Episode:26 Take4



 薄暗い中を、ミヤは壁づたいに進んでいた。
 暗いのではない、実際に灯りがないのだ。
 ミヤは気がつかない間に、城の隠し通路に入りこんでいた。
 それに気付かなかったのは、そこらかしこに「端末機」が設置されていたからだった。
「えっと…、地図とか出ないのかなぁ?」
 不用意にいじくるミヤ。
「こうかな?、こう…」
 ピッピッピッと、静寂の中に異音が響く。
 とっくに見つかっていてもおかしくないような状況下で、ミヤは順調に建物の地図を呼び出すことに成功した。
「やった!、あたしってデキるじゃない!!」
 単純に喜ぶミヤ。
 だがすぐに落胆してしまった。
「なんだ、ジュンイチが手伝ってくれたのぉ?」
 画面下部に、11thAngelのサインが入っていた。
「まあいいけどぉ…」
 ぬか喜びにぶうっとむくれるミヤ。
 膨れた頬が、表示画面の白い光に浮き上がっていた。
 その背後で、すっと何かが動めいた。
 暗がりを選ぶように近づいて来る、ミヤは気がついていない…
「で?、メイはどこに居るの?」
 キーをローマ字打ちするミヤ。
 当然操作ミスのエラー音が返って来るが気にしない。
 地図が立体的な物に変わり、それが崖に埋もれている部分まで内部構造を映し出した。
「ここ?」
 光点がミヤに教える。
「行き方はっと…」
 影がすぐ真後ろまで動いていた、床を這うように。
 そして立ち上がる、光に浮かび上がったのは、あの黒ずくめの誘拐犯だった。
「危ない!」
「え!?」
 声に振り返るミヤ。
 その眼前で、黒ずくめがこめかみに火花を散らし、頭から先に吹っ飛んでいった。
 身体が後から追いかけていくように…
「あ?、え?」
 状況をよく飲み込めないミヤ。
 ミヤが通って来たのとは反対側から人影が姿を現した。
 その手に握られているごつい改造銃から、硝煙が立ち上っている。
「誰!?」
「泥棒ですよ」
「どろぼう?、…ムサシ君!」
 知った顔に、ミヤは驚き目を丸くした。
「こんばんわ」
 ムサシは軽い調子で手をあげた。
「なにやってるの!?」
「だから泥棒だって」
 ムサシは強引にミヤの手を取った。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 だがミヤは、ついその手を振り払ってしまった。
 こんな所で再会すること自体おかしいのだから…、ミヤは疑いの目をムサシに向けた。
 疑念に囚われるミヤ。
「ミヤちゃんが助けてって言ったんじゃないか」
 そんなミヤに、ムサシは軽くウィンクした。
「そんなの言ってないけど…」
「じゃあ心で言ったんだよ」
 それは答えになっているようでなってはいなかった。


「…後でちゃんと説明してね」
 二人は結局一緒に行動していた。
 曲がり角で、先にムサシが覗いて確認をする。
 しばらくずっとそんな行動が続いていた。
 その手には大きな銃が握られている。
「ちゃんとするよ…、余裕ないんだ、今」
 ムサシの後についていくミヤ、その胸の内は軽い。
 一人で居た時よりは、ずっと心細さが減っていた。
「大体ミヤちゃんもさ、無茶なんだよ…、ここがなんて呼ばれてるか知ってる?」
 もちろん答えられないミヤ。
「シドニーのブラックホールってね?、一度入り込んだ人間は出てこれないって話だよ…」
 ミヤはリキに聞かされた、正体不明の敵のことを思い出した。
 さっきの奴なんだ…
 銃で撃たれてもまだ生きていた、さすがに脳震頭は避けられなかったようだったが…
 それにブラックホールって…
 あのJAにやられたのかと、当たりをつける。
「まずは生きてここから出ることが先決…」
「きゃん!」
 急に立ち止まったムサシの背に、ミヤは鼻をぶつけてしまった。
「もう!、どうしたの?」
 その緊張した感じに、ミヤは不安を隠せず口にした。






「…何事だ?、騒々しいな」
「どうやらネズミのようで」
 ローブ姿の伯爵に頭を垂れる。
 ジョドーはあの黒い戦闘服に着替えていた。
「甲斐の手のものか?」
「いえ、おそらくはUNかと…」
 ちっと吐き捨てる伯爵。
「しつこいな、この城は落とせんといつになったらわかるのだ…」
 彼が人脈を作り力を取り込もうとしているのには、UNに圧力をかける目的もあったのだ。
 国際警察機構などと言う、有名無実の力も権限も伴わない組織に代わり、台頭して来たのがUNだった。
 ジャイアントシェイク後、UNは治安維持を名目に、世界中のどこにでも軍隊を派遣する権限を勝ちえていた。
 もちろん国際問題にも発展しかねないために、そう強引な真似はできないのだが…
「我が愛しの君は?」
「まだお眠りに…」
「良い、わたしが起こそう…」
 伯爵は着替えながら舌なめずりをした。


