固まった。
「どしたの?」
「下、何かいる」
「サメでもいるの?」
 ごく普通にケイタ。
 だがここは水門の中なのだ、危険な生き物はとっくの昔に排除されているはずだった。
「いや、何だと思う?」
 その言いようにおかしなものを感じたのか、ケイタは屋上の端から海面を覗き見た。
「うわ!」
 それは大きな影だった。
 水の底、水面下にあるビルよりも黒い色を放っていた。
「大きさは…、20メートル?」
「もっとあるよ!、これ中型の潜水艇か何かだよ!!」
 二人は顔を見合わせた。
「まずいかも…」
「伯爵のかなぁ?」
 身震いして、そのまま隠れ潜む二人であった。


「おい、イサナ行くぞ!」
 声を掛けるリキ。
「もうちょっと泳いで帰るぅ!」
 イサナは車から離れ、浜辺に戻ろうとした。
 競泳用の水着が背中からお尻にかけてのラインをはっきりと見せている。
「…まったく」
 朝になればまた泳ぎに出るくせに。
 リキは心の中で毒づいた。
「あ、そうだ!」
 思い出したように振り返るイサナ。
「これあげる!」
 イサナはぐいっと水着の胸元を引っ張った。
 その中に手を突っ込んで、何かを探している。
 マイの時と違い、リキは無感動にイサナが何か探し出すのを待った。
「これ、はい!」
 投げてよこすイサナ。
「ん!、っと、なんだ?」
 それを片手で受け止め、リキは手を開いて確認した。
 コインだった、なにかの紋章が刻まれている。
「え、なになに?」
 リキの背後から覗き見るマイ。
「あーーー!、これって金貨だぁ!!」
 なにぃ!?
 つい「声」にして、みんなにバラしてしまったマイだった。






「さて、それではみなさんこちらをご覧ください」
 悠然と構えている伯爵に代わり、ジョドーが司会として進行し始めた。
 別室、円卓の置かれた会議室だ、円卓はマホガニー調に木目が美しく仕上げられている。
 その中央に模型が置かれていた、このシドニーの縮小模型だった。
「幸いにも大きな水難を逃れたこのシドニーですが、それでも多くの犠牲を避けることはできませんでした…」
 その模型の上に、天井からテレビモニターが下ろされてきた。
 一つの支柱に四つのモニターが釣り下がっている。
「う…」
 カスミは眉をひそめ、メイは込み上げた嘔吐感に、思わず口元にハンカチを当ててしまっていた。
 そこにはジャイアントシェイク直後のシドニーの様子が映し出されていた。
「このように、ビル家屋の倒壊などでの死者は数え切れません、幾度にもわたる大津波も、その役の一部を担っていたと言えましょうな…」
 ジョドーの解説に合わせて、浜にうちあげられ転がっている、無数の水死体の映像が選び出された。
 直視できないメイ。
 逆にカスミは、気丈な態度を取り続けている。
「前置きが長いな…」
 卓についているのは伯爵も含めて10人、その内の一人がジョドーの耳に触る声を遮った。
 彼はシドニー在住の華僑の取りまとめ役だった。
 だが皆、お互いの素性は知らない、知る必要が無いのと、知らない方が良いためである。
 だからだろう、甲斐が連れを同席させても、文句はどこからも出なかった。
「本題だけでいい」
 彼は続けて口にした。
「そうですな」
 代わりに伯爵が答えた、かしこまるジョドー。
「では…、こちらを」
 映し出されたのは水中からの映像だった。
 ライトが正面を照らしている、傾いているビルの残骸。
「水門の内側です」
 ジョドーが説明した。
 そのライトの中にダイバーが飛び込んで来た、手に何かを持っている。
「インゴット…」
 誰の呟きだったか…、甲斐でないのは間違い無かった。
「そうです」
 自信まんまんに伯爵はふんぞり返った。
「これが水門を築いた本当の理由ですよ…」
 テレビモニターが引き上げられた、天井へと隠される。
「湾内にはまだまだ眠っている金塊が多い…、いえ金塊だけではありません、現金、宝石、あらゆる物が眠っている」
 ううむ…
 半分が腕組みして考えをめぐらせ、残りは無表情のままで話の続きを促した。
「水門により湾内を干拓、そしてそれらを引き揚げるのがわたしの計画です」
 伯爵の表情は自信に溢れていた。
 だがそれに反して、列席者達の顔色は優れない。
「…だがこれは死者を冒涜する行為だ」
 一人が皆の思いを代弁した。
「死者?、銀行、証券会社、それに宝石店は人ですか?」
 それらにも本来の持ち主が居ただろう。
 そうは思っても、反論することはできなかった。
「それで、君は私達に何を望むのかね?」
 ニヤ…っと、伯爵は笑みを浮かべた。
「資金の提供と人材の派遣を…」
 その要望に、あまり心を動かされた者はいなかった。
「海面下に眠っている財宝は国一つ買い取れるだけの金額にも匹敵するのです、安い投資だとは思いませんか?」
 誰も思わなかった。
 彼らはそれに匹敵する「権力」を手に入れていたからだ。
「世論は押さえこめるのかね?」
「さよう、事が荒立てば我らの首も危ういよ」
 侮蔑の笑みを伯爵は作った。
「これは小心なことで…」
 ガタッと、中でも一番年長と思える初老の男性が立ち上がった。
「なるほど、そこにあるとわかっている宝を眠らせておく必要は無いな…」
 その男性に同調するような頷きが見られた。
「そうだな、資金については一考しよう、やってみたまえ」
 甲斐は…、結局終始無言のままであった。






「ちょっとメイ、風にでも当たって来なさい」
 カスミに声を掛けられても、メイは「え?」っと生返事を返しただけだった。
 重傷ね…
 無理矢理引きずってテラスに出るカスミ。
 ゴウ!っと、少し強めの風が吹いていた。
 夜も深まって来たためか、海から吹き上げて来る風が強まっている。
「少しここに居なさい、すぐに戻って来るから…」
「でも…」
 メイは心細げにカスミを見た。
 はぁっと、ため息をつくカスミ。
「そんな顔しないの!」
 カスミはそう言って、さっさと会場へ戻ってしまった。
 はぁ…
 今度はメイがため息をつく番だった。
 マイ…と声を掛けようとしてやめる。
 前に怒られちゃったし…
 最近はマイにもプライバシーが生まれつつあるらしい、部屋にこもっているので「声」をかけたら怒られたと言うわけだ。
「マイ…、本当に大丈夫なのかしら?」
 メイは街の方角を見た。
「あら?」
 そちらから車が走って来る。
 何台か、連なって。
「…おかしいわね?」
 その車は道を外れて、館の裏へ向かっていた。
「裏は…、崖しか無いのに」
 手すりから乗り出して、目を凝らすメイ。
「え?」
 バッと、そのメイの真正面に、黒い影が舞い降りた。
「あ、きゃ…」
 メイは声を出すよりも早く気を失っていた…
「もう!、どうしてああスケベな人ばかりなのかしら?」
 ぶつくさとカスミ。
「みんな甲斐さんを見習えばいいのよ!」
 そうよ!っと、カスミは拳を握りこんだ。
 思わずメイのために貰って来た、オレンジジュースのコップを割ってしまいそうになっていた。
「っと、あら?、メイ…」
 さあっと、風がカスミの頬をなでた。
「どこに行ったのかしら?」
 カスミは首を傾げて、呆然とたたずむしかなかった。







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