「無茶よ無茶!、銃なんて効いてないじゃない!!」
 ミヤは必死にムサシを逃がそうとしていた。
「やる時にやるってのが男の子なの!」
 ブオオオオオ!
 その銃はまるで重機関銃のように弾をばらまいていた。
 少しの感動がミヤの中を駆け抜ける。
「それに…、好きになった子の事が信用できない?」
 え?
 時と場合に関係無く、ミヤは思わず頬を赤らめた。
 狭い通路だ、敵は真正面からしか近寄れない。
「まったく、こっちは進みたいってのに!」
 ムサシはまた銃口を向けた。
 銃が効かないために、後退を余儀なくされているのだ。
 好きになったって…、え?
 それはムサシの冗談だったのだが、ミヤは本気で舞い上がってしまっていた。
 意識していなかったわけではないのだが、その当の相手から指摘されると、思わず動揺せずにはいられなかったのだ。
「早く!、そっちに抜け道がある、下がるんだ」
「あ、でも…」
 ミヤは迷った、この狭さだ、ミヤが壁を使えば押し進める。
 逆に言えば、ムサシの存在こそが邪魔になっていた。
「無茶って言ったのはそっちだろ?、無理無茶無謀の三無主義は、俺の辞書にはないんだよ、こっちだ!」
 再びムサシはミヤの手を握った。
 今度はミヤは嫌がらなかった。
「努力と根性でどうにかなるもんじゃないだろ?、そう言う時、振り絞るべき物ってわかる?」
「え?」
「知恵と勇気さ!」
 とんっと、離した手でミヤの背中を軽く押した。
「ムサシ君!?」
「行け!」
 振り返ると、ムサシは銃のスイッチを切り替える所だった。
「わりと好きだったんだけどな、ミヤちゃんのこと…」
 ムサシは引き金を弾いた。
「ムサシ君!」
 その悲鳴のような声は、爆音にかき消されて、ムサシの所にまでは届かなかった。






 ズゥウウン…
「地震か?」
 下からの突き上げるような衝撃に、伯爵は思わず眉をひそめていた。
 だがすぐにあちこちの換気口から煙が吹きあがっているのを見て、考えを変えた。
「まさかジョドーめ…、しくじったのか」
 慌てて廊下を進む、かかとの音が、早足のために不規則になっていた。


「う〜ん…」
 寝返りを打つメイ、彼女は天蓋付きの豪勢なベッドに寝かされていた。
 シーツももちろんシルク製。
 地下にあっても、その部屋には自然な月明かりがもたらされていた。
 天井部分にいくつもの窓がある、元は明かり取りのためのものだったのだろう。
 だが今は外とを繋ぐ反射板になっていた。
「うん?」
 メイは目を開いた、ぼんやりとした視界に誰かが映る。
「リキ?」
 違う、もっと小さい。
 テンマでもない、ツバサでもない、ライでもない、そして他の誰でもなかった。
「誰!?」
 急に覚醒して起き上がる。
「え?、あ!」
 メイは自分の着ている物が、ほとんど見えてしまっている透けたネグリジェだと気がついた。
「いや!」
 シーツを手繰り寄せて胸元を隠す。
 メイは青ざめたままで顔を上げた。
「美しい…」
 感極まった声。
「わたしの思ったいた通りの人だ…」
「伯爵?」
 頭が段々とはっきりして来ていた。
 そうだわ…、確か涼んでて…
 メイはキッと伯爵を睨みつけた。
「これは一体なんの真似ですか!」
 そして大声を出した。
 多少上擦っているのがわかって、メイはなんとか悔しい思いを噛み殺していた。
 恐いのだ、やはり。
「ご無礼、ご容赦のほどを…」
 伯爵はいんぎんな挨拶をメイに贈った。
「ですがいけませんなぁ、あなたですぞ?、このわたしをお誘いになったのは?」
「え?」
 バン!
 急に室内が明るい光で満たされた。
 まぶしさに眩んだ目が、徐々に回復していく。
 メイはそこにある物を見て驚いた。
「あたし!?」
 それは巨大なパネルだった。
 メイがコンサートツアーを行った時のものだろう、派手な衣装で、バックにはマイも映っていた。
「あなたの声を聞いた時、まさに心を撃ち抜かれたような衝撃を受けましたよ」
 メイは伯爵を見た、伯爵は大手を広げて自分の世界に入っている。
「そしてあなたはご自分を姫とお認めになられた」
 メイにはそんな心当たりは無かった。
「パーティ会場で、ね?」
 社交辞令!
 思い出す。
「さあ、あなたは本物の姫とならねばならんのですよ、そのための準備はできています!」
 つられて背後を見た。
「嘘…」
 そこにはマイとメイの、グッズ関係が全て集められていた。
 乱雑に置かれているものの中には、明らかにコピー商品や紛い物まで転がされている。
 まさにマニアかコレクターの世界だった。
 その中央に、ひときわ異彩を放つドレスが飾られていた。
「まさか…、そんな!」
 それはメイが初舞台に立った時の衣装だった。
「さあ、明日はわたしがあなたを導きましょう、そして本物の姫となるのです、この世界の」
 伯爵は「うわははははー」っと、かなり芝居がかった感じの笑いを上げた。
 その目は完全にイってしまっている。
 やばいわ、電波の人なんだ…
 助けて、助けてよぉと、誰かに頼らずにはいられないメイ。
 助けは…、まだ少しばかり時間のかかる所に居る様子だった…



続く




